複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『帰宅、そして……。』 ( No.113 )
- 日時: 2013/03/10 23:29
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート3。」
夕暮れ時、二人は並んで公園を出て、ある場所へと足を運んでいた。
結局花狩先生はセインを背負い、学校の保健室へと連れて行くことになった為、
花狩先生とは公園で別れ、セインの事は任せて、黒川は自宅に帰ろうとした。
しかし、今黒川の隣にはピッタリとくっついたままの水島がおり、それは到底叶わなかった。
無言で俯いて、黒川の腕を絡めて離れようとはしないのだった。
無論嫌な気はしないし、むしろドキドキすると言えばするのだが、さすがに素直には喜べない。
なにせこんな状態にしてしまったのは紛れもなく自分であったからだ。
自分の無茶によって水島は恐怖し、こうして誰かにすがりつく形になってしまった。
とりあえず彼女が落ち着くまではそばにいてやらねばと思い、そして行動することにした。
行先はもう決まっていた。ここから近い、あるところだ。
————そこは昔、水島が黒川に教えてくれた秘密の場所だった。
ある日心が荒んでいた黒川を、気分転換にと連れてきた場所だ。
道の外れに一本道の小道がある。両手側には並ぶように木々がザワザワと騒いでいる。
若干坂になっており、緩やかな階段になっている。老人にも優しい手すりがついている。
今は秋なので、ちょうど紅葉だった。舞い散るように赤い紅葉が躍っている。
50m程の一本道を抜けた先に、一筋の夕日の光が差し込んでいる。
そこに向かって二人は足をどんどん進めていく。そして————
————抜けると、一本道の小道が瞬時にカラフルな花が咲く、お花畑広場へと変貌した。
辺り一面に花が咲き乱れている、そこはまるで丘の様だった。
咲く花の種類は幾千、幾万。花の色は多種多様。
木の塀で辺りを囲っており、そこから見下ろすと小さくなった町が見える。
夕日の光に負けることなく、各々の色を輝かせる花達はまるで自我を持っている様だ。
花の独特の香りが鼻を伝い、脳へと流れ込む。凄く落ち着いた。
「…………。」
黒川はその場所に足を踏み入れ、中心に立った後、辺りを見渡す。
この時間帯は本当に人がおらず、静かだった。いるのは黒川と水島の二人だけだ。
初めてここに来た時は、こんな幻想的な場所が存在するのかと驚いたものだ。
そしてこんな場所が穴場スポットというのだから、なおさら驚いた。
黒川は一度深呼吸すると、その場にストンと座り込んだ。
隣の水島もそれに呼応するように身体を折りたたみ、正座で隣に座った。
地面に咲く花がまるでふわふわのベッドの様で、座るだけでも心地よい。
「……寒く、ないか?」
黒川は夕日に視線を移したまま、隣で引っ付く水島に尋ねた。
ほんの少しの間の後、ゆっくりと首を縦に振った。大丈夫の様だ。
ギュッと握った手の温かさもあり、黒川もそれほど寒くはなかった。
水島の体温を感じ、身体もそれほど冷たくはない。
「ここに来たのは……数週間ぶりだな。あの時は霧島とも一緒だったか……。」
確かテストの点数が悪かった霧島を、慰めるのが目的で足を運んだはずだ。
着くなり夕日に向かって、「テストのバカヤローッ!!!」なんて叫んでいた気がする。
そして三人でここに寝転がって、他愛のない話をしたものだ。
「…………。」
ほんの数分の沈黙。
それがとてつもなく長く感じて、時間が止まっているようだった。
吹き抜ける風が二人を振らし、身体を震わせる。
「……水島」
黒川が重々しく口を開いたかと思うと、またもグッと口を閉じた。
いや、口を閉ざさずにはいられなかった。反射的に……そうなってしまったのだ。
涙を……堪えるために……。
「……ッ……!! 俺はッ……。君を……ッ!!」
言葉が続かない。言いたい言葉が出てこない。
思い出すと、涙が止まらない。あの時の恐怖を思い出すと、手が震える。身体が震える。
泣かないと決めたはずだったのに、水島の前では弱みを見せないでいようと決意したのに……。
自分のミスで、水島が殺されかけた。
そして自分が一度死にかけたことにより、水島は心に恐怖を負った。
それに重なるように、自分の暴走。殺気に満ちた自分。
……当時こそは自分を救ってくれた水島だったが、それとこれとは別問題だった。
恐怖に恐怖が重なり、結果水島は自分から離れぬほどの恐怖心を植え付けられた。
離れれば、またどこかへ行ってしまうかもしれない。
水島の心のどこかで、きっとそんな気持ちがあるのだろう。
それを植え付けた原因は……間違いなく俺だ。
謝っても許されない程、か弱い彼女を傷つけてしまった。
だけど……だけど……
「…………ッ!!」
そっと、黒川の身体が何かに引き寄せられた……。
両手で顔を覆い隠す黒川の顔面は暗闇へと誘われた。否、かすかに夕日が見える。
何が起こったかはすぐに理解できた。水島が……黒川の身体をギュッと抱き寄せていた。
「みす……し……ま……。」
水島の胸に埋もれていた顔をそっとあげると、水島の顔がすぐ近くにあった。
目元に涙を浮かべ、今の黒川と同じ、クシャクシャになった顔がそこにあった。
「……怖かったッ……!! 怖かったよぉ……ッ!!」
その言葉と一緒に、あふれ出る涙が黒川の頬に落ちた。
それにつられる様に、黒川もあふれ出る涙を止められなかった。
————そして今度は、黒川が水島を抱きしめた……。
ギュッと、今までで一番強く。そのか弱い身体を……。
涙を流し、カラカラになった声で叫ぶように声を上げる……。
「君のッ……おかげで……俺はッ……俺は……ここにいる……ッッ!!」
「うッ……ああぁッ……ッ!!」
「生きてるんだッ……!! おれッ……。今も……ぅッ……生きてるよッ……!!」
「ああぁぁぁッ……!! よッ……よかったよぉ……本当にッ……!!」
「生きてるッ……生きてる生きてるッ……。君との約束だけはッ……守れてよかったッ……。」
「ッ……ふぁッ……わぁあああんッ……!! 黒川君ッ……黒川君ッ!!」
二人は抱きしめあい、お互いの存在を確かめ合った。
言葉を吐きだし、全ての悲しみと辛さ、重さと痛さを言葉にして吐き出した。
共鳴し、共振し、共通した。何もかも、分かち合った。
ただ生きているのだと、その体温で互いを実感し、確かめ合う。
何度も何度も、その存在を確かめ続け、そして……誓う。
……もう、彼女を悲しませたりしない。
俺が守ってやるんだ。生きて、一生、彼女の傍で。
命をかけて守る。けど死んだりしない。
生きて彼女を救わなければ、彼女の本当の笑顔は守れないから……。
「…………。」
「…………。」
どれほどそうしていた事だろう。時間で言えば数分。だけど体感では一瞬。
二人の気持ちが収まると同時に、涙の流れは止まっていた。
その顔に滴るしずくはあったけれど、それも徐々に引いていく……。
「……水島」
もう一度、その名を呼んだ。
はっきりと、耳元で。大好きな名を。
「俺はもう……君を悲しませない。生きて君を守る……。」
「……うん。」
落ち着いた声で、黒川は囁いた。
水島もそれを頷いて心に刻む。きっとこれが、彼の誓いだから……。
「もう怖がらせない……。一人にしない。だから————」
一瞬の沈黙。そしてフッと口を開いた————。
「————俺のそばにいてくれ。これから……ずっと…………。」
それがどんな意味を表すのか、水島には嬉しいほど理解した。
心がトクンと高鳴る。ずっとずっと高ぶっていた感情が露わになった。
それはシンプルな感情。『好き』という、人として美しい感情。
……やっと分かった。やっと理解した。
今までずっと黒川君の事が放ってはおけなかった理由。
今までずっと黒川君の事が気になっていた理由。
気付けば目で追っていた理由。それは……ただの『恋』だった。
ああ、なんて嬉しいのだろう。私は今、好きな人からの告白を受けたのだ。
私は好きだ。彼の事が好きなんだ。ただ……ひたすらに。
好きなら救いたいって思う。好きなら守ってあげたいと思う。好きならそばにいたいと思う。
それはきっと、目の前の大好きな人も同じで————
「————……はい。喜んで。」
そして頷いた。笑顔で、またも涙が出てきた。
けれどこれはさっきと違う。これは嬉し涙。幸せの証……。
目の前の人にも、同じ涙が流れていた。さっきと違って、満面の笑みで。
ああ、幸せだなぁ。私は幸せだなぁ。
私達はこれから同じ時間を生きて、同じ時間を過ごす。
私達は幸せな時を……過ごせるんだなぁ————。
「愛奈……愛している————。」
目の前では大好きな人が、愛の言葉を囁いている。
真っ直ぐに自分を見て、確かに自分に言ってくれているのだと実感する。
そう思うと嬉しくて、幸せで、気付けば私も————
「私も……。愛してるよ、黒川君————。」
そう呟いて、満面の笑みを浮かべていた……。
二人の距離が縮まり、光に照らされた二人の影が重なりあう。
夕日が沈み、最後の夕日が二人を照らすと同時に……
二人の唇も、そっと重なった……————。
————『もしも俺が・・・・。』 序章、“日常編” 完結————