複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『魔法の世界へ!! デュエル勃発!?』 ( No.164 )
日時: 2013/04/05 18:14
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


        「パート2。」




   「————次は私が挑戦したいのだが……構わないかな?」



  目の前の学生服を着た男性がそう言ってきたとき、マントマンの『ルエ』は驚いた。
  初めて見る顔。どことなく不思議な雰囲気を持つ少年。
  だが只者ではないような雰囲気を感じる。決して侮ることは出来ない。


   「……デュエル料、払えるのなら構わない。」

   「あ、それなんだが……」


  ルエのデュエル料という言葉に反応した黒川は、申し訳なさげな顔をした。
  頭をボリボリと掻く黒川の姿をルエはマント越しから不思議そうな目で見ていた。


   「悪いが、私は一文無しなのだ。」

   「……ッ!?」



  黒川の言った言葉にルエも含め、観衆さえも驚いた。
  デュエルをする以上、デュエル料金がかかるのは世界の一般常識だ。
  にもかかわらず、デュエルを挑もうとする黒川を見て、大笑いする観衆もいた。



   「……だから賭け事の条件を変えたい。いいか?」


  笑いに変わった観衆達を無視し、黒川は話を進める。
  正直、ルエも驚いている。こんな一文無しとのデュエルは初めてだ。
  とりあえずルエは、何も言わずにコクリと頷いた。



   「私が勝てば、魔法の事について詳しく教えて頂きたい。無論、賞金はいらない。」



  それを聞いて、さらにルエは唖然とした。

  なにせ、魔法はこの世界の一般常識で、人から聞くような言葉ではない。
  聞かずとも学校で耳にタコが出来るほど学んでいるはずだ。
  もうかなりの上級生になりつつある学生なのに、一体どこまで勉強をおろそかにしたのだろうか。
  とはいえ、確かにそれなら一文無しでも受けてもいいかな、と思った。
  ルエにとって減るものはない。一般常識の魔法の情報なんて、なんの価値にもなりゃしない。

  だが、それ以上に気になる点があった。



   「……私が勝った場合は?」

   「……あ、考えてなかったな。そうだなぁ……」


  そう、ルエが勝った場合の報酬だ。
  まぁこの男は考えてなかったようで、うーんと唸って考えを絞り出している。
  そして数秒後、おっ、と閃いたような声をあげた。



   「……私の友達に、霧島勇気という優秀な働き者がいる。そいつを君に差し上げよう。
    使い方、パシらせ方、虐め方は君に任せよう。それでどうだ?」

   「だぁぁあれがぁパシりじゃあああ!!!!! おいこらぁあ黒川ぁぁ!!!!」



  一番に否定の声がしてきたのは、ルエではなく観衆の方からだった。
  しかも良く知っている声である。本人、霧島勇気である。
  やれやれ、見つかっていたか。せっかくいない事を理由に利用しようと思ったのだが。
  なにせ私達はどれだけの事があっても、30分でこの世界を去る。

  だからこの賭け事さえ通れば、私は何も盗られることはないと考えたが、



   「……いらない。」



  即、否定。
  まぁ予想していた事だが。とはいえ、ここでほんの少し心を揺さぶる事にした。



   「だよなぁ……私ならともかく。」

   「そういう問題じゃない!!」



  黒川の冗談に過剰にツッコむマントマンに、黒川はほんの少し親近感がわいた。
  なにせさっきまで暗かったからな。そんな奴が今私の冗談にツッコんだ。
  どうやら普通の人間であるらしい。そして声からして……女性か。
  まぁ心が氷そのものというわけではなさそうだ。それなりに優しい心を持ってそうだ。

  ただの優しい女性が、なぜこんな危険な事をやっているのだろうか……。




   「————特別にデュエルしてやったらいいんじゃないか? ルエ。」


  突如、黒川の隣から聞き覚えのある声が聞こえたので視線を移す。
  そこにいたのは、先ほど黒川に色々情報をくれた、キルと呼ばれる男性であった。


   「キル……。」

   「不本意だが、不思議な雰囲気をコイツは持ってる。戦って得られるモノもあんだろ。」


  キルがそう言うと、考え込むようにしてルエは俯いた。
  その会話を聞いていた黒川は、二人を交互に見た後、


   「ふむ、アンタがキル、そして君がルエというのか。覚えておこう。」

   「あ、わりいな。自己紹介してなかったな。」

   「構わない。ちなみに私は黒川だ。」



  キルにそう言うと、キルはチラリと視線を変えた。
  視線の先には、若干騒いでいる霧島と、こちらに手を振る水島と目が合った。


   「あの二人に聞いたわ。特にあの霧島って奴、かなり羨ましがってたぞ。」

   「ふっ、アイツは喧嘩馬鹿だからな。……それで? デュエルの件はどうなってる?」

   「あ、いけね。……で、ルエ。どうする?」



  キルが話を戻し、ルエに問いかける。
  ルエはすでに答えを決めていたようで、一度コクリと頷くと、



   「……分かった。黒川、だったな? デュエルを受けよう。」



  ルエの言葉に観衆が沸いた。まるで燃え上がるように観衆が声援を上げる。
  キルは一度黒川に微笑して見せると、すぐにまた観衆席に戻っていった。

  多分、キルはこのルエという子の友人か知り合いなのであろう。
  でなければ、あの場に安易に立ち入ることは出来ないし、ましてやこの子を説得することも出来まい。
  ルエという子がデュエルを受けてくれるようになったのは、紛れもなくキルのおかげだ。
  感謝しなければな、そう黒川は思って、フッと笑った。



   「ルールは分かるな? 武器は何でもアリ。体術もアリだ。」

   「ああ、だったら私は————」



  黒川はそう言うと、腰に着けていた小さな箱らしきものを手のひらに乗せた。
  大きさはキーホルダーサイズ。縦横5㎝程の正方形。
  観衆もルエも首を傾げて、その箱を見つめた。一体何をしようというのか。
  黒川はその箱にチョンと軽くタッチをする。すると、何やら箱の横から何やら文字列が出てきた。
  テキスト文の様だ。そこには9行ほど文字が並んでいた。

  一行目には、『空気破壊(エアクラッシャー)』と日本語表記で書かれている。
  次の文には、『フェロンフィールド』。アンドロイド編でも使用した発明品だ。


  ————そう、この箱には、黒川の発明品や日常で良く使うものが収納されているのだ。

  それがこの発明品、『四次元ボックス』だ。どこかで見たことがあるのではなかろうか。

  そう、ドラえもんはこれのポケット版を持っている。しかも高性能だ。
  その四次元ポケットを参考にして最近開発したのが、この箱というわけだ。
  持ち運びが大変なモノを、四次元の空間に保存して、自由に取り出せるという代物。
  限界は10個。それ以上は箱がパンクしてしまう。

  とはいえ、この箱を作るのにも相当苦労したものだった。
  試作段階では、幾度となく四次元の世界の波に流されて、
  試しに収納した、幾つもの竹刀が帰らぬモノとなっただろうか。

  なにせ四次元の世界に物体を隔離させるというのは、もはや現代科学では未知の領域だ。
  ちなみにこの箱は、第178代目の四次元ボックスだ。
  178回目にしてようやく完成をしたのがこの箱という事だ。

  そんな箱から、黒川はあるモノをタッチする。
  すると黒川の手からいきなりスッと現れたのは、何の変哲もない『竹刀』だった。
  これはちなみに、発明品ではない。市販のものだ。
  水島の弟と剣道をするとき用の、ただの竹刀だ。



   「じゃあ、私はこの竹刀で構わない。……ん?」



  そう黒川が言ってルエの方を見ると、ルエは意外そうな顔をしていた。
  そして観衆も何やら静かだった。黒川は首を傾げた。



   「……なんだ、妙に静かだな。」

   「……お前、魔術師だったのか。」

   「…………なぬ?」



  思わず黒川は情けない声を出してしまった。なぜそうなった、と頭を抱える。
  だがしかし、すぐに理解した。どうやら皆、私が魔法で竹刀を出したと思っているらしい。

  ……いや、だからなんだというのだろうか。なにせここでは、『魔法』が当たり前なのだろう?

  私達が別世界から来たなんて知らないはずだ。ゆえに私達が魔法を使えても当然と見るはず。
  何がそこまで皆を驚かせるというのか。その答えはすぐに分かった……。


   「……おい、アイツっ、この世界でも数十人しかいない魔術師だぞ!?」

   「おいおい……魔術師と魔術師のデュエルかよ……凄いぞこれは!?」

   「ツイッタ—!! ツイッター書くわ俺!!」



  何やら観衆は騒いでいる様だった。ツイッターぐらいなら、黒川にも分かったが。

  とはいえ、どうやら『魔法』は当たり前に存在する世界だが、
  『魔術師』と呼ばれる、魔法を行使できる人間はさほどいないようだ。
  なるほど、だから驚いていたのか。それはそうか。なにせ数十人の内の一人だからな。

  ……別に魔法を使った訳ではないのだけどなぁ、と内心黒川は申し訳なかったが。



   「……久々だ。魔術師とやるのは。楽しみだ。お前の実力。」



  ルエは右手に宿った水色の『力』を開放すると同時に、
  瞬時に水色の透き通る刃をした綺麗な細剣、『レイピア』へと姿を変えた……。



   「悪いが、君の期待には応えられないかもな。なぜなら————」



  黒川は箱から出した竹刀をヒュンヒュンとX字に払いながら……





   「————女性が相手だと、どうも手を抜いてしまうものでね……。」




  そんなセリフを吐いて、ニヤリと楽しそうに笑った……————。