複雑・ファジー小説
- Re: アビスの流れ星 ( No.41 )
- 日時: 2013/01/15 20:03
- 名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: u83gKCXU)
(行間二)
「そういえば、二人は何でヘッドセットを着けていないんですか?」
第一部隊の会議室。
気になったので尋ねてみた。
シドウさんは薄型の装備をコートの下に着込んでいるし、スギサキさんは両脚と左腕、それから左目が装備そのものだ。だから、装備を一見着けていないように見える理由は納得できる。
ただ、ヘッドセットは別だ。あれは防御力の観点の装備ではない。私たちが使っているヘッドセットの主な機能は、カメラと通信機能。カメラは、支部で待機している人間がレイダーの情報をより多くつかめるようにするためと、支部からのバックアップのため。通信機能もバックアップの性能を向上させるための目的が大きい。
「ふへへいふほ」
「シドウさん、まずは飲み込んでから喋ってください」
お行儀悪いですよ。
シドウさんはハムスターのように頬に詰めていたお菓子を飲み込んだ。普段はカッコいいのに……。でもちょっと可愛かったかもしれない。
「着けているぞ」
そして、彼は赤い髪に隠れている耳の下のピアスを指差した。一見すると羽根の装飾のようなピアスだ。
あれはそんなに便利なアイテムだったのか。ただのアクセサリーだと思ってた。
「それにカメラとマイクと受信機能が?」
「ああ。特注だ。従来のそれより性能は若干落ちるがな」
最も、流石にピアスをカメラにするには不具合があるがな、といってコートの襟元の黒いバッジを指差した。きっとあれがカメラということなのだろう。
「それも、アメリカ本部の試作品なんですか?」
いや、これは……と言って、シドウさんは少し言いよどんだ。
「……貰い物だ、ある人物からのな」
それから彼は少し遠くを見た。何かを思い出しているようにも見えたけど、それ以上追求するのは止めておいた。
彼の、戦死していった仲間に関することなのかもしれないと思ったからだ。だとしたら、下手にそれを穿り返したくない。
「スギサキも特注?」
「でも俺はピアスじゃねえぞ」
じゃあどこに、と訊こうとするより早くスギサキは答える。
「埋め込まれてる」
流石に、どこに、とは訊けなかった。なにそれこわい。
ちなみに左目はカメラの役割も果たしているらしい。バハムートと戦ったとき、確かスギサキは包帯を着けっぱなしだった気がするけど、あれはいいのだろうか。あの時はシドウさんも居たからセーフ……なのかな?
「それにしても、思ったより私たちの装備の研究って進んでるんですね」
試作品とはいえシドウさんの装備はどれも徹底してスリム化されているし、スギサキに関しても、人体と装備の一体化なんて初めて聞いた。
あるいは旧日本支部の研究が遅れているだけなのかと思ったけれど、シドウさんの話によると、どうやらそうでもないらしい。
「今のところ、従来の装備が一番安定した性能を持っているというだけの話だ」
装備には、身体能力向上の意味合いも含まれる。簡単に言えば人工筋肉というやつが組み込まれているのだ。だから私たちは、ヘリを介して遥か空中から飛び降りても傷一つ負わないらしい。
ただしシドウさんの装備の場合、その厚みを犠牲にしたが故に、攻撃を受けると通常の装備より脆い部分があるのだという。
スギサキさんに関しても、性能は高いもののメンテナンス等にかなりのコストがかかるため、実用段階ではないらしい。
「なんか、難しいんですね」
「何しろレイダー共の死骸を使っているからな。まだ未知の部分も多かろう」
そういう意味で言ったんじゃないんだけどなあ。
「逆に分かってきていることもある。レイダー共の死骸に、宇宙空間でしか存在しないような物質が含まれているケースがあること、加工は特に昼や、特に明るい場所での方が行いやすいこと、これは仮説段階ではあるが、加工に関わった人間や使用している人間の意志と装備の性能が密接に関わっている可能性があること……」
「ちょまっ、ストップ! ストップ、シドウさん!」
彼の趣味なのか、シドウさんは色んな方向に博識である。それゆえ、たまに暴走する。脳味噌の容量が足りていないこっちはもう何がなんだか。
「隙ありっ」
「あっ」
「あ……」
スギサキが、黒檀のテーブルの上に広げられたシドウさんのお菓子(の、山)のひとつを目にも留まらぬ速さでちょろまかす。
「……スギサキ、貴様良い度胸をしているじゃないか」
「はん。油断してる方が悪いんだよ、真紅の流星」
「シドウさん、任務とトレーニングルーム以外で剣を抜いちゃダメですってば! スギサキも煽ろうと……っていうか応戦しようとしないでよ!」
それにシドウさん、それだけあるなら一つぐらいスギサキや私にあげたって変わらないんじゃ。
「貴様にもやらんぞ、フミヤ」
「心読まれたっ!?」