複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『ティアナの始まりの時間。』 ( No.110 )
- 日時: 2013/03/08 23:01
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「後編。」
————と、いうのはさておいて、ティアナが起こしに来たのはさらに別の理由があったようだ。
以前霧島とティアナの間に、一つの約束を交わしていた。
それは……ティアナのお友達である、ゼロの再生。修理だ。
アンドロイドの世界で、ゼロはティアナの危険を身を捨ててまで守り、そこで息絶えた。
悲しみに打ちひしがれるしかないティアナをもう一度立ち上がらせたのは、
他でもない、霧島勇気の熱心な言葉があってこそだ。
ゼロの生き様は立派だった。ゼロは後悔無しで死んでいった。
けれど、ティアナはそれでももう一度再会を願った。
自分の手で自分の友達を救えるのなら、と。
ティアナはこの数日、ひたすらゼロの復元、修理に身を投じた。
無論、それを霧島も無言で見届けた。いつか叶う、その日まで。
そしてついに、それは数日の時を経て叶った……。
「お……おお……!!」
ティアナに引っ張られて、霧島は早足で庭に出てみると、
目の前にいたのは、あの時のゼロそのものだった。
紫色の長めのストレートヘアーで、全身には紫の鎧に身を纏った、あのままだ。
今はまだ命の息が吹き込まれておらず、動いてはいない。
が、それはティアナの指先一つで全て解決する。ティアナの持つスイッチで。
ティアナをふと見てみると、何やら不安な表情を浮かべていた。
ついさっき完成したこともあり、システム的にもしかしたら不都合があるかもしれない、と。
そして最も心配だったのは、記憶の復元の安否。
ティアナは過去のゼロの記憶を別の機械にバックアップデータとして残しており、
それを目の前の新しいゼロに埋め込んだ……はずだ。
それでも正常に機能するとは限らないし、もしかしたら失敗しているかもしれない。
失敗していれば、あの頃のゼロではない、別のゼロが誕生する。
けどそれでもいいと思った。それならそれで、新しく思い出を作り直せばいい。
思い出などこれから作ればいい。昔の記憶など……大したものではない。
だけど……なぜだろう。ティアナは身体の震えが止まらない。
きっと、ティアナは怖いのだ。どこか振り切れていない部分があるのだ。
昔の事を忘れたゼロに会うのが、とてつもなく怖い。
あの頃、孤独だった彼女と一緒に過ごしてきたゼロがいなくなると思うと、
身体は意識と関係なく震えだす。嫌だ嫌だと嘆きだす。
ティアナは本当はあの時のゼロに会いたい。そう思っているに決まっている。
だからこそ、霧島は震える彼女を抱きしめた……。
恐れるな、怖がるな、俺がいると囁いた。
ゼロを信じろ、自分を信じろ。あの時ティアナが望んだ現実は、きっと実を結ぶ。
だから……きっと大丈夫。前へ進むんだ……。
霧島の言葉に何度も頷き、ギュッと手を握った。
霧島も、ティアナの手を握り返した。そして、微笑んだ。
きっと、大丈夫。そのためにティアナは、ここまで頑張ったのだから……。
覚悟を決め、ティアナは勢いよくボタンを押した……。
ガクンと震える様にゼロが動いた。きっと動力が稼働したのだろう。
何度か震えた後、ゼロは数秒間ピタリと止まった。
その様子を、二人は手をつないで見届けた……。
きっと大丈夫、きっと大丈夫と何度も願う。つなぐ手を、強く感じて。
————そしてゼロはゆっくりと動き出した。
まずは自分の身体を恐る恐る見ていた。手を足を、身体中を。
そして次に、太陽が昇る天を見つめた。
快晴で、雲一つない青空。空を浮かぶ機械。あれは飛行機というのだと瞬時に理解した。
そして一度目蓋を閉じた。太陽の光を、全身に浴びせているようだった。
最後に、前方の二人を見た。一人は少女、一人は男性。
交互に見た後、ゼロはそっと口を開いた————。
「————ただいま戻りました、ティアナ様、霧島様。」
と、はっきりとした口調で言ってのけた……。
「……ぁ。」
二人同時に間の抜けた声を出した。一瞬まばたきをして、二人は顔を合わせる。
そして熱く込み上げるモノを我慢して、二人はゼロに向き直った。
「ゼロッ……ゼロぉ……ッ!!」
「ティアナ様、また会えたこと……我は光栄に思います。」
「ゼロぉッ……!! ゼロぉぉッ!!」
ポロポロと涙を流し、ティアナは急いで駆け寄っていく。
全身でゼロに体当たりし、抱きしめる。その身体に……熱を感じる。
胸で泣きじゃくるティアナを、ゼロはそっと両手で包み込んだ。
ゼロは……あの時のままだ。何も変わってはいない。
そう認識すると、ティアナは涙が止まらなかった。それはティアナだけではない。
霧島も、呆然と立ち尽くして泣いていた。まるで奇跡を見たかのように、動かなかった。
ゼロも信じていたのだ。きっと、ティアナの元に戻れることを。
そしてティアナも信じた。きっと、ゼロが戻ってきてくれることを。
こんな二人を前にして、奇跡と言わずなんといえというのか……。
「は……はは。ガチ泣き……してんじゃねぇか……。おれ……ッ。」
思わず泣き笑いの様な顔をして、二人の抱擁を見つめた。
きっと今までで、一番うれしかったのかもしれない。
自分の好きな少女が、見事夢を実現したことに。
そしてそれを、一番近くで見られた事に……。
「霧島様、ティアナ様を守っていただき、本当にありがとうございます。
————それにしても、なぜ霧島様が泣いておられるのですか? 疑問。」
「ッ……う……うっせ!! 今は俺なんかよりッ、ティアナの事を気に掛けろ……。」
泣いた顔を急いで腕で拭き、霧島は背中を向けて言う。
ゼロが霧島の事を知っているのは、ティアナが新しく記憶に埋め込んだからだ。
霧島だけじゃない。黒川の事も無論記憶に入っている。
だけどゼロの過去の記録の中に、霧島の記憶は強く残っていた。
自分の洗脳を身を投じて破ってくれたこと、ティアナの事を必死に訴えてきたこと。
これだけでもゼロにとって、感謝を述べるのに十分だと言えた。
「ウッ……ううぅ……わぁぁああんッ!!」
ゼロの中で未だ泣きじゃくるティアナに、ゼロは苦笑して頭を撫でた。
まるで子供を慰める母親の様に、ゼロはティアナにそうし続けた……。
これ以上、言葉はいらない。
これだけで、お互いの気持ちや言いたいことは理解したから。
あの時言えなかったことも、あの時に伝えられなかった気持ちも、
これから時間のままに伝えていけばいい。
そう、ティアナの時間は……ここから始まるのだから————。
“霧島様、何をしようとしているのですか?”
“ああ、写真だよ。記念にカメラで撮っておこうと思ってな。”
“記念? 疑問。一体何の記念でしょうか?”
“キリちゃん、何か良いことあったのぉ?”
“……ああ、あったさ。今日はきっと特別な日になる。これからも、な。”
“へぇー!! なんの記念—?”
“そりゃあティアナちゃん、決まってるだろ? ゼロが生き返った日、そして————”
“————俺達三人が、『家族』になった記念日だ!!”
パシャッとシャッター音が鳴り響き、一枚の写真に収めた……。
そこにはティアナを中心に、三人が笑顔で移った大切な写真。
三人が笑顔で同じ時を生きる、大切な時間が移っていた————。
———————— Fin ————————