複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『ティアナの始まりの時間。』 ( No.111 )
日時: 2013/03/09 16:09
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


     ————第15幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……終編。』————



            「パート1。」




  背中には、温かい視線が感じる……。
  俺の背中には、俺が守りたい人がいる。
  引くわけにはいかない……。死ぬわけにはいかない……。


  かならず帰る……。笑顔で、元の世界に————




   「ミストッ……ランジェエエェッッ!!!!!」




  ————瞬間、二人の身体が同時に動いた……!!


  黒川とミストの接触は、わずか一秒もかからなかった。
  先手をかけたのは……ミストだった。

  さっそくミストは瞬時に地面に両手を突き、挨拶代わりの鋭い蹴りを腹部にお見舞いするッ!!




   「……ッ!?」



  ミストは一瞬動揺した。黒川はその蹴りを右足を上げ、真正面から膝で防御した。
  てっきりシャイニングブレイドで防御してくると思っていたので、
  まさか直接膝を使ってくるとは思っていなかったからだ。



  “ッ!! 嘘でしょ!? まさか真正面からあたしの蹴りをッ……!?”


  ハッキリ言って想像していなかった。なぜなら、無謀ともいえるからだ。

  今やミストの蹴りは、金属製の靴の事もあり、攻撃力は倍増していると言っていい。
  それを生身の身体で受ければ、下手をすれば骨をバキバキに折られる。
  いや、むしろ普通の人間なら普通のミストの足でも折れているのだけど。
  黒川は自分でもそれを分かっていて、だから今まで剣を使って防御していた……はずだ。

  なのに、今まさに目の前でミストの蹴りを簡単に受け止めている。
  そしてシャイニングブレイドは、剣先が地面すれすれのところで静かに構えられている。
  構えが今までみたいに胸辺りに構える上段の構えではなく、
  むしろ足元に構える下段の構えになっているところも不思議な点だ。

  それはまるで防御を捨てたようで、防御する気がないとも見える。



   「なんのつもり……ッなのよッ!!」



  ミストは連続して高速の足蹴りを繰り出す……!!

  狙いは無論、主にシャイニングブレイドの構えられていない顔面部分に。
  分身して何重にも見える蹴りは、常人にはとても見切れない。回避も難しい。が————



  ————黒川の動きは、精密で、そして完璧だった。

  一つ一つのミストの蹴りを完璧に見切り、全てを紙一重で躱す。
  時々ミストの蹴りが顔をかすめ、かすり傷が付くことはあるけれど、それだけだった。
  黒川の金色の右目が忙しなく動き、全ての蹴りの動きと速さを……読む。見る。

  ミストの表情が、思わず曇った。
  ミスト自身の蹴りが遅くなったわけではない。むしろさっきよりもスムーズで速い。
  しかしそれ以上に、黒川の回避はその攻撃を完璧に見切って見せた……!!



   「このッ————!!」



  ミストも自分の蹴りが躱されることにさすがにムキになり、
  顔面付近に放っていた蹴りから、即座に足元部分に狙いをつけた蹴りを放つ。


  ……瞬間、黒川はスッと態勢を低くした。

  そしてミストが蹴りを放つより前に、黒川は瞬時に右足で地面に付く両手を薙ぎ払った。
  足払いならぬ、両手払いを受けたミストは困惑したまま態勢を崩し、逆立ちから解除される。

  ミストの態勢が崩れた所を狙い、今度は黒川の鋭い左足の蹴りが、ミストの腹部を捉えた……!!



   「……あぅぅッ……!!」



  思わずうめき声をあげたミストだったが、すぐに両手をつき、黒川に蹴りの連打を浴びせる。
  が、これも全て、黒川の異常とも取れるほどの回避能力で、悲しくも空を切った……。

  まるで見切られている。自分の攻撃が……全て紙一重で躱される……!!



   「きゃあぁぁッ!!!」



  ミストの放った蹴りの一発を、黒川は空いている片手で止めると、
  ミストの足首を握り、一回振り回した後、力一杯遠くに投げた……。

  ほんの5mほど投げられたミストだったが、大したことはないと判断し、
  冷静に態勢を立て直し、クルンと回って落ち着いて地上に着地する。が、



   「……ッ!!」



  瞬時にミストに接近していた黒川が、ついに牙をむいたッ……!!

  下段に構えていたシャイニングブレイドを真っ直ぐに突きだす。
  狙いは、ミストの顔面。迷いなく、熱を帯びた剣がミストの眼前に突きだされる。

  とっさに右に回避し、かろうじて紙一重で空を切った。
  ほんの少し、刃がミストの頬に触れて焼けた。チリチリと焼ける感触がする。
  ミストはゾッとする悪寒を覚えたが、すぐにキッと殺気を向ける……ッ!!





   「……よくもあたしのッ……綺麗な肌をォォッッ!!!!」




  ブチ切れたのか、ミストの表情が今までの表情と一変する……。
  陽気な表情はすでに消え、目の前にいるのがトラの様にさえ感じる。

  しかし、それでも黒川の表情はあまりにも冷静であった。まるで機械の様だ。
  金色の瞳がミストを見据え、冷静に分析しているようにさえ見える。
  無言のまま、一言も喋らず黒川はグッとシャイニングブレイドを持つバトンを握る……。




   「やあああアアアアアァァァッッ!!!!!」



  奇声にも似た声を発し、ミストは逆上して冷静さを失った。
  ナイフの様に手のひらを鋭くし、黒川の心臓を貫いた時の様に、
  殺気を纏ったミストは左手で手刀を繰り出すッ……!!


  この時点で、ミストの判断は失策だ。

  なぜなら、シャイニングブレイドを防ぐ術が左手にはないからだ。
  ここは冷静に金属の靴を使った足技で攻めるべきだったのだ。

  だが、だからといって逃すわけがない。否、逃すはずもない。

  それを黒川は無情にも空いている手でミストの手刀を止めた後、
  ミストにも見える様に、キラリとシャイニングブレイドを光らせた。
  まるで、今から焼き切ってやると言わんばかりに不気味な雰囲気を漂わせて……。




   「……ひッ————」




  ミストが甲高い悲鳴を上げた直後、黒川は容赦なく掴んだ左腕に熱を帯びる刃を当て————







  ————そのまま切り裂く様に、ミストの左腕の関節部分から手の先にかけて切断した……!!







   「————イイィイイアアアアアアアアアアッッッ……!!!!!!!」





  ミストは走る痛みに耐えかね、ついに初めての悲鳴を上げた……。

  ジュッという熱と共に焼き切られた左腕は、切断部分が赤く熱を帯びていた。
  血こそ出ないものの、関節部分を境に、完璧に左腕は分離した。
  分離した左腕の一部はミストの足元へと落ちた。ジュッという音が鳴っている。

  黒川はそれを一目も見ることなく、ただただ冷静に棒立ちしていた。
  目の前で倒れ込み、痛みで地面に転がるミストに冷たい視線を向けて……。
  ミストは痛みで表情を曇らせ、額から変な汗さえも出始めていた。
  ミストがうっすらと、「痛い……痛いッ……」と呟いているが、黒川は気にかけない。




   「黒川……くん……。」



  背後から、かすかに水島の声が聞こえた。震えていた。
  いつの間にか黒川のすぐ近くに来ていたのだった。震える足で必死にここまで。
  多分、水島にはなぜ黒川がここまで酷い事をするのか、分かってはいないだろう。



   「もう……いいよッ……? 止めて……?」



  水島が言いたい気持ちはよく分かる。酷い事をしているのは分かっている。


  けれど、俺には許せない憎悪がある……————。




  ジュッとさらに音が鳴り響いた……。
  さらに切断した音。熱の刃が、人の肉を、骨を焼き切った音。




  ————黒川は、さらに関節部分を境にミストの両足を切断した……。





   「————〜ッッッ!!!!」




  ミストは今度は声にならない悲鳴を上げた……。
  痛みの絶頂を超え、声すらも出ないのだ。目を見開いて、痛みを受け入れるのみだった。


  左腕、右足、左足。計三か所を切断した。後は心臓を————







   「もうやめてぇッ!! 黒川君ッッ!!!!」




  黒川の背中から声がしたかと思うと、黒川はガッシリと両手を押さえられた。
  細く綺麗な腕。黒川の背後に感じるほのやかで甘い香り。水島だった。




   「……離せ水島。俺は……こいつを許さない……。」

   「ダメッ!! お願い黒川君ッ……お願いだからッ……!!」

   「……ッ!!」




  震える声で訴える水島の声に、持っているシャイニングブレイドの腕の力が一瞬緩まる。
  背中に染みる涙が黒川の表情を曇らせる。目の前の敵への……殺気が止まり始める。


  だけど……だけど……。こいつは……許してはいけない。

  そして黒川は、またも腕に力を入れて、シャイニングブレイドの刃をミストに近づけていく……。




   「……水島、俺はやはり許せない……。こいつを……ッ!!」

   「ダメだよッ黒川君ッ!!! だって……だってッ————」




  水島の声が、静寂だった辺りに響き渡る……。









   「————もう彼女はこれ以上……戦えないよッ…………。」

   「————ッ!!」





  水島の言葉にハッとした。我に返った。

  熱くなった頭が次第に冷静になり、ぼおっとする。
  目の前の視覚さえも今まで以上にはっきりと見え、ミストに視線を落とす。

  左手と両足が切断されており、もはや一歩も動けない状態。
  今ミストは荒い息を出し入れしており、いかにも辛そうであった。
  それはそうだ。普通の人間なら、痛みのショックで死んでいても可笑しくはない。




   「ぁ……。」



  黒川は情けない声を出した……。

  さっきまでの殺気がまるでなくなってしまい、黒川はポトリとバトンを落とした。
  シャイニングブレイドの刃が消え、ただのバトンへと戻った。
  唖然としてミストを見下ろし、黒川は自分の行動を冷静に……恥じた。



  “これじゃあ……俺はただの殺人鬼じゃないか……。”



  ゼロが殺された時、黒川の中で何かが弾けていた。

  それはあまりに行き過ぎた正義感からの憎悪。
  ミストを許せないという感情が、人並み以上の憎悪を生み出していた。
  憎悪は黒川をいつの間にか、ミストをただ殺す様に誘導していた。

  いつしか黒川はミストを『殺す』事だけを最優先に考えていた……。
  水島が殺されかけた事もあり、それは一層強くなっていた。


  ……違う、そうじゃないんだ。それだと、ただの憎悪に満ちた敵討ちにしかならない。

  『殺す』のは本当の意味で、最後の最悪の手段だ。それを安易に実行してはいけない。



  ……だから、今は殺しちゃ、ダメだ。

  何も出来ない相手に……一方的に手を出してはダメだ。
  それじゃあこいつらと一緒だ。だから……俺は……。


  黒川はグッと拳を握りしめた。目蓋を一度キュッと閉じ、そして再度見開く。
  そして肩の力を抜いた。それを感じて、水島はそっと押さえていた両手の拘束を解いた。




   「黒川君……。」

   「……ありがとう水島。おかげで……俺はこいつらと同じにならなくて済んだよ。」




  黒川はゆっくりと振り向いて、フッと笑った。

  水島の目に涙が滲み、ポロポロと涙が頬を伝う。そんな水島の身体をそっと抱き寄せた。
  黒川の胸の中で、肩を震わせて泣いた。きっと、怖かったのだろう。
  背中を優しくさすり、温かい体温を感じながら、黒川もそっと目を閉じていた。
  気付けば黒川の右目の瞳は、金色ではなく、いつもと同じ青色に戻っていた。



   「……あひゃ……せ……せっかく……もうちょっとだった……のに……殺さない……の……?」



  ミストが短く単語を区切りながら、絞り出す様に言葉を発する。




   「……俺は貴様を許さない。だが、今の貴様は殺すに値しない。」

   「あひゃ……かっこいい……こと……いうじゃん……。後悔……するよ……?」

   「二度は見逃さない。もう一度戦う時があるなら、その時は……分かるな?」




  黒川はミストに背を向けたままだったが、その威圧感はミストに伝わった。
  ミストはそれを嬉しそうな表情で受け止め、「楽しみ……。」と一言漏らして気絶した。
  黒川の威嚇にも取れる言葉さえも、彼女にとっては楽しみの一環でしかないのだろう……。








   「————やはり貴公がそうでしたか、『覚醒種』。」




  黒川の背後、ちょうどミストの隣にストンと降り立った人影。黒ローブだった。

  『覚醒種』……そういえば、ミストもそんなことを言っていたな、と黒川は思い出す。
  黒川がその『覚醒種』と分かった途端、ミストは焦った表情を見せていた。




   「……その『覚醒種』とやらはなんだ?」



  黒川は振り向かず、泣きじゃくる水島を抱えたまま質問する。
  背後から殺気やらは感じない。多分この黒ローブは黒川達に敵意を示していない。
  ゆえにわざわざ身構える必要もないだろうと黒川は判断していた。




   「残念ですが、お答えすることは出来ません。まだ私も解析の途中ですから。」

   「……そうか。」




  これ以上は無駄だろうな、そう黒川は判断した。だから短い返事を返して会話を切った。
  あいにく、今の黒川はまるで闘争心がそぎ落とされたかのように脱力していた。
  敵意を向けてこないというなら、こちらから食ってかかる必要もないだろう。

  それに今はどうでも良かった。この戦いは、もうこちらの勝ち同前だからだ。
  セインは承太郎によって完全に沈黙。今は仗助のスタンド能力による治療を受けている様だ。
  ミストもそうだ。今はとても戦える状況じゃない。下手をすれば、このまま死ぬかもしれない。




   「申し訳ありませんが、ミストはこちらで回収させてもらいますよ。
   ……抗うなら、お相手しないこともありませんが、いかがなさいますか?」

   「……貴様はまだ未知数だ。相手をしなくて済むなら、それに越したことはない。」

   「賢明な判断、感謝します。」




  黒川としても、これ以上の戦いは望まない。むしろ黒ローブの言葉にホッとしたのも事実だ。
  黒ローブは両手でそっとミストを抱きかかえる。気絶したミストの表情は、どこか穏やかだ。



   「……向こうのセインとやらは回収しないのか?」



  黒川がふと聞いてみると、黒ローブは「ええ。」と短く答えた。





   「彼はもう十分すぎる仕事をしました。後の処理は貴公達に任せますよ。」

   「用済みになったらポイ、か。反吐が出る。」

   「褒め言葉です。……おっと、そうだ。」




  黒ローブは思い出したかのように言葉を紡ぐ。






   「自己紹介、しておきましょう。貴公とはどうせまた会う事になるでしょうから。

   ————私の名前はセルダーク。DDD教団の科学者です。」



   「————ッ!?」




  思わず、背を向けていた黒川は振り返った。黒ローブと対峙し、目を見開く。

  DDD教団。無論、黒川だって知っている。裏社会の最低最悪の犯罪集団。
  世界を滅ぼすための組織とも言われ、噂ではどいつもこいつも人間を超えた化物であるとか。
  目の前の黒ローブ、セルダークと呼ばれる奴は確かにそう言った……。




   「では……失礼。」




  セルダークは瞬時に漆黒のゆがみを出現させると、そこに吸い込まれる様にして消滅した。
  一瞬の出来事だったため、質問する間もなく消えてしまった……。










   「……DDD……教団……。」



  黒川はもう一度、呟くように復唱した。頭の中に、その単語がグルグルと回る。
  ミストもそのDDD教団の一員という事になる。そしてセルダークも。

  だがしかし、奴らがなぜこんな『もしもの世界』に行き来している?
  そして最近騒がれている、特殊部隊の活発化。DDD教団との戦争の可能性。
  そしてそして、黒川に向けて発せられた『覚醒種』という言葉……。




   「……今この世界では……何が起ころうとしている……?」




  目の前で消えてしまった奴らの場所を見つめ、呆然とする……。


  そして業火と崩壊を続ける杜王町を背景に、自分と大切な人の存在を確かめる様に、
  黒川は水島の身体を包む両手に、グッと力を込めて強く抱きしめた————。