複雑・ファジー小説
- Re: 神様チルドレン【参照900突破ありがとう!】 ( No.45 )
- 日時: 2013/02/21 21:02
- 名前: 三月兎 (ID: DMJX5uWW)
「止まれガキども!」
屋敷の通路に響く男の怒声に、尚は苛立たしそうに頭をかきながら振り返った。樹と蘭斗も、同じように振り返る。
そこで三人の視界に入ったのは、十人ほどの警備員の姿だった。先頭の五人が銃を構えているところを見ると、他の警備員も所持しているだろう。
尚は警戒心むき出しの彼らを鼻で笑い、呆れたような口ぶりで言う。
「ハッ、その『ガキども』に銃を使うだなんて、ずいぶん大人気ねえんだなあ」
「う、うるさい!」
一人の警備員はそう叫び、血走った眼を尚達に向けた。
圧倒的に自分たちが有利に感じるはずなのに、その様子はおびえているようにも見える。
「お前たちは『神様チルドレン』なんだろ!?」
その言葉に、樹はピクリと眉を動かした。蘭斗は樹のほうを見ないまま、彼にだけ聞こえるような音量でつぶやく。
「樹さん……。一般情報網じゃ、知られないんだよな……?」
「ああ。仙川が裏社会の人間なら知ってても仕方ないが」
樹は蘭斗にそう返すと、警備員のほうへと足を踏み出した。
警備員はあわてたように声を漏らす。
「う、動くな!動いたら撃つぞ!言うことを聞け!」
しかし、樹は全くそれに反応しなかった。ゆっくりと、何かを確かめるように彼らに歩み寄っていく。
蘭斗と尚は、ただその背中に目をやっていた。
「来るなって言ってんだろおっ!!」
警備員の一人が狂ったようにそう叫ぶ。そして次の瞬間バンッという銃声が響き、それとほぼ同時にカランカランと乾いた何かの音がした。
「え……」
警備員は驚愕に瞳を揺らし、震える声でつぶやいた。それは樹に銃を向けたもの以外も同じ。皆が、呆然とした様子で固まっていた。
「……危ないな」
「な……!?今打ったはずなのに……!」
冷や汗すらかかず目の前に立っている樹を見て、警備員はかすれた声を張り上げる。
それに対し樹は、何も言わずに足を動かした。彼のはいているローファーのつま先に何かが当たり、再びカランと音がする。
樹が蹴ったそれは、きれいに真っ二つに裂けた銃弾だった。
「こうなりたいか……?」
「ひっ……!どうして……」
静かだが覇気を感じるその声に、警備員たちは顔を引きつらせる。しかし、彼らもそこで引くわけにはいかないのだろう。
必死に声を振り絞り、無事でいる樹に問いかけた。
それに答えるかのように、樹はスッと瞼を閉じる。
あまりに無防備なその姿に、警備員が怪訝そうに眉を寄せた……その時だった。
スパッという空を切る音が聞こえたと同時に、警備員の頬に痛みが走る。
その違和感に思わず自分の頬に手をやると、べっとりとした気持ちの悪い感覚を覚え、その手に視線をやった。
頬に触れた指先は、赤く染まっている。
「だ、大丈夫ですか!?」
愕然としている警備員に、別の警備員が声をかけた。
「……刃物か……?」
「いや?」
警備員は仲間に返事をせず、樹にそう聞いた。樹は軽く首を振る。
彼の髪の毛はふわふわと浮いているように見えた。
「小林さん!気にしてる場合じゃありませんよ!」
どうやら目の前にいる警備員は小林さんというらしい。
後ろからそう声を上げた彼より若い警備員は、銃を構え前に飛び出す。
「若いのは勇気があっていいねえ」
尚は珍しく、穏やかな口ぶりでそう言った。彼のが年下だというのに。