複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『黒川VSルエ。』 ( No.168 )
- 日時: 2013/04/11 19:47
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
“サブストーリー 『花狩椿と銀色のいばら道。』”
「前編。」
————『花狩 椿 (かがり つばき)という人間が生まれたのは、今からほんの23年前だ。
白色の世界に似た、とある病院で生まれた赤ん坊の花狩は大きな産声を上げた。
明るい光の中、うっすらと開く目に映ったのは何人ものナースであった。
だがその度々映るナースの目に、生まれたての花狩先生はどことなく違和感を感じていた。
第六感でもいうべきであろうか。本当の何となくだが、感じたものがあった。
無論、生まれたての赤ん坊にはとても言葉で表すことは出来なかったが、今なら言える……。
……あの眼は、『同情』の目だ。アルビノとして生まれた自分に向けられた、ささやかな悪意だ。
————『アルビノ』とはつまり、色を失い、白化する現象の事を指す。
症状のことは先天性白皮症(せんてんせいはくひしょう)といい、または白化現象と呼ぶ。
その名の通り、身体の一部分から色が失い、白化するというものだ。
人間で言うならば、その一部とは……髪の毛の事だ。
年を取ると自然と白髪というのは進み、それほど可笑しいとは思わないかもしれない。
だが、生まれたばかりの子の体毛や髪の毛が白髪であるとしたら、どうだろうか。
そしてそれが年をとってもそのままで、白髪のままだとしたら、それはどうだろうか。
注目を浴びるのは当然の事、格好の餌となるのも当然であると言えた。
花狩が初めてその『餌』となったのは、わずか三歳の時であった。
花狩の生みの親である両親は、お互いに一人の少年を嫌悪した……。
————そもそもな話、両親の嫌悪が始まったのは三歳の頃ではない。
むしろ、生まれた瞬間からそれは始まっていたと言えた。
花狩の母親は男性恐怖症という、持病のトラウマを抱えていた。
ゆえに生まれる子供が女性であればと願った。しかし結果は……男。
それが母親をさらに嫌悪の念を抱かせたと言っていい。
名前の『椿』。これは本来女性に付けられるような可愛い名だ。
しかし母親は容赦なくこの名前を付けた。理由は至極単純。ただのあてつけだ。
女性に付ける名をあえて花狩に付けさせることで、意図的に遠ざけたのだ。
対して父親はというと、これはまた派手に頭を狂わせた。
アルビノとして生まれた息子への社会的不安、それにより圧し掛かる重みと侮蔑の目。
父親はその圧力に耐えかね、ついに人格までもが変貌した。
息子に当たり、息子を弄る事で、自分に課せられた社会の重みから逃げようとした。
まるで花狩を獲物として見て、父親はそれを狩る狩猟の様な存在の様に錯覚し、
自分の息子を色んな意味で『排除』するのは、さぞかし気分がよかっただろう。
————そんな理不尽を身体に刻みつけられた花狩は、当然精神的に廃れた。
かつ、小学校に行けば、それがさらに倍になった。
重みも、痛みも、差別的な視線も、だ。
救いの手などなく、何もない。ただあるのは、レールに敷かれた……いばらの道。
まるでお前にはこれがお似合いだと言わんばかりに敷かれた銀色のレール。
アルビノで色を失い、そんな下らないことで人生さえも色を失った男と、
見渡す限りの白色の世界で、目立たない銀色で敷かれたレールは、
社会的に順応出来ない、花狩自身を表しているようで、写し鏡の様だった————。