複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『花狩椿と銀色のいばら道。』 ( No.170 )
- 日時: 2013/04/14 14:04
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
————第19幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……2。』————
「パート1。」
約3分程のお仕置きの後、ようやく水島の機嫌は直りつつあった。
とはいっても、ルエ達や霧島がなんとか説得してくれたおかげでもある。
下手をすればこれから30分間ずっとお説教だけで終わるところであっただろう。
まぁ確かに、自分も無茶をしたのかもしれないなぁと、若干だが反省している。
ルエ程の腕でなければレイピアはきっと刺さってただろうし、重症だった。
いくら魔法で治るという確証に近いものがあると言えど、あの無茶はよくなかったかな。
————と、いうのはさておき、約束通りにルエ達に話を聞くことに成功した。
ルエ達の住むこの世界、魔法が当たり前に存在するような世界では、
無論当たり前の事だが、魔法はそこまで驚かれるようなことではない。
そもそも魔法というのは、いわば全ての人間の身体に流れる、闘気の様なモノを具現化したもの。
誰にでも流れているソレを、この世界の人は『魔力』と呼ぶ。
『魔力』を自在に操り、凝縮させ、放出させることにより、魔法を発動することが出来る。
とはいえ、その魔法を使うというのは誰にでもできるという事では決してなく、
なによりそれを『行使できる人間』となると、話は別になってくる。
魔法を行使できる人間というのは、『魔法ライセンス』という許可証を持つ者だけだ。
その許可証を持たぬものが魔法を使えば犯罪になるが、はっきり言ってそんな人はいない。
なぜなら、そもそも行使できる人間が希少であり、珍しいからだ。
いわば国家試験みたいなもので、試験に通る人間はほんの一握りだとか。
そのほんの一握りの人達が、この世界で使われている魔法で操れる機械を作ったのだ。
だからこそ、ここまで繁栄を築き、そして機械文明に溢れる都市になったと言えるのだ。
ルエはその許可証を持つ一人であり、その一握りの中でもかなり優秀な部類であるとか。
ルエは元々『魔力』が高かったという事もあり、群を抜いていた。
だからこの若さでも魔法を操り、人々からも尊敬される人になっている。だが……
「————それも最近、だがな。」
熱いお湯に肩まで浸かりながら、キルはそう呟いた。
湯気が天井まで上り、霧のように消えていく。静かで、のどかであった。
その隣で無言で聞いていた黒川だったが、天井を見上げながらポツリと呟いた。
「最近まで、か。」
「そうだ」
キルもまた天井を見つめ、そしてタオルで顔を拭く。
熱く濡れたタオルが、キルの顔を火照らせる。そしてふたたび口を開く。
「それにしても驚いたぞ。まさかお前らが、ここの世界の住人じゃないとか言いやがるからな。」
キルはそう言って、隣の黒川に視線を移す。
つい先ほど、キルにもルエにも話した。黒川達が、違う世界から来たことを。
そしてこの世界に危険が迫っているかもしれないという事実も……。
「最初は冗談かと思ったよ。だがな、目が嘘を言ってねぇからな。信じねぇわけにもいかねぇ。」
「話が早くて助かる。それに……お前達の事もな。」
「……。」
黒川は自分達の事情を全て話した。余すところなく全てを。
『DDD教団』という組織が、この世界を破壊しようとしている事実もだ。
だが、キルとルエの反応は、それを上回るものだった。「知っている。」と二人は言った。
この世界を破壊しようとしている事実は知らないみたいだが、『DDD教団』の事は知っていた。
それと同時に、キル達も自分達の秘密を暴露した。それはもう、とてつもない秘密だ。
……主にルエの事について、だ。
「……さっきの話、本当なのか?」
黒川は再確認するようにキルに尋ねた。キルは一度頷くと、瞳を閉じて、
「————ああ。本当だ。彼女は……元々、『DDD教団』と関わり合いがあったんだ。」
「————ッ!!」
思わず苦い顔をせずにはいられなかった。顔を歪めずには、いられなかった。
『DDD教団』。世界最悪の犯罪組織。その名をまさかこの世界で聞くことになるとは。
そしてさらにと付け加える様に、キルは言葉を紡ぐ。
「俺にも詳しくは知らねぇ。ただ、ルエは元々『DDD教団』の一員だった。
そして人体実験の犠牲になり、身体に『聖なる力』っていう悪魔の力を入れられた……らしい。
それがルエの異常な魔力の理由でもあるんだが、それ以上の事は……」
「……ルエはそのことを知ってるのか?」
「知らねぇだろうな。自分の身体に『聖なる力』が宿ってる事ぐらいだろうな。
幸い、当時の記憶は全部飛んでいって、記憶喪失の様なんだ。」
ということは、元『DDD教団』の一員であることは知らないわけだ。
まぁそれは幸いだったと言える。そんな過去を、覚えてないだけ幸せか。
とはいえ、黒川にも正直分からないことだらけだった。
「お前達は、何がきっかけで出会った?」
元々一員であったなら、なぜ今はここにいるのか。何かのきっかけで捨てられたのだろうか。
それともルエ自身が逃げてきたのか。それは今も謎であるのだが、キルとの出会いは気になった。
「俺が散歩してる時に、たまたま出会ったんだ。その時からすでに、記憶喪失だった。」
「では、お前は何故彼女が『DDD教団』に所属していた事を知っている?」
「直接聞いたんだ。『DDD教団』からな……。」
そしてキルは一呼吸置いて、顔を下に俯かせて呟いた……。
「————DDD教団所属、『ガロン・ヨルダン』。奴が俺にこの事を話したんだ。
そして同時に、ルエを狙ってる。正確に言うなら、『聖なる力』をな。そして……」
キルの言葉が弱々しくなる。表情から悲しい感情が伝わってくる。
同時に怒りが湧き上がってくるのも見て取れる。そしてなるべく抑えめに口を開いた……。
「……ルエの両親を殺した男、だそうだ……。」
……それを聞いて、さらに黒川の身体に自然と力が入った。
虫唾が走る。奴らの名を聞くだけで、自然と怒りがわいてくる。
奴らは一体何人もの人を犠牲にしようというのか。奪おうというのか。
とはいえ、冷静に頭を鎮める。ここで怒りを表しても解決しない。
ふぅー、と怒りを鎮めるように深呼吸した後、黒川は天井見つめて、
「……そうか。」
と、一言だけ吐いた。これが精いっぱいだった。これ以上突っかかれば、可笑しくなりそうだ。
とはいえ、一つ確認しておきたいことがあった為、それだけ聞いておくことにした。
「……そのガロンが、この近くに来ているというのは本当か?」
「ああ、ルエを狙いに来てる。約束通り、だからな。」
「……約束?」
「昔の話だ。気にするな。」
キルがそう言ったので、これ以上は追及しないことにした。
黒川はもう一度息を吐くと、力を抜いて、天井を見上げた。
キルも何も言わず、同じように天井を見つめた。その数秒後…………
「…………なぁ」
先ほどから黒川の隣で一言も喋らなかった霧島が、ようやく口を開いた。
なんとなく、霧島の言いたいことは分かった……。
「————俺ら、何で風呂なんかに入ってるんだよ?」
————そう、ここは銭湯。身体を綺麗にする場所であるお風呂だ。
あの後、水島がルエが汚いとかどうとかの話になって話を聞いてみると、
ルエは1週間ほど風呂に入ってなかったみたいで、水島は驚愕したのだった。
「女の子は風呂に入らないとダメ!! いつ夜に男の子に襲われるか分からないんだよ!?」
などと若干下ネタの話に持っていきつつ、水島は強引に銭湯へと連れて行ったのだった。
その成り行きで男子組も風呂に入っているのだが、その問いに答えるとするなら、
「…………分からん。」
この一言が一番、答えに近いような気がした……————。