複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『ドラクエの世界。』 ( No.210 )
- 日時: 2013/09/23 20:10
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: https://twitter.com/hitodenasi1206
「パート3。」
「————で、なんでおたく喋れるのよ?」
喋るスライムの渾身の一撃を食らって若干フラフラの源次は聞きたい事を質問してみた。
あの後異変に気付いた紫苑も源次の元に来て、源次の様子を見る度腹を抱えて笑っていた。
そして現在は一本の大きな木の下で三人+一匹が集まり、小会議を開いている。
その問題のスライムはというと、紫苑の膝にチョコンと乗っている。代われこの野郎と内心は思っている。
「喋れるなんて凄いねぇ!! ねぇねぇ召クン、飼おうよ飼おうよー。あ、ボクは紫苑ね。」
「僕の名前はスラリン。よろしくズラ、紫苑。」
「……ってすんなり飼われること前提にしてんじゃねぇ!!」
「…………俺ちんの質問無視っすか?」
ギャアギャアと各々が喋ると話が進まないしキリがない。
源次はゴホンゴホンと咳払いを二回ほどしてもう一度同じ質問をぶつける。
「じゃあスラリン君。おたくが喋れる理由は答えてくれるかな?」
出来るだけ源次は事をすんなりと進めるために優しく聞いたつもりだったが、
スラリンは明らかに一瞥して愚民を見る様な目つきで源次を見た後、
「……よほどの田舎もんズラね。そんな事も知らないズラか?」
フン、と鼻で笑った日にはそれはもう、源次の脳内でビキッと何かのリミッターが外れた。
人外の最弱の雑魚に鼻で笑われる日がこようとは思わなんだ。(注、源次は負けました。)
ワナワナと燃え上がる何かをとりあえず押さえつけ、今は冷静に、冷静になる。
ここで暴れたら話は続かない。落ち着くんだ源次。
「……そ……そんなに……有名な情報で……?」
フルフルとさっきのスライムの様に怒りを振るわす源次。だが今は我慢……
「当たり前ズラ。常識ズラ。このバーカ。」
「……よぉし分かった。そこに立て。この俺様が三枚に下ろして痛みを感じずに屠ってやらぁ!!!」
「…………おーい、落ち着けー源次—。」
ついに火山が噴火したかのように激怒する源次を必死に後ろから止める柿原。
なんやかんやと取っ組み合いをしている間にスライムが、
さっきと同じように源次の腹部にボディタックルを食らわせて静かになった。
こいつ妙に強くね? そう思わざるを得ない程最弱に似つかわしくない強さ。
「……すまねぇけど、俺達この世界についてよくしらねぇんだ。教えてくれよ」
柿原は静かになった源次をほおっておいてスライムに頼む。
今も源次は悶えている。本気で痛がっている。二回目だから当然だろう。
「別にそんな大した話じゃないズラ。この世界にいる『魔女』のせいズラ。」
「魔女……?」
「おジャ魔女ドレミ……?」
「古いから、紫苑」
紫苑のボケを軽くスル—しながらもスラリンの言った事を聞き逃しはしなかった。
『魔女』。確かに聞いたその響きは、なぜか非常に危険な雰囲気の様な気がした。
「その『魔女』とやらが、お前を喋れるようにしたのか?」
柿原の質問にスラリンは少し間を空けてゆっくりと頷いた。何かありそうな反応だ。
「……実験と言っていたズラ。喋る機能も、力を与える機能も。」
「実験……。」
そんな言葉をどこかで聞いたことがあった気がする。柿原は脳を活性化させる。
そうだ、黒川が確かそんな事を言っていた気がする。名前は、セルダークだったか。
ジョジョの奇妙な冒険で出会ったセルダークがそんな事を言っていたと報告を受けていた。
ってことは、奴の仲間である可能性は大だ。つまり……DDD教団。
ここで話が繋がった。ここには確かに、DDD教団が『いる』。
そして何かを企んでいる。それは確かだ。破壊のための何かを……。
「……スラリン、その『魔女』の居場所は分かるか? 俺達はそいつに会いたい。」
「『魔女』に会うのは止めた方がいいズラ。殺されるズラ……。」
スラリンは明らかに戸惑った顔だった。そして恐怖が滲む表情だった。
きっとこいつらは被害にあった魔物達なのだろう。実験のために利用された。
それも脅迫に屈して従った様に見える。でないとこんな顔は出来ない。
だとしたら、これ以上この世界が荒らされない様にその『魔女』を追い出さなければならない。
「大丈夫だよー!! ボク達強いからぁー。」
そこで紫苑が割って入る様に声を上げた。それでもスラリンの表情は硬い。
「紫苑……でも危ないズラ……」
「ノンノン。今時の戦う女の子は強いんだよぉ!!」
「……」
紫苑は膝に乗っているスライムを優しく撫でて笑顔で言う。
徐々にスラリンの固まった表情がほぐれる様に変化していった。
その仕草は無意識にスライムの恐怖や心配を取り除いているように見えた。
紫苑のこの才能はある意味天性の才と言ってもいいかもしれない。
「……分かったズラ!! こっちに来てほしいズラ!!」
「わーい、ありがとうスラリーン!!」
紫苑はスラリンを両手で持って万歳をした。クルクルと木の回りを駆けだしながら。
話の決着がついたところでタイミングよく源次が起き上がってきた。どうやら回復したらしい。
その表情はなぜか穏やかだった。安堵の表情にも見えたが。
「……話、ついたみたいねぇ。助かったよ少年。」
「なんだ、まさかわざと会話に入ってこなかったのかよ?」
「臨機応変、こういう説得は少年とお嬢さんの方が事が運ぶのよ。」
「……分かってるような口ぶりで言いやがって」
源次は普段へらへらとしているがこういう時の空気の読みは鋭い。
時たまに見せる『別の顔』もあって、この男は本当に謎である。頼もしい時もあるが。
源次はパチンと両手を合わせて鳴らす。それが全員の視線を集める。
「さて、じゃあ参りましょうかねぇ。『魔女』のところへ————」
と、そこで源次は言葉を切り、『別の顔』を見せる……。
そう、戦いのときに見せる殺気にも似た鋭い顔。そして、
「————どなたか存じませんが、プライバシーの侵害ですよっといッ!!」
源次は左手に瞬時に弓を召喚させ、即座に後ろに旋回して右手で弦を引く。
それを放しはしないが、その矢は確かに『対象』を捉えていた。
約50m先、こことは別の一本の木の下に二つの人影がこちらを見据えている。
二つの影はばれたと分かったのか、50m先で意外にも両手を上げた。そしてこちらに向かって来る。
あっさりと降伏を認めたので呆気ないと柿原は思ったが、見透かしたように源次は言った。
「一応、警戒しといてねぇ少年。何されるか分かんないから」
「いや、見た感じは降伏してるぜ?」
「だから一応と言ったでしょ。なんせ……」
源次は未だ矢を放つ警戒を解くことなく、ナイフのような鋭い声でこう言った……。
「……俺様達、今さっき心を読まれたからねぇ————。」
————————第23幕 完————————