複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『開戦の合図。』 ( No.103 )
- 日時: 2013/03/03 15:34
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート3。」
黒川とミストの戦闘が始まったのと同時刻————
100m先の業火に囲まれて戦闘を行っていたのは、二人のスタンド使い。
お互いに自分の分身である『スタンド』というモノを使い、激しい攻防を繰り広げていた。
15分もの長い間、二人は戦い続け、そして今も継続している。
……この世界で最強と言われているスタンド使い、空条承太郎はかなり苦戦していた。
理由は様々なのだが、一つは実力が互角という点。
接近戦において無類の強さを誇る、承太郎のスタンド、『スタープラチナ』だが、
承太郎自身もこのスタンドと接近戦を互角に渡り合えるスタンドは数えるほどしかいない。
いくら両拳の連打を打ち込んでも、それをお返しと言わんばかりに返してくる。
しかもそれを15分も、だ。さすがに承太郎としても体力が削り取られつつあった。
向こうのスタンド使いもそれは同じなのだろう。
が、なぜかは知らないがそれを感じさせないほどの威圧感を今も放っている。
理由は分かっている。黒いローブを羽織った男が、この人間を何らかの形で洗脳している……。
————それはつい20分前の事。事件は突然起きた。
建物が崩れ落ちる破壊音と大勢の悲鳴に気づいた承太郎は、いち早く事件に気づいた。
町は瞬時に火の海と化し、業火に焼かれ、建物は崩壊していく。
その景色はまさに地獄で、一体何があったのかと目を疑った。
そしてそんな承太郎の前に現れたのが、この『セイン』という男と黒ローブだ。
『セイン』という男は、短い金髪で、赤い瞳をした外国人といった感じが第一印象だった。
黒ローブは『セイン』という男に「行け、セイン。」、と命令すると、その場から瞬時に姿を消した。
セインと呼ばれる、うつろな目をしてユラユラと近づいてくる男は、
最初は普通の人間なのだろうと予想していた。
いきなり現れた謎の黒ローブがこの事件に関係しているというのは、なんとなくわかった。
が、狙いが読めない。この町を火の海にした理由はなんなのか。そこは全く謎だ。
しかし、目の前に放った一人の人間の意図だけは分かった。
多分あの黒ローブは人を操るスタンド使いで、承太郎の事を知っている。
そして人間を操る事で、何も関係ない普通の人物を傷つけられないだろうという良心を狙って、
人間を操って、スタンドを使わせない。目的は分からないが、それが黒ローブの狙いだろうと推測した。
……が、結果は大きく外れた。むしろ逆と言ってもいい。
目の前の人物が咆哮をしたかと思うと、背中から大きな何かが現れた……。
————現れたのは……スタンドだ。
血のように赤く染まるスタンドは、まるで赤く燃え上がるこの町を引き起こした元凶のようにさえ見えた。
否、それは本当だった。答えはすぐに分かった……。
彼のスタンドの右手が赤色の闘気を纏ったかと思うと、
近くにあった建物をおもむろに殴る。すると、その建物はまるでガラスが割れる様にひびが入った。
そして派手な音と共に建物は崩壊し、爆発するように炎を吹きあげてバラバラになった。
残ったのは瓦礫と、そして燃え上がる業火。まるでこの現状と同じだった。
コイツは普通の人間じゃない。間違いなく、スタンド使いだった。
そしてこの破壊の能力、間違いなく奴のスタンド能力だと確信した。
一瞬赤く光った右手。あれが破壊を巻き起こす前の初期動作であり、
あれに当たると、対象物は粉々に破壊されるというものみたいだ。
ここまであくまで推測だが、承太郎は自信があった。長年のスタンド使いとの戦闘の経験と勘だ。
そしておそらくだが、あの一発を貰えば自分も粉々にされ、即死。
ゾッとする背筋。だが恐れている場合ではない。何とか注意をしつつ、倒さなければならない。
恐怖をそっと胸の奥深くに追いやり、承太郎は吐き出す様に息を吐いた————。
————その後15分間、承太郎とセインの長い戦いの幕が開いた。
何度も何度も拳と拳をぶつけ合ううちに、承太郎は何度ため息をついたことだろうか。
さすがに拳も痛くなる。人間とスタンドは一心同体。スタンドのダメージは主人のダメージ。
承太郎は自分が殴っているわけでもないのに、拳に染みわたる血を目にしてまたもため息をついた。
そしてようやく、目の前のセインに疲れが見え始めていた。
先ほどまでは拳のラッシュについていけていたが、今度はそうは行くまい。
「やれやれ……ここまで殴り合いで手こずったのはテメエが初めてだぜ。」
苦笑して、今も獣のように唸るセインに向けていった。それが耳に入っているのかは分からない。
「だが、次で終わりだぜ。テメエは。」
右手の人差し指でセインを指さして、承太郎は微笑した。
それを挑発と受け取ったのか、今までよりも大きい咆哮をあげると、セインは突進した……。
背中にスッと現れた赤いスタンド。奴のスタンドだ……!!
「————『スーパークラッシャー』ッ!!」
セインが吼える様に叫ぶと、背中のスタンドがなお大きくその姿を露わにした。
奴がスタンドを動かすたびに、『スーパークラッシャー』と叫ぶ。
つまりこの赤いスタンドは、『スーパークラッシャー』と名のついたスタンドなのだろう。
承太郎の持つ、『スタープラチナ』と同じように。そして、
「————『スタープラチナ』ァッ!!」
承太郎もお返しと言わんばかりに叫び、そしてスタンドを露わにさせる……。
青を基調にした『スタープラチナ』。そして赤を基調とした『スーパークラッシャー』。
それぞれ違う色をした二つのスタンドが、睨むように相手を見つめる、そして、
「スーパーァァ、クラッシャアアア!!!」
先手を打ったのは、『スーパークラッシャー』を操るセインだった……!!
先ほどと一緒で、右手に赤く燃えるような闘気を纏い、その拳を振り下ろすッ……!!
————承太郎は、すでにそれを読んでいた。
これまでの15分間を通して、承太郎が得た情報は多大なモノだった。
まず一つ、この『スーパークラッシャー』は確かにパンチの速度も速く、
両拳から繰り出すラッシュも『スタープラチナ』に並ぶほど強くて速い。
が、このラッシュには、どうやら『破壊能力』が伴っていない様だった。
つまりどういう事かというと、ラッシュに関してはスタンド能力ではなく、
あくまでも殴るための攻撃手段でしかないのだ。よって、これは触れても即死することはない。
ちなみに、承太郎はこれを確認するために、わざとラッシュ中に建物を破壊させたのだが、
最初に見た時のように崩壊したり、業火に焼かれることはなかった。
つまり本当にやばいのは、あの赤い闘気を纏った時のみなのだ。
そして重要な事がもう一つ。この赤い闘気を纏った攻撃の最中は、ラッシュが出来ない。
ゆえに連発でこの赤い闘気の攻撃だけを連打することは出来ない。
だからこそ、承太郎は今まで生き残ってこれたと言えた。
もしもラッシュ中にもこれが出来ると言うのならば、最初のラッシュの時点で承太郎は死んでいる。
そこまで掴んでいた承太郎は、一つの切り札、そして策を用意していた……。
「————読めてるぜ。テメエの動きはなッ!!」
振り下ろした赤い闘気を纏う右手の攻撃をガードではなく横のステップで躱す。
そしてセインの懐に飛び込み、『スタープラチナ』がゆらりと両拳を構える……。
セインも躱されて揺らいだ身体を即座に立て直し、『スーパークラッシャー』も両拳を構える……。
これが最後だ。この殴り合いを制した方が勝者だ————!!
「オオォォォオオぉぉ————」
「アアアァァァぁぁぁ————」
二人のスタンドが咆哮して一瞬ピタリと止まる……。
瞬時、二人のスタンドがパンチの嵐を巻き起こす————!!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!!」
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィッッ!!!」
二つのスタンドの間に、幾つもの分身したかに見える拳が、躍るように火花をまき散らしたッ……!!
風を切り、空気を裂き、そして辺りが舞い踊るように風圧が吹き荒れる。
拳と拳との衝突によって起こる振動は周りの建物に伝わり、さらに町を崩壊させた。
ドンドンッというハンマーで殴っているかのような大きな音が辺りを響かせ、
その中心にいる承太郎とセインにはまるで他の音が聞こえない。
ただ聞こえるのは、拳がぶつかる音のみ……。
このラッシュのやり取りはこれが8回目だ。これが最後だ。
そう息込んでいたせいか、承太郎にはこれが一番拳に響くラッシュのようにも思えた。
それは気のせいじゃない。確かに裂ける様に血が噴き出す両拳。
“ここで……負けてたまるかッ!!”
「オオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
承太郎はさらに咆哮をあげ、魂をスタープラチナに込める。
それが意志として伝わり、スタープラチナのラッシュ速度はさらに加速した……!!
それがついに互角だった均衡を破り、すり抜ける様に『スーパークラッシャー』に拳が突き刺さる!!
「グアアアアアァァァッッ!!!」
顔面、腹部、そしてその他もろもろの計9発のパンチを貰ったセインは、血を吹きだしてのけぞった。
スタンドのダメージは主人のダメージ。『スーパークラッシャー』のダメージが伝わったのだ。
ついにスタープラチナがラッシュの応戦に勝利した。かに見えた————
「————アアアアアアアァリィィィィーーー!!!!!!」
まだだと言わんばかりに咆哮したセインは、グルンと態勢を無理やり持ち直した。
スタープラチナの攻撃を食らってすでに瀕死に近いはずなのに、その威圧感は変わらない。
その威圧感を肌に感じた承太郎は、今度こそという意思を込めて拳を握る。
スタープラチナは右手に力を入れ、その拳を振り上げようとした時、
「スーパーァァァクラッシャアァァァ!!!」
セインが叫ぶと同時に、『スーパークラッシャー』の右拳が赤い光を放つ……。
まずい、と承太郎は思った。スタープラチナはすでに攻撃モーションに入っている。
しかも懐に潜っているために回避の暇もない。引くことは出来ない。
万事休す。まさしくその言葉だ……。
「アアアアアアアアァリィィィ!!!」
スーパークラッシャーの赤い闘気を纏った拳が振り下ろされる……。
その拳は一直線に伸び、ついに、スタープラチナの顔面を捉え————
「————スタープラチナ、『ザ、ワールド』。時は止まる……。」
————ることはなかった。瞬間、世界は『ありえない光景』を目のあたりにする。
承太郎以外の全ての生物、否、全ての物質が全てピタリと止まり、動かなくなった。
空中を飛んでいた鳥も静止し、今まさに崩れ落ちようとしている建物も浮くような形で止まっている。
目の前にいるセインも同様で、瞬き一つ行う気配はない。
そんな世界で動けるのは、唯一承太郎のみだった。
————これが、承太郎のスタンドである『スタープラチナ』の本当の能力。
それは至極単純。『時を止める能力』、だ。
時間制限はあるものの、その時間内ならあらゆるものを制止させることが出来る。
そして唯一動ける自分が一方的に攻撃することも、やろうと思えば可能。
だが、それは難しい。なぜなら、今の承太郎が止めることが可能な時間は、『約2秒』。
つまり2秒間だけ時を止められる。とてもじゃないが、懐に入っていなければ攻撃するのは無理だ。
そして何より、最近承太郎はこの能力を使うのにためらいつつある。
理由は、時期によって止められる時間が不定期なのだ。それゆえ、最低で一秒未満という時もある。
無論それでも十分すぎるのだが、大事な場面ではとても重宝しないし、信用ならない。
あくまでも緊急の場合のみ、この能力を使う様にしているのだ……。
「やれやれ、使いたくなかったぜ。奥の手の切り札は、な。」
フッと笑うと、承太郎は静かにスタープラチナを構え、
「オラオララオラオラァ!!!!」
と、両拳で繰り出すパンチを7発ほど浴びせる……!!
セインは時を止められているため、現段階では自分が『殴られている事さえ分からない』。
承太郎はその場でクルリと背を向けると、愛用の帽子を深くかぶる。
そしてダメージは、時が始まるとともに訪れる……!!
「そして時は動き出す……————。」
瞬間、全ての存在が動き出した……。
空を駆けていた鳥は大空高くに飛び、崩れかけていた建物は音をたてて崩壊した。
そしてセインもまた動き始め、赤い闘気を纏った拳を振り下ろす————事は出来なかった。
突如としてあふれ出た7発の重い攻撃が、セインをさらにのけぞらせた……!!
「アアアアアアァァァッ!!!!!!!」
何が起こったか分からないまま、セインはさらに血を吹きだし、身体に走る痛みに耐えかねて悲鳴を上げた。
そして『スーパークラッシャー』もまた、その動きを止めた。主人の意識がプッツリと途切れたからだ。
『スーパークラッシャー』がうっすらと消えていくのと同時に、意識を失ったセインが、
糸が切れた人形のように、バタンと背中を地面につけて倒れた……。
全身打撲、大量出血であったが、心臓はまだ動いて生きている。
このままだと間違いなく死ぬが、承太郎は心配していなかった。
この世界には何よりも優秀な『医者』がいる。そいつが到着すれば、間違いなく治る。
後はそいつが来るのを待つだけ————
と思ったが、承太郎は、それは無理そうだと判断した。……体力の限界だった。
承太郎もスタープラチナを引っ込め、そして一度大きくため息をついた。そして————
「————やれやれだぜ。……老いたな、俺も。」
そう言い残し、承太郎は前のめりにバタリと倒れた。
最後に見えたのは、こんな業火の中でも凛と咲くタンポポだった。
それを最後に、承太郎の視界は深い闇へと落ちていった————。
————————第13幕 完————————