複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『鍵。』 ( No.194 )
- 日時: 2013/09/08 21:16
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
「パート3。」
————別に身体を痛めつけられたわけではないが、何かしら攻撃されている。
どうやら金縛りにも似た攻撃の様だ。リオはギリッと歯を食いしばる。
「……遅かったなぁ。遅刻だぜ遅刻。」
ため息を吐きながら、ガロンはやれやれと愚痴をこぼす。
ガロンが事前に呼んでいた援軍の様だ。こいつらもDDD教団か。
「ごめんねぇ〜。化粧してたら遅くなっちゃったぁ。」
「お嬢が裸で出陣するとか言わなきゃもっと早かったと思うんじゃが……」
「だってね〜若、裸なら服選ぶ必要ないじゃない。」
「だからといって服脱いだらただの変態じゃろ。オレに襲われたいのか」
「きゃあ〜、若のへんた〜い。」
そんな若干下ネタの話を挟んでくる援軍とやらが、やっと二人の視界に入ってきた。
一人目は、身長175cmの大人びた女性。金髪赤目。派手な化粧をしている。
ピンクメッシュが入っていて、センターわけのポニーテル。両サイド編みこみにしている。
太ももに刺青が入っており、踊り子のような服装をしており、露出がかなり多い。
右足にレッグホルダーをつけていて、裸足だった。
アクセサリーをたくさんつけており、ヘソと眉のピアスが特徴的であった。
女性特有の胸の膨らみは相当大きい。ほとんどの人が憧れそうだ。
会話から推測すると、どうやら服を脱いで出撃したがるような変態の様だ。
そんな奴に攻撃されたのかと思うとリオは少しだけイラついた。
二人目は、身長180cmでツンツン頭をした男性。色は白金に赤メッシュが入ってる。
青緑色の目をして、小麦色した肌、山吹色とトマト色っぽいチャイナ服を着ている。
両肩から胸辺りまで鳳凰の刺青が入っている。腕にサポーター的なのをつけていた。
会話から推測して、この隣の女性と親しそうな雰囲気を感じる。セクハラをするぐらいには。
とはいえ、どことなく普通の人間と雰囲気が違うのは何故だろうか。
二人はガロンの前に立つと、軽く挨拶を交わした。友達と挨拶を交わしている様な感じだ。
「莉紅ちゃん、相変わらず仕事してくれるじゃない。いらなかったけどな。」
「あ〜ら、素直に礼の一つも言えないのかしら。ガロンちゃん。
ところで、ガロンちゃん。アタシ達なにすればいいの〜? コスメ買いに行きたいんだけど。」
「……相変わらず自由なこって。」
この莉紅と呼ばれている女性のフルネームは、『王莉紅 (おう りく)』。
見た目通り派手でかなりの露出狂ではあるが、これでも王女様なのだ。
この世界ではないが、この女とは別の異世界で出会った。
彼女は別世界では王国の第一皇女であり、そしてその世界での狂乱の台風の目であった。
ほぼ彼女が王国を支配していると言われるほどの力、魅力を持ち合わせており、
その腕を評価し、ガロンがわざわざ出向いてスカウトした、というのが初めての出会いだった。
スカウトすれば彼女は喜んでついてきた。なぜなら、彼女も望んでいたからだ。
退屈な日々、退屈な毎日に愛想を尽かしていた。
試しに王国を支配しようも、いまいち楽しくはない。すぐに飽きた。
DDD教団のやろうとしている事に興味を持ち、今はこうしてここにいる。
ちなみに、もう一人の男は、『鳳広炎 (ほうこうえん)』。
こいつは莉紅をスカウトした時に一緒にいた付き人みたいな奴だ。
とはいえ、こいつは莉紅によって召喚された、『式神』と呼ばれる生体だ。
『式神』はいわば、召喚した主に忠誠を誓う部下みたいなものらしいが、そうは見えない。
確かに忠誠を誓っている様だし、この莉紅以外の命令は一向に聞かない。
天界人らしく莉紅となんらかの契約を交わしているらしいが、詳しい事は知らなかった。
とはいえ、腕は確かだ。ガロン自身もそれに関しては信頼を抱いている。
ガロンはため息を吐くと、リオと榊に背中を向けて、どす黒い闇の空間を出現させる。
「とりま、俺の用件は済んだ。ルエもこの調子なら完成まで大丈夫だろ。暴走も時期止まる。
だから移動すっぞ。他の場所に行って別の準備を始めるぞ。」
「え〜、コスメは〜? ……というか、この子たちはいいの? 殺さなくて」
その瞬間、二人は悪寒を感じた。恐怖にゾッとする感覚が身体を駆け巡る。
確かに今のままではまずいッ……。動けないままだったら、簡単に殺される……。
「あほか。今殺したら楽しみが減る。ほっとけ。」
「ふあーい。」
「……。」
莉紅は軽い返事をしたが、広炎に関しては無表情の無返事と来た。
なぜならコイツは莉紅以外の命令はスルーしやがるからな。
「……後、広炎に命令してくれや。俺の命令を聞きやしないんだからよ。」
「ふあーい。広炎。分かった?」
「……お嬢が望むのなら。」
「……ッ!! ちとまてやコラァ!!」
思わず叫んだのは憤怒した榊だった。普通は見逃されることは幸運だと思うべきなのだろうが、
ここまでコケにされて、同情で見逃されることにはいかんせん許せないものがある。
「まだ勝負は……ッ……終わってねぇだろうがッ!!」
榊は動かないと分かりながらも必死に抗う。まるで時間が止められているかのようにピクリとも動けない。
そんな榊を見て、クスッと莉紅は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「あ〜ら、状況を飲み込めてないようねぇ〜」
「……お嬢」
スタスタと榊に不用意に近づく莉紅の後ろをピタリと広炎がついて行く。
動けないとは分かっているが、一応の保険である。
莉紅が榊の前に立つと、挑発するかのように莉紅は榊の顔を撫でて、自身の顔を近づける。
「感謝しなさいよね〜。二人とも殺されずに済んだんだからさぁ。」
「……殺さなかったら後悔するぜ。かならずお前らは俺が殺す。」
「うふふ。威勢良いクソガキね。次いったら、本当に殺すわよ」
莉紅の一瞬発した殺気にリオは一瞬ゾクッとした。まるで死神に睨まれたようだ。
榊は相変わらずこの不利の状況でも一歩も引く気はない。希望を捨てる気もない。
だが、この莉紅という女がここまで近くにいて殺すチャンスだというのに、身体は動かない。
一体どんな魔法を使っているのか。正直状況を整理できない。カラクリも分からない。
「お嬢。そろそろ……」
「分かってるわよ。」
莉紅は後ろについていた広炎をさっさと抜き去って、ガロンの元へと戻る。
その後ろ姿を追った後、広炎はもう一度榊の方に向き返った。
「……まだ何か用かよ、エロ紳士。」
皮肉めいて言った言葉に腹を立てるかと思ったが、意外にも冷静だった。
広炎は特に変わった表情を見せず、無表情で、
「……忠告じゃ。小僧、出すぎた真似をするな。……死ぬぞ」
「……ッ!!」
とだけ言い残し、広炎も莉紅の後を追った。
広炎と莉紅は早々とガロンの出現させた異次元の空間に入っていった。
最後にガロンは動けない二人にニヤリと笑いかけた。
何も出来ない俺達に向けて、あざ笑うかのように……。
「また会おうや、リバースの諸君————。」
それだけを言って、ガロンは異次元の空間に飛び込んでいった。
ガロンが飛び込んだ後、異次元の空間はうねりを上げ、そして消滅した。
無論、ガロンとあの二人の姿はすでにおらず、もぬけの殻だ。
「……。」
奴らが消えた後、すぐに金縛りは解けた。今は身体が自由に動く。
リオも榊もしばらくは立ち尽くしたままだった。自分達の完敗だった。
あのまま殺されても可笑しくはなかった。むしろ勝ち目などあったのだろうか?
『出過ぎた真似をするな。……死ぬぞ』
目の前であの男に言われた言葉。相当の達人だったに違いない。雰囲気で分かった。
多分動きを封じられていなくても、俺達に勝ち筋があったのか疑うぐらいだ。
榊は、歯軋りをした。心の内面で憤怒した。そして思い知らされた。
力の差を。実力の差を。目の前に立ちはだかる壁の巨大さが身に染みて分かった。
奴らは強い。俺達ではたして本当に勝てるのか……?
「……くそが……くそが……」
ポツリと呟いた。意識して出た言葉じゃない。悔しいから、無意識に出る言葉。
それを徐々に大きくなり、気付けば榊は地面を思い切り殴っていた。
地面を殴った拳の痛みが、榊の身体に染み、悔しさがさらに込み上げる。
「……榊君、行きましょう。」
その場に座り込む榊の横には、いつの間にかリオがいた。
相変わらず冷静な口ぶりで、今の榊とは対照的のように見えた。
「……悔しく……ないのかよ?」
「……悔しくないわけがないでしょう。」
榊の質問にリオは空を仰いで言った。だけど、と言葉を紡ぐ。
「このまま立ち尽くしていても仕方ありません。帰還しましょう。
————そして強くなりましょう。彼らに負けない様に……。」
時々リオが自分よりも年下だという事を忘れる。こいつはまだ9歳だ。
にも関わらず、しっかりしている時はしっかりしてやがる。
そうだ。ここで立ち尽くしていても仕方がない。リオの言うとおりだ。
次に会う時は、負けない。勝って、必ず倒す……。
「……帰還するぜ、リオ。」
「了解です。」
榊は重い身体を起こし、リオと共にリバースの本拠地へと帰還した————。
————————第21幕 完————————