複雑・ファジー小説

Re: 英雄の詩 Page2 『天空神ゼウス。』  ( No.3 )
日時: 2012/11/21 20:39
名前: アンノウン (ID: j553wc0m)





      ---------- 『孤独の王、アーサー王。』 -----------






    -----------友よ、教えてくれ。


   私の歩んだ道は、私が目指した理想は、全て幻想に過ぎなかったのか・・・? 




   我が国ブリテンは、戦争が絶えぬ場所であった。

  日々他国の軍勢とぶつかり、血を流しあう。
  私は子供のころからそんな光景を日常のように見てきた。

  子供の頃から剣を握り、将来のために腕を磨き続けた。
  そして10歳に満たぬうちから、私は戦争に狩り出る。
  剣を振り、血を馴染ませ、只々敵をうち滅ぼす。


  そんな日々を過ごすうちに、私は平和という言葉と、届かぬ幻想に憧れた。
  自分が世界を変える、平和を作り出す、そんな正義に満ち溢れた夢を持った。



    そして、私は決心した。

  このブリテンの王になり、自らの力を持って世界を平和に導こう、と。


  その道のりは過酷なものであった。過酷な訓練を強い、自分を磨き続けた。

   そして、私は代々伝わる王の剣を授かった。
   勝利を約束された王の剣、『エクスカリバー』。

  神々しい光を放ち、その刀身に宿る聖なる光は、まるで魔術が宿るかのごとく。
  闇を切り裂き、悪を光に導くと伝えられている。
  この剣を使い、私はこの戦乱の闇を切り払い、光で照らすと心に決めた。


    だが、現実はそこまで甘くなかった・・・。闇が深く、多すぎたのだ。


  結局私は、世界の平和のためと言っておきながら、剣を振り回す殺戮者と変わらなかった。


   だが、私は諦めたりしない。

  どれだけの犠牲を、死人をだそうとも、私はこれが世界が流す最後の流血にしようと決めたのだから。
  もう繰り返したりしない。これから生きる者達に、誰も武器を持たせたりしない。
  流血とは無縁の世界を作ってみせる、と。



     --------そう、なるはずだった。だが、私は思い知らされる。

   いつだって国が本当の意味で倒れる時は・・・、身内による『内乱』が原因なのだと。


  反乱を起こしたのは、最も信頼し、最強の騎士と誰もが評した『ラーンスロット』。
  私の身内の一人である、『モルドレッド』がその現場を抑えた。
  王妃との禁断の恋に踏み込んでしまった現場を・・・。


   私は『ラーンスロット』を敵に回さざるを得なかった。

  王として、半端な覚悟は許されない。たとえ信頼している友とも言えど、悪を正さねばならない。
  だからこそ、私は剣を手に取り、友と戦わなければならない。



   そしてある日、私は彼と一騎打ちを行った。


  お互いに剣を持ちえ、奮闘する。悲しく響き渡る金属音、火花を散らす互いの剣。
  あの時の戦い程、悲しい戦いはない。


   結果、私と彼の戦いの決着はつかなかった。

  実力は互角。だが三日三晩のひたすらの戦いに、さすがの二人も体力が尽きた。
  地に倒れこみ、二人はお互いに大雨に打たれ、気を失った・・・。



    その数日後、私は城で目を覚ました。


  ラーンスロットは行方不明。生きているのか、はたまた死んでしまったかは分からなかった。

  そして、私はラーンスロットとの傷が癒えぬまま、そのまま戦場へと駆け抜けた。
  ひと時の休憩すらなく、次々と行われる戦争。休む余裕などなかった。



   そんな疲労と傷が癒えぬ状況で、私は狙われた。


  私を死の寸前まで追い詰めたのは・・・ラーンスロットの反乱を私に知らせた『モルドレッド』。

  否、ラーンスロットに反乱を起こさせるように『誘導』し、私と彼を敵対させた、『反乱の権化』だ。
  彼こそが、この反乱を裏で支配し、自らの地位を確立するために仕込んだ計画。


   私を殺し、王位をはく奪するために・・・。


  私は奴に後れを取った。今のままでは十分な力も出すことが出来ず、私は負けた。
  血を流し、もう長くはない命を振り絞り、私は奴から逃げた。


   そして、誰もいないところで静かに座り込んだ。

  耳がうまく働いていないせいか、周りが静かに感じる。
  戦争ばかりで慌ただしいはずなのに、なぜこうも静かなのだろうかと疑問に思った。

  だが、考える余裕もない。私の終わりは近い。
  相棒エクスカリバーは、相も変わらず神々しい輝きを放ち、私を照らす。




   “・・・・友よ。お前も気づいていたのだろう・・・? 


   私達は正義の名のもとに、ただ闇をうち滅ぼしてきた。
   だが、私達は結局悪に滅ぼされた。


     ・・・悲しいものだ。


   分かっていても、私は王として、お前を裁く立場に立たざるを得なかった。
   本当はあの時、私は王という身分を捨て、友を守るために、奴をうち滅ぼすべきだったのかもしれない。



    ----------なぁ、ラーンスロット。教えてくれ。


   私の歩んだ道は、私が目指した理想は、全て幻想に過ぎなかったのか・・・? 



         私は・・・・私は・・・・----------。”





   地に落ちる一筋の涙。王が流すものとして許されぬもの。
   だけど、もう、いい。私は帰るのだから。


   だけど・・・一言だけ、




   “・・・・・・・・・すまなかった・・・。
            ラーン・・・スロット・・・・。”







                   著者、『H・D・N』

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