複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『フィーダと那拓。』 ( No.217 )
日時: 2014/01/03 18:19
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)


    ————第25幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……3。』————


           「パート1」



 ————柿原召という男は、めんどくさい事が嫌いな少年だった。


 いつだって遊びが大好きで、冒険が大好きな無垢な少年。
 だがそんな普通に、現代にいる少年でも、たった一つの『個性』で世界は変わる。
 柿原の持っていた個性は、『鬼を召喚することが出来る』という能力だった。
 目覚めたのは比較的早く、小学校の時にはすでに発現していた。

 ……そして同時に、周りに恐れられたのもちょうどその時からだった。

 強大な力は振るう振るわないに関わらず、周りに恐怖を振りまく。
 柿原が能力者と言う事実だけで、恐怖を振る撒くには十分な材料だった。
 今まで一緒に遊んでいた友達も、いつの間にか自分を化物だと罵った。

 そして気づけば、自分は一人になっていた。孤独という、小学生には残酷な現実だった。
 その頃から、柿原は感情をコントロールできるようになっていた。
 どちらかと言えば何事にも熱血な彼が、冷静沈着になった瞬間でもあった。
 たった一人で生きることに、柿原は辛いとは感じなかった。
 けれど、つまらないとは思った。寂しいとも思った。
 だが、望んでも手に入らないと言うのに、それを求めたって仕方なかった。

 ……だから彼は諦めていた。諦めようとしていた。

 彼が……現れるまでは、



  『————なぁ、喧嘩しようぜ。』



 そんな奇妙な出会いが、柿原の人生を大きく変えていったのだった……————。




  「————…………ggggggッ!!」



 スーパーキラーマシンは自身の振り下ろした大剣が防がれた事に腹を立てている様に見えた。
 その二本の大剣を防いだのはその大剣と同じくらいの大きさをした棍棒だった。

 棍棒を持っていたのは、先ほどめんどくさそうに傍観していた柿原だった。
 ギリギリと剣と棍棒がぶつかり合う音に、柿原はまるで奇怪音を聞かされたかのような不快な顔をしていた。
 力は互角。どちらも一歩も譲らない。空中で力比べをしているかの様であった。


  「……あー、めんどくせぇ。さっさとやられろー化物」


 柿原は片手で持っていた棍棒を両手に持ち直す。そしてグッと両手に力を入れ、


  「————よっと。」


 スーパーキラーマシンの2本の大剣を力一杯に押し返した。
 スーパーキラーマシンは自身ごと大剣と共にさらに空中へと打ち上げられる。

 ————今現在、柿原は本当の『バケモノ』と呼ばれても差支えがない状態であった。

 柿原には元々こんな大きな棍棒を振り回せるほどの腕力などない。あくまで柿原自身は普通の人間なのだ。
 しかし彼の元々の能力に、『鬼を召喚できる』という能力があり、
 その召喚した鬼と同化する事により、『所有者』の基礎能力を数十倍に上げることは可能だった。

 ……彼はこれを、『鬼神化』と呼んでいる。

 つまり柿原の身体には現在、一体の鬼が同化している状態なのだ。
 それが自分よりもはるかに大きい棍棒を振り回すことを可能にしている。
 とはいえ、柿原自身はあまりこの力を好まない。
 やはり彼の心の根本には『めんどくさい』という感情があるせいか、自分が戦闘する事を好まない。
 鬼にさせている方がずっと気楽なのだから、自分が戦う必要もないのだ。

 だが、さすがに仲間がやられそうになっているのを見て傍観と言うわけにもいかない。
 しかもスーパーキラーマシンは早い。自分の鬼達は力はあるが、機動力は皆無だ。
 飛ぶことも跳ねることも出来ない奴らには、スーパーキラーマシンの俊敏かつ豪快な攻撃に対応できない。
 こうなれば自分がやるしかない。非常にめんどくさい事だが……。

 柿原はスーパーキラーマシンを空中へと飛ばした後、自身も大きく跳躍した。
 スーパーキラーマシンよりもさらに跳躍し、手に持つ棍棒を大きく真上に振り上げる。
 スーパーキラーマシンは真上にいる柿原の攻撃を危険と判断してか、両手の二本の剣を防御に集中させる。

 だが柿原そんな防御など気にしない。ただ力一杯に————


  「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


 ただ力一杯、スーパーキラーマシンに向かって棍棒を振り下ろしたッ!!

 突風と共に棍棒は風を切り、スーパーキラーマシンの二本の剣の上から容赦なく叩き込む。
 力一杯振り下ろした棍棒は見事二本の剣を叩き折り、スーパーキラーマシンも外部に損傷をうけながら、
 キラーマシンの密集する地面へと大きな音を立てて受け身することなく叩きつけられた。
 地面では叩きつけられた時の衝撃によって生まれた砂埃が舞っている。
 下にいるフィーダと那拓も思わず顔を塞ぎ、砂埃と衝撃をやり過ごしていた。

 そんな中、柿原は持っていた棍棒と共にドシンと重い音を立てて地面へと降り立った。
 首をコキコキと鳴らし、気だるそうに空を見上げた。ああ、今日も良い天気だ、と思った。


  「『今日も良い天気だ。』じゃねぇ!! 危うく俺らまで巻き添え食らうとこだったわ!!」


 心を読み取って言う那拓の表情はまるで冷や汗をかいたように焦った表情をしていた。
 そう言えばちょうどスーパーキラーマシンを叩き落とした地点に、二人も見えたような気がする。


  「いやー、まぁいいだろー。生きてたんだしー。」

  「おい柿原、あんた意外と強かったんだな。てっきりただのニートかと思っていたが。」

  「……俺、まだ中学生なんだけど。」


 フィーダにニートと言われたのは多分柿原がメンドイとばかり口にしているからだろう。
 柿原は一度ため息をついてから、片手をヒラヒラと上げた。


  「お二人、後はよろしくー。俺疲れたから鬼出して座っとくわ。」

  「……一度でもやるじゃねぇかと思った私が馬鹿だった。あんたはただのニートだ。」

  「疫病神よりはマシな職業だなー。」

  「おまっ……なぜそれを知ってやがる!? …………なたぁぁぁくッ!!!!!」


 フィーダの事を疫病神と呼ぶのはこの世に一人しかいない。那拓だ。
 那拓の方に向き直ると、那拓は分かりやすい表情をしていた。何の事だ? ともいわんばかりに。
 明らかに嘘をついているような顔であった。


  「……ほらフィーダ。ボスはもう瀕死状態だし、残りは雑魚だ。片付けに行くぞー。」

  「てめッ……無視してんじゃねぇぞこらぁぁ!!


 チンピラの様なフィーダと口笛を吹いたままキラーマシンと戦う那拓。
 そして柿原はまるで自分の仕事は終わったと言わんばかりに一本の手ごろな木へもたれて座った。
 『鬼神化』はすでに解いている。後はさっき召喚した3匹の鬼達がフィーダと那拓を手伝う事だろう。

 柿原は大きな欠伸を一度すると、口喧嘩をしつつ戦うフィーダ達を見て、微笑した……————。