複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。 『元地山中学の生徒達。』 ( No.19 )
日時: 2013/02/12 23:54
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



      「パート3。」




  ————朝の出席が終わり、十分の休み時間が訪れる。


  私は自分の席に座り、一時間目の授業の準備を行う。ちなみに、一時間目は数学。
  この時点でお分かり頂けると思うが、今現在、霧島は猛烈にペンを走らせている。

  宿題を終わらすためにプライドを捨てて、黒川の答えを丸写しにする。
  (注、本人は全く恥じておりません。むしろこれが普通だと思っています。)



   そんな時、ふと空が気になった。

  別におかしい訳でもない。ただ気になった。否、空を見たくなったのだ。
  今日は快晴。綺麗な空だ。雲が一つもない天気に、心が洗われるようだ。



   ……そう、あるモノを見なければ、な。



   「あれは……。」


  黒川が見たモノは、下級生が複数の上級生に絡まれている場面。
  どうやら、こんな素晴らしい日にも、裏ではこんなに残酷な事が起こっているらしい。


  “やれやれ、どうしてここはいつも……。”


  深いため息を吹きつつ、黒川は教室を出ようとする。
  そんな姿を見て、水島は私を呼び止めた。


   「黒川君、もうすぐ授業だよ? どこか行くの?」


  喧嘩を止めに行ってくる、なんてのは言えない。
  皆を巻き込みたくはないからな。ここは一つ、



   「ああ、ちょっと自販機でジュースでも————」



   買おうと思って、と言おうとした瞬間、






   「おらぁぁー!!! てめぇら、恥ずかしくねぇのか? こんな弱いもんイジメしてよぉ!!」




   ……聞き覚えのある声が、外から窓を突き抜けて聞こえる。

  そして、先ほどまでペンを走らせていたはずの『アイツ』がいない————!!



   「……ねぇ、今の声って、霧島君?」

   「勇クンだねぇー♪」




  ————あのお馬鹿野郎が!! 大人しく宿題やってろよ!!


  水島は突然の事にキョトンとしている。対照的に、紫苑は爆笑。召は爆睡。


  なんなんだこのカオス!? ええい、まずい!!
  私が止めないととんでもないことに・・・!!


  階段を素直に降りている時間はない。その間に『粛清』が終わってしまう!! だったら、
  私は窓を開け、窓をくぐって、そこから下に飛び降りた……!!

  さすがに3階から飛び降りたせいか、ダンッ!! という着地音と同時に、足のしびれが襲う。

  クラスメイトがざわざわしているが気にするか。
  残念ながら、私はもう噂になって、ある種の有名人になってしまっている。
  今さら伝説の一つや二つが増えたところで気にしない!! とりあえずアイツが先だ!!

  私は全速力で走り出す。大勢の上級生と、
  口笛を吹いているあのお馬鹿野郎の間に割って入るために。


  そして私は安心した。まだ『粛清』が始まっていない。よかった。これで助かる。
  私はゼイゼイと息を切らしながら、上級生とバカの間に割って入る。



   「お、黒川。なんだ、お前も来たのか♪」

   「……なんだこいつは?」



  目をキラキラさせている霧島と対照的に、一向に笑顔の見えない上級生たち。
  ……この温度差よ。霧島、お前は完璧に楽しんでいるだろう?

  とはいえ、とりあえず向こうに引いてもらうように説得するしかない。『彼ら』のために!!


     そう思った直後であった————。



   「あ、こいつら、俺らのダチをボコボコにした連中ですよ!?」



  上級生の一人が、私と霧島を見て言う。しまった……。ばれたか。

  そう、私達はこんな喧嘩にしょっちゅう巻き込まれている。
  否、私達が喧嘩に割って入っているのだが。

  この学校はイジメが多い。上級生が下級生からカツアゲなどよくある。

  そんな状況を見てほおっておけず、正義感のある二人は喧嘩でそれを『粛清する』。
  (注、私はちゃんと話し合いをしたいと思っている。
   だが、このバカは真っ先に喧嘩を吹っ掛けるから結局喧嘩になる。)



   「……ほぉ? だったらお礼をしてやんねぇとなァ!! 野郎ども、ぶっ殺せぇッ!!」



   待て、話せばわかる!! 落ち着け、でないとお前らが————


   「なァ黒川ぁ……これってさ、こう言うんだろ?」



   私がここまで必死に止めに来た理由? 簡単さ。







   「正当防衛ってなァァーーーー!!!!! ひゃっはァァーーー!!」



   ————霧島が一度暴れれば、ここは血の海と化すからだ・・・!!!




   「ま……まてッ!! 霧島、落ち着————」


  黒川は悟る。目の前でもう獅子達が全面戦争をおっぱじめようとしている。
  向こうの士気がもう全開にまで達している。霧島も同じだ。今にも喧嘩が始まりそうだ。

   これは、無理だな。私は諦めた。



  “やれやれ、せっかくお前らのためを思って止めに来たのに……。”


  止まらないなら止める。それが力ずくでも。
  現にお前らは下級生を虐めていた。その真実は変わらない。




   「お、やる気になった? 黒川?」



  ニヤニヤと笑い、笑顔の霧島。ボクサーがやるような、妙なフットワークまでしている。
  やれやれ、そこまで楽しみなのか。子供みたいな奴だ。

  だがまぁ、こうなれば仕方があるまい……!!




   「霧島、一つだけ言っておく。


    ————手を抜けよ? やりすぎたら、後の風紀委員の質問攻めが面倒だからな。」



   「さすが黒川、物分かりがいいねぇ♪ んじゃあ、やるかァァあああ!!!!!」




    その後、全生徒はその目に焼き付ける……。
    次々と倒れていく上級生達と、

    バッタバタと殴り倒していく、二人の下級生の姿を……!!






  ————その後、残ったのは軽い悲鳴とうめき声。


  20人ほどいた上級生は、皆地面に倒れこみ、
  立っているのは二人の下級生だけであった。



   「おい、霧島。手を抜けと言ったはずだ。」



  騒動が終わり、『粛清』を終えた二人は、倒れている上級生を通行の邪魔にならないように端に退ける。
  まだ授業の始まりのチャイムはなっていない。ギリギリ間に合うか、間に合わないかの瀬戸際だろう。



   「んあ? いやいや、手を抜いたぜ? 現に皆、意識はあるじゃん?」

   「一人を除いてな。霧島、お前一人目の奴を思いっきり殴っただろう。こいつだけ目を覚まさないぞ?」



  黒川は目を覚まさず、思いっきり気絶している上級生を指さす。それを見て霧島は、



   「あ、マジで? ごめん。気分が高まってつい、な。テヘペロ♪」


  と、万弁の笑顔で全くの反省の余地なし。あのなぁ、あれほど手を抜けと言ったのに————

  その次の瞬間、授業のチャイムが鳴り響く……!!



   「黒川君、霧島君、急いで!! チャイムが鳴り終わっちゃう!!」


  上を見上げると、水島が声を挙げて知らせてくれている。これは確かにまずい。


   「まずい!! おい、黒川!! 急ぐぞ!!」
   「分かっている!!」


  黒川と霧島は駆け足で教室まで戻り始める。


   「いっそげー。 間に合わないぞ〜。」
   「ま、勇気は『別の意味』で間に合わないけどなー。」


  紫苑の笑い声、そして召の皮肉めいた声も聞こえる。


  クラスで喧嘩を鑑賞していた生徒達も、次々と自分の席に戻り始めていた。



   “やれやれ、騒がしい世の中だ。”


  黒川は教室に急ぎつつも、フッと笑っていた。
  その騒がしい世の中が、これから始まっていくのを予期して————。




  その後、ギリギリ教室に間に合ったのはよかったのだが、

  霧島は無論、宿題提出には間に合わなかったとさ————。





       ————————第2幕 完————————