複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『銭湯回。』 ( No.171 )
日時: 2013/04/17 14:26
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode




          「パート2。」



  男子組が銭湯に来た意味に頭を抱えている頃、女子組はといえば……————



   「————わぁー、広いねぇルエちゃん!!」



  水島は銭湯の広さに感動の言葉を漏らした。目をキラキラさせて辺りを見渡す。
  対してルエも広さに驚いてはいるものの、水島に比べて冷静だった。
  この時間だと他の客もいないようで、完璧に二人の貸切状態だった。

  ……とはいえ、それでもルエはどこかしら抵抗を感じている様だった。

  風呂に入るのも久しぶり、というのもあるし、風呂自体が苦手というわけでもない。
  たださっき会ったばかりの女性とこうして二人きりで入る事に、何かしらの気まずさを感じていた。
  ルエは今までほとんど一人でいることが多かった。キルと行動を共にする以外は。

  自分に宿っている力、『聖なる力』は危険な力だ。
  そもそも聖なる力というのは、DDD教団が私に埋め込んだ『破壊の力』だ。
  DDD教団の目的とする『破壊』。それを具現化した力ともいえる。

  なぜそんな力が私に入っているのか、全く分からない。
  そもそも、私とDDD教団の間にどんな関係があったのかさえ謎だ。
  自分はDDD教団の実験体だったんだろうか? そうでもなければ説明がつかない。
  だけど、記憶がない。全く覚えがない。とはいえ、そんな事を考えても仕方ないのだが。

  だから私は、人との接触を極力避けた。巻き込みたくない、ただそれだけの理由で。
  キルはそれでも巻き込まれてしまった。それは本当に申し訳ないと思っている。
  ゆえにルエは、強くなろうと誓った。大切な人も守れるように。

  それだけじゃない。あの男……『ガロン』を殺す為に。
  奴は私の両親を殺した。挙句に私の全てを滅茶苦茶にした張本人。


  許すわけにはいかない……かならず……ッ!!





   「……………ルエちゃん?」




  その声に、ルエは深い思考の中から現実に引き戻された。
  水島が不思議そうにルエの顔をのぞき、心配そうな表情を浮かべていた。

  そう、彼女に悟られてはいけない。巻き込まないためにも。
  これは私だけの問題。私が解決すべき問題————




   「……なんかルエちゃん、難しそうな顔してる。」



  そう水島に言われて、思わずドキッとした。
  もしかして悟ったのだろうか。顔に出ていたのだろうか。



   「き……気のせいだろう。」

   「嘘。」

   「えっ……。」



  水島の思わぬストレートな言葉に、ルエは言葉を詰まらせる。
  ここまではっきりという根拠はなんだというのだろうか。

  水島は人差し指をフリフリと振りながら、まるで勝ちを悟ったかのごとく話し始める。



   「私ね、嘘を見抜くの得意なんだよ? ルエちゃん、苦しそうな顔してる。

   ————誰も巻き込みたくない、自分だけで戦おうとしてる、そんな顔だよ。」


   「……ッ!!」



  図星、だった。何もかも、まるで知っているかのようだった。
  あまりにも正確過ぎて、不覚にも視線をそらしてしまった。これでは肯定しているのと一緒だ。



   「ルエちゃん、何を隠してるのかは知らないし、無理には聞かないよ。

    ……けどね、辛い時は『友達』に頼っていいんだよ。助けを求めてもいいんだよ?」


   「『友達』……?」



  『友達』。彼女は私の事を確かにそう言った。

  まさか、そんな訳がない。出会って数分しか経っていない人と友達?
  からかっているのだろうか。でも、表情からはそうは見えない。



   「……。」



  ルエは言葉を失ってしまった。何を言えばいいのか分からなかった。
  ただただ俯いて、自分の中の感情と戦うのみだった。

  助けが欲しい、けれど巻き込みたくない。
  こういう時、どうすればいいのだろう……?



   「無理に言わなくてもいいよ。これから少しずつ心を開きあえる仲になっていけばいいと思う。」

   「……水島……。」

   「だって私達、友達だもん。決めたからね。拒否権はなしね。」



  水島はキッパリといった。笑顔で、穏やかな表所で。
  なんとも心の強い女性だろうか。どこからその勇気、信用は生まれるのだろう。
  まだお互いの事を良く知らないというのに、彼女はなぜ友達と言ってくれるのだろう?

  ……だけど、嬉しかった。

  些細な事だけど、ルエにとっては大きな絆だ。大事な絆だ。
  久方ぶりに聞いた友達という言葉に、ルエはただただ胸を温かくするだけだった。

  とはいえ、ほんの少し気になった事がルエにはあった……。



   「なぁ……水島。」

   「ん? なぁに?」

   「こ……こんなことを聞くのも変だが、なぜ私が思いつめてるという事が分かったんだ?」

   「あ、やっぱり悩み事あったんだ。へぇー……。」

   「うッ……。」



  ジド目でジッと睨む水島の目線に圧力を感じたせいか、無意識にルエは水島と視線を逸らす。
  だがすぐに水島がクスッと笑うと、いつもの穏やかな表情に戻った。



   「……うん。実はね、ルエちゃんと似てる人がいるの。本当にソックリさん。
    他人を巻き込まない様に、一人で戦おうとするお馬鹿さんがね。」

   「……お……おう。」



  それは自分も含まれているのだろうと、ルエは申し訳なさそうに呟いた。



   「全く、心配する身にもなってよね。さっきだって一歩間違えれば大けがだったし。」

   「……アイツの事か。」

   「うん、ルエちゃんと戦ったあのお馬鹿さんね。」



  そのお馬鹿さんはさっき確か晩飯抜きを食らっていたな。目の前の水島によって。
  戦闘していた時の雰囲気とは大違いだった。あの時の黒川は尻に敷かれる情けない男だった。



   「でも……好きなんだな。彼の事が。」

   「……うん、好きよ。だから私も守ってあげたい。頼ってほしいからそばにいるの。」



  そう言って、優しい笑みを浮かべた。きっと二人はそういう関係なのだろう。

  そんな水島を見て、乙女だなぁと思っていた矢先、









   「————と・こ・ろ・でぇ……ルエちゃん、キル君とはどこまでイッたの??」




  水島の超ど真ん中ストレートに、ルエは盛大に噴き出した。そして何度もむせた。
  何か文字が怪しい気がする。どこか夜の雰囲気を感じる……。



   「ゲホッ、ゲホッ……な……!! いきなりなんだッ!!」

   「えー、普通ガールズトークはここからはいるでしょ?」

   「わ……私はガールズなんとかをしたことないから知らんッ!!」



  ルエが紅潮して話すのを見て、クスクスと笑いながら、水島は悪戯っぽい笑みを浮かべる。



   「……で? どこまで?」

   「〜〜!! わ……私とキルはそういう関係では……」

   「でも好きなんでしょ?」

   「…………うッ」

   「好き、なんでしょ?」

   「………………はい。」



  観念するしかなかった。なんという拷問。なんという圧力のかかった質問攻め。
  観念したルエによしよしと、あやす様に水島はナデナデする。

  その後、純情なルエちゃんにちょっとした夜の進め方をアドバイスする、水島愛奈であった……————。