複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『フィーダと那拓。』 ( No.216 )
日時: 2013/12/19 17:40
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)


         「パート3。」



 ————スラリンの案内で5分程歩いた後、景色は草原から森林に変わっていた。

 太陽の直射日光を木々達が防いでくれるため暑さは軽減されて涼しい。
 木々はまるで生きているかのように広範囲に繁殖しており、道らしい道などない。
 手でかき分けながら進んでいく御一行にはコンパスみたいな指針を示すものは持っていない。

 なので入る前から思っていた事だが、迷ったら一瞬で終わりだろうなと思う。
 とても軽装では入るべきではない場所だが、御一行はかなり軽装だ。
 森林などの遭難の可能性がある場所に準備もしないで飛び込むのは自殺行為だ。
 非常食の一つも持っていないが、源次達にはその心配は無縁と言ってもいい。
 どうせ30分というタイムリミットと共に自分達は元の世界に戻る。


  「ねぇースラリーん。こっちであってるのぉー?」


 紫苑はスラリンを両手で抱えて北か南かも分からない道を歩いて言った。
 その後ろには源次、フィーダ、那拓、柿原と続いていく。


  「大丈夫スラ。このまま真っ直ぐスラ。」


 スラリンは身体をフルフルと震わせながら相変わらず変わらない表情で言う。
 いつもニッコリ笑顔で変わらないスラリンの表情は時たまに不気味さを感じる。
 怒ってる時や真剣な時ぐらい表情が変わってもいいのにスライムとは無愛想な生き物だ。

 パキパキと地面に落ちた木を踏むたびに森林という静かな空間に音が響く。
 そういえば、源次達がここにきてからというもの、一度も魔物には襲われていない。
 さっきの草原も多くの魔物がいたが、普通なら襲ってくるものではないのか。
 あんな肉食で攻撃的なのはゲームの内部だけなのだろうか?


  「まぁそれなら無駄な戦闘が無くて楽だから俺ちんとしては大歓迎だけどねぇ。」

  「ははは、んなわけねぇじゃん」


 源次の安堵の呟きに反応したのは那拓だった。那拓は片手をあげてさも当然かの様に、



  「草原の魔物は比較的攻撃的じゃねぇのさ。まぁここの魔物もそうだけど。

  ————まぁ『魔女』がいじくった魔物が現れた場合はどうなるかはわかんねぇがな」



 ……その那拓の言葉に答える様に、ドシンという地響きが辺りを揺らす。

 今まで静かだった小鳥たちは飛び立っていき、何やら他の魔物が逃亡していく様も見える。
 その地響きはどんどん近くなる。揺れも比例して大きくなる。
 そしてバキバキと木々がなぎ倒される音が聞こえる。そして木々の間からその凶悪な姿を覗かせた。

 那拓のフラグ回収率は半端ないなと源次は嫌な汗をかいた……。



  「…………えーっと、森林の中にこんなどでかい魔物がお住みなんですかい?」

  「あー……普通はこの辺にはいない魔物だなぁー……」


 その魔物は一言でいうと、大きい機械人形だった。
 色の基調は水色。全長は10m程。4本の腕と足が特徴的だ。
 前方の腕2本には大剣、後方の腕2本にはボウガンが装備されている。
 こちらを凝視する一つ目の赤い目はこちらを敵と判断したようだ。

 源次の引きつった笑顔につられて那拓も同じような顔をして後ずさりする。
 唯一その魔物に向かって嬉しそうに一歩踏み出したのは、フィーダだった。


  「『スーパーキラーマシン』か、こりゃあ骨のある相手だ!!」


 腰の細身の剣を抜き、剣筋を目の前の敵に向ける。
 那拓は呆れ顔でフィーダに近づき、肩を掴んで引き戻す。


  「あほかッ!! こんなのとやってる場合かッ!!」

  「離せ那拓ッ!! 私はこいつと殺り合うんだ!!」

  「バカか、目的変わってんじゃねぇか!! おい、全員逃げ————」


 と、言いながら辺りを見渡すと、あら不思議。明らかに人数が足りない。
 森に入った時は確かに5人いたはずだったが、今は3人しか見えない。
 那拓とフィーダ、そして欠伸しながら敵を気だるそうに見ている柿原。


  「柿原、お前の連れはどうした!?」

  「あー、あいつらは全力で逃げてった」

  「とめろやッ!!」


 那拓の渾身のツッコミに呼応して周りからガチャガチャという音が聞こえてくる。
 見るとスーパーキラーマシンの回りから小型の機械人形がいくつもなだれ込んでくる。
 親分の呼びかけに応えてか、キラーマシンの大群がこちらに向けて武器を向けてくる。

 気付けば逃げるための退路も失い、囲まれている状況になってしまった。


  「ギギッ……ギギギッ……!!」


 小型のキラーマシンは唸るような機械音を鳴らし、滑る様に突進してくる。
 片手に持つ片手剣をキラリと光らせ、もう片方に持つボウガンで矢をばら撒かせる。

 すでに剣を抜いていたフィーダは矢を避けつつ、すり抜ける様にキラーマシンの隣を走り抜ける……。
 その数秒にはキラーマシンのボウガンを持つ左手は空中を舞い、気付けば解体され、爆破した……!!



  「けっ、雑魚どもは、引っ込んでなッ!! ————灰になりやがれッ!!」


 フィーダは咆哮して細身の剣に業火を纏わせる。
 目に見えるほど業火を纏った剣を身体を回転させ、衝撃波をまき散らす。
 業火を纏った衝撃波はキラーマシンの機体に触れると爆散した。
 暴れまくるフィーダの後ろ姿を那拓は苦笑して見ていた。


  「……楽しそうだ、あいつ……。」


 頭を抱える暇もなくキラー—マシンがなだれ込んでくる。
 さすがにフィーダ一人では荷が重いと思ったのか、那拓も仕方なく剣を抜いた。

 その瞬間、那拓の雰囲気が柿原にも分かるほど変わった……。
 さっきまでそれなりに静かだったのに、剣を抜いた途端に顔が変わった。
 まるで無邪気な戦闘大好きと言わんばかりの笑顔で、那拓は自身の剣を握りしめ、



  「HAHAHA、死ねええええええええ!!!!」


 吠える様に暴風が剣の周りに纏わりつき、その剣を横切りに一閃する。
 切れ味の良い風の真空波が前方に弾き出され、群がっていたキラーマシンの装甲を切り裂くッ……!!

 一振りでは留まらず、次々と剣を振り回して衝撃波を周囲に向けて飛ばしていく。
 衝撃波を受けて真っ二つになったキラーマシンは次々と大破していく。
 そんな光景に先ほどまでそれなりに冷静だった那拓は今では人が変わったように楽しんでいる。
 あれがもしかしたら那拓の本性なのかもしれない、と柿原は苦笑した。


 ……だがその光景を親玉であるスーパーキラーマシンが黙っているわけがなかった。



  「ggggggッ……ggg!!!」



 機械音と咆哮が混じった言葉にもならない唸り声を上げる。
 スーパーキラーマシンは4本の足で地面を蹴り上げ、その場から大きく跳躍する。
 フィーダや那拓達のいる真上へと移動し、大きな巨体が影を作り出す。


  「————……!!」


 フィーダと那拓は同時にスーパーキラーマシンの接近に気付いたが、少し逃げ遅れた。
 その場を離れようと試みるには時間が足りな過ぎた。このままでは、攻撃をまともに食らう。
 すでに前方の2本の大剣が振り上げられている。あんな巨体の大剣を受けきれるだろうか。

 だがやるしかない。なんとか奴の攻撃を致命傷にならない程度に流せれば……————



  「————……させねぇよ。」



 スーパーキラーマシンの2本の大剣が振り下ろされた瞬間、チラリと見えた人影。

 フィーダ達とスーパーキラーマシンに割り込む様に間に入り、
 人影は片手に持つ巨大の棍棒を振り回し、その攻撃を真っ向から防いだ……!!

 その振り下ろされた2本の大剣と棍棒の間に風圧が巻き起こる。
 その風圧に屈することなく、真正面からその攻撃を受け止めた人影は、



  「……柿原ぁ!?」


 確かに、見間違う事もない。柿原の姿がそこにあった……————!!




      ————————第24幕 完————————