複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。 ( No.24 )
日時: 2013/02/06 13:46
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

        「パート2。」




   ————『イエガ—・ヴェルグレス』。彼のフルネームだ。


  私の知る情報では、彼はアメリカから来た留学生だ。

  日本とは異なり、今も戦争や紛争とは無縁といい難い国で、
  彼は戦争の極意を叩きこまれ、育ってきた。

  10歳の頃にはすでに戦場に赴き、10歳とは思えないほどの数々の功績を残した。
  結果、彼はいつしか、大統領の側近でボディガードをするほどの地位に上り詰めた。

  アメリカでは、彼を知らぬ者はいない程有名人なのである。


   ではなぜ、そんな彼がこの学校にいるのか?


  理由は私も知らない。おそらく何かしらの目的があるのには違いないが。
  そんな恐ろしい実績を持ち、見た目ではそのようには見えない男が、今まさに自分たちの前にいる……。




   「オウ、失礼。用件は手短に済ませマショウ。ユーたちも暇ではないデショウから。
    シロク。レン。そんな固い敬礼は早くときなさーい。そんなにかしこまらなくても結構デース。」



  イエガ—は敬礼をしている白九と蓮の前を通り過ぎ、自分専用の椅子に静かに座る。
  白九と蓮も言われたとおりに敬礼を解き、スッとソファーに座る。



   「それで? 俺達に用件ってなんなのよ、リーダーさん?」

   「君ッ……!! 態度を————」



  霧島の礼儀の全くない言動に、蓮はムッとして言うが、それを遮るようにイエガ—は、


   「よいのデース、レン。」と言って、なだめる。


  イエガ—と蓮は二人とも3年生。つまり同級生なはずである。
  だが、同級生といった関係には見えない。むしろ上下関係がはっきりしている。

  私としてはこちらの謎にも興味があるのだが、まぁまずはあっちの『用件』とやらが先だ。





   「ではさっそく話マショウ。単刀直入に言いマース。



    ————二人とも、風紀委員会に入りマセンカ?」





  イエガ—はニコッと笑って言う。それとは対照的に、「ええッ!?」と声を荒げて驚く白九と蓮。

  無論、声こそはあげなかったが、驚いたのは私達も同じだ。
  霧島なんて、先ほどから開いた口が一向に塞がらないほどだ。

  とはいえ、これはまた予想外の勧誘だ。まさか風紀委員会のリーダーが直々の勧誘とは、な。


  だがまぁ、向こうの考えなど大体見据えている。



   「狙いはなんだ? 私達の行動の制限か? 

   ————それとも、風紀委員会なりの私達の『拘束』か?」



  黒川は静かに、けれど圧力をかけるようにイエガ—を一心に見つめて尋ねる。
  白九と蓮は私の失礼な言動をスルーするほど、先ほどのイエガ—の勧誘の言葉に唖然としていた。



   「……クロカワ、ユーの冷静な分析能力には驚かされマス。デスガ、少し違いマス。」



  “少し”……か。一応全否定はしないのだな。意外にあっさりしているな。
  まぁ、この『余裕』ほど怖いものはないのだがな。



   「ユー達のやっていることは、『一般生徒』である限りは、
    どれだけの理由があっても暴力になってしまいマス。

    だからここに呼び出されているのは————お分かりデスネ?」



  そんなことは呼び出されるたびに、耳にタコが出来るほど聞かされているから知っているさ。

  いくら『粛清』とカッコつけても、正当防衛と言い張っても、拳を振るった事実は変わらない。
  私だって本来ならば、口頭で解決したいさ。だが、相手はそこまで単純ではない。
  だから、振るわざるを得ない。たとえ暴力と言われようとも、人を救うために。



   「本来ならば、それは風紀委員会の仕事デース。これも分かりマスね?

    結論を言いマショウ。風紀委員会に入れば、ユーたちの行動は正当化されマス。

    つまり、好き放題に今までのことが出来るという事デス。
    これほどの好条件な話はないと思うのデスガ?」




  そうだな。その通りだよ。笑えるほどに正当で、理にかなった話だよ。



  ————だが違うのさ。お前達風紀委員会と、私達の『粛清』は根本的に違うのさ。

  隣を見ると、霧島もはぁ、とため息をついている。さすがのバカも、この話は理解できるようだ。


  そうさ、私達は『あえて』風紀委員会には入らないのさ。

  確かに風紀委員会は学校だけでなく、『町』の治安も守る組織。それはイジメも例外ではない。
  だが、彼らの行動は『広範囲』すぎる。ゆえに小さな問題には最小限にしか干渉しないのだ。
  この場合、その小さな問題というのは、先ほどの上級生のイジメも含まれる。

  風紀委員会はこのような『小さな問題』を見落としがちなのだ。



   「知っているか? 生徒達が一番恐れ、気にする問題は『イジメ』だ。

    生徒を守ることが風紀を守る事なら、
    そんな重要な問題である『イジメ』を後回しにしてはいかんだろう。

    そんな大事な事に気づかない、名だけが立派な治安組織に、私達の『正義』は扱いきれんよ。」


   「そういうこった。俺達はだからどこにも属さない。俺達が守りたいのは、苦しんでいる生徒達だ。
    仮にそっちに入っちまったら、本当に守りたいもんが守れなくなる。それだけは勘弁だ。

    風紀委員は大人しく綺麗な仕事をやってろ。汚れ役は俺らが引き受けてやるからよ。」




  そう、これが私達の真っ直ぐな気持ちであり、絶対に曲げない信念だ。

  たとえどれだけ風紀委員会に罰を受けようと関係あるまい。
  私達はすでに、それを覚悟の上で実行してきたのだから……。




   「……ふぅ、参りマシタネ。ここまでハッキリ言われてしまっては仕方ありマセン。
    ここは大人しく引きマショウ。これ以上の勧誘は無駄デショウから。」



  イエガ—は手を頭に当て、やれやれといった表情で息をつく。
  白九も蓮も、黒川達の言葉に何も言えず、拳を握ってただ唇をかみしめるだけであった。

  もしかしたら、彼女達が一番分かっていたのかもしれない。

  『小さな問題』を後回しにして、肝心の問題にキチッと向き合っていなかった事を。
  だが、それを踏まえたうえで風紀委員会に所属しているということは、

  彼女達もまた、学校の治安を守るために動いているのも確かなのであろう。



   「せっかく勧誘を頂いたのにすまないな。キツイことを言ったが許してほしい。
    だが、風紀委員会がいることでこの学校の治安が成り立っていることも確かだ。

    だから感謝はしている。ありがとう。それでは————」



  そう言い残し、黒川と霧島は速やかに風紀委員室を出ていった。




  残った風紀委員会の三人に、なんともいえない重い空気だけがのしかかった。
  しばらくの無言が続いた後、ふとイエガ—が口を開く。




   「困りマシタネ。『正義』同士は相いれない、そういう事デスか……。」



  イエガ—は近くに合ったコーヒーを口にした後、コトンと机に置き、元の位置に戻す。



   「シロク、レン。言わなくても分かっていマスネ?」


  白九と蓮は少し俯いた後、コクンと頷く。イエガ—の表情が少し真剣なものに変わった気がした。




   「もしも彼らが今後喧嘩を仲裁した時、容赦は要りマセン。

    彼らもろとも鎮圧しなサイ。これがワタシ達の『正義』でもあるのですから。

    元々、喧嘩の仲裁は風紀委員会の役目。
    喧嘩の仲裁の『仲裁』もまた、ワタシ達の役目デスから————。」




   イエガ—は外を見つめる。その瞳は、なぜか物寂しそうなものに見えた————。