複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『火矢 八重様のSSを掲載。』 ( No.159 )
日時: 2013/03/31 22:19
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



        「パート2。」



  柿原はさらに話を続けた。現段階しっている全ての有力情報を。

  ゾンビの世界に行き、そこで起こった事。
  葉隠と出会い、共闘し、この世界に連れてこられた事。


  ————そして、ここからが紫苑が知らない事実だ。


  柿原も源次から聞いた話なので、本当に目にしたわけではないが、
  葉隠が狙っていた『ハロンド』もまた、DDD教団の一員だったという点だ。
  それを聞いても、紫苑はさほど驚きはしなかったが、問題は次だった。

  そのハロンドは、普通の人間とはかけ離れた力を持っているらしい。
  頭を吹き飛ばされても、全身を細切れにしても死なない不死身の身体。

  そして……ハロンドの目的が、この世界を『破壊する事』である事……!!

  それを源次から聞いた時は、耳を疑ったものだ。
  そして一つの疑問が出てきた。なぜ源次はここまでDDD教団に関して詳しいのだろうかと。
  源次はまるで以前から面識がある様な口ぶりだった。
  なので詳しく色々源次から聞こうと思ったのだが、源次はそれ以上教えてはくれなかった。

  そしてその後も、柿原達三人は『異世界のゆがみ』を捜索しているのだとか……。



   「————こんなもんかなー。俺達の今までの経緯。」



  柿原が言い終えると同時に、黒川のシャープペンを動かす手を止めた。

  とはいえ、全員が驚いた表情をしていたのは見なくても分かった。
  世界を『破壊する事』。それがDDD教団の目的でもあるということだからだ。
  本当は柿原も言うのをためらったものだった。
  何より、源次に言われていたのだ。この事をあまり他言するべきではないと。
  それは配慮でもあった。源次なりの、そして紫苑に対しても。
  紫苑だって女の子だ。恐怖の一つや二つ、覚えることだっていくらでもある。
  にも関わらず、わざわざこの事を言えば、無駄な恐怖を植え付けることになるかもしれない。

  それに源次としては、柿原も含め、二人をDDD教団との戦闘に参加させるのを避けたかった。
  いくら付き合ってもらっているとはいえ、二人はあまりにも事情を知らなすぎる。
  そんな二人とDDD教団と関連性を持たせることを、源次はためらったのだ。
  とはいえ、柿原にはしつこく聞かれたので、仕方なく話したようだったが。


  ————だが、もう二人、いや、ここにいる全員はすでに覚悟を決めていた。

  だからこそ、こうして会議を開き、これからの事を話し合っているのだ。
  DDD教団は確かに危険な組織。特殊部隊に任せておけば、全て丸く収まるかもしれない。
  だが、それを彼らは一人もそんなことを望まない。
  見ているだけは嫌だ。自分達にも出来ることをしようと、皆で決意したのだ。

  そして止める。奴らの野望を。奴らの破壊を。

  その覚悟があってか、そんな話を聞いても、皆が身じろぎすることはなかった。
  むしろ分かっていた、といった表情で頷いていた。
  柿原が心配だった紫苑の反応も、いつも通りに陽気で笑顔だった。
  内心ではホッとしつつ、源次の心配は杞憂で終わったなぁとそんな事を考えた。

  と、柿原がその思考を止め、ふと視線を黒川に移すと、
  すでに柿原の言った事を数十枚に渡ってギッシリと書き留められていた。
  霧島はその文字の羅列を見て、思わず嫌そうな顔をしていた。



   「なるほど、紫苑の言う『異世界のゆがみ』はそういうことだったのか。」


  黒川は納得したように言うと、紫苑は元気に何度も頷いた。
  今の話だと、異世界のゆがみは世界の危険と取る事も出来る。
  現にジョジョの世界にも危機が迫っていたし、DDD教団も関係していた。
  ミストとセルダーク。奴らもDDD教団の一員なのだから。


  昨日黒川は紫苑の依頼の元、『ジョジョの世界』へと訪れた……。
  そこにも『異世界のゆがみ』が出現していたらしく、紫苑がそれに気づいたからだ。

  そこで知ったのは、思いもよらない事であった。
  『もしもの世界』である異次元に裏組織であるDDD教団の出現。
  裏組織であるDDD教団がなぜこんなところにいるか謎だったのだが、
  柿原の情報でなんとなく分かった。つまり最終目的は、『世界の破壊』。
  理由は知らないが、奴らは世界を破壊しようとしている。



   「私達は正直あまり話すことはない。ほとんど柿原の言った事と類似する。
    まぁ一応、資料をまとめてきた。口頭で言うよりこっちで見た方が早い。」



  黒川は自分でまとめた資料の何枚かを柿原と紫苑に渡す。
  文字数はそこまで多くはないので、二人が苦労することはなかった。
  それはそうだ。主に記載されているのは、ミストとセルダークの事、セインの事だ。


  ただ……『覚醒種』の事は書いていない。

  セルダークやミストの言ったその言葉、奴らを驚愕させるほどの言葉。
  自分がその『覚醒種』かもしれないという事実は、黒川しか知らない。
  もちろんその『覚醒種』とやらがどんなものなのかは知らない。
  だから不確定要素でもあった為、教える事をあえて避けたのだ。

  その内解明しなければならない。このまま放置しておくことも出来ない。
  とはいっても、今は仕方ないので記憶の奥底にしまっておくことにした。


  ちなみにこの世界へと飛ばされたセインは、現在この学校に在住している。

  つい昨日、セインの意識が回復したようだった。
  その時付きっ切りで面倒を見ていた花狩先生は一瞬飛び退いたようだったが、心配はなかった。

  セインは、記憶を失くしていた。
  記憶を失くしていたというよりは、『操られていた記憶』が無い様だった。
  ジョジョの世界で暴れていた事、セルダークという謎の存在の事。
  だがそれ以前の記憶はあるようだった。セインが普通の暮らしをしていたころの記憶だ。
  ジョジョの世界ではなく、他の世界に住んでいたようだった。
  いわばティアナの世界と一緒で、マニアックな世界ではあるが、確かに存在した世界。
  そこで何不自由なく自由な生活をしていたようだった。

  花狩先生は全てを告げた。操られていた時の知る限りの記憶を。
  無論ジョジョの世界で大暴れしていたことは多少抑え目で伝えた。
  はっきりといってしまうと、ショックでどうなるか心配だったからだ。
  真実を知ったセインは、最初は驚愕したが、すぐに悔しそうな表情をした。

  自分が操られていた真実。スタンドという訳の分からぬ力。
  何もかも変わってしまった現状。見知らぬ世界に飛んだ事実。

  とはいっても、それは数分の事だった。
  仕方ない事と分かると、意外とあっさりと割り切った。

  今はこの世界で生きるしかない。
  そう思うと、セインはもう気持ちが切り替わっていた。
  せめてもう、ジョジョの世界での悲劇をもう繰り返さない。

  自分が蒔いた種は、自分でケリをつけるとそう決めたのだった……。




   「————セイン君はポジティブな人間だったよ。良い子だったよ。

    だからこそ、こんな子を利用したセルダークって奴が許せないねぇ。」



  花狩先生は一層重みを乗せて言うと、黒川達は頷いた。



   「セインは今無事なのか?」


  黒川が訪ねてみると、花狩先生はゆっくりと頷いた。



   「ああ、今も元気に在住しているよ。」

   「そうか……それならよかった。」



  黒川はとりあえずホッとして息を吐いた。
  まだセインと接触すらしていないので、その内挨拶ぐらいは済ませておきたいなと思う。


  ————と、ある程度話を言い終わったところで、紫苑が「はいはーい!!」と手を上げた。

  皆が視線を移してみると、紫苑の机にタロットが広がっていた。
  どうやら占っていたようで、その結果が出たのだろうかと全員が息をのんだ。



   「新しい『異世界のゆがみ』情報だよぉー!!」



  紫苑が叫ぶと、全員がやっぱり……といった顔をした。
  あのタロットでなぜそんな異世界のゆがみ情報が分かるのか実に謎である。
  そこまで万能なのだろうか、タロット占いというのは。興味深い。



   「えっとねぇ、昨日実はボク、もう一つ見つけたんだぁ。だから計二か所。

    ……てことで、黒川クン、さっそく話なんだけどぉ————」


   「分かってる分かってる。」



  紫苑の言いたいことは分かった。
  つまりその内の一つの異世界に行って、世界の危機を止めてきてくれとそういうことだ。
  紫苑達には異次元を越えることが出来る源次がいるので、一つは任してもいいだろう。
  黒川と同じ能力を持っている源次とやらが非常に気になるところではある。
  しかし今はいいだろう。今は柿原達を任せることにしよう。

  それよりも問題は……





   「……愛奈、俺は————」



  何より水島の事が心配だった。
  それはそうだ。水島の心はまだ癒えてはいないだろう。

  あの日、黒川は死なないと約束し、絶対に水島を守るとも誓った。
  それを水島は受け止めてくれたし、今も信じてくれている事であろう。
  それでもきっと怖いはずだ。それでも黒川は行かなければならない。

  なぜなら行かなければ、世界の危機は進行するに違いない。
  DDD教団を止められるのは、今は私達しかいないのだから……。




   「————分かってるよ黒川君。私も……覚悟を決めたから。」

   「……ありがとう。」



  水島は微笑んで言ってくれた。危険だと分かっていても、許してくれた。
  だからこの約束だけは、絶対に裏切ってはならない。
  水島を悲しませないためにも。笑顔を奪わないためにも。

  しかし水島は「でも……」と話を続けた。



   「でも……私も行かせて? 黒川君と……一緒にいたいから。」

   「水島……しかし……」

   「危険なのは分かってる。でも……見てるだけなんて出来ないから……。」

   「…………分かった。俺がかならず君を守る。」

   「黒川君……。」



  黒川が微笑むと水島も微笑み返した。和やかな雰囲気が二人を包み……


  と、思ったら、花狩先生があえて大きく咳き込んだ。
  二人の世界から現実に戻された二人は、顔を紅潮させて俯いた。




   「……ラブラブだねぇ二人。もうあれか、一線越え————」

   「ゴホンゴホンッ!! と……とにかくッ!! さっそく紫苑、異世界の特定を頼む!!」



  花狩先生の言葉を無理やりさえぎり、黒川は紫苑に言った。
  これ以上花狩先生に口を開かせれば何を言い出すか分からないからだ。
  紫苑は「オッケー!!」と元気よく返事をして、さらにタロットをめくる。

  何枚かめくった後、紫苑はうーむと唸った。何やら思案顔である。




   「堕天使……魔法……聖なる力……?」

   「……? どういうことだ?」



  黒川が尋ねると、紫苑はうーんと唸った後、言葉を絞り出した。



   「黒川君の行ってもらう世界のキーワードだねぇー。」

   「アバウトだな…………って————」



  黒川は何かに気づいた。

  自分の右隣りで深くソファにもたれかかり、いびきをかいている少年。
  情けない顔を浮かべ、深い深い夢の中に沈んでいる。




   「…………。」

   「……勇気の奴、暇すぎて眠ったぞー先生。」



  柿原が欠伸をしながら言うと、花狩先生は半ば諦め気味に、



   「いやー……まぁ寝かせとけ。どうせ霧島君が聞いたって分かんないっしょ?」



  と、言った。それには全員が同意見だった。全員が満場一致で首を縦に振った。
  間抜けな顔をして寝ている霧島に、とても内容が理解できるとは思わなかった。

  とにかく、と黒川は話を強引に戻す。




   「とりあえずそのキーワードで扉を開けば、目的の場所に行けるのだな?」

   「イエス!! 高須クリニックー!!」

   「紫苑……元気だな。」



  黒川が苦笑して言うと、紫苑はニコニコして頷いた。
  そんな黒川をなぜかジド目で水島は見ていたが、なぜかは全くわからない。



   「黒川君、ニヤついてる。」

   「いや……あのなぁ愛奈……」


  どうやら嫉妬をしている様だった。可愛いからいいけども。
  とはいっても、意外と水島が嫉妬深い事に驚きだ。可愛いけども。




   「……ゴホン!! とにかく、じゃあ私達はそちらに行く。紫苑達はもう一か所を頼む。」

   「分かったぁー!!」



  黒川達の行先が決まったところで、花狩先生が少し真剣な表情で言葉を発した。



   「やっぱり……危険を承知でいくんだな?」



  低く妙に威圧感を含んだ言葉は、霧島以外の4人を真剣な表情に変えた。
  黒川が死にかけた事もあり、事の重大さ、危険さが身に染みて分かった。
  つまり行けば死に直面する可能性もあるのだ。軽い気持ちで行くべきではない。

  だけど、彼ら彼女らの覚悟は決まっていた。
  危険と分かっていても、戦わなければならない。
  このまま世界が危険に落ちていくのを黙って見ていられないからだ。

  4人は互いに見合わせた後、一度コクリと頷いた。
  その表情に迷いはなかった。むしろすがすがしい表情をしていた。

  それを花狩先生は読み取ったのか、穏やかな笑顔を浮かべて、




   「————分かった。……よし、じゃあ生きて帰ってこいよテメエらァ!!」

   「————はいッ!!」




  霧島以外の4人が元気に返事をした瞬間、霧島は驚いて飛び上がり、






   「……んあ……何……————?」




  という情けない声を出して、ようやく目覚めたのだった————。