複雑・ファジー小説

Re: 神様チルドレン【参照900突破ありがとう!】 ( No.56 )
日時: 2013/04/01 23:53
名前: 三月兎 (ID: d1Bequrp)

 尚はニヤニヤと意地悪そうな笑みを作り、警備員たちの方へと歩み寄った。
 自分の前にいた樹の肩をつかみ、ちいさく顎を動かす。「どけ」という意思表示だろう。
 しかし、樹は表情を変えずに口を開いた。

 「……お前殺すだろ」

 樹の言葉に、警備員たちはびくっと肩を動かす。あの若い警備員の顔色も、少々悪くなっていた。
 樹の言葉に、尚は不機嫌そうに声を漏らす。

 「お前はやること甘すぎんだよ。団長が今日みたいなこと言ってなくても脅しで終わり。いい子ぶってると焼き殺すぞ」

 彼がそう言った瞬間だった。
 ゴウッと音を立てて、尚の右手から赤い炎があふれる。熱を帯びるそれは、バチバチと火花さえ放っていた。

 「うわああぁぁあ!!」

 警備員たちの精神は限界だった。
 拳銃を投げ出し、バタバタと音を立てて走り去っていく。蘭斗は腰に手をやり、呆れたよう二人を見た。

 「喧嘩するのやめてくれよ……。逃げちゃっただろ?それなりに倒しとかないと純一君大変なのに」

 一番年下の人間にそんなことを言われ、樹と尚は顔を見合わせる。そして尚のほうが口を開いた。
 
 「仕方ねーじゃん。こいつはっきりやんねーんだもん」
 「お前がいつも能力を無駄遣いしすぎなんだよ。警備員とはいえ普通の人間なんだ。体から火が出るびっくり人間に耐えられるわけないだろ」
 「誰がびっくり人間だって!?」
 「だから落ち着けって!」

 再び発火しそうになる尚をおさえ、蘭斗は「ほら、白い少女探しに行くぞ」と二人の背中を無理やり押して歩き出した。






****








 「大丈夫か……」
 「うん」

 航の言葉に、涼は平然とした顔でうなずいた。
 航は彼の傷口に手をやり、目をつぶっている。航の手から淡い赤色の光が漏れていた。
 そしてその光をあびる涼の傷口は、徐々にだが癒えていっていた。
 
 その様子を見ながらまいは涼に話しかける。

 「いったそ〜……。本当に頭大丈夫?」
 「それ心配してるわけ?あと、そのふざけた鼻眼鏡むかつくんだけど」

 涼はまいの言葉に顔をしかめ、彼女をにらんだ。まいは自分の顔につけていた鼻眼鏡をむしり取り、顔を赤らめ声を荒げる。

 「しょうがないじゃん!団長が顔隠せって言うけどこれしかなかったんだもん!声も出すなっていうからずうっっっと黙ってたんだからね!?大変だったんだよ!?」
 「あーもうわかったから黙ってろ。お前の声は頭に響く」

 航は目をつぶったまま、まいを適当にあしらうと涼から手を放した。彼の手からはもう光が見えない。
 そして、涼の傷口は完全に塞がっていた。

 「ありがと」
 「頼むから控えてくれよ。俺は自分のけがは治せるけど、人のを治すのは時間も体力も使うんだ」

 航は額にうっすら汗をかいていた。相当疲れたのだろう、いつもの余裕のある表情ではない。
 まいはむくれた表情のまま「……で、どうするんですかー?」と彼に問いかけた。

 「とりあえず進もう。これだけ時間をくったから、もう誰かが白い少女を見つけてるかもしれないしな。俺たちは仙川を探すのもありだろうな」

 航はそう言うと立ち上がり、歩き始めた。涼もゆっくりと体を起こし、そのあとに続く。
 まいもしぶしぶだが、鼻眼鏡を顔に近づけた。
 
 終焉は近づいているのかもしれない。