複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『死。』 ( No.108 )
日時: 2013/03/07 19:12
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



          「パート3。」




  人は死んだとき、どこに行くんだろうか。
  人は死んだとき、どうなるんだろうか。


  黒川も含めた科学者たちがその幻想の答えを追い求めた。

  死ねば答えは分かる。しかし、逆に死ななければ分からない。
  死んだ者は戻ってこない。死んだ者は生き返らない。
  だれもが最後に必ず理解する、幻想の答え。それが『死』というものだ。


  黒川という人間は、死んだのだろう。

  彼の眼前には見たこともない世界が広がっていた。


  真っ白で、何もない。ただあるのは無限大の白の景色。終わりのない、白い世界。

  目がチカチカしそうで、黒川は自然と瞬きが多くなっていた。
  呆然と立ち尽くし、辺りをじっくりと見渡した後、機能する脳で冷静に思った。
  ここが、天国なのか。ここが、死後の世界。
  さすがに辺りに羽が生えた天使が飛んでいるというファンタジーな世界ではなかったようだ。

  ふと、黒川は自分の身体を見た。
  元々着ていた黒の学ランは、先ほどと違って全て修復しており、傷も全くない。
  そして理解する。やはりここは現実ではない、と。
  現実の俺は、きっと今も笑顔で横たわっているのだろう。

  息を引き取って、死体となって転がっているのだろう————。




  “————貴様はそれでいいのか?”






  ふと、耳に直接流れ込んできた声に、黒川はハッとした。
  辺りを見渡してみるが、声の主は分からない。



  “貴様は『まだ』ここに来るべきじゃない。”



  その声は今度は前方から聞こえた。ゆっくりと顔をあげて目を凝らす。


  目の前に立っていたのは、羽の生えた天使、もしくは聖騎士の様な人物だった。

  身長は170cmぐらいで、顔つきを見る限りでは女性だろうか。
  背中には綺麗で見惚れてしまうような羽が両面に広がっており、身体は金色の防具で身を包んでいる。
  瞳の色は、身につける防具と同じ、金色の瞳を両目に宿していた。



   「……君は……誰なんだ?」



  黒川は目の前にいる女性の目を見つめて尋ねる。だが、彼女がその問いの答えをいう事はなかった。



  “貴様はまだ、生きている。”



  その言葉に、黒川は思わず「えっ……?」と聞き返してしまう。
  予想外の言葉に困惑しつつも、女性が紡ぐ言葉に耳を傾ける。



  “貴様が望めば、まだ帰れる。いや、帰らなければならない。”



  確かに目の前の女性が喋っている。けれどまるで、自分の心に直接語りかけているような感覚だった。
  その声は優しそうで、だけど凛としてて、そして遠い昔になぜか聞いたことのある声……。



  “貴様にはいるはずだ。守りたい、守らなければならない『誰か』が。”



  その言葉に再び脳が痺れた。スイッチが作動したかのように、脳が活性化する。


  そうだ、俺には戻る理由がある。

  死んでいないというならば、生き返れるというのなら、俺にはまだ戻る理由がある。





   「……そうだ、俺には……守りたい人がいる。水島という……大切な人が。」



  自分にもう一度認識させるように、黒川は呟くように言う。
  胸の辺りが熱くなる。きっと自分の感情が……限界まで高ぶっているんだ。


  瞬間、黒川の身体はぼおっと光り始める。うっすらと、そしてどんどんと身体が消えていく。
  困惑する俺の目の前の女性は、俺を見つめ、そして微笑んだ。




   「君は……一体ッ……!?」



  もう一度聞いてみるが、女性はゆっくりと首を横に振った。




  “しばらくはお別れだ。今度会う時は、貴様が運命の決断をするその時だ。それと————”




  ほんの少しの沈黙の後、女性は口を開いた。








  “貴様は私の『扉』を少し開いた。……ほんの少しだけ、貴様の持つ戦う『力』をあげよう。”




  そんな意味深の言葉を最後に、俺の意識は飛んだ————。























   「————黒川君ッッ!!! 起きてぇッ!!」




  その言葉が届いた瞬間、黒川の目はパチリと開いた……。

  先ほどとは違い、辺りはバカみたいに騒がしく、火花がちらちらと飛んでいる。
  ふと自分の顔面に降り注いだ何粒ものしずく。それは黒川を抱きかかえる人の涙だった。



   「……水島。」



  黒川が守りたくて、守り抜いた人。水島愛奈の姿が確かに見えた。
  ヒックヒックと声をあげる彼女は、きっと相当自分を心配してくれたのだろう。
  そしてそれは同時に、自分が現実に帰ってきたことを意味した。



   「……本当に生きてたのか。俺……。」

   「ばかッ……!! ……よかったッ……。よかったよぉ……!!」



  ギュッと痛いほど抱きしめられ、うっ、という声を漏らした。
  目の前で泣きじゃくる彼女を愛おしく思いながら、黒川はそっと水島の頬に触れる。



   「すまない……。心配かけたな。」

   「本当だよ……バカッ……!! もうこんなムチャしちゃダメだよッ……!!」



  ポロポロと流れでる涙は、彼女の頬を伝っていく。それを黒川の手がそっと救う。
  スッと上体だけ起こし、泣きじゃくる彼女の身体を抱きしめた。
  温かくて、女性独特の良い香りがする小さい身体。凄く落ち着いた。


  “ひとまず、彼女が生きていてくれて本当に良かった……。”


  これで俺は生き残り、彼女は死んだとなれば、多分俺は発狂していた。

  だけど、俺は守り切れた。彼女の笑顔を、彼女の存在を。
  そして自分も生きていた。死ぬ覚悟はあったとはいえ、純粋に嬉しかった。
  そう思うと、黒川は勝手に笑みがこぼれた。本当に……よかった。


  ほんの少しの間、二人は抱きしめあった……。二人の生存を確かめ合う様に……。





  ————そして二人の気分が落ち着いた頃合いを見て、黒川は聞いてみた。



   「……だけど、どうして生きてたのかな、俺。」

   「あっ……えっとね、あそこにいる人が……。」



  黒川の言葉に水島はふと視線だけを向ける。それを目で追ってみた。
  ちょうど承太郎がセインと戦っていた位置辺りに誰かの姿が見えた。

  学生服を着た、リーゼント頭をした青年だ。



  ————そうか、と黒川は瞬時に理解した。


  黒川は彼の事を知っている。彼の名前は、『東方 仗助 (ひがしかた じょうすけ)』。

  彼もまたこのジョジョの世界に生きるキャラクターであり、
  あろうことか、この物語、第四部の主人公でもある男なのだ。

  無論、彼もスタンド使いであり、スタンドの名は『クレイジー・ダイヤモンド』。
  こちらもスタープラチナと同じく接近戦を得意とするスタンドで、
  その強さはスタープラチナと同等レベル。ダイアモンドを表す様な銀色を基調とした人型だ。

  それ以外に、彼のスタンドには能力があり、それこそが答えだ。
  彼のスタンド能力は、『壊れた物体、負傷した生物を元通りに直す・治す』という能力なのだ。
  つまり、黒川の負傷した身体は彼のスタンドによって完全に修復されたという事だ。
  その証拠に、今自分の身体には何一つ外傷がない。あれ程ボコボコにやられたというのにだ。
  首の骨も元通り、貫かれた心臓も、数日前の痛みさえも消えている。

  だが、彼のスタンド能力でも『死んだ人間は修復できない』。
  つまり黒川が死んでからだと手遅れだったのだ。そう思うとゾッとした。
  なぜなら俺の記憶が正しければ、俺は心臓を一突きされて即死だったはずだ。
  つまり多分、俺が助かる猶予は長くて1分ほどしかなかったわけだ。
  その間に仗助が到着して治していなければ、黒川はそのまま死んでいた。

 
  水島があの時、身を危険に投じてまで俺を救っていなければ、
  俺の身体を無理やり動かして、水島を守っていなければ、

  何もかもがなければ、きっと俺はその一分間で蘇生が手遅れで死んでいただろう。


  感謝しなければならない。何もかも。今までの行動全てに。
  仗助に、自分の身体に、そして愛する水島に……。


  ————そして今、仗助は承太郎の傷を治しているのだろう。

  彼もセインとの戦闘でかなり傷ついているからだ。死んではいないはずだが。
  気を失っているセインの事は後で考えるとして、



   「……なるほど。それは分かった、が————」




  黒川はふと、先ほどから感じていた威圧感の方へと視線を向ける……。
  視線の先には黒川が殺されかけたミストが退屈そうに座っていた……!!




   「————あひゃ、感動の抱擁終わった? 長いなぁ、もう。」



  ミストはスッと立ち上がり、不敵に笑みを浮かべた……。

  ミスト・ランジェ。黒川がさっき大敗を屈した敵。
  その姿を見て、震える水島の手をそっと黒川は握り絞める。




   「黒川君のために今起きた数分の事を話してあげるねぇ。

   まずは、いきなり現れたリーゼント君にはびっくりしたよぉ。
   だっていきなり現れては一瞬で傷を治すんだもん。黒川君が元通りになっちゃって。
   それで、その子殺してあげようかなぁって思ったんだけど、もうちょっと待てとか言われて、
   ほんで待ってたらあら不思議—。黒川君が生き返っちゃった♪ 殺したはずなのにねぇー。

   それで今まで感動の抱擁があったから収まるまで待ってたってわけ。ここまでで質問はー?」



   「……とりあえず一つ言っておこう。意外に良い子だな。貴様は。」



  黒川は苦笑した。意外と物分かりの良いいい子では?というバカの発想が沸いてくるほどだ。

  それまでの話を聞いて驚いたのは、ミストが仗助を見逃したという点だ。
  確かにミストにとっては興味ない存在だったからというのもあるだろうが、
  もしかしたら興味ない者を無駄に殺傷するほどの殺人者じゃないのかもと、ほんのほんの少しだけ思った。

  でもだからといって、ゼロを殺したことには変わりはない。それは絶対に許さない。

  でももう一つ気がかりなのは、彼女が律儀に私の蘇生を待っていたという事だ。
  その意図はよく分からないが、それでも私にとっては有難い。


  ……もう一度、私はミストと戦える。今度こそ、殺す……!!


  殺気が湧き出て、立ち上がろうとする黒川の裾を、水島はギュッと握った。

  小さな声で、「行かないで……。」という声が聞こえた。
  きっともう彼女は、私に危険を冒してほしくはないのだろう。
  もう二度と、私が傷つく姿を見たくはないのだろう。それは嬉しい。だけど————


  ここで俺が戦わなきゃ、今度こそ水島が殺されるかもしれない。それは嫌だッ……!!

  黒川は水島の頭に手を乗せ、そっと撫でる。
  目に涙を浮かべる水島の瞳に触れ、ふき取ってやる。



   「……約束する。今度こそ、君を泣かせはしない。君を危険な目に合わせたりしない。

   ————そして俺は死んだりしない……。君を絶対に守って見せる。だから……。」




  そこまで言う黒川の決意が届いたのか、水島は顔をうつ伏せる。
  大切な人に傷ついてほしくないと一心に願う彼女には、酷な決断を迫られている。

  そして少し考えた後、黒川の裾の手がそっと離れた……。
  水島は胸に手を置き、ギュッと握り絞める。ポタリと落ちたしずくが彼女の足元を濡らした。





   「……絶対に……戻ってきてね。黒川君……。」



  やっとの思いで絞り出した水島の声に、黒川は笑顔で答えた。



   「必ず……。君と一緒に……ここから帰ろう。……すぐに、終わらせてくるから。」



  黒川はそれだけ言うと、水島の頭から手を放す……。

  彼女と帰る。そのために、勝つ。絶対に。
  もう二度と、彼女を悲しませてはいけない……。絶対にだッ!!


  そしてミストの方に向き直り、キッと睨む。
  ミストはニヤリと笑うと、さっきと同じ殺気をこちらに向けた……!!




   「あひゃひゃ、いいのぉ? 抱擁だけで。もっとイロイロして良いんだよ? 待ってあげるから♪」

   「……貴様の言うイロイロが何かは分からんが、俺がしたいことはたった一つだ。」



  黒川はグッと拳に力を入れて、殺気を向ける……。
  そして自分の足元に落ちていたバトンを拾い上げ、スイッチを入れる。シャイニングブレイドだ。




   「後ぉ言い忘れてたんだけどぉ、あたしが黒川君を良い子に待ってた理由ってなんだと思う?

   ————万全な君を殺したくなったの♪ このムチムチの足で、ね?」



  ミストの靴がキラリと光る。金属でできた、対シャイニングブレイド用の靴だ。

  そしてやはりか、と黒川は内心思った。
  きっと彼女はもう一度私と戦いたかったのだろうと予測はしていた。絶好の機会を逃してまで。

  ……だが、それが油断大敵というものだ。今の俺は、さっきまでの俺ではない……。





   「だからぁ、今度はちゃんと逝かせてあげるね? 君も、あの女もさぁぁッッ!!!!」

   「……彼女には指一本触れさせない。そして俺も生きる。全て守って見せる。だから————」




  黒川の辺りが一瞬、暴風に似た衝撃波が巻き起こる……。
  瞬間、ミストは背筋が凍る思いをした。目の前の黒川が、先ほどよりも殺気が増していたからだ。


  ……分かる。直感的に分かる。彼は何かが変わった、と。

  そして笑う。嬉しくて笑う。目の前の彼の、その純粋な殺気と威圧感にミストの胸が躍る……!!







   「————邪魔をするなッッ!!! ミスト・ランジェェッッ!!!!」





  黒川の咆哮と共に呼応した様に、黒川の瞳がキラリと光る……。

  黒川の右目は、先ほどと同じように光り輝く、金色に満ちた瞳へと変化していた————。






      ————————第14幕 完————————