複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『二人の聖なる朝。』 ( No.131 )
- 日時: 2013/03/21 21:39
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート2。」
「————愛奈、英語の宿題は出来ているか?」
朝、登校したと同時に黒川は隣の水島に聞いた。
隣にいた水島は柔和な笑みを浮かべると、
「ふふ、出来てるよ。はい。」
「うん、すまないな。これ、数学の宿題だ。」
「はぁい。ありがとう。」
黒川は英語のノートを、水島は数学のノートを受け取った。
お互いに微笑した後、席につこうとしたその時……
「…………。」
物凄い量の視線を感じた。主に、良く知る人達であったが。
黒川の席の前にズラリと並ぶ人達。その数3人。右から、霧島、柿原、紫苑だ。
「……ええっと、そうだな。まぁなんだ、俺が幻像を見てるだけかもしれん。うん。」
「奇遇だなー勇気。俺も今日はお前と意見が合うな。」
「うんうん、ボクもボクも!! えっとねェ、まぁ皆が言いたいのはこれだよねー。」
三人はうんうんと数回頷いた後、まるでヘンなものを見るかのような目で黒川を見て、
『愛奈……?』と、口をそろえて言った……。
「……どうした、お前ら?」
ギロリと睨まれる中、黒川は声を抑え気味で尋ねてみた。
だが、それを無視するように、三人は何やら会議を始めた……。
「召、俺は黒川が『愛奈』と呼んだところを未だかつて聞いたことがない。異論は?」
「ない。その通りだ。そして今まで黒川と水島が一緒に登校したことはない。異論は?」
「なーい。黒川クンと愛奈ちゃんが一緒に手をつないで登校してきたことはー?」
そこで三人がそっと視線を上に向ける。そして近々の過去を思い出して、出した結論は、
『ない、断じてない。確かにこれは可笑しい!!』
と、声を揃えて言った。息ピッタリだな、と黒川は苦笑して思った。
まぁ確かに、三人の言う事は本当だ。間違いない。
ただまぁ、それは『今までは』というわけであって、今朝これをひっくり返したのだが……。
「どォォおおおいうことだぁああああ、黒川ぁああああ!!!!!」
霧島が黒川の首根っこを掴み、ガシンガシンと揺らしてくる。脳が揺れる。
凄い形相をしている。鬼の形相とはこんな顔の事をいうのだろうか。
「お……落ち着け霧島!! 何をそんなにッ……」
「おめえ……いつの間に攻略したんだよぉ……。いつの間に落としたんだよぉ……。
————難攻不落、最大難易度のマドンナをどうやって調教したぁぁあああ!!!」
「何を言ってるんだお前は……。」
攻略やら調教やら、ギャルゲーみたいな言い方だな、と黒川は苦笑した。
目の前で霧島は何か泣いてるし……。これは私が泣かしたのか?
「……少なくとも、金曜日はこうじゃなかったなぁー。ってことは……土日か。」
柿原がそう言うと、ピクリと霧島が動いた。
「……土日に家に連れ込んでは調教してたのか黒川……?」
「わぁー黒川クン、SだS—!! 自分好みに調教するなんてS−!!」
「おッ……お前らなぁ……。」
霧島と紫苑の言葉に眉をピクピクさせながら、黒川はため息をついた。
「とりあえず、付き合っているという認識でいいんだよなー?」
柿原が話を戻すように言うと、黒川は「ああ。」と短く返事した。
————そう、昨日。俺達は確かに愛を伝え合った。
それは確かで、それは確実。付き合っているというのも、間違いではない。
ちなみにあの後、黒川が真っ先に向かったのは、なんと水島の自宅だった。
向かった理由は至極単純。水島と自分の関係を早くも公表するためだ。
普通ならば結婚する前に行うものだが、あいにく黒川にはその考えは無用だった。
なぜなら昔から水島を『将来の嫁』として認識してきたのだ。
当たり前だが、『結婚』も含めて、だ。だから前だろうと後だろうと結局言う日は来る。
それなら早くも公認してもらおうと、そういうわけだ。
堂々と宣言しようとする黒川に、最初は水島も顔を真っ赤にしたものだが、
後々に緩みきった幸せそうな顔に変貌していくのに、黒川はニヤニヤしてしまったのは内緒だ。
すぐに水島の家にお邪魔し、お母様とお父様に一言言ってきた。
「娘さんを私にください。」と玄関で大きな声で頭を下げて言うと、
「いいよー!!」と陽気な声がリビングから帰ってきた。……あっさりだった。
さすがに三歳年下の水島の弟は、あまりの親の対応に唖然としていたけれど、
それでもすぐに「ねぇちゃんをよろしくお願いします。」というきちんとした返事が返ってきた。
————とはいっても、黒川にとっては親との面会がこれが初めてではない。
結構何度もお世話になっており、弟ともかなり面識がある。
水島が唯一家に連れてくる男性という事で、親も大喜びだったそうな。
時々「ねぇ、どこまでいったの?」と、水島の親に質問されるたびに、
出してくれたお茶を吹きだしたものだ。その時は付き合ってすらいないというのに。
弟とは時々、剣道の相手をしてやっている。
かなり凄腕で、小学生の中でも有名になるぐらいの腕を持っており、
数ある大会でも多くの優勝トロフィーをかっさらっている。
中学生にも負けぬ腕を持っており、すでに高校生レベルと言われている。
とはいっても、一度もかじった事のない黒川にはなぜか勝てたことはなく、
弟曰く、黒川は師範レベルの強さを持っているとのこと。黒川はやったことはないのだが。
弟にも尊敬されており、家族からはなぜか期待されており、事はすんなりいった。
その後、愛奈が「黒川君の家に住んでいい?」と剛速球のストレートを投げ込んだのには驚いた。
いやまぁ、愛奈のその言動にも驚いたが、その後リビングから、
「いいよー!!」と帰ってきたことに、むしろ黒川は驚いてずっこけた。
それで結局、愛奈は黒川の家に住むことになり、まぁそれが朝に繋がるわけで……。
「なるほどねぇ……。」
柿原がそう言って頷くと、黒川はひとまずホッとした。
ようやく理解したかと、と黒川が安心していると、またも霧島は、
「……てかほんとにこの土日に何があった? まさか本当に調教を————」
この後言うセリフがなんなのかは分かっていた。
やれやれ、しつこいなと思い、霧島の言葉を遮って、
「してない。してないからな。私は何も。なぁ、愛奈————?」
と、否定の言葉投げかけつつ、ふと隣の水島に視線を移して言う。
これで水島がそうだよ、と肯定すればこんなややこしいやり取りから逃れられる。
正直朝から何の話をしているんだと黒川はツッコみたかったが。
……だがしかし、黒川が思っていた対応と違うモノが返ってきた。
「…………。」
沈黙。無言の境地。だけど、何か頬を赤らめているような……。
「……愛奈?」
ちょっと心配になって、黒川は声をかけてみる。
水島の初めての反応に驚いたのは、黒川だけではない。
皆も心配そうに見守っている。それもそのはずだ。さっきまで普通だったのに。
またあのジョジョ編の世界のトラウマの再発だろうか?
それとも気分が悪いのだろうか? それとも話題に羞恥しているのだろうか?
————色々な事を考えたが、それは全く無駄だった。
なぜなら水島愛奈その人が発した言葉は、その心配を吹き飛ばすものだったからだ……!!
「……ああ、『黒川様』。そんな……。お恥ずかしい……。
————あれ程の事をしておいて調教していないなどとおっしゃるのですか……?」
「…………え?」
ビキッ、と世界が壊れた気がした。
いや、黒川の何かが壊れた気がした。否、その場の全員だ。
黒川も思わず呆然と立ち尽くし、目の前の水島に唖然とした。
それもそのはず。目の前の水島は恥ずかしそうに身体もモジモジさせて、
姫の様な口調に変化し、しかも自分の事を『黒川様』と呼んでいる……。
目の前の水島が確かに発した言葉だ。確かにそうなのだけれども……。
いや、何か別人な気がするのは気のせいだろうか? 何か霊的なモノが乗り移ってないか?
言動も姫口調だし、しかも……黒川、『様』……? 黒川の頭でも現状は理解できない。
一瞬何が起こったか全く理解できない黒川に、ギロリと視線が集中する……。
「————と、水島姫はおっしゃっているようですが、どおいうことかな、黒川王子?」
さらにギロリと睨むように視線を送る霧島に、黒川はビクッと肩を震わせた。
むしろこちらが聞きたいぐらいだと言おうとしたが、今は無駄な気がした……。
「いやいやいやいやいやいや、ちょっとまてちょっとまて。落ち着け落ち着け。」
「やーん、黒川クン。やっぱSだー!! 調教してるぅー!!
聞いた!? 『黒川様』……だってぇ!! きゃあぁー!!」
「しかも『あんなこと』をしたようだなー。どんなことなんだろうねー。」
一人床に転がって悶絶する紫苑を横目に、柿原は棒読みにも取れる言動を発する。
その意図は読み取れる。『わざと』クラスに聞こえる声で言っている。
ざわざわと噂されている。いやまぁ、クラスに入った時からすでに騒がしかったが、
何やら全く関係ないガセネタさえも執着しつつあるようだった……。
「おいおい愛奈……何を言って————」
「今日も帰ったら……いっぱいお仕置きですか……?」
ウルウルとした瞳で訴える水島の言葉に、さらにピキッと空気が割れた……。
さらに周囲が沸き、歓喜の悲鳴さえ聞こえる。主に騒ぐのは女子生徒だ。
『お仕置き』という爆発力満載の言葉を使ったことにより、生徒達に変な妄想が植えつけられる。
まるで黒川が水島を自分の好みの女性にするために、仕付けをしている様にさえ聞こえてくる。
ヘンな性癖が付いた上に、当事者による語りが入った以上、もう返す手はない。
……黒川は天を仰いだ。ダメだこれは。修正不可能だ、と。
そして同時に思い出す。水島が今朝の登校時に言っていた事を……。
黒川は自覚していないようだが、黒川は結構モテる。
それこそファンクラブが出来るほどに、だ。それは水島も同じだ。
そこで、お互いに妙な『虫』が付かぬようにと水島は何かを考えていたようだった。
その作戦こそ、まさにこれだろう……。
うーむ、我ながらなんという女性を手中に収めてしまったのだろうか、と黒川は思った。
まさかここまで愛奈が『役』にのめり込めるとは思っていなかった。
これでは完璧に、クラスに二人の間に主従関係が結ばれているように見えてしまっている。
否、可笑しいのは確かなのだが、まぁ強く印象が持たれるのも確かで。
そしてかつ、強靭たるなんらかの鎖で繋がれていることをカミングアウトしたため、
これではさすがに『虫』がよることもない。お手上げ状態。完璧だ、私の嫁は。
「……やれやれ、だ。」
ほとんどキャラ崩壊してしまった自分の彼女を横目に、クラスのざわめきから逃げる様に、
黒川は天を仰いで瞳を閉じた。ため息を一つついて……————。