複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『スラリン。』 ( No.211 )
- 日時: 2013/11/18 19:24
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
————第24幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……2。』————
「パート1。」
両手を上げて近づいてくる二つの人影を太陽が晴らす様に照らした。
さっきまでは遠すぎてはっきりとは見えなかったが、自分達の前まで来てようやく全身を拝めた。
まず一人目を見た感想は、どこか大人の様な静かな色気を感じる女性だなと思った。
スミレ色の髪で短髪。瞳も紫。腰に細身の刀を所持。鎖かたびらを纏い、軽めの鎧を装備している。
まるで神の使いである女剣士といった感じだろうか。一言でいうなら凛々しい。
そしてもう一人は対して、不審者の様に怪しい服装の男性だった。
黒髪短髪で、少々ボサボサの髪型。瞳も黒。赤いバンダナを首に巻いていた。
黒一色の服に黒のフード付きマントをはおっていたため、余計に怪しい。
だが隣の女性と同じように細身の長剣を腰にさしており、彼も剣士なのだろうと思った。
源次は相変わらず弓を構えたままだ。妙に用心深いのはさっきも言っていたことが引っかかっているのだろう。
『俺様達、今さっき心を読まれたからねぇ……。』
確かに源次はこう言っていた。これは一体どういうことなのだろうか。
心を読まれたというのは、つまりさっきの会話や柿原達の考えを見透かされていたという事だろう。
この人達がもしも『魔女』の手先やらだとしたら、情報が漏れたという事になる。
それは確かに一大事になる。ここは慎重にならなければ————
「あー、安心してくれ。俺ら『魔女』の手下とかじゃねぇから」
「————ッ!?」
両手を上にあげている状態で気だるそうに怪しげな男性は言った。
柿原は無意識に構えていた。今、確実に『心を読まれた』。
でなければ、ここでこんなにピンポイントに当てられるはずなどない。
「……可笑しな少年だねぇ。そんな『チート能力』搭載なんてさ」
「あ、やっぱり君は気づいてるんだ? HAHAHA。」
男性は口を大きく開け源次に盛大に笑って見せた。緊張感の欠片もなさそうだ。
「おっしゃる通りですわ〜。俺は心を読めんの。」
「……それで、俺様達を『魔女』の代わりに倒しにでも来たのかい?」
「はは、それは君の心が一番分かってらっしゃるんじゃない?」
「……揺さぶりも冗談も心が読まれちゃ意味がないっつう事がよぉく分かったよ。」
源次は観念したように弓を下ろした。柿原はおいおい、と思わず声を漏らした。
「良いのかよ? 何も聞いてないし、疑いに関して何も解決してねぇじゃねぇかー」
「解決しましたよ。こやつらは敵じゃなさそうだねぇ。」
「なんで分かんだよ?」
柿原が二人に疑いの目を向けつつ源次に聞く。源次は両手を軽く広げ説明を始める。
「まず始めに、本当にこやつらが『魔女』の手下なら、俺ちん達は早い段階で奇襲を受けてるよい。」
「なぜだよ?」
「俺ちん達が『魔女』を狙ってると分かった時点で、奇襲のタイミングはいくらでもあったでしょ。」
「だからといって、奇襲が成功するとは限らないはずだ。油断させて近づいて攻撃する可能性もあるだろ」
「それなら今この時点で近づいた瞬間に起こってるはずでさぁ。
そしてなお、俺ちん達にいらぬ情報まで与えてくれたじゃない。心が読めるってね。敵だとするならお人好し過ぎるね」
「それはお前が見抜いたからだろ。だから観念したんだろ?」
「さて、俺ちんはそれを一回でも大っぴらに口外したかねぇ? 少年にしか告げてなかったはずだがね。
そしてかつ、俺ちんは『チート能力』としか言ってないのに、やっこさんにはそれが手に取る様に分かっていた。」
「……。」
「と、まぁこういうわけだ。ようするに、本当に敵さんならもっと賢くやる方法があっただろうと言いたいのよ。」
柿原もついに観念した。ここまで言われては反論の余地も可能性もなさそうだ。
とはいえ、この数分でここまでの考えをまとめて結論を出したというのだろうか。
毎度一度はかならずこいつに驚かされることがあるなと柿原は思った。
「ねぇねぇー、心読めるって事は、ボクが今何を考えてるか分かるってことー?」
「……ここに余ったパンがあるから食っていいぞ」
「わーい、ありがとー。」
今の紫苑が考えてたことぐらいなら俺にだって分かる。腹が減ったから食べ物をくれ、だ。
というか紫苑はすでにこの怪しい男に対して適応し始めていた。
とはいえ、さっきから一言も喋ろうとしない隣の女性は何者なのか。
何か妙にただならぬ雰囲気を出している。……あれ、怒ってる?
「あ、そういや自己紹介まだじゃん。俺は那拓。んで、」
那拓と名乗った心を読める青年と、チラリと視線が集まったので早々に、
「……フィーダってんだ。よろしく。」
と、短く告げた。案外男勝りな喋り方だった。もっと清楚な感じに見えたのだが。
そのぶっきらぼうな自己紹介に紫苑が首を傾げていると、那拓が意図を読み取ったようで、
「ああ、気にすんなよ。こいつ早く『魔女』をぶっ殺したいだけなんだよ。だから————」
「余計な事を言うんじゃねぇ那拓!!」
心を読み取ったらしく、そのまま那拓が読みあげたらフィーダと名乗る女性は憤怒した。
やっぱり口調は男勝りで見た目とは違ってギャップが凄い。
「なんだよぉ、イラつくなって。『急がば廻れ』って言うだろ? うは、俺天才!?」
「字違うだろうがッ!! 小学生以下か!! 幼稚園からやり直せバカ那拓!!」
さっきまで大人しかったフィーダが今は那拓を叱咤する程騒がしくなった。
まるで痴話喧嘩でも見ているみたいだ。いや、子供の喧嘩の方が近いだろうか。
そんな微笑ましい光景をいつまでも見ていてもいいが、あいにく時間がないため、
「ご両人、喧嘩は後後。俺ちん達の自己紹介もしておくわ。」
源次が自分の自己紹介から始めようとしたのだが、
「ああ、心配スンナ。知ってる知ってる。源次に召に紫苑だろ? 後スラリン? ま、仲良くしようぜ」
フィーダと取っ組み合いをしながらそう告げた。そういえば心を読めるのだから当然か。
とはいえ、さっそく話を始めたい。さっきも言ったが源次達にはきちんとタイムリミットがある————。