複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『第20幕、パート1。』 ( No.185 )
日時: 2013/09/02 21:11
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)



           「パート2。」




  「————なるほど。お前さんが『覚醒種』だったか。」


  「————愛奈に手を出した罪はその命で払ってもらうぞ。」



 キッと睨み、殺気をさらに増強させる。辺りを冷やすかのような空気が辺りを包む……。
 だがそんな黒川を前にしても、ガロンは不敵な笑みを浮かべたままだ。

 まるでそれでも、余裕だと言わんばかりに……!!



  「わりぃが、『覚醒種』になっても変わらんと思うぜぇ。

  ————お前さんと俺では、強さの次元が違うからなぁ。」


  「ぬかせッ、外道がッ!!!!」



 黒川はフッ、と消える様に姿を消す。

 常人ならこのスピードを目に追うのは無理だ。どこに行ったのかは分からない。
 しかし、ガロンには見えていた。黒川が自分の上空に移動している事に気が付いていた。


  「オオオオォアアアアッ!!!!」


 シャイニングブレイドを地面に突き指す様にしてガロンの上空から襲い掛かる……!!
 ガロンは一歩後ろに下がり、難なく黒川のシャイニングブレイドを回避した後、


  「おらぁああ!!!!」


 黒川の顔面に向けて、閃光の右ストレートを放つ!!

 だが、その閃光の如く速いパンチを見切った上で、黒川は最低限の動きだけで躱す。
 ミスト戦でも見せた、右目の金色の眼がもたらす、見切り能力だ。


  「お、これを躱すか。」

  「らァアアアア!!!」


 その直後、黒川は右手に持ったシャイニングブレイドでガロンの顔面目掛けて横切りする!!
 ビュンという風を切る音と共に迫るシャイニングブレイドを、ガロンはしゃがんで躱し、


  「ならこれならどうだぁッ!?」


 思い切り地面を踏み込んで威力を増した膝蹴りを、黒川の腹部付近に放つッ!!

 だがさっきと違い、黒川も片足を上げた後、その蹴りを真正面から受け止めた。
 ドゴンッ、という鈍い音が鳴り響き、互いの膝と膝がぶつかり合う……。


  「やーるねぇ。ここまでやるとはなぁ。なら……」

  「……はァ!!!」


 その後さらに超スピードで黒川は姿を消す。目の前から黒川の姿が、消える。
 ガロンの背後に回り、シャイニングブレイドを足元付近から振り上げる様に斬り上げる!!
 だが当たる直前、ガロンも同じように姿を消した。超スピードで逃げだしたのだ。

 しかし、今回のは『速すぎた』。先ほどまでのスピードとは比べ物にならない……。



  「なッ……!?」


 思わず黒川も驚きの声を上げた。速すぎて見えなかったのだ。
 どこに行ったのか見失ってしまい、辺りを見渡していると、


  「ほいっとなァ!!!」


 突然、いきなり現れる様に黒川の右横から姿を現した。

 黒川がすでに見つけた時には時すでに遅く、ガロンのドロップキックをまともに横腹に食らっていた。
 「ぐッ……!!」という悲鳴を上げながら、黒川は10m程吹き飛ばされる。
 だが瞬時に態勢を立て直し、着地してシャイニングブレイドを構える。


 ————ここから、ガロンはとてつもない強さを見せた。

 黒川が着地したと同時に、ガロンはすでに黒川の真上にいた。
 片足を上げ、先ほどキルを一発で倒した、あのかかと落としの構えだ。
 それに気づいた黒川は即座にシャイニングブレイドで頭の上で防御の構えを取ったのだが、

 瞬間、ガロンは上空から消えた。跡形もなく。
 そしてそれに気づいた時には、ガロンは今度は自分の懐にいた……。

 そう、フェイントだった。あのかかと落としの構えは、フェイントだった。
 黒川のガードを頭上に集中させ、腹部をがら空きにする罠だ。
 とはいっても、ガロンはさっきまで上空にいた。
 にもかかわらず、その一秒も満たないうちに自分の懐へと移動するそのスピード。
 ハッキリ言ってバケモノだ。ここまでのスピードを黒川は知らない……。


  「ひゃっはああああ!!!!」


 喜びの叫びをあげ、ガロンはおもむろに両手のパンチを黒川の腹部にぶち込んだッ!!
 計6発。一発でも気絶レベルだというのに、それを6発もまともに受けてしまった。



  「グッ……ガァ……ッ!!!」


 それでも、黒川は戦う事を止めない。多大な血反吐を吐こうとも、だ。
 シャイニングブレイドをギュッと握り、自分の目の前にいるガロンに向けて、


  「オオオオオオオあああああッ!!!!」


 力強く振り下ろす。そのスピードは風を切り裂く疾風の如く。
 だが、その剣筋さえも、ガロンの手によって止められてしまった……。
 ガロンは左手で振り下ろされる直前の黒川の右腕首を掴み、シャイニングブレイドの動きを止めた。

 そして右手でまず、黒川の顔面目掛けて右フックをお見舞いする……!!


  「ギッ……らああああァッ!!!」


 黒川も負けじとシャイニングブレイドを握ってない方の拳でガロンに殴りかかる。
 左手をグッと握りしめ、渾身の左フックをガロンの顔面に放つ!!
 渾身の左フックはガロンを確かに捉えたものの、殴られてもガロンは笑顔だった。


  「拳の重みがたんねえぞぉッ、『覚醒種』ッ!!!」


 そう叫んで、ガロンは今度は右アッパーを黒川の顎に振りぬいたッ!!
 血反吐が上空を飛び、意識さえ揺らぐ。しかし、それでも黒川は自身の右目をキラリと光らせる。

 歯を食いしばり、勢いを付けてガロンの頭に頭突きを放つッ!!
 ビキッという骨がぶつかる音と、揺らぐ頭痛が二人を襲う。



  「ぐあァッ……こんの野郎ッ……」


 初めてガロンが痛苦の言葉を漏らした瞬間だった。
 今まで陽気だったガロンが、この時だけはキッと真剣なものになった。


  「仕方ねぇ……ちょっと痛めつけてやんよぉッ!!!」


 ガロンは黒川の右手首に掴んだ左手に力を入れて、思い切り空中にぶん投げた!!

 黒川の身体は空中を踊り、妙な浮遊感が身体を襲う。
 その直後、ガロンは超スピードで空中に飛び上がり、黒川と同じ高さの近くまで来た後、
 逆さまの状態になり、サマーソルトの様に身体を回転させ、
 ガロンは黒川の腹部に向けて、地面に叩きつける様な強烈な蹴りを放ったッ!!!



  「ガッ……ハッッッ……!!!!!」


 今までとは比にならぬほどのダメージを受け、黒川は文字通り、地面に叩きつけられた。
 同時に地面を割り、漏れ出た砂埃が黒川の視界を奪う。
 背中に地面との強烈な衝突感、そして腹部に残る強烈な痛み。

 本当に身体がピクリとも動かなかった。だがそれに追い打ちをかけるようにして、
 黒川の腹部を着地点にして、ガロンは空中から両足で踏みつけた……!!


  「〜〜……はッッ……アアァッ!!!!」


 悲鳴さえも満足にできない程、身体から空気が絞り出される。
 ビキビキとさらに何本か骨がイッた気がする。身体の力が全身から抜け落ちる……。



  「……悪くなかったぜぇ。機動力、根性、速度、よかったぜ。

  ————ただまァ、俺を相手にするにはまだ足んねぇがな。」



 ガロンはそれだけを言い残すと、フッと黒川の腹部から両足をどけ、ストンと地面に着地する。
 先ほど受けた黒川の頭突き、あれによってガロンの額から一筋の血が流れていた。
 それが口元まで来たので、ガロンはそれを嬉しそうになめとった。


  「いやー……久々に血を流したかもな。」


 ガロンはそう言って、黒川に向けて不敵に笑った。
 黒川の右目は、すでに金色の輝きを失っていた。そして力も、抜け落ちて動かない。

 視界が閉じる……。意識が遠のく……。目蓋が重い。

 ただ純粋に強い。ミスト以上の強さだった。
 あの時、ミストと対峙した時も世界が変わって見えた。
 動きが鮮明に見えて、はっきりと見える感覚。きっとあれが『覚醒種』の力なんだろう。
 だけど、それでもガロンには勝てない。速すぎて、ついて行けない。

 何が『覚醒種』か。何が『絶対に守る』だ。俺はこんなにも弱い……。



  「……あ……いな…………。」


  「黒川君ッ……黒川君ッ……!!」



 愛奈の叫びが聞こえてくる。愛する声だ。
 だけど、かろうじて俺が声にした愛する人の名も、雑音に交じって聞こえない。
 ただ視界にはニヤニヤと笑うガロンの姿だけは見える。もう、おしまいなのかもしれない……。

 愛奈には謝罪するしかない。守れなくてごめん、と。
 ただ、どうなるにせよ、俺が願う事は一つだ。
 せめて愛奈だけは……助かった欲しい。彼女だけは死なないでほしい。
 俺を殺せ、とはもう言わない。約束だから。二人で生きると約束したから。

 だから、誰か……彼女を助けてくれ。
 他人任せなのは重々分かってる。俺が守らなきゃいけないのも分かってる。
 だけど、俺にはダメだった。全力を尽くしても、駄目だった。


 ————だからせめて……彼女だけを守ってくれ……。


 その願いを頭に描き、黒川は深い闇へと落ちて行った。
 意識を失い、ピクリとも動かなくなった黒川を横目に、ガロンは困ったような表情をした。



  「とりま……こいつどうすっかなァ。もう一人呼ぶべきかァ?
   俺はルエの世話をしてやんねぇといけねぇし————」




 ————瞬間、ガロンはとてつもない熱量を感じた……!!


 何かこの辺り一辺の温度が上がったかのような。もやっとしたぬるま湯の様な空気に変わった。
 空気そのものが燃える様に温かい。だけどどこにも火なんて灯っていない。

 そこで、ガロンはハッとした。自分の背後だ。自分の背後から強烈な熱気が伝わってくる。



  「……ッ!!」


 振り向いて姿を確認して、ガロンは心底驚いた。

 目の前にいるのは人間。上半身裸で身体から熱を発して、赤く身体を光らせる少年。
 身体から次々と漏れ出る蒸気が空気に交じって消える。少年の身体自体が暖房器具の様だ。
 熱と蒸気が身体を包み、逆立った髪がユラユラと揺れる。
 少年の体温は一体今、何度あるのかとガロンは疑問に思ったが、今はそんな場合ではない。


 ————なにせ目の前に立ちふさがる少年は、さっき蹴り飛ばした『霧島勇気』だったからだ。




  「……ほぉ。少年も能力者だったのかい。」

  「霧島……君……?」


 水島が唖然とした表情で、霧島の姿を見つめる。
 まるで何が起こっているのかも理解できない様子だ。それはそうだ。
 なにせ水島は、霧島が『能力者』だという事を知らなかった。
 長い付き合いだが、一度もそんなことを聞いたことがない……。

 そう思うと、なぜか水島は意識がフッと飛んだ。
 そっと倒れ込み、意識を失った。あまりの驚きによる気絶、といったところか。
 今彼女には驚きがいくつも襲ってきていたのだ。それも当然の事かといえた。



  「…………。」


 ガロンの問いかけに何も答えず、霧島はただ隣に転がる黒川の姿を見ていた。

 自分は、なんという男だろうか。なんという情けない男だ。
 自分が能力者とばれたくないがゆえに、出し惜しみした結果、友人が瀕死の怪我を負った。
 それだけならまだいい。だが、それ以上に許せないのは、自分の心だ。
 黒川は水島を守るために全身全霊の力を使って戦った。
 にも関わらず、自分はただ見ているだけを選んだ。

 昔、誓った事じゃないか。この力を、『誰かを守るために使おう』と。
 そんなことを忘れて、俺は力を出して、ばれてしまう事を恐れた。


 ……違うだろ。そうじゃないだろ。俺が望んだことは、そうじゃない。

 今じゃなきゃ、いつ使うんだ。今じゃねぇか。俺が本当の意味で————





  「————……ヒートアップ……『レベル1』……!!」



 シューという音と共に、熱がうねる様に放出する……。
 グッと右手に力を入れ、低く腰を落とす……。
 ガロンはニヤリと笑みを浮かべ、そんな霧島の様子を見ていた。



  「……やんのか? こいよ。おじさんがどの程度か実力を見て————」



 ガロンが一瞬の瞬きをした瞬間、そこに霧島はいなかった……。
 いつの間に近づいたのかと疑問に持つほどの一瞬で、霧島はガロンと1m程の距離まで詰めた……。

 ……速い。ガロンの眼にも追うのが一苦労と取れるほど、超スピードだった……!!



 “今じゃなきゃ、いつ使うんだ。今じゃねぇか。俺が本当の意味で————



  ————何も気にせず、『本気になれる』瞬間じゃねぇか……!!”






  「4季、奥義————」


  「ちッ、野郎ッ————」




 霧島がグッと右手を握り直し、さらに腰を落とす……。
 直感的にやばいと判断したのか、ガロンが後ろに飛び退こうとした直前……








  「————『青嵐 (あおあらし)』ッ!!」




 右手から炎が着火するような音と共に、ボッ、という破裂音が鳴り響く。
 その拳が速すぎるせいか、ガロンの眼には一瞬の残像にしか見えなかった。

 右足に思い切り力を入れ、地面をカチ割り、ただ一発の渾身の右ストレートを放つッ!!
 右拳はガロンの回避を許すことなく、一直線にガロンの腹部を捉えた……。
 まるで爆発が起きたかのような衝突音とともに、ガロンの腹部に強烈な痛みが走った。

 回避など、不可能だった。なぜなら、その拳はガロンの目に留まらぬほど、『速すぎた』……!!



  「ぐわッッ……ハァッッ……————!!」


 ギリギリと霧島の拳がガロンの腹部にねじれ込み、そのままガロンの身体は数十メートル吹き飛んだ。
 血反吐を吐き、身体はまるでゴムボールの様に吹き飛んでいき、
 数十メートル先の建物の壁を突き抜けて、その勢いはやっと止まった。
 パンチの威力は、今までの打撃の比ではなかった。圧倒的だった……!!



  「……ガロン、つったな。悪いが手を抜けねぇ————。」



 霧島はふと、黒川の方に視線を移す。アイツはきっと、『誰かに託した』んだ。
 自分では勝てない相手に無謀に突っ込んでまで、守りたいものが奴にはあった。

 愛する人を守る強さ。奴にはそれがある。そして、それは俺も同じだ……。
 親友を、そして親友の守りたかったモノを守りたいという気持ちだけは、霧島だって負けていない……!!





  「————『ダチ』がピンチになってんのに、それを見過ごせる男がいるかッッ!!!!!」




 身体を纏う温度が霧島の身体を取り巻き、それがさらに彼の思いを強くする……————。