複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『生きたいという願い。』 ( No.206 )
- 日時: 2013/09/13 20:56
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: https://twitter.com/hitodenasi1206
————第23幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……。』————
「パート1。」
それにしても不思議な感覚だった。まるで夢を見ているようだった。
不思議な事に、黒川達はルエの精神世界に行き、結果的にルエの説得に成功した。
なぜそんな精神世界に行けたのかは、今も謎である。だが……————。
————ルエの精神世界に行く前の事、
「愛奈ッッ!!!」
私が全速力で駆けだした時、愛奈はルエの一番近くにいた。
ルエは自ら作り出した球体に閉じこもり、今にも爆散しそうな勢いだった。
突風が辺りを襲い、黒川がやっとの思いで愛奈の元にたどり着いた時、
「……愛奈?」
愛奈はルエの作った光の球体に手をやり、目を閉じて何かを呟いていた。
その球体は触れると皮膚を容赦なく切り裂くものだったはずだが、妙だった。
愛奈の手は傷ついていない。それは咄嗟に手を伸ばし、確かめた黒川にも同じだった。
さっきは皮膚が切り裂かれるほど痛かったのに、触るだけなら別に支障は出なかった。
後に霧島とキルも合流し、黒川と水島は顔を見合わせた。
「どうやら普通に触る分には攻撃してこないようだ。しかし……」
「ルエちゃんは今も苦しんでると思う。……助けなきゃ。」
水島の言う事はもっともだ。こうしている内にもルエは爆発して自滅しそうだ。
助けたいが、どうやって救出するべきだろうか?
……いや、迷う暇はない。
「……ルエッ!! 返事をしろッ!!」
大きな声で呼びかけても、中のルエはうんともすんとも言わない。
霧島も自慢の大声で呼びかけるが、私達の耳がキンキンするだけだ。
そこで黒川は水島が静かな事に気が付いた。
「……どうかしたか、愛奈。」
「黒川君、もしかしたら……ルエちゃんと話が出来るかも……」
水島は中の苦しそうなルエの姿を見ながら静かに呟いた。
「どうやってだ? 何か方法が……?」
「私ね、今ルエちゃんの心の声が聞こえるの。」
「心の……声……?」
驚いて次の言葉が続かない黒川は復唱する事しか出来なかった。
まるで何か霊的な事を言われてる様だった。
心の声なんて超能力者でもあるまいし————
「————……!! 愛奈……君はまさか……」
そこで黒川は気が付いた。そして脳内に一つの仮説を思い浮かべた。
まさか愛奈が……『能力者』……?
それも他人の心を読み取る能力? もしくは……対話を可能にする能力か?
色々分からない事はあるが、今はどうでもいいッ!!
これしかどうやら頼れそうな可能性はないらしい————。
「愛奈、ルエと交信は可能か?」
「……やってみる。黒川君、皆、私の手に重ねて。」
水島の言うとおりに三人は彼女の手に各々の手を重ねる。
水島は目を閉じて小さく念じる……。全員が息を飲む……。
「————お願い……ルエちゃん……!!」
瞬間、我々の意識は閉じ、世界から意識を切り離された……。
————その後、私達はルエの精神世界に行くことが出来た。
本当に交信出来るとは思ってなかったし、完璧に水島頼りだった。
おかげで説得されて正気に戻ったルエは光の球体の殻を破り、元に戻った。
赤く光っていた真紅の両目も元の色に戻っていた。『聖なる力』も暴走する気配はなかった。
ルエが戻ってきた事は私達にとっては本当に嬉しい事だった。
水島は号泣してルエに抱き着き、お互いに嬉しさを噛みしめ合った。
キルも恥ずかしそうに頬を赤らめながらルエの帰宅を迎えた。微笑ましい光景だ。
……というわけで、私達は無事にこの場を乗り切る事に成功した。
私達が全てを終わらした頃には、怪しい奴らもガロンもいなかった。
だがおかげでこちらは大事な仲間を取り戻すことに成功したのだ。良しとしたい。
と、このまま平和的に終われればよかったのだが、
「あ……」
ルエが何かに気が付いた。それは黒川達も気が付いていた事だった。
黒川達の身体が、消え始めていた……。
この世界におけるタイムリミットがきたらしい。しかし、
「どうやら、これも研究対象らしい……。」
黒川は参ったと言いたげな表情で空を仰いで言った。
黒川は自分の腕時計はすでに1時間以上経っている。
これはこの世界に1時間以上滞在していた事を表す。
黒川の能力では、30分が限度のはずなのに、だ。
色々分からないことが多すぎて悩むことが多そうだが、しかし、
「別れは、いつだって変わらないな。」
そう告げた黒川はどこか物悲しげな表情だった。遠い目でどこかを見ていた。
どんなに滞在しようとも、別れは来る。
それをキルとルエには話していたから、二人はいつかは来ると分かっていた。
「……けど、いざ来るとさみしいな。」
キルが苦笑して呟いた。きっと寂しいのは向こうも同じだ。
そこでふと霧島は肩を組んで、笑顔で言った。
「なぁに、また来るって。水島ちゃんがルエちゃんと約束事があるしな。それに————」
霧島の人差し指がどこかを指した。その方向にあったのは、皆の思い出の場所だ。
「また風呂入ろうや。今度も男同士で、な。」
「……ああ。」
キルもニッと笑って霧島と拳を合わせた。男同士の約束の印。
「……しばらくは、お別れだね。ルエちゃん。」
「……うむ。寂しくなる。」
水島とルエもお互いに横に並び、同じ世界の同じ空を見上げた。
いつか霧島の言った約束を果たす為にこちらに戻るつもりだ。
けどいつになるか分からない。それまではしばしのお別れ。
「水島、困ったことがあったら私の名を呼んでくれ。どこにいても、駆けつける。」
「ふふっ、ありがとルエちゃん。」
「わ……私は本気だぞ!?」
ルエは顔を紅潮させて言う。そしてそれが難しい事も。
けど、ルエは信じている。きっとまた会える。信じていれば、きっと。
求めれば願いはかなうと、ルエはさっき身を持って体験したから……。
「……時間だ。」
黒川達の身体が本格的に消え始めた。透明になり、実体ではなくなる。
完璧に消える前に、水島はルエの方向に向き直り、ルエの手を握った。
もちろん感触はない。すでに実体を失いつつある。でもなぜか、ルエは握られてる気がした。
「ルエちゃん、私達は一生友達。約束だよ。それと————」
「水島————」
ルエが咄嗟に手を伸ばす。水島の身体を抱きしめようとした。
だけど掴めない。抱きしめることは出来ない。だけどそのかわりに————
「————大好きだよ、ルエちゃん……」
ルエの両手を確かに誰かが握った。それは間違えるはずもない。水島の手だった。
笑顔でルエに微笑みかけ、黒川達は元の世界へと飛んだ……————。
黒川達が目覚めると、そこはいつもの人気無い公園だった。
久々に帰ってきたような感覚だった。それほど向こうの時間が長かった。
そして色々ありすぎた。デュエルに風呂にDDD教団。
濃厚な時間を過ごしてきたのだから少し心細いのも頷ける。
「……なんか、いつも以上に寂しい気がするぜ。」
「……そうだな」
霧島の呟きに黒川はこの上なく同意した。身体もなぜか重い。
特にさびしいのは水島だろう。ルエと一番接点を持ったのだから。
全員寂しいのは同じと言えた。ゆえに別れがつらかった。
とはいえ、いつまでもここにいても仕方がないと思い、黒川は重い腰を上げて立ち上がった。
身体を起こし周りを見ると、無事に全員こちらに帰ってきていた。
霧島は大の字で寝転がっており、
水島はどこか寂しそうな表情をしており、
ルエはきょとんとしている。
キルはきょとんとしている。
黒川は一度ため息をついた。皆疲れている。
特に後半の二人なんて、まるで何が起こったか理解してないような顔だ。全く。
……………………ん?
「……………は?」
自分でも情けない声を出したなぁと黒川は思った。でも出さずにいられない。
……あれ? 私達は今どこの世界に行き、誰と別れを告げたのだったか?
「なんだよ黒川、そんななさけねぇ声出して。」
「いや…………それはな……そのな……」
「ルエちゃん……しくしく……」
「あ……愛奈さん? 泣いてるのかふざけてるのか分からんが……とりあえず後ろを見てみるがよい。」
「ふ……ふざけてないもん!! ……って後ろ?」
霧島と水島が後ろを振り向くと、見知った二人がいる。
ルエとキルもキョトンとしたまま止まったままだ。そして、
「みず……しま……」
「…………。」
「よ……よぉ。霧島。」
「…………。」
ルエとキルが呼びかけるが、二人の反応は一向に変化しない。
無言のまま二人を交互に見て、ゴシゴシと目をこすって確かめる。
幻想じゃ……ない……。
「ルエちゃん……」
「水島……」
「霧島……」
「キル……」
お互いに各々の名前を呼び合った後、
「ルエちゃあああん!! うわあああああんッッ!!!!」
「み……水島!! 首が痛い!! 嬉しいが首が折れる!!」
「霧島あああああ!!!! また会えたぜひゃっほぉぉーーー!!」
「ぐへぇ!! おまっ、感動の再会が右ストレートとか止めろやッ!!」
なんかちょこちょこ悲鳴が聞こえている気がするがこの際気にするのは止めた。
黒川はそんな光景を目にしながら、いつも通りにやれやれ、と呟いた。
悲しむだけ無駄、そんな気がする。最近そう思い始めた。
私の能力で出会った人は、何らかの法則でこの世界に飛ばされている。
なんとなく今なら分かる。それは『絆』の力だ。
私達と深くかかわり合いを持った人が皆こちらに来ている。
だからルエもキルも来たのだ。絆に惹かれて。切れない赤い糸とはよく言ったものだ。
「大好きだよ、ルエちゃん!!」
「……私もだ。水島。」
「よし、風呂入りに行こうぜ霧島!!」
「また行くのかよ!?」
騒がしくなりつつ公園で笑顔が飛び交っている。
そしてそれは確かに私達の不安な気持ちをほんの少し和らげてくれている。
考えることもある。色々と悩むことはある。けれど、
「全く、やれやれだ————。」
今はこう言わずにはいられないほど、この時間は和やかだった……————。