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複雑・ファジー小説
- Re: アビスの流れ星 ( No.71 )
- 日時: 2013/04/25 17:11
- 名前: 緑川遺 ◆vcRbhehpKE (ID: 3dpbYiWo)
- 参照: http://pspから。
彼女のことを思い出しても、もう涙は出そうになかった。私が冷たい人間であるという証明なのだろうか。
時間にしてみればたった数か月の間だった思い出が、堰を切って溢れだす。
今にも壊れそうな笑顔で笑う貴女と出会ったあの日。
耐えきれなくなって涙をぼろぼろとこぼしたあの日。
ライブラの支部の中を二人で歩きまわって、陽が沈みかけた空を、屋上から二人で見上げたあの日。
中身は等身大の少年であるのに、計り知れない重圧を一身に背負う貴方が私たちの許へ来たあの日。
三人で馬鹿なことで騒いだあの日。
三人で、満天の星空を見上げたあの日。
ただ一緒にいるだけで、安らいだあの日々。
私が抱いていた思い出の数は我ながら驚くほどのものだったようで、前後のつながりさえわからないほど無数の映像が浮かんではさらに浮かんでゆく。
後半は彼女の笑顔ばかりが浮かんだ。自分で自分に呆れて、鼻で笑った。
ああ、そうか。私は彼女のことが、……
「……フミヤ」
「呼びましたか、シードウさんっ」
聞き覚えのある声が、鼓膜を震わせた。
何かの合図のように、桜の花吹雪が、ひとつ強い風と共に流れてゆく。
振り返った先に居たのは、左目を包帯で隠した少年と、灰色の髪の——。
「——ただいま。」
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