複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『風紀委員会の日常日記。』 ( No.106 )
日時: 2013/03/05 17:21
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

     ————第14幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……後編。』————



           「パート1。」







   「おおぉぉぉぉおおおッッ!!!!!」

   「ああぁぁぁああああッッ!!!!!」




  二人は同時に咆哮し、相手に殺気を向けて突撃する————。


  空中を蹴りあげ、空気の放出によって加速した黒川は、グングンとミストとの距離を縮めていく。
  対するミストもその場をグッと踏み込み、地面を蹴りあげた。あまりの蹴りあげに地面がひび割れた。

  二人が接触すると同時に、挨拶代わりだと言わんばかりに、黒川が容赦なく斬りかかった……!!


  黒川の持つシャイニングブレイドは、触れればたちまち身体を焼き斬り、蒸発させる。
  体術を得意とするミストには分が悪い武器であり、それは本人も分かっている。

  にもかかわらず、あえて得意な足技を使いづらい空中に身を乗り出したのかと疑問に思った。
  しかも回避も難しい空中で、だ。これなら黒川にとっては格好の餌である。

  だが瞬間、予想だにしていなかった光景を目のあたりにした……。


  黒川の振り下ろすシャイニングブレイドは、確かにミストを捉えた。
  ミストはクルンと宙返りをすると、振り下ろすシャイニングブレイドを得意の蹴り技で直に受け止めた。
  ジュッ、という熱に触れた音が辺りに響いた。この後、ミストの身体は切り裂かれる……事はなかった。

  むしろシャイニングブレイドは対象を焼け斬ることなく、その動きを完全に停止させた。
  今シャイニングブレイドが触れているのは、ミストの履いている靴だ。

  奴は得意の足蹴りを駆使して、靴でシャイニングブレイドを受け止めたのだが……、

  それは不可能というもの。無理難題なのだ。
  たかが革靴に鉄を問答無用で焼き斬るシャイニングブレイドを止めることなど出来はしない。
  むしろ直に触れることさえ不可能だ。その瞬間、靴は溶けてなくなるのだから。

  しかし、確かにシャイニングブレイドの刃に直接触れている靴は、その原型を留めている。



   「————なッ!?」



  思わず驚きの声が出てしまった。今までこのように直接受け止められたことがないからだ。
  そんな驚愕の表情を浮かべる黒川に、ミストはクスッと笑った。




   「耐熱特化の超合金を使った新しい靴はどぉ? 可愛いでしょ?」



  ミストの言葉に、黒川はハッとした。

  このミストの履くピンク色の靴、パッと見は普通の靴に見えるが、よく目を凝らすと金属だ。


  この世界には、『完璧に焼く事が出来ない金属』が数少なく存在する。
  それを世界では『耐熱合金』、またの名を『ヒート・レジスタンス・メタル』という。

  触れると同時に、温度をある一定のところまで強制的に『冷やす』。
  まるで金属自体が熱に抗うかのように出来ており、意志を持っているかのようだった。
  つまり、このシャイニングブレイドの熱を強制的に冷やし、焼き切られるのを防いだということだ。


  しかし、黒川は可笑しな話だと思った。

  どれだけの温度の熱も通さない、正確には熱では姿形を自在に変化させることが出来ない金属を、
  どのようにしてその靴の形に仕上げたというのであろうか……。

  世界でもそれが一番騒がれている問題でもあり、何人もの科学者が寝る間も惜しんで解析している。
  それが実用化すらされていないというのに、なぜ今目の前にそれが存在しているというのか……。



   「……貴様が作ったのか? どうやって作った?」



  黒川の質問に、ミストは「あたしじゃないよぉ。」と首を左右に振った。



   「そこの真っ黒ローブさんに作ってもらったのぉ。作り方は分かんないー。あひゃ。」

   「……何者だ、奴は。科学者として殺すには惜しい人材だ。」

   「あー、無視しないでよぉ。せっかく目の前に美少女がいるというのにぃー!!」



  瞬間、ミストはグルリと身体を縦回転させて、かかと落としの要領で黒川の頭上に振り下ろすッ!!

  咄嗟に反応してシャイニングブレイドで防いだ黒川だったが、あまりの蹴りの威力に吹き飛ばされた。
  エアブーツではとても態勢を立て直せず、流星の様に黒川の身体は勢いよく地面に叩きつけられた。
  背中から受け身も取れずに落下したため、思わずうぐッ、という悲鳴と、身体に走る痛みに顔をゆがめる。

  まだ前回のミストとの戦闘の傷が癒えていない。思ったように身体が動かないのだ。



   「……ちッ!!」



  思わず舌打ちをした。ストンと地面に降り立ち、近づいてくるミストにやけに恐怖を感じてきた。

  今までシャイニングブレイドの恩恵でミストとのアドバンテージ、つまり有利に立ってきたと言っていい。
  しかし、このシャイニングブレイドを防ぐあの靴がある限り、あれを掻い潜らなければダメージは通らない。

  だがミストの足技はかなり強力だ。そしてタイマン特化だと言っていい。
  そして素早い動き。読めない、応戦しづらい蹴り技。
  普通の剣と化したシャイニングブレイドではとても5分5分には持ち込めない。
  しかも前回の疲労が身体の荷物と化している。これでは勝機は2割といったところか。

  まさかシャイニングブレイドの対策を催してくるとは誤算だった。
  否、それはまだ無いと思っていたのだ。だからこその奥の手の武器なのだ。
  見上げる位置にいる黒ローブを恨めしく思いながらも、科学者としてほんの少しだが尊敬した。
  まともな人であるならば、良い友達に慣れたというのに。あれは間違いなくマッドサイエンティストだ。

  そんなフラフラな黒川を見て、ミストはクスッと笑ってみせると、白いワンピースをひらひらさせる。



   「あひゃひゃ、大丈夫ぅ? 手を抜いてあげよっかぁー?」

   「……心配するな。これから死ぬ貴様が心配するほどじゃない。」



  後ろ向きな考えを捨て、黒川はグッとシャイニングブレイドを両手で構える。

  殺気は以前として劣らず、その目はまだ獣と同じ目をしている。



   「そうそう、そうじゃなきゃ————さ!!!」



  ミストが思いっきり地面を蹴ると、ドンッ、と地面が割れる音が辺りを響かせる。
  そしてロケットの様に黒川に向けて突進し、瞬時に黒川との距離を詰めた。

  黒川との距離が1mほどになった直後、ミストはもう一度地面を蹴り、飛び蹴りを放つ。
  回避は不可能と瞬時に判断した黒川は、シャイニングブレイドを突き出し、その飛び蹴りの勢いを殺す。
  が、予想以上に威力が強く、2・3歩後退しつつもなんとか受け止める。


  そう言えば、と黒川は一つ疑問に思った。

  このシャイニングブレイドはあくまでも熱が刃であり、いわばレーザーの塊。
  だから実体など存在せず、本来ならミストの攻撃をガードする事なんて不可能のはずだ。
  すり抜けて、それこそ蹴られ放題。一方的に黒川が不利になるはず。

  だが、この靴はどうやらシャイニングブレイドの刃を『実体』として捉えている。
  だからこそ、この強力な飛び蹴りをガードできたと言える。それは有難い話だ。

  しかしなぜ? なぜこの靴は熱を実体として捉えることが出来る?
  答えは簡単に出てきた。きっと熱を急激に冷やすことで、レーザーを一時的に『固体化』させているのだ。
  空気中の水蒸気には触れることが出来ない。しかし凍らせて固体化すれば、氷として触れられる。
  あれと同じ要領なのだろうと黒川は推測を立てた。おそらくは間違いあるまい。
  まぁなんにせよ。実体として捉えてくれるのはこちらとしては有難いという事だ。


  ホッとする間もなく、即座に地面に手をついて逆立ちになったミストがさらに追い打ちをかける。

  上下逆になったミストの足蹴りは黒川にとっては防ぎづらい攻撃だ。
  上に意識しすぎれば足を狙われ、足を意識しすぎれば今度は顔面を蹴りあげられる。
  以前はこれを自分も逆立ちになって蹴りで応戦することでアドバンテージを崩したが、
  今回は正直足技で応戦できるという自信はない。体力的にも、だ。

  それに前回とは違い、金属の靴も纏っているため、攻撃力も増していると見て良い。
  現に以前よりか蹴りの威力は増しており、さらに化物と化していたのは間違いじゃない。



   「ていっ、やぁあああッ!!!!」




  ミストは左右両足を交互に突出し、黒川の顔面目掛けて連撃する。
  まるで分身でもしているかのように速く、一つ一つ見極めて防ぐので手一杯だった。
  シャイニングブレイドとミストの靴が交わるたびにキュインという音が鳴る。
  連続で鳴り響く音に鼓膜が破れるかと思う程だ。黒板をひっかく、あの音に似ている嫌な音だ。


  黒川はこのままではやばいと判断し、一度バックステップをはさみ、距離を置く。
  そして態勢を立て直し、咆哮と共に再び斬りかかる……!!

  右下から左上に振り上げる様に切り払う。ミストはそれを咄嗟に飛び退いて躱す。
  逆立ちの状態ではどうしても下からの攻撃に弱くなる。そして足で防御するのも遅れる。


  そして距離を置こうとすることも予想していた黒川は、瞬時に接近する。
  さらに追撃する様に下から切り上げる形で、8の字を描くようにシャイニングブレイドを振るうッ!!


  それを不利と受け取ってか、ミストは支えている手にグッと力を入れると、そこから一気に飛び跳ねた。

  黒川の攻撃を掻い潜り、上空3mのところまでジャンプしたミストは、身体の向きを直し、
  重力に引かれる様に地上へと徐々に落下。落下地点はちょうど黒川の真上だ。


  黒川は不敵にもニヤリと笑った。これは好機だ。

  ミストの落下の勢いに任せて繰り出されるであろう足技をを剣で防御し、
  それを防ぎ切った後で、攻撃にすぐに転じれば、ミストが地上に降り立つ前に切り込むことが出来る。
  たとえそれを足で防御してきたとしても、大きく態勢を崩すに違いない。

  その時を狙えばかならず斬れる……!!



   「やああああぁぁぁッッ!!!」



  ミストが咆哮しながら自分の真上に落下してくる。両足で、踏みつける様に体重をかける。
  幸い、女性であるミスト自体の体重は大したことはないが、
  落下と同時に押し出された足蹴りが充分に黒川の身体を沈ませた。
  両足に力を入れ、必死に上からのミストの攻撃の圧力に耐える。歯を食いしばり、耐える。


  そしてミストの攻撃が完璧に止まったのを見計らい、剣を即座に引く。

  ミストの足元には黒川の剣がなくなった事によって、足の支える場所がなくなる。
  ミストはそのまま地面へと足が吸い寄せられていく。今ミストは逆立ち状態じゃない。
  つまり、今ならミストの顔面はミスト自身が防御不可能な完全な『隙』であるのだ。
  まだ地面に足が付くまで一秒はある。この間に逆立ち状態に持っていくことは不可能。


  足で防御することも、不可能————。





   「オオオオォォォアアアアァッ!!!!」




  黒川はこの好機を逃すまいと、後ろに引いたシャイニングブレイドを即座に前へ付きだすッ!!
  突き出されたシャイニングブレイドの刃の剣先は、無論がら空きのミストの顔面へ……!!




  瞬間、黒川はあまりにも突発過ぎた行動に背筋を凍らせた……。


  目の前のミストの身体がギュルリと高速回転する。

  分かりやすい言葉で言うならば、空中で高速でバク天をしていると思ってくれていい。
  何回転もし、目が回るぐらい回転数を上げていく。ここまで、1秒もかかっていない。
  そして黒川が突きだしたところにすでにミストの顔はなく、そこは空洞と化していた。

  ミストの顔は約0.5秒の間に即座に黒川の足元あたりへと移動しており、
  そしてその直後、回転数を上げた恐ろしい程速い蹴り上げが、黒川の顎に直撃した……!!




   「がッ……!!」



  思わず言葉にならない程の悲鳴を上げ、黒川の意識はガクッと揺れる。

  人間は顎に強烈な衝撃を受けると、脳にそれが振動して、脳震盪というものを引き起こす。
  まさしくそれであった。今の黒川は、景色が歪んで見えた。


  さらにと言わんばかりに、ミストは身体の軸を捻ると、今度は地面と水平に横に薙ぎ払い、
  黒川の首に水平チョップならぬ、水平蹴りをお見舞いするッ!!

  息が一瞬止まり、首が消し飛ぶかと思う程だった。肺から一気に空気を吐き出す。その時に血反吐も吐いた。


  ガクンと身体が完璧に動きを止め、両膝をついて前のめりに倒れようとしたところを、
  とどめの一発を高速の前蹴りで黒川の顔面にお見舞いし、黒川を5mほど前方に蹴り飛ばした……!!


  地面に放り投げられるように転がり、黒川はゴホゴホと血反吐を吐いて、酸素を吸い上げる。
  息が荒くなっているのが自分でもわかり、さっき首を蹴られたせいか酸素の通りが悪い。


  首も……逝ったなこれは。


  黒川は冷静に身体を分析し、自分の身体の至る所の負傷を確認する。

  首は折れ、脳はいつも程機能しない。顎は外れた……と思いきや、さっきの前蹴りで戻った。
  とはいえ、とても身体を動かせる状態ではないというのが結論だ。……正直、勝てる気がしない。





   「あひゃひゃ、もうおしまいー? 早いなぁ黒川君。女の子を満足させないまま逝っちゃうのぉー?」




  妙に下品に聞こえてしまうのは何故だろうかと考えたが、すぐにやめた。ツッコむ気にもなれない。

  もう、目蓋も重い。身体は動かない。完全にチェックメイトだ。




   「まぁー、大好きな黒川君に惨めな思いさせるわけにもいかないしぃー。すぐに殺してあげるね?」



  ミストがゆっくりと近づいてくるのが分かる。コツコツと金属の音を響かせて。


  ああ、自分はついに死ぬか。呆気ないものだ。
  水島や先生には悪いが、先に逝かせてもらうことにしようと腹をくくった。

  私が死ねば、水島達は必ず助かる。その確証はあった。
  なぜなら、私の力によってこの世界に来たのだ。
  ゆえに発言者である私が死ねば、能力の効果はなくなり、時間に関係なく強制的に戻される。

  つまり水島達が死ぬことはまずない。それだけでも、十分だ……。




   「最後に言いたいことあるぅー?」




  ミストが覗き込むようにして黒川の顔を見る。が、黒川はピクリとも動く様子がなかったため、



   「じゃあぁー、バイバイ、私の王子様。顔だけ残して私の部屋に飾ってあげるね♪」




  それだけ言って、ミストは片足を振り上げ、黒川の心臓部分に狙いをつける。

  もう、足掻く気はなかった。むしろこのまま殺された方が楽だ。
  守れなかったのは、悔しい。けれど水島さえ生き残ればそれでいい。



  “…………幸せに生きてくれ。水島。”





  最後は笑って死のうと思い、表情を穏やかにしたその時————










   「————止めてぇッ!!!」




  辺りに響く声に圧倒されて、ミストはピタッと動きを止めた。
  先ほどまで五月蠅く騒いでいた業火が一気に静かになったようだった。


  女性の声……だった。しかも、この声は————






   「水……し……ま……?」





  黒川は動かない身体をやっとの思いで動かし、声の方へと目線だけを向けた————。