複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『デュエル開始。』 ( No.165 )
日時: 2013/04/06 16:17
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



         「パート3。」



  二人が向かい合うと同時に、カウントダウンがスタートした。
  二人の頭上には小さな電子モニターが現れており、試合までの時間を表記している。

  今で30秒が経った。残り30秒後、デュエルが始まる……。

  ルエは右手のレイピアを自身の肩付近まで引き上げ、地面と平行にしてピタリと止めた。
  対して黒川は、竹刀を両手にしっかりと持ち、自分の胸辺りでピタリと止める。剣道の構えだ。

  このカウントダウン中、やけに観衆は静かだった。
  それはそうだろう。仮にも、私は『魔術師』なんていうたいそうなモノに間違えられている。
  観衆にとっては、注目される一戦であることも間違いない。
  そして黒川自身も、勝ちに行きたいところである。魔法の事を詳しく知るためにも。

  カウントダウンは……10秒を切った。

  二人の間に真剣な空気が流れだす。ピリピリとした、戦いの威圧感。
  黒川は一度瞳を閉じた。精神を落ち着かせて、竹刀に自分の集中を乗せる。
  そしてゆっくりと開く……。目の前の景色が、ほんの少し違って見えた……。



  ————カウントダウンが0になった瞬間、二人は同時に思い切り踏み込んだ……!!


  正面からルエが風を切る様に近づいてくる。その姿をはっきり捉える。
  黒川は竹刀を自分の頭上に持っていき、力一杯振り下ろしたッ……!!

  剣道で言う『面打ち』にあたる技だったが、その攻撃を空を切る。
  否、ルエはすでにその場にいなかった。サイドステップして、黒川の右横へと移動していた。



   「————ッ!!」



  自分の右横から、何かが飛んでくると直感的に感じた黒川は、咄嗟に後ろにバックステップをした。
  その直後に、元々自分のいた位置に、閃光の如く放たれた剣先が空を切った。

  レイピアというのは突き技に特化した武器である。
  剣と違い重量が少なく、意外と軽い武器でもある為、スピードが良く出る。
  見切る、というのは簡単ではなさそうだ。彼女の突きは、素人目に見ても速い。



   「……はッ!!」


  バックステップして距離を取ったつもりが、いつの間にかルエによって詰められていた。
  速さは彼女が上だ。だったら距離を取るという方法は通用しそうにない。

  次々と突きを放ってくるルエの動きを注意深く見る。
  突きの一発目、黒川の右肩目掛けて放ってくるのが見えた。
  回避するのは至難の業だが、黒川はなんとか身体をねじって回避することに成功した。

  二発目、三発目は竹刀で防御しつつ躱し、黒川も反撃に出る。
  四発目の突きの瞬間、息を合わせる様にして黒川も攻撃に出る……!!

  黒川の狙いは、『カウンター』。剣道で言うならば、返し技。
  ルエの突きだされる右手に集中を注ぎ、その右手に竹刀を打つ事だけを狙う。

  相手の防御ががら空きになるのは、攻撃の瞬間。
  長丁場は不利と見た黒川は、もう勝負に出ることにした。
  とはいえ問題は、これはもろ刃の剣であるという事。
  自分も攻撃するという事は、相手の攻撃も食らうという事だ。
  自分の竹刀はそこまで痛くはないが、ルエのレイピアはかなり重症になりそうだ。

  とはいえ、勝つためには多少の怪我も仕方あるまい……!!



  “すまない愛奈……。最悪心臓貫かれても……魔法でどうにかなるだろうッ!!”


  我ながら都合の良い解釈だと笑いそうになるが、今はそう信じるしかない。
  黒川はルエの四発目の突きが放たれると同時に、咆哮と共に、




   「オオオオぉぉぉあああ!!!!」



  ルエのレイピアを掻い潜り、ルエの右手に渾身の『小手打ち』を打ち込んだッ……!!

  黒川が剣道で一番得意とする技で、弟にも絶賛されるほどのレベルの高い技であるとか。
  だが確かに小手打ちは決まったものの、ルエのレイピアの威力は落ちない。
  デュエルにはなんとか勝った……はず。だが予想していた事だが、閃光の突きは躱せない。


  そのまま黒川の右肩にレイピアの剣先が刺さる瞬間————





   「……ッ!? お……おお……。」



  と、情けない声を上げたのは、誰でもない黒川だった。

  てっきり貫かれると思っていた右肩の寸前で、ピタリとレイピアの剣先が止まっている。
  ある意味、凄い事だ。あそこまで攻撃モーションに入っていたのに、それを中断できるとは。
  おかげで怪我をせずにすんだが、黒川は予想だにしていなかったことだったので、



   「……想像以上だ。素晴らしい。」


  と、思わず口にしてしまった。するとマント越しから、少女の微笑みが見えた気がした。




   「……不思議な奴だ。————とはいえ、私の負けだ。」




  ルエがそう言った直後、観衆が大いに沸いた……————!!








  ————と、いう事で、黒川はなんとかデュエルに勝利することが出来た。

  とはいえ、運要素が強かったと見える。決して実力ではなかっただろう。
  ルエの剣筋は見事だった。実力的に見れば、彼女の方が上だろう。

  デュエル終了後、約束通り、ルエに魔法の事について教えてもらえることになった。
  観衆が去った後、黒川達はとりあえず場所を移そうという事になったのだが、その前に、



   「……もう!! 黒川君の馬鹿ッ!! なんであんなムチャするの!?」



  ……と、愛する彼女からの説教を受けていたのだった。

  お怒りの様子の愛奈を前にして、勝者の黒川は正座して謝るしかなかった。
  うーん、ここは「カッコよかったよ!!」の一言でもよかろうに。

  そんな思考をしていると、愛奈はプイとそっぽを向いて、



   「今日の晩御飯、抜きですからね!!」

   「ちょッ!! それは勘弁してくれないか!?」

   「ダメです。作るのも禁止です。今日一日、私の相手をしてくれないと許しません。」

   「それでやっと許してくれるのか……。」



  半ば呆れながらも天を仰ぐ黒川を横目に、霧島は苦笑してこんな事を呟く。




   「こりゃあアイツ、尻に敷かれるなぁ……。」



  対してルエとキルは二人とも唖然として、二人の様子をただ見守るだけだった。
  さっきまで自分を負かした男が、今は女性の前で子供の様に怒られている。
  ルエとしてはなんというか、自分が情けない気持ちになったのだった。



   「……私はこんな奴に負けたのか。」

   「はは、ははは……。」



  ルエの言う事にごもっともだと思いつつ、キルは苦笑するしかなかった————。



      ————————第18幕 完————————