複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『第21幕。』 ( No.190 )
- 日時: 2013/09/06 21:54
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
「パート2。」
————黒川達が目覚めたその頃、ガロンとリバースの二人は交戦を始めていた……。
リバースの目的はDDD教団の一員であるガロンの殲滅。そして詳しい情報の入手。
だがそれを簡単に教えてくれる程、敵も優しくも素直でもない。
まるで今までお預けを食らっていた犬の如く、ガロンは二人に牙を向けてきたのだ。
ちなみに、先ほど悍ましいほどの光を放っていた女の子は、現在霧島勇気と交戦している。
ちなみに返事を聞かずに一方的に押し付けてきた。なぜなら、
「ウラアアアアアアァァッッ!!!!」
大暴れするガロンを止めるのが、僕達の出来る精一杯の事だからだ……!!
とはいえ、ガロンはすでに幾度かの傷を負っていた。これは珍しい情報である。
ガロンが少しでも傷を負ったという情報は未だに聞いたことがない。
なぜなら彼は強すぎる。かなりの超人でなければ傷一つ付けさせてはくれない。
『鍵』が負わせたのか、それとも霧島勇気が付けたのかは謎だが……
「ぐッ……!! リオッ、お前も交戦しろッ!!」
榊は目の前のガロンの体術を流しつつ、心底苦しそうに言葉を吐き出した。
それを聞くまで自分は物思いにふけて戦いの最中だということを忘れていた。
頭を振るい、地面に手を付けて自分の周囲にまるで生きているかのような植物を召喚する。
リオは体術には長けておらず、どちらかと言えば後方からのサポートだ。
先ほどの様に植物を操って遠くから戦うのが主流だ。
対して榊は、体術と剣術に長けた接近戦のエキスパートだ。
今もガロンの暴走に近い体術を止めていられるのは榊のおかげだ。しかし、
「……あまりにも、強すぎますね。」
思わず呟いてしまう。目の前の生き物は化物だ。消耗しているはずなのに、全快に近い榊よりもはるかに強い。
一人なら負けるだろう。しかし今は二人いる————
「————止まってもらいますよ。ガロン……。」
瞬間、リオはパチンと指を鳴らした。
直後に榊はガロンとの体術による交戦は止め、即座にバックステップをした。
それを逃がすまいとガロンは距離を詰めようとするが……
「全植物操 (ツリーマインド)』……!!」
ガロンの周囲の地面から突如空に向かって勢いよく木々達が顔を出した。
木々達はうねうねとうごめいており、生きているかのようだ。
ガロンの道を阻むように現れた木々達はゆっくりと先端をガロンに向けた後、
リオの手を下ろす合図とともに、ガロンに向かって突撃していく……!!
「ははァ!! 相変わらず……」
ガロンはニヤリと笑った後、両手をまるでナイフのように尖らせ、
「お客様をご奉仕出来ねぇ植物どもだなァァ!!!」
向かって来る植物をそのナイフのような手刀でいとも簡単に切り裂いていった。
召喚された木々達はそれなりに固いし、太さもある。
にもかかわらず、ガロンにとってはケーキにナイフで切れ目を入れることとなんら変わりはない。
手刀だけでこいつは鉄をも切り裂けるのではなかろうかと思うぐらい、本物のナイフ顔負けだ。
だが、これだけで攻撃の嵐が終わるはずもなかった……!!
リオはその切り刻まれた植物を含め、ガロンの周辺にさらに植物を召喚して操り、
ガロンを中心に木々達を竜巻の様に囲った後、ギュッとガロンのいる中心を締め付けた……!!
まるで一つの塔の様な木造物が出来上がった。命名すると、『グリーンツリー』。
この中心に埋められているのが犯罪者などとは考えたくもない。
「榊、今です。やっちゃってください。」
「分かってらァァ!!!」
榊は咆哮しながら大きく跳躍する。肩に掛けている日本刀を抜きながら……。
グリーンツリーの高さは10m程。その高さに近い所まで跳躍した。そして、
「————オオオオオラアアアアアアァァァッッ!!!!!!」
グリーンツリーの頂から日本刀の刃を侵入させ、そこから真下に刃をスライスさせていく。
これまたケーキの様にグリーンツリーは縦に切れ線を残していく。
榊の日本刀は火を抜くかのごとく火花を散らし、グリーンツリーごと真っ二つにする……!!
グリーンツリーは綺麗に縦に割れ、うねりながら二つに分裂していく。
頂から少しずつ左右に分かれ、グリーンツリーは音を立てて煙をまき散らして崩れていく。
榊の日本刀は中に閉じ込めていたガロンごと真っ二つに切り裂いた、はず。
もしかしたら知らない内に脱出していた、なんて事もあるかと思ったが、
「……参ったな。どうすりゃ殺せるんだこいつ?」
榊は煙の中にある人影を見て、ため息交じりに呟いた。
確かに、崩壊していくリオの木造物であるグリーンツリーの煙の中に、
漆黒のマントをゆらゆらと揺らすガロンの姿があった……。
「さすがに今のはちとやばかったかもなぁ……。痛かったわ」
ガロンは左肩から縦に付いた深い傷を指してそう言った。そこからは多量の血が流れている。
普通の人間なら、真っ二つになっている所を奴は深手で済んだのか。しかもまだ立てるときた。
榊の日本刀はそれなりに切れ味は良い。少なくとも、人を切り裂くことは難しくない。
だが、ガロンの身体は真っ二つに出来ない程固いらしい。サイボーグか何かと疑いたくなる。
「まぁいいや。もう一度切ってやらぁ。」
「おっ、さすが威勢イイね若者よ。かかってきなさいよ。」
挑発するガロンにカチンと来て日本刀をキラリと光らせて一歩踏み出そうとしたが、リオに止められた。
リオは榊の前に立ち、ガロンに真剣な眼差しを向けて口を開いた。
「……ちょっと待ってください榊君。この際なので、聞きたいことがあります。」
リオの言葉に意外と思いつつも、榊も少しづつ頭が冷えてきていた。
そういえば、このガロンから情報を聞き出すことも目的の一つだったな。
「痛めつけてからでもよくね? 死なないだろ、こいつ。」
「その痛めつけるという行為自体が困難と判断したため、今聞くのですよ。」
それは遠まわしにガロンに勝つことが困難だと告げている様だった。いや、そう告げていた。
リオはこの状況で二人相手でもガロンに勝つのは難しいと判断した結果取った行動だった。
とはいっても、負けるつもりではない。勝つのではなく、殺すのだから。
「あっはっは。嬢ちゃん、いさぎいいねぇ。どうだ? 俺とワンナイトするつもりは?」
「残念ですが、僕では貴方を満足させるには幼すぎるかと。」
「ぷっ、はっはっは。こりゃ一本取られた。いやー、失敬。それもそうか。」
リオとガロンが何を話し合っているのかは大体分かる。俺も相応の年だからな。
とはいえ、リオの対応は何なのか。9歳の対応じゃないぞ今のは。
「……いいぜ、気に入った。お嬢ちゃんに免じて、おじさん少し質問に付き合ってやるよ。」
「ご協力感謝します。」
なんだかんだで丸め込むことに成功したリオ。おいおいマジか。
ガロン・ヨルダンと言えば、DDD教団の中でもかなりの戦闘狂だ。
そんな奴と話し合いとか成立するとは、微塵にも思ってはいなかった。
ガロンはその場に座り込み、ふいーと一息吐く。
無論、リオも榊も臨戦態勢は解いていない。日本刀も握ったままだ。
「ではさっそく。————ガロン、貴方は『鍵』と接触しましたね?」
リオはいきなり確信に近い質問をぶつけていく。その顔は真剣だ。
『鍵』。その存在についてはリオも、リバースも知らない事だ。
唯一知っている事、それは『鍵』と呼ばれる存在が世界を破壊する引き金になるという事。
そしてその『鍵』とは————
「————『鍵』である、黒川に貴方は何をしましたか?」
そう、『鍵』とは黒川の事を指している。なぜなのか、それを不明だ。
ただDDD教団は黒川の事を『鍵』だと言い、そして何らかの事を考えている。
その何らかの事や背後に潜む本当の目的は今も謎で、闇に包まれている。
しかし、ガロンは特に驚いた表情を見せず、意外にも冷静だった。
「……そういや、あのぼっちゃんが黒川だったか。忘れてたな。」
「どういうことですか?」
「深い意味はねぇよ。ただ忘れてたのさ。喧嘩が楽しくてなぁ。」
ガロンは思い出し笑いでもするかのようにくっくっくと笑った。
前々から思っていた事だが、ガロンは他のDDD教団とは少し違う。
ガロンに関しては、特に『鍵』について深入りが無いように見える。興味がないのか。
しかし、『鍵』である黒川が何か関係しているのは間違いない。それは確か。
「……という事は、ただ殴り合っただけ、ということですか?」
「そういうこった。嘘はついてねぇぜ? それに、確かに黒川とやらは『鍵』と言われているが、
————『鍵』は引き金になるだけだ。それ以上の事なんてねぇよ。」
ガロンの言った言葉は理解するのには情報が少なすぎた。情報屋であるリオが分からないぐらいに。
榊も多少の事情を知っているとはいえ、この話についていく事は難しいだろう。
「では『鍵』とは何なのです? それが示す意図は?」
リオはさらに質問を重ねていく。そろそろ口を閉ざす頃かなと思っていたが、
意外にもガロンは、「そろそろいいか……。」とだけ呟いて、話を続けた。
「嬢ちゃん、『天使』っつうもんを信じるか? 聞いたことがあるかい?」
「天使……?」
天使とは、頭に輪っかみたいなものを付け、羽を生やしているあれのことだろうか。
信じるも何も、あれは天国とかに浮遊してるものじゃないのか。いや、そもそも、
「天使など存在するとは思えませんね。非常識です。」
「でしょうなぁ。だがな、いるんだよなぁこれが。
————最終的に、世界を破壊するか、救うかを決定する天使様がな。」
「……?」
ガロンの言う意図がいまいちつかめない。話が飛びすぎている。
『鍵』の話がなぜこんな『天使』とかいう話になるのか。現実味がなさすぎる。
リオはキッとガロンを睨んで威嚇するように言う。
「……もしかしてはぐらかしているわけではないですよね?」
「怖い顔すんなって。信じられないのも分かる。今は普通の人間になりきって生活しているからな。
その普通の人間が『天使』になるために、『鍵』である奴が必要になるのさ。
『鍵』が『天使』の力を目覚めさせ、天使が降り立つ。そして————」
ガロンはスッと立ち上がり、ニヤリと笑う。さっきまで無かった殺気も溢れだした……。
「————『天使』の力を利用し、世界を破滅へと導くのさぁッ!!!!」
ガロンからとてつもない強風が吹き荒れた。威圧にも似た感覚。背筋が凍る。
それだけじゃない。それ以外にも何かが……『いる』!!
「————!!」
リオも榊も気づいた時には、遅かった。すでに、『攻撃されていた』。
二人ともその位置に立ち尽くしたまま動かない。否、動けない。
まるで金縛りにあったかのように身体が動かない。ピクリとも動けない。
ガロンの攻撃じゃない、のは分かっている。なぜなら————
「————うふふ、気づくのが遅いのよ、坊やたち〜。」
攻撃した本人が、自分達の背後にいるからだ……————!!