複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『魔法編完結。』 ( No.209 )
日時: 2013/09/17 20:48
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: https://twitter.com/hitodenasi1206




         「パート2。」



 空は快晴。見渡す限りは風が何の障害もなく通り抜けるほど見通しの良い景色。
 所々にポツンと立つ木が風によってざわざわと騒ぎ、木の葉が揺れ動いて落ちる。
 鳥の鳴き声がまるでBGMの様に聞こえ、琥珀色の髪にパイナップルヘアーをした少年は息をのんだ。

 自分の目の前には見たことのある様な生物がいっぱいいる。
 例えば全身青色のプルンとした触り心地のしそうな立体的な三角形みたいな生物。
 コウモリの様だけど愛らしい顔立ちをしており、洞窟とかによくいそうな生物。
 ドシンドシンと歩く度に地響きを鳴らす薄いオレンジのレンガで作られた古代人形。

 間違いない、と琥珀色の髪のパイナップルヘアーの『瓦 源次』は思った。

 自分達は今回、異次元のゆがみをこじ開けてこのもしもの世界に来た。
 この異次元のゆがみが世界の異変を表し、事件の前兆を表すものなので、
 異次元のゆがみの先の世界の調査をしてそこにいる異端者、DDD教団の野望を探る。
 つまりDDD教団がもしもの世界を破壊しようとしているのを止めようとそういうわけだ。

 そして今回、異次元のゆがみをこじ開けて来た世界は世界的にも有名な世界。
 名前だけなら知らぬ人の方が少ないのかもしれない。そこは————




  「————ドラゴンクエストの世界、ねぇ……」



 そう、そこはドラクエというRPGゲームの王道とも言われている有名な世界だった。
 私達の親父辺りの時代ではあまりにも人気過ぎて社会現象になった事もあるという。
 仕事を休んでまでドラクエを買いに行くのは一体どんな世の中だったのか。

 そんな世界に現在来ているのは、『柿原 召』、『賀茂 紫苑』、そして源次の三人だ。
 紫苑の占いが正しければ、ここには危険が迫っているという事になる。
 とはいえ、こんな有名どころのRPGにさえ危険が迫っているとは一体どういう事なのか。



  「どう見ても平和そうに見えるのは俺だけかー?」


 脱力した姿勢でやる気のなさそうに声を出したのは柿原だった。
 確かにもっと殺伐としててもいいというのに、あまりにも和やかで平和すぎる。
 この辺でピクニック出来るほど良い天気で良い眺めで良い風だ。
 その和やかすぎるせいなのか、紫苑はすでに緊張感の欠片もない。
 その辺にいる青い三角形軟体生物を追い回しては捕まえ、その触り心地を確かめている。

 その青い三角形軟体生物の正体は、ドラクエでは一番有名な『スライム』という魔物だ。
 序盤で出てくる魔物で経験値は1。素手でも勝てるという最弱の魔物だ。
 そんな最弱の魔物を紫苑は我が物顔でおもちゃにして遊んでいる。

 ……おーいお嬢ちゃん、スライムを駒の如く回してあげないで。角らしきものが取れちゃう。



  「さぁて……このグダグダな展開はどうしたものかねぇ。」



 何も起きてる様には思えないこの世界でやる事がはたして本当にあるのか。
 本当にこのまま魔物達と遊んでいるだけの無駄な時間になってしまうのではと危惧し始めた。


 ……そんな時、源次に一匹のスライムが近づいてくる。

 ポヨンポヨンと可愛らしい効果音を鳴らし、自分に近づいてくる。
 愛らしい顔立ちをしていて、時々フルフルと揺れている。
 この仕草を見れば世の女性は「可愛い」と言ってもてはやす事だろう。
 しかし男代表、瓦源次は違う。そんな仕草を見た所でおちょくってるのか、としか思わない。
 むしろ女性に甘えようと計算しているあざとい行動にさえ思えてくるのだ。……許せん。

 世の男性は変な行動(意味深)を取るだけで警察に捕まってしまうというのに、
 このスライムは変な行動(意味不明)をやりたい放題なのだ。そんなのは差別だ。
 フルフル揺らして許されるのは、女性のお尻と大きいお胸でこの世界は十分なのだ。

 源次はニヤリと笑った。彼の内面では日頃のどす黒い何かがふつふつと燃え上がっている。



  「……せっかくドラクエの世界に来たというのに、何もしないのは気が引ける、ねぇ?」



 源次はもう一度、ニヤリと笑いかけた。スライムに向かって。その顔は笑ってるようで笑ってない。
 源次の手には小太刀が一本握られている。この世界には経験値というモノが存在するはず。
 もしスライムを倒せばレベルアップできるのだろうか? レベルアップは重要なお仕事だ。

 これは必要な事なのだ。RPGでボスを倒すのに必要なのだ。(彼はこの世界の人ではありません。)



  「心配ないさスライム君。おたくの犠牲は俺様の中で一生生き続けるのだから……。」


 顔がヤンデレ気味になっている源次は他の人から見れば危ない人だろう。
 その証拠にたまたま視線をそちらに向けた柿原が苦笑いしている。止めようともしないが。
 源次の小太刀がキラリと光った。ああ、あれで八つ裂きにする気かと柿原は呆れていた。


 そして源次の小太刀がスライムに大きく振り上げた瞬間————




  「————スラッッ!!!!」



 スライムは閃光の如く小さな身体を瞬時に動かし、
 源次の腹部に向かって渾身の体当たりをブチかました。ドゴッていう鈍い音がした。



  「ゴフッ!!」


 源次はたまらず小太刀を落とし、両手で腹部を押さえてうずくまった。
 うーんうーんと悶絶している。お前は妊婦かと柿原は突っ込みたくなった。


 後の源次の証言によると、

 【あれはドラゴンボールでいう孫悟空のひじ打ちを腹部に受けたリクームの様な気持ちだった。】

 と、証言している。元ネタが分かる人がどれ程少ないだろうかと柿原は心配だったが。
 そんな源次をまるで愚民を見るような目で見るスライム。……こいつ本当にスライムか?

 あの愛らしい顔とやらはどこへ飛んで行ったのか。そしてついには、



  「きたねぇ手で僕に触るなズラッ!! 下等な変態親父ズラッ!!」


 なんという幻聴まで聞こえてきた。これには柿原は開いた口が塞がらない。
 けど何故だろう。変態親父という点にはこのスライムに激しく同意したい。


 後の源次の証言によると、

 【あれはツンデレだった。】


 と、証言している。柿原が頭を抱えるのには十分なぐらい、源次はバカだった……————。