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複雑・ファジー小説
- Re: アビスの流れ星 ( No.69 )
- 日時: 2013/03/08 19:55
- 名前: 緑川遺 ◆vcRbhehpKE (ID: x6P.sSUj)
9
紅色の刃が、アビスの胸元に突き立って貫通していた。
手応えは無かったものの、それでも、それがアビスにとって致命傷であることを直感で悟った。
アビスは目を見開いていたが、やがて目を細めた。
そして化け物は、全てが終わることを受け入れたのか、やがてぽつりとつぶやいた。
あまりにも切ない微笑みで、その目尻には一粒の滴を浮かべて。
「畜生、生き残れなかった」
世界が暗転する。
それから、自分が居る空間全てが一面の鏡であったかのように、周囲の全てに遍く亀裂が走った。
そして、割れて砕け散った。無数のかけらが、きらきらと光を乱反射して地上へ落ちてゆく。
開けた視界の先には、青だけが広がっている。
無意識のうちに、果てしなく広がる青空に手を伸ばしていた。自らが纏っている装備、否、フミヤそのものにも、至るところに亀裂が入っていた。
グラスが落とされて、欠片を散らす音が響いた。同時に、フミヤも細かく砕け散って、青空の向こうへ吸い込まれていく。
いつぞや映像の中だけで見た、桜と言う植物の花びらが風に煽られて流れてゆくさまと、よく似ていた。
無数の銀色の光と、一面の晴天と、背後から押し寄せる風に包まれて、私の身体は落ちていく。
そして私は、誰ともなく言った。
「終わったよ、フミヤ」
その言葉に応えるものは誰も居ない。
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