複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『ルエの暴走。』 ( No.201 )
- 日時: 2013/09/11 19:56
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
「パート2。」
間一髪のところだった。もしもキルの到着が遅れていれば、黒川達は死んでいた。
とはいえ、キルも気絶していたはずだが、どうやら自力で立ち上がったらしい。
自力で、というよりかは、ルエの暴走を感じ取ったが故みたいだったが。
「————すまない。助かった、キル。」
「助けてくれてありがとね。キル君。」
素直に礼を言う黒川と水島にフッと静かに笑いかけ、「気にするな。」とだけ言った。
霧島も近くに来て黒川の胸辺りをゴツンと殴った。
正直痛かった。だがその表情は安堵に満ちたものにも見えた。
「ひやひやさせんなコンニャロウが。」
霧島も本気で心配したようだった。黒川にしてみれば霧島の方が心配だったのだが。
とはいえ、「すまない。」と一言短く礼を言い、そして周りに聞こえない程度に耳元で小さく、
「……どうやら助けられたな。ありがとう霧島。愛奈を助けてくれて。」
「……はっ、何の事だか。」
馬鹿な霧島も何の事を言われているかは分かった。きっとガロンとの事だろう。
多分霧島が能力を使った事は知らないだろうが、それは伏せといてもいいだろう。
水島は一瞬見たみたいだが、多分その後気を失って覚えてはいないだろう。
とはいえ、霧島は素直に礼を言われて恥ずかしくてとぼけたが、黒川にはそれで十分だった。
「……さて、問題は————」
黒川は問題のルエの方に向き直った。ゆっくり雑談している場合ではない。
今のルエは完璧に自我を失っている。それは誰の目に見ても分かる。
問題は原因だ。なぜああなったのかが疑問に思うところだ。
多分今解放されてるあの力が、『聖なる力』とやらでいいはずだ。
だがどうすれば止められる? どうすれば止まる?
キルに説明を求めてみたが、帰ってきた答えは至極簡単な答えだった。
「————力づくで止める。これしかない。」
と、言う事らしい。
霧島納得の簡単な一言なので有難いと言えば有難いが、はたして可能なのか。
今のルエは今までの何倍も強いと思われる。ただでさえ強いのに、だ。
こちらもかなり消耗している。霧島はもちろん、キルも万全ではない。
黒川はそれなりに万全に近いが、一人だけでは心もとない。
とはいえ、これしか方法がないならやるしかないのだが……。
「……愛奈。どうやら戦闘になりそうだ。さっきみたいに攻撃を食らう可能性もある。
————安全な場所で隠れててくれ。私達はルエを止めてくる。」
黒川はポンと水島の頭を撫でて言う。水島は確かに足手まといになってしまう。
近くにいて守り切れる自信がない。だからそれならここにいない方が危険性は減少する。
水島は一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに黒川の意図を理解した。
「……うん。分かった。気を付けてね、黒川君……。
————あと、今度死にかけたら今日の晩飯は抜きですから。覚悟してね。」
「……了解した。かならず無事に帰る。」
黒川は微笑して言った。飯抜きはごめんだ。愛奈の作る飯は世界一美味だ。
だからこんなところでお預けを食らうわけにもいかないな……!!
「……霧島、キル。ルエを力づくで止めるぞッ!!」
「あいよぉ!!」
「ああッ!!」
黒川の合図とともに、互いにその場に分散する……。
黒川は真正面を走り抜け、拳を握りしめてルエへと一直線に走り出す。
霧島は右から弧を描くかのごとく走り抜け、ルエに向かって大きく跳躍する。
キルは左から軽やかなステップを刻みながら、右手に持つ剣をギュッと握り絞める。
その姿を見てか、ルエはいきなり周囲の光を自身の周辺に竜巻のように集める。
光が忙しなく周辺を飛び回り、グルグルと高速回転を始める。
それはすぐに球体の形になり、ルエの姿が球体の中へと閉じ込められる。
まるで殻に閉じこもっているカメの様な状況だ。だが、
「かんけぇねぇ!! ブチ破るッッ!!!!」
すでに跳躍してゆっくりとルエの上空から降下していた霧島は身体を捻り、横に旋回する……。
黒川は右手を握りしめ、ゆっくりと後ろに引く……。
キルは剣を両手に握り、頭上に高く持ち上げる……。
「『目を覚ませぇぇルエええええッッッ!!!!!!』」
一斉に咆哮し、一斉に光の殻に向かって攻撃を放つ……!!
霧島は上空から回転で威力を高めた上段蹴りを、
黒川は正面から渾身の右ストレートを、
キルは上段に構えた剣を勢いよく振り下ろしたッ!!
各々の攻撃を光の殻は通すまいと防御した。ギリギリッと擦れる音が鳴り響く。
どうやらこの殻の表面は光が高速でうごめいているようで、まるでカッターの様だった。
打撃で攻撃をした黒川と霧島は切り裂かれた手の甲と足にかなりの痛みが走る。
苦痛の顔を浮かべながらも、負けまいと拳を押し込む。しかし、
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!」
中のルエが奇声を上げたかと思うと、周囲に衝撃波が巻き起こったッ!!
三人はいとも簡単にその身体を吹き飛ばされ、真空波が身体を切り裂く。
無残にも身体を吹き飛ばされた三人は各々が苦痛の声を上げた。
殻を破る事も叶わない。ルエには声が届かない。
身体も正直限界に近い。これではルエに逆に殺されてしまうのではなかろうか。
「……ふっ、参った……打つ手なしか……」
思わず黒川は苦笑して呟いてしまった。本当にどうしようもないかもしれない。
今もまだルエは殻の中。しかも周辺には突風が吹いている。
否、むしろ力を溜めているようにも見える。何かしようとしているのだろうか。
とはいえ、このままやられるのを待つのも癪だ。せめて全力を出し切って————
「ルエちゃんッッ!! 目を覚ましてッ!!」
瞬間、黒川は背筋が凍る思いをした。
聞きなれた声はルエの周辺から聞こえる。しかも、殻のすぐ近くでだ。
いや、彼女は避難しているはず。あそこにいるわけがないのだ。
でも自分の視覚は嘘だと伝えてはくれない。聴覚は正常であった。
遠目でも分かる。あそこにいるのは————
「————愛奈ッッ!!!!!」
黒川は走り出していた。一刻も早く、彼女の元へ。
だけど彼女は戦おうとはしていない。もっとも合理的で、平和的な解決方法、
水島愛奈が友達であるルエを説得しようと試みているのだ……————!!