複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。 ( No.36 )
- 日時: 2013/02/12 23:59
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
————第5幕 『もしも俺がドラえもんの世界に行ったなら……続編。』————
「パート1。」
————場面は変わり、ここはのび太君の部屋。
秘密兵器を解体したいという、黒川のあの問題発言からその後、
必死の説得の結果、ドラえもんの了承を得ることに成功した。
どんな説得をしたのかは君たちのご想像にお任せしよう。
そして今、私の目の前にはバラバラになっているタケコプターが置かれている。
部分ごとにばらしていくごとに、少しずつ構造を理解することが出来た。
例えば、タケコプターは皆様も大体分かっていると思うが、電気を風力に変えている。
それは別におかしい事でもないし、今の現代の科学でも当たり前の技術だ。
だが、驚く点はここからだ。私達の風力発電とは違う、異なった点が見つかったのだ。
無論、基本は風力発電の装置の構造となんら変わりはないが、異なる点は、『回線のつなぎ方』だ。
私のエアブーツも風力発電をしている装置の一つだが、
そのエアブーツよりも遥かに回線が『少なく』、『簡潔』なのだ。
それでもエアブーツ以上に性能が良い理由こそ、回線の上手いつなぎ方というわけだ。
独特の回線のつなぎ方であったが、それが現に電気の省エネ化、そして回線の量の軽量化に繋がっている。
なるほど、これだけ見ても、科学の十分の進歩になることは間違いはない。
多分、我々がこの技術にたどり着くことになるのは、少なくとも10年後以降なのだから。
「なるほど、ここをこうすることで————」
黒川は相変わらず、タケコプターとエアブーツを見比べ、そしてサラサラと細かくノートにメモしていく。
現在、この世界に来て15分程経つが————
すでに黒川の持参していたノートの一冊目は書くところが無いほど埋まっていた。
ノートに書かれた内容には、タケコプターの詳しい構造、
そして得た情報を元にしたエアブーツの試作の仮説、などなど。
「これは他の物にも応用できるな。例えば————」
そう言って、黒川は持参した研究品の一つ、『空気破壊(エアクラッシャー)』を取り出して言った。
蒼色の鉄製の造りをしており、手にすっぽりと入るほどのお手軽の大きさ。
これも、風力発電を利用したものだ。簡単に言うなら、超強力な空気を放出するバズーカ砲。
手に装着し、中にある引き金を引くと、トラックを粉々にするほどの威力を持った空気が放出される。
だが、課題点に電力の消費に問題であり、3発ほどしか撃てないのだ。
これをさっきの有効な回線の繋ぎ方をしてやれば、少しは電力を抑え、撃てる回数を増やせるはず。
まぁ、撃てて5発。腕次第で6発といったところか。だがまぁ、今の私では5発の開発が限界かな。
「……さて、研究だ。後15分、さらに解明していくか————。」
意気込む黒川の後ろで、完璧に空気化しているドラえもん。
ドラえもんとしては暇以外の何物でもないのだが、それでも彼は微笑んでいた。
————ドラえもんは黒川の姿を誰かと重ねていた。熱中する彼の姿を見て。
彼とは根本的に頭の良さは違うけれど、能力の高さも違うけれど、
“————それでも、どことなく君と似ているね、のび太君……。”
今もどこかで頑張っているであろう、相棒の事を思い浮かべ、ドラえもんはどら焼きを口に運んだ————。
————場面は戻り、今度は河川敷。
霧島の活躍によって、待望の一点をもぎ取り、一歩リードするジャイアン達。
……そして霧島の次のバッターは、水島愛奈。
バッターボックスに立つ彼女の姿には、どことなく品があり、どこをどう見ても普通の可愛らしい女性。
相手のピッチャーも、人数合わせのためか?、と首をかしげるほど。普通はマネージャーだろうに。
「水島ちゃん!! かっ飛ばせぇ!!」
霧島の応援がグラウンドに響く。ジャイアン達も声を張り上げて応援する。
“まぁいいや。どうせ打てないだろうしな————。”
相手のピッチャーは余裕の笑みを浮かべたまま、
とりあえず第1球に、ど真ん中ストレートの速球を投げ込む。
水島はそれを見逃した。判定はもちろんストライク。バットを一ミリも動かすことはなかった。
“ほら見ろ、これで打てないんだからな。まぁ念の為————”
ピッチャーは早々に第2球を投げ込む。今度は際どい外角のコース。
さらに、バッターを驚かせるという意味でも、変化球であるカーブを投げる。
“いくら素人と言っても、バットを適当に振って当たる事もある。その可能性すら無くして————”
————そこで、相手のピッチャーの思考は停止する……。
一瞬だが、確かに見えたキッとした表情。この一瞬、彼女はただの可愛らしい『少女』ではなかった。
忘れているようならもう一度伝えておこう。彼女は、
『文武両道』。頭、運動、共にこなせる女性だ。それは野球も例外ではない————。
「————やぁッ!!」
水島の振ったバットは、外角で変化するカーブを確かに捉え、そして、
そのまま身体を柔軟にひねり、ボールを『流した』。野球の打法の一つ、『流し打ち』という打ち方だ。
プロでもなかなか難しいと言われるこの打法を、見事水島はやって見せたのだ。
弧を描くように飛んだ打球は、外野の前で落ち、結果的にヒットになった。
「す……すげぇぞ水島ァ!!」
「わお、これは想定外。水島ちゃんらしい美しい打法だなぁ。」
水島のその美しい打法に、ジャイアンも霧島も感心の言葉を漏らす。
水島は霧島ほどパワーがない。だから、バットを力強く振り切っても、飛距離を出すことは難しい。
そんな水島がとった戦法こそ、外野の前に落とし、ヒットにするというもの。
そのために、水島はまずは一球を見送り、大体のスピードを計算した上で、
守備の少ないところにボールを落としたとそういうわけだ。まるでどこぞのメジャーリーガーのようだ。
「……凄い。こんな打法もあるなんて。」
のび太君は呆然とする。あの美しい打法に言葉を失う程見惚れていた。
霧島の思い切った打法、水島の慎重な打法。二人とも対極ではあるが、
結果的には二人とも記録を残している。
“僕は……僕が出来ることは————”
二人みたいな事は出来ない。僕なんかにそんなことは出来ない。僕はどうすれば……。
そんな事を考えていると、ふと自分の肩に誰かの手が乗る。霧島だった。
「打ち方を決めるのはのび太次第だ。俺みてぇに思いっきり振るのもよし。
水島みたいに確実にバットに当てて、ヒットを狙うもよし。全て決めるのはのび太君だ。」
霧島はのび太君にバットを差し出す。先ほど霧島がホームランを打った時のバットだ。
「————行ってこい。お前ならやれる。自信を持て。」
霧島はニカッと笑う。そんな笑顔を見ていると、自然に力が溢れてくるようだ。
そうだ、考えていても仕方がない。自分が出来ることを、やるだけなんだから。
のび太君は霧島からバットを受け取る。そして、
「————行ってくるよ、霧島君。」
決意を固め、少年はバッターボックスに立つ。その瞳には、燃えるような熱意がこもっていた————。