複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『作者黙認、稀に見るカオス回。』 ( No.181 )
- 日時: 2013/09/01 20:26
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
————第20幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……3。』————
「パート1。」
最悪の犯罪集団、DDD教団。
かつて世界を破滅へと導こうとした、最低最悪の犯罪集団。
人間という下等な存在よりも一歩前に進んだ存在達が集結するその組織は、
幾度となく人類に立ちふさがる最大の敵になるのだった……!!
「————3年ぶりだなぁ。記憶してるか? お前と俺の『因縁』をよぉ……。」
ガロンはゆっくりと歩を進め、一歩ずつルエに近づいていく。
だが、そんな悠長な歩を許す程、ルエの隣に立つキルの心は広くはなかった。
背中から背負っていた剣を抜くと、威嚇するように剣先をガロンに向ける。
「それ以上、ルエに近づくな。近づけば、斬るぞ。」
「ほぇー、怖い怖い。でも足が勝手に前に進んじゃうのよねぇー。」
口笛を吹いて、ガロンは楽天的に言葉を発した。無論、歩みを止めることなく。
それを警告の無視と受け取ったキルは、それを許す程甘くはなかった……!!
「……近づくなと、言ったはずだッ!!!」
瞬間、キルはその場で大きく踏み込んで、ギュンと音を鳴らして突撃する……。
瞬時にガロンの目の前に立ち、容赦なくその手に握る剣をガロンに向けて振るうッ!!
何度も高速で切り裂き、剣筋が見えぬほどの高速の斬りをお見舞いする。
しかし、その剣の全てはあっさりとガロンの身体を避けていった。
否、避けたんじゃない。避けられたのだ。ガロンによって。
キルの剣筋は素人の類のモノではない。研ぎ澄まされた、会心の剣筋だ。
常人ならば決して見切れぬほど、高速で正確だ。しかし、ガロンはさらに『正確』だった。
一つ一つの剣筋を完璧に見切った上で、全てを紙一重で躱しているのだ。
しかも一歩もその場を動かず、身体を柔軟に動かすだけの最小限の動きで、だ。
「ぐッ……!! なんつうふざけた動きを————」
「————こらこらー。無駄口を叩いてる場合かね、若者君?」
ガロンがニヤリと笑ってそう言った瞬間、キルの身体は強制的に地面に叩きつけられた……。
キルの攻撃を躱した瞬間の隙を狙って、ガロンはフッと軽くジャンプをして、
瞬時にキルの頭に振り下ろす様にして、渾身のかかと落としを食らわせたのであった……!!
「ぐッ……ああぁぁ……」
地面がビキビキと割れ、軽い地震が起きたかのように大地が揺れる。
頭にキーンと響くような不協和音が響く。頭が破裂する程痛い。
たかが、かかと落とし一発を貰っただけだというのに、立ち上がるのが辛いほどだ。
この男、この細身の体にどこまでの力があるというのか……。
「おおーいいねぇ。おじさんの攻撃をまともに食らって意識あんのは珍しいわ。
とはいっても、悪いねぇ。おじさんはルエに用があるから、君は死んでくれるかな?」
地面にうずくまるキルの頭上から、ガロンはニヤリと笑みを零した。
まるで殺しを楽しむかのような表情をしたガロンは、子供の様に無邪気だった。
そうしてガロンは片足を上げ、キルの頭に狙いを定めて、その足を振り下ろす瞬間————
「————テメエッ、無視してんじゃねぇぞゴラァアア!!!!」
そう雄たけびを上げたのは、すでにガロンの背後を取っていた霧島だった。
右手に渾身の力を込めて、疾風の如く右ストレートをガロンの顔面に振りぬいた……!!
「忘れてるわけねぇじゃねぇか。なにせ————」
ガロンはクルンと瞬時に霧島の方に向き直り、そのストレートを回避する。
とはいえ、これは異常だった。あまりにも異常すぎる身体能力だった。
霧島の右ストレートはプロボクサーに引けを取らぬほどの一級品である。
速度、重み、正確性、どれをとっても申し分ない。ゆえに回避はかなり困難である。
しかしガロンは背後を取られたうえで、なおかつ片足を振り上げた状態で、
霧島の方に向き直し、そして紙一重で回避したのだ。明らかに異常である。
「————俺のデザートだからな。あっはっはっは。」
「にゃろッ……なんつう野郎だ。俺のストレートをこうも簡単に躱すかよ……!!」
霧島は思わず悔しさの言葉を漏らしたが、そんな事を考える余地もなかった。
ガロンは霧島のストレートを躱した後、振り上げていた片足で、高速の前蹴りを放った!!
だが、霧島もそこまで柔じゃない。両手を交差させ、最大の防御でその前蹴りを受け止める。
が、それでもかなりのダメージが圧し掛かった。ガロンの攻撃が『重すぎるのだ』。
「ぐぬッ……がッ……」
霧島は思わず痛苦の声を漏らしながら、3メートル程吹き飛ばされた。
だがなんとか防御のおかげで、片膝を突く程度のダメージで済んだ。
これをまともに受けていれば、軽く意識を持ってかれたと思うと全身がゾッとする。
「くッ……マジでつえぇぜ……。人間かよ……?」
「ま、超人って奴かねぇ。普通の人間ではないというのは確か————」
瞬間、ガロンは言葉を切って、フッとしゃがんだ。
そして直後、ガロンの真上には高熱の刃が頭上すれすれを通り過ぎて行ったのだった。
なぜしゃがんだのか、その理由は至極簡単だった……。
————シャイニングブレイドを持った黒川が、後ろから奇襲をかけたからだったッ!!
黒川は霧島との会話に意識がそっちに向いているのを狙って、
渾身の水平斬りでガロンを焼き斬ってやろうと考えていたのだが、それも躱されたのだった。
奴が人間でないのは分かっていた。だからこそ、初めから全力で行った。にもかかわらず、
「……ッ!! これも躱すのか……!!」
「殺気を殺しきれてないねぇ。それじゃあ、奇襲は成功しねぇよ、ぼっちゃん。」
黒川は驚嘆の言葉を掛けつつ、さらに追い打ちするようにシャイニングブレイドを振り下ろす!!
振り下ろす高温の刃をスルリと躱しつつ、ガロンは黒川の腹部に重い膝蹴りを放つ……!!
「ガぐッ…………うぅ……」
カランカランとバトンが落ちる音が鳴り響く。
黒川の手からシャイニングブレイドがするりと落ち、地面に転がった。
そして直後、黒川は両膝を突き、腹部を押さえて地面に頭を付けた。
気絶はしていない。が、ダメージが大きすぎる。立てなかった。
「……さてさて、これでお邪魔虫はいない感じ?」
ガロンは辺りを見渡して不敵に笑ってそう呟いた。
キル、霧島、黒川は共にかなりのダメージを受けていた。
……唯一まだ続行できるのは霧島ぐらいのものだったが、霧島は足が動かなかった。
本能的に感じたのだろうか。コイツは強すぎる、と。
3対1でもこの実力差。とてもじゃないが、『このままでは』敵わない。
“『解放』すればなんとかなるが……しかし……”
霧島の思考はそれで止まった。今の自分にはそれが『出来ない』理由がある。
そして何より、それを嫌う自分がいる。プライドが許さなかった。
だからこうして見てるだけしか、この時の彼には出来なかったのだった……。
「キル君、霧島君、黒川君ッ!!」
水島が皆の安否を確認するように叫ぶ。かろうじて、皆生きてはいる様だ。
とはいえ、三人でも相手にならない相手に、私がどうこうできるわけがない。
せめてルエちゃんを守りたい……だけど、どうすればいいの……?
「お、そちらの嬢ちゃん、かなりの上玉だねぇ。」
ガロンのなめまわす様な視線に、水島は肩が震えるほどの悪寒を感じた。
とはいえ、ガロンの言葉にピクリと肩を震わせたのは、水島だけではなかった。
今まで腹部を押さえて地面に顔を付けていた黒川も、震えるほど悪寒を感じていた。
身体を無理やり起こし、ガロンにキッと睨む。
「……おいッ……彼女に手を出すんじゃない……ッ!!」
「んあー? やーだね、だって可愛いもん。襲っちゃお。」
「……ッ!!」
黒川の言葉を無視して、ガロンは水島に歩み寄っていく。
だが、その隣にいるルエが黙っているわけがない。瞬時に水島の前に立って構える……。
「待てッ!! 用は私だけのはずだ。彼女に手を出すなぁッ!!」
ルエは思い切り踏み込み、瞬時にガロンとの距離を詰め、レイピアによる高速の突きの連打を放つッ!!
ガロンはその姿を不敵に笑った後、
「わりぃなルエ。お前にはちと眠っててもらうぜい————。」
目に留まらぬスピードで、ルエの目の前から姿を消した……。
無論、レイピアの攻撃は全て空を切っていく……。
「なッ……————」
消えたと思って驚いたルエであったが、実際は消えたわけではない。
ガロンが超スピードでルエの背後に回っただけに過ぎなかった。そして、
ガロンは軽い手刀でルエの首裏をトンと叩く……。
「あっ……」
という情けない声と共に、ルエの思考が停止していく。
深い闇が襲ってくる。深い眠りが襲ってくる。
抗っても、強制的に目蓋が落ちていく。身体も、意識も……。
そしてルエは、地面に前のめりに倒れて気絶した……。レイピアも音を立てて消えていった。
「ルエちゃんッ!!」
水島の声もルエには届かなかった。ルエの意識はすでに深い闇の中だった。
そしてそんなルエを微笑して見届けた後、ガロンは再び水島の方に向き直った。
「……これで邪魔者はいねぇなぁ。嬢ちゃん」
「……ッ!!」
ガロンはまたもニヤリと笑い、スッと手を伸ばしてきた。
その手の追跡に抗う様に、水島は後ろへと後ずさっていく。
「なぁに、優しくするって。ちょーっと大人の遊びをするだけだって……」
「……いやッ……助けて……黒川君……」
「さっきのぼっちゃんかい? わりいが寝てるよ。助けは来ねぇ。」
ガロンの手がついに水島の手首を捉えた。何度振りほどこうとしても、その手は離れない。
逃げ場を失い、水島はただただ黒川の名を呼ぶしかなかった……。
「黒川君……黒川君……ッ!!」
「忘れさせてやるよ。俺がもっと楽しい事を————」
瞬間、ガロンの背後からとてつもない殺気を感じた……!!
それを察知したガロンは、瞬時にそちらに向いた。
そして同時にガロンは咄嗟に、その場を超スピードで離れた……。
離れた瞬間、水島の目の前を通り過ぎる一筋の閃光の如く一閃。
見慣れた光、シャイニングブレイドの輝き。そしてその手に持つのは、
「黒川君ッ……。」
「……無事か、愛奈。」
穏やかな表情であるが、殺気を漂わせた黒川だった。
その右目に、あの時と同じ金色の瞳を宿して……!!
「……えへへ。怖かった。」
「心配するな。俺が守る。」
「うん……信じてる……。」
水島は自分の胸でギュッと拳を握り、お祈りするように瞳を閉じる。
黒川は微笑してそれを見届けた後、クルリと振り返ってガロンの方を見た。
ガロンは驚いてる様子だった。それでも、陽気な表情は崩さないが。
「————なるほど、お前さんが『覚醒種』だったか。」
ガロンは殺気を向けてくる黒川に嬉しさを感じつつ、歓喜の笑みを零した……————。