複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『第20幕、パート2。』 ( No.186 )
日時: 2013/09/04 20:24
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)


         「パート3。」



 ————霧島とガロンの交戦が始まると同時に、『奴ら』も到着した。


 元特殊部隊のメンバーであった、コーネリアの作った組織、『リバース』。

 特殊部隊とは違った観点から世界を救うために作られた少数組織。
 奴らもまた、『異世界を渡ることが出来る方法』を持ち合わせていた。
 コーネリアの異世界を渡る能力を応用し、誰にでも簡単に異世界に行くことが出来る装置を作った。
 それによって、普通は不可能である『もしもの世界に行くこと』を可能にしたのだ……。

 そしてこの魔法の世界に来たのは、たったの二人。
 少数部隊だという事もあり、人数はこんなものだ。むしろこれでも多いぐらいだ。
 なぜなら、相手があの『ガロン』であるなら、これでもむしろ少ないぐらいなのだから。


  「————リオ、喧嘩はどこでやってんの?」


 青い軽いシャツに青いジーパンを身につけた青年、『榊 和(さかき かず)』は口を開いた。
 榊は辺りを見渡して、喧嘩が行われていそうな場所を探す。
 そんな榊の後ろから、チョコンと現れた可愛いらしい少女。緑の帽子が良く似合う。


  「ここから約100m前方で派手に行われているみたいです。
   そして奴らのターゲットでもある『鍵』もそこにいます。ガロンと接触した模様————」


 そう言ったのはもう一人のメンバー、『咲花 綾(さくはな りょう)』だ。愛称は『リオ』。
 情報を受けた榊は言われたとおりに目を凝らすと、確かに100m先で砂埃が舞っている。


  「あ、確かに見えた。マジで派手にやってるぅー!!」


 榊は目をキラキラさせてそう言った。本当に喧嘩馬鹿だな、とリオはあきれ返る。


  「……榊君、感動してないでさっさと行きますよ。」

  「当ったり前じゃねぇか!! リオ、さっさと介入すっぞ!!」


 そう言って二人は、早足で戦場に向かう。ここからなら、1分程度で介入できる。

 彼らの所属する、リバースの目的はたった一つ。


 リバースの理念に基づき、破壊を目論むDDD教団の殲滅である……————!!
















  「————オオオォラアアアアアアアッッッ!!!!!!!」



 ————砂埃と、振動が辺りを取り巻き、辺りを響かせる……。

 霧島が『能力』を発現させてわずか2分、戦闘はさらに激化していた。
 超高速で殴り合いをする、ガロンと霧島。攻防一体、圧巻の殴り合い。
 常人では目で追いきれない程のスピードの中、二人はただただ肉弾戦を繰り広げる。

 拳と拳がぶつかり、ドゴンッ、という音が何度も鳴り響く。



  「はっはァァー!!! やべぇぜ……。楽しすぎるぜぇテメエはあああ!!!!」


 ガロンは心底戦闘を楽しんでいた。心からの笑みを漏らしていた。
 ここまで自分と肉弾戦を互角にやり合える人材は滅多にいない。ガロンもかなり本気であった。

 今までは手を抜いて戦う事の方が多かった。けれど今は……容赦なく『殺れる』ッ!!



  「リバースなんていらねえッ!! こいつで十分楽しめんぜぇッ!!!」

  「オオオオオオオォアアアアアア!!!!」


 咆哮と共に霧島は両手からパンチの嵐をガロンに降らせるッ……!!

 ほぼ残像に見えるパンチだが、ガロンはそれを冷静に見極めた。
 惜しみなく両手両足を使い、あらゆる方法で防御する。
 今まで紙一重で回避するのが当たり前だったが、霧島との勝負ではそれはほぼ無意味。
 なぜなら奴は『速い』。それに実力はほぼ互角。紙一重とか言っている場合ではないのだ。

 殺されるか、殺すか。今のガロンの状況はそのど真ん中なのだ……!!



  「シャラアアアアアッッ!!!」


 戦闘に憑りつかれたかのように笑い、そして歓喜の声を上げるガロン。
 霧島のパンチの嵐の隙を狙い、一瞬で霧島の後ろに回る。
 そして間を入れることなく即座に霧島の顔面に向けて、閃光の上段蹴りを放つが、
 霧島はガロンの方を見ることなく、片手を顔面のすぐ横に構え、重い蹴りを防御する。

 ここまで速い戦いに、もはや勝つための戦略などない。
 相手の姿を見る『時間』さえ命を分ける境界線となるのだ。
 だから強いて言うならば、『カンが鋭い方が勝つ』。そんな野生の勝負なのだ。
 ライオン同士が生き残るために、お互いを食として求める、そんな野生の勝負なのだ……!!


  「……らァッ!!」


 霧島は即座に腰を下ろし、背後に回っているガロンの足元を払う様に足払いを放つッ!!
 しかしガロンは瞬時に移動し、しゃがんだ霧島の頭上へと移動する。
 そして渾身のかかと落としを放つが、それは空を切った。

 霧島も超スピードでガロンの真横に移動し、グルングルンと横回転する。
 遠心力を利用し、身体を勢いに任せて、ガロンの腹部に向けて水平蹴りを放つッ!!


  「ぐッ……オオオッ……!!」


 ドシンと圧し掛かる腹部の痛みに思わず痛苦の言葉を漏らした。
 そのまま霧島の蹴りによって、遥か彼方まで身体は吹き飛ばされた……。が、


  「ラアアアアアアッッ!!!!」


 追い打ちといわんばかりに、霧島は瞬時に吹き飛んだガロンを追いかける。
 熱を帯びた身体から漏れ出る蒸気が残像を生み出す程、霧島のスピードは速い。

 赤い閃光となって瞬時にガロンとの距離を詰めた後、
 力一杯握りしめた拳で、ガロンの顔面と地面がめり込むほどのパンチを振り下ろしたッ!!



  「ゴハァッッ……!!!!」



 ガロンは頭を地面に叩きつけられ、一瞬意識がグラリと揺らぐ。
 が、この程度で意識が飛ぶほどガロンの身体は柔ではない。そこで瞬時に、


  「…………!?」


 ガロンは霧島の振り下ろした右手をすり抜け、霧島の首を両手でがっしり掴んで、ギュッと締める。


  「……ッ!! グッ……はッ……」


 首を絞められて、息がしづらい。それを逃れようと、霧島は両手でガロンの両手を解こうとする。
 が、なんていう力なのだろうか。一向に緩まる気配はなく、むしろ強くなっていく。
 ハッキリ言って、こんな化物じみた握力を持つ者がこの地球上に存在するのかと疑いたい。


  「……このまま死ぬかァ? 足掻いて見せろよ、しょうね————」


 霧島はついに、強硬手段に出ることにした。
 握る右手が緩まらないなら、目の前のガロン本体を叩く……!!

 霧島はありったけの力を込めて、右手の拳でガロンの腹部を叩くッ!!
 何度も何度も、両手で腹部を、顔面を殴るッ!!



  「ゴハァッッ!!! そ……そうだ……グッ……!! もっと足掻いてみろよぉおお……!!」


 意識がどんどん遠のいていく中、霧島は何度も拳を振るった。
 何十回と殴った。しかし奴は離さない。離れない。握る両手が自分の酸素を奪っていく。


 ダメだ……。間に合わない……。このままでは……死ぬ。

 ついに霧島の拳に力が入らなくなってきた。握る事もままならない……。



  「楽しかったぜぇ……テメエの勝負はよぉ……。————じゃあ死んでくれやァァッ!!!!!」


 ギリギリと首を絞める力がさらに強まる。もう抗う事も叶わない。
 自分の負けを悟った。勝てなかった。強かった。



  “すまねぇ……黒川……。ダチとして俺は約束を守れな……————”



 意識がついに遠のき、酸素が全てを失おうとした瞬間————










  「————『全植物操 (ツリーマインド)』……!!」



 目の前が真っ白になろうとした瞬間、霧島の眼に映った木々。
 ツルがスルスルと目の前のガロンを包み、絡まるようにしてガロンを締める。
 自分の首を握る両手にも絡まって、ギュッと締めた瞬間、霧島はほんの少しだけ酸素を得た。
 なぜならガロンの掴む両手がほんの少し緩まって、呼吸が出来たからだ。

 霧島はこの隙に自分の首から強引にガロンの両手を外して、即座に飛び退いた。
 ゴホゴホッ、と息を吐きつつ、酸素をこれでもかという程吸った。
 意識が徐々に回復し、脳が正常に稼働していく。そして景色に色が戻る。そして、

 目の前で植物に絡め取られるガロンを目の前にして、霧島は唖然とした。
 まるで植物が生きているかのように動き、ガロンを確かに締め付けている。
 自然現象……ではない。これはれっきとした、『能力』だ。



  「————霧島勇気君、でしたか。もう一人の反応の正体は。」



 ふと自分の背後から声を掛けられたので、そっと振り返ってみる。
 そこにいたのは小さな少女。だけどその周りには、くねくねと動く植物がうごめいている。



  「……リ……リバース……!? マジかよ……噂は本当に————」


 霧島は心底驚いた表情をしていた。兜はしていないものの、マントは確かに正装の白のマント。
 そしてそのマントには、丸の中に星形が赤く書かれた紋章が大きく描かれている。



  「……お互いに詮索、余計な情報を控えておきましょう、霧島勇気君。

  ————貴方と僕、お互いに好ましい対面ではないはずです。」


  「……ッ!!」



 残念ながら、その通りだった。この対面は決して望ましいモノではない。
 それには深い理由があるのだが……それは俺にとっては口にしたくないものだ。


  「ご心配なく。ここに来たのは無論、ガロンの殲滅だけです。それ以外は何もしませんので。」

  「……助かる。」


 霧島は純粋に礼を言って、ふらふらと立ち上がる。さすがにもう、能力も切れた。
 そして周りを見渡す。黒川、水島、キル、ルエ。皆、気絶していた。

 どうやら自分の戦闘を見た者はいないと見てもいい。それは好機だったと言えるか。


  「後はお任せを。貴方達はすぐにこの場を離れて————」


  「悪いがァ……準備が済んじまった。」



 リオの言葉を遮って、ガロンはニヤリと笑みを浮かべて言った。
 自分に絡みついたツルを力づくで瞬時に外して、コキコキと首を鳴らして立ち上がった。



  「……化物ですね、相変わらず。それで? 準備とはなんでしょう?」

  「んあ? はっはっは。ちょっとした余興さ。そう————」


 ガロンはスッと視線を別の場所に移した。その場所は……









  「————ルエの『聖なる力』による暴走だ。」


 ガロンの視線に合わせて、リオと榊、霧島が視線をそちらに向ける。
 そこにはバリバリッ、と雷に似た音を立てて、ほんの少し宙に舞うルエの姿。
 閉じていた目が大きく見開き、真紅の両目が彼女の瞳に宿る。
 身体がうっすらと光って見える。まるで光を身にまとっている様だ。

 そしてゆっくりと身体を起こし、地面に両足を付ける。真紅のうつろな目でこちらを見ている。



  「ル……エ……? おいおい、なんだよありゃあ……!!」


 バリバリと音を鳴らし、光を纏ったルエが一歩ずつこっちに近づいてくる。
 霧島はもちろん、榊もリオも驚きを隠せなかった。
 そんな三人とは違い、高らかに笑いだすガロン。そして空を仰ぐ様にして呟いた。



  「そうさ、ついに完成間近まできちまったのさァ。最悪の殺人兵器がよォ……。
   長かった。長かったぜエ、ルエ。ようやく完成ここまで来たかァ……。

  ————完成前に見せてやれよ。お前のその『力』をよぉォ!!」





 ガロンの期待に応えるかのごとく、ルエは辺りを震わす程の咆哮した……————!!





      ————————第20幕 完————————