複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『ガロン、再び。』 ( No.163 )
- 日時: 2013/04/03 11:17
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
————第18幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……。』————
「パート1。」
堕天使、魔法、聖なる力。
放課後、人気のない公園に移動した黒川は、さっそくそのキーワードを元に扉を開いた。
紫苑達も源次という少年と合流してから、自分達とほぼ同じタイミングで行くようだ。
向こうはどんな世界に行くのか聞いてなかったが、まぁそれは帰ってきてからでもいいだろう。
とにかく久々に揃った、黒川、霧島、水島の三人は、扉の向こうの光に向かって歩を進めた……。
————そして目の前に広がる景色は、私達の世界よりも幻想的であった。
一言で言うなら、機械文明が発達している世界。
辺りを照らすのは太陽ではなく、主に証明から照らされる人工的な光だった。
所々に電光掲示板が設置され、ニュースの速報やらコメディ番組などが流れている。
町全体からBGMが響き渡り、まるでゲームの中にいるようだ。
マンションが周りに数えきれない程立ち並び、道はほとんどが平面のエスカレーター式。
地下鉄の駅でしか見たことがないようなエスカレーターが、ここには道端に設置されている。
これだけでも何十億という経費がかかっているはずだ。
地上はそのエスカレーターで移動する人がほとんど、残りは上空であった。
上空ではビュンビュンと『車』らしきものが飛び回っている。
よく見るとタイヤもない。風力で浮いて走っているのだろうか。
私達の世界では上空を飛ぶのは飛行機ぐらいしかない。
この世界では車さえも上空に飛ぶのが当たり前なのだろうと、黒川は感心せざるを得ない。
それによくよく辺りを見渡すと、人間以外もたくさんいる。
ゴーレム、だろうか。人より二回りも大きい石像みたいなのが、ぎこちなくも動いている。
どうやら商売をしているようで、お客様相手に品物を売っていた。無論、喋っている。
挙句の果てには会釈さえもしている。あのガタイでどうやって身体を折り曲げているのか。
電力で動いている……わけではなさそうだ。回線などが見られない。一体どうやって……、
「うわぁ……なんだか近未来都市みたい……。」
「おい、見ろよ!! なんか飛んでるぞ!! カメラを持った機械鳥みたいな奴がいるぞ!!」
水島も霧島も感動している様だった。それはそうだ。ここはあまりにも現実とかけ離れている。
かくいう私も、何から研究対象にすればいいのか悩んでいるのだ。実は。
……と、いう感情は抑え込み、とりあえず本来の目的を忘れてはいけない。
この世界のどこかにいる、『異次元のゆがみ』を引き起こした張本人を見つけ出さなければ。
そうしなければ、世界が危険に晒される。それだけは避けなければならない。
幸い、まだ事件は何も起こってはいないようだ。とはいっても、どう探せばいいのか。
紫苑がいればタロットで一発なのだが、私達ではそうはいかない。
地道に探すしかないのか? いや、無理だ。人が多すぎる。
「……どうしたものかな。」
思わず声に出して言う黒川。これでは事件が起こるまで待つしかないのか?
それはなんか嫌だなぁ、とため息をついた時だった————、
「……?」
黒川は何か辺りが騒々しい事に気が付いた。
ちょうど黒川達のいる位置は大きな広場の隅っこなのだが、中央部分が騒がしい。
かつ何やら人だかりが出来ているようで、そして何かが行われているらしい。
観衆のテンションからして、何かライブや催しものだろうかと推測した。
一足早く気が付いた黒川は、とりあえずと思い、観衆をかき分けて拝見することにした。
————そこには二人、向かい合って立っていた。
一人は大きな身体つきをした男性で、頭にバンダナを付けている。
片手に曲線を描いた鋭い曲刀が握られ、もう一方の手に小さな盾が握られている。
対してもう一人は、ボロの薄汚い茶色のフード付きマントを羽織っていた。
そのせいで身体は見えず、顔も見えないが、身長は160cmほどだろう。
マントの人物の両手には何も握られておらず、ただ両手をブラブラとさせている。
喧嘩、だろうか。とはいっても、これではただの一方的なイジメではないか。
……とはいっても、情報が少ないので何とも言えない。
黒川は現状を把握するために、とりあえず近くにいた男性にこの状況について聞いてみた。
男性の身長は170cmほど。黒色のショートヘアーで、灰色の瞳をしていた。
上下長そで長ズボンの格好で、上は黒のコートを羽織り、下は茶色の長ズボン。
身体つきはかなり良い。何かスポーツでもやっているのだろうか。
「————ああ、あのル……、……マントマンがね、何やら催しモノをやってんだってよ。
マントマンに勝ったら賞金が出るらしい。それも高額の、さ。
ま、マントマンが勝った場合、『デュエル料金』を貰うらしいんだけどさ。」
「『デュエル料金』……とはなんだ?」
黒川は首を傾げて尋ねてみた。初めて聞く料金だった。
とはいえ、目の前の男性がマントマンの前に何か言おうとしていたみたいだが、一体何だったのか。
ル……と言っていた。まさか本名か? いや、それは無いか。気にしないでおこう。
すると男性は、意外そうな顔をしたが、すぐに穏やかに話してくれた。
「知らないのか? だったら教えてやるよ。
この世界には『デュエル』っつう、いわば一対一の決闘が認められているのさ。
そんでもって、お互いに何かしらの報酬を出し合って戦いあう。
この場合はマントマンは高額の賞金。挑戦者はそれの一割にも満たない参加代、という事だ。
その参加代の事を『デュエル料金』。ま、この場合はマントマンが圧倒的に損するな。」
「それはそうだろうな。だが『負ければ』、だろう?」
黒川の発言を聞いてか、おっ、という一瞬感心するように言葉を漏らす男性。
「そ。その通りなんだ。あのマントマン、これが強くてだなぁ————」
そう言って、男性はチラリと広場の中央で向かい合う二人に視線を移す。
二人の頭上にはカチカチという音を鳴らして、タイマーが浮かび上がっている。
モニター越しに数字が数秒ごとに数を減らし、すでに一桁にまで達していた。
5秒を過ぎた辺りで、観衆がカウントダウンをし始めた。
「あのタイマーが0になると同時に、デュエルは始まる。
そしてデュエルの決着方法は、最初に相手に一発でも攻撃を加えれば勝ち。
かすり傷でもオッケー。殺しはダメだけどな。……始まるぞ。」
男性がそう言うと同時に、黒川も視線をそちらに向けた。
二人が各々の戦闘態勢を取り、威嚇する……。
————そして0になると同時に、『ファイト』という文字がモニターに浮かび上がる!!
それと同時に、まずはバンダナの男が動いた。
片手に持った曲刀を滑らかな動きでマントマンの頭上に振り下ろす……!!
マントマンはそれを最小の動きでステップで躱し、距離を取る。
それを逃がすまいと、盾を突きだして男は距離を詰める。
相手は何も持ってはいないが、デュエルでは体術でも一発として認識される。
よってマントマンが体術使いであるかもしれないという思考が、男にはあった。
ゆえに盾を前面にだし、相手の攻撃を防ぎつつ戦うというのが男の戦いのスタイルであった。
「……。」
無言でマントから覗く両目で、男の戦い方を見つめる……。
冷静に分析し、冷静に判断する。それが私の戦い方。
そう、これは訓練。『私』が強くなるための訓練に過ぎない。
あの男よりも……強くなるための……————
「————……!!」
一瞬無駄な思考に集中していたせいか、マントマンはハッとした。
気付けば男がかなり接近していた。今にも曲刀を右から左へと横に薙ぎ払おうとしている。
とはいえ、百戦錬磨を越えてきた『私』には反応できない状況ではない。
マントマンは横切りの薙ぎ払いが来るタイミングを見計らい、身体をスッと畳んだ。
“盾をすり抜け、攻撃を入れるタイミングは攻撃の終わりの一瞬……!!”
すでにマントマンは、攻撃の後のカウンターを狙っていた。
攻撃直後であるなら、必ず盾を前面に出せない隙が出来るからだ。
曲刀はマントマンの頭上すれすれを通り過ぎ、安全と判断した直後、
マントマンは瞬時に攻撃に入る事を決め、右手に『力』を加えた……!!
「……はッ!!」
右手に宿った水色の『力』は光を放つと同時に、
瞬時に水色の透き通る刃をした綺麗な細剣、『レイピア』へと姿を変えた……!!
そのレイピアを右手に握り、短い掛け声と共に瞬時に突きだす!!
一瞬の隙を狙って放った一撃は、当然盾で防御することは出来ず、そのまま肩を貫いた。
それは一撃と認識され、勝負は決まった。
勝ったのは水色のレイピアを片手に持った、マントマンであった……。
「あー!! 畜生!! 今日も負けたかよッ。あんたつえぇな……。」
負けた男は貫かれた肩にスプレーを振りかけつつ、苦笑して言った。
このスプレーは治癒の力が凝縮されており、大概の傷は治せるという代物だ。
現にスプレーを振りかけられた男の肩の傷は、今は何事もなかったように塞がっている。
対してマントマンは、何事もなかったかのようにそっぽを向いていた。
「……あれが、まさか……」
「そうだ。あれがこの世界で一番の価値を持つ、『魔法』だ。」
紫苑のキーワードの中に『魔法』が入っていた時点で、なんとなくそんな気がしていた。
————そう、ここは『魔法』が当たり前の世界なんだ。
おそらく、あのマントマンが一瞬使った水色の光、あれが魔法だ。
そしてあのスプレー、そして上空の車、ゴーレム、これも全て魔法だ。
何かしらの錬金魔法だろうか。もしくは具現化魔法なのか。素人にはサッパリだ。
そしてそんな事を聞けば、ワクワクせざるを得ないのが、黒川という科学者なのだ……!!
「……面白い。直接聞くか。あのマントマンに。」
「んあ? 何言ってんだ? ……っておい、アンタ!! どこ行くんだ!!」
隣の男性の疑問に、黒川が答えることはなかった。
なぜなら、すでに黒川はそのマントマンの眼前に立ちふさがっていたからだ……!!
「————次は私が挑戦したいのだが……構わないかな?」
黒川は大勢の観衆に見守られている中、マントマンに尋ねた。
観衆がざわつき出す。「何者だ?」なんていう声がちらほらと聞こえてくる。
なにせ、ここの観衆はほとんどがマントマンの相手をしたことのある、常連の奴らだ。
マントマンに挑戦する奴は、大概は知られている猛者ばかり。
目の前にいる学生など……知るわけもない————。
「…………あいつ、何者なんだ?」
先ほどまで黒川と共に隣でデュエルを見ていた男性、『キル・フロート』は口を開く。
ともあれ、最初会った時は不思議な奴だな、と思った。
なんというか、まるでこの世界の者ではないような雰囲気だった。
キルはある程度、人間の『気配』を感じることが出来る。
悪者の邪気であったり、人間そのものの生気であったり、などなど。
つまり感知能力を身体に宿している。だからこそ感じ取れた不思議な感覚。
————キルは、マントマンの正体を知っている。
ここではわざと観衆の振りをしているが、マントマンの安否を見守るのが彼の本当の役目だ。
さらに、キルには目的があった。重大で、危険な目的が。
ついさっき、感じた多大な邪気。間違いない。『あの男』がこの近くに来ている。
“……どこだ? どこから『ルエ』を狙っている……!?”
『ルエ』。それはあの目の前でデュエルをし続けるマントマンの名前。
キルの友人であり、キルにとって大切な人でもある女性。
そしてそのルエを守る為、キルは『あの男』を見つけなければならない。
だが、肝心な気配が掴めない。つまり、この町にいるが近くにはいないという事だ。
キルは今日の朝から、ずっと胸騒ぎをしっぱなしだ。心臓に悪い。
とはいえ、今は近くにいない、そういう結論でいいのだろう。
それに、今興味があるのはルエの目の前に立ちふさがるあの男。
ただの馬鹿なのか、それとも————
「————おぉぉいッ!! 黒川の奴、あんなとこにいやがったぞ!!」
ふとキルの隣から大きな声が聞こえたので、視線を移した。
そこにいたのは、これまた学生服を身にまとった二人。男性と女性が一人ずつ。
元気な男性の後ろから控えめに出てきた女性は綺麗だった。そして、
「わ、黒川君。あんなところで何してるんだろう……。」
と、言ったところで、キルはハッとした。
二人は間違いなく、ルエの前に立つあの男の事を見て言っている。
ということは、二人はアイツの友人なのだろうか? そう思って、
「……黒川君、というのはアイツの名前か?」
二人の隣に立って、キルは男性の方に尋ねてみた。
男性、霧島勇気はキルの方を見ると、一度頷いて、
「ああ、そうだぜ。……ん? お前アイツの事知ってんの?」
「おう。さっき知り合ってな。ちなみに俺は『キル・フロート』だ。よろしくな。」
「俺は霧島勇気。ほんでもって————」
「私は水島愛奈です。よろしくね。」
お互いに軽い自己紹介をし、そして軽い挨拶を交わす。
キルは自分の名を名乗るのは久しぶりだった。
最近はルエぐらいしか話している奴がいないため、本当に久しぶりだ。
「んで……だな、キル君よ。あのバカはなんであんなところにいるんだ?」
霧島がチラリと観衆の目線が集まる舞台に視線を移す。
そこにはマントマンであるルエと、さっきまで二人が探していた黒川の姿があった。
「どうやら、あの黒川、って奴がデュエルを申し込むらしいぜ。」
「デュエル、って何? キル君。」
「一対一の決闘、さ。」
「何ぃ!? 決闘!? 喧嘩かッ!!!」
霧島は目をキラキラさせて過剰に反応する。喧嘩馬鹿にはうってつけのイベントなのかもしれない。
水島も「へぇー……」と関心の声を漏らしていたが、目は何やら心配そうな瞳を浮かべていた。
どうやらこの霧島と水島という奴もデュエルの事を知らない様だった。
まぁあの黒川の友人ならば、それもあり得るのかもしれない。
とはいえ、この世界の常識でもあるデュエルを知らないとは。ますます何者なのか謎である————。