複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。 ( No.46 )
日時: 2013/02/13 00:22
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



     ————第6幕 『もしも俺(様)が華麗に参上したなら……。』————




          「パート1。」





   「————さぁてぇ、ショーの始まりだぁ!! キャッハァァーーッ!!!」



  ガロンは子供のような無邪気な声を上げ、鎧を着た三人へと近づく。
  ここはあるマンションの屋上。万が一落ちてしまえば、命の保証はない……。

  白い鎧を着た『一人目』の懐から、一丁の拳銃が取り出される。小回りのきく、シンプルなハンドガンだ。


  瞬時に構え、近づいてくるガロンに迷いなくトリガーを引く……!!

  放たれる弾丸はガロンの顔の横のスレスレを通っていった。紙一重で躱された。


  “……こいつ、『慣れている』。今まで何度も戦場を生き抜いてきたのか……!!”


  あの紙一重の回避は幾度となく体験していなければ出来る芸当ではない。
  おそらく奴は、科学者には似合わないほどの戦闘経験を積んできたのだろう。


  “下手すれば、私達より上か……。だったら————”



   「————レオン、サラ!! 気を付けろ!!」

   「分かってらァ!!」

   「了解!!」



  弾丸を躱したガロンにさらに追撃を加えるように、『二人目』がガロンの前を遮り、拳を握って殴りかかる。

  ガロンはそこで足を止め、その拳をひとまず躱す。
  『二人目』はさらに距離を詰め、体術を駆使して休むことなく攻撃をたたき込む。
  ストレート、フック、上段蹴りなど、素人には到底真似できぬ程の体術。
  ガロンはその一つ一つの攻撃を確実に防御していく。


   「ははッ、いい格闘センスだわ〜。お前さん、どっかの軍人さんかなんかかい?」


  ガロンは防戦一方ではあるが、相変わらず余裕の表情は崩さない。
  それほどまだ、苦ではないということだ。


  “こいつ……なんだかんだ言いつつも、一つ一つの攻撃を紙一重で流してやがるッ……!!”


  ガロンは全ての攻撃の軌道を若干ずらしたりして、最小限の動きで戦っている。
  無駄に躱さず、無駄に攻撃を受けない。これほど厄介で強い奴はいない。


   「レオン!! 援護するわッ!!」


  『三人目』は腰のところにぶら下げているハンドガンを手に取り、照準を瞬時に合わせ、狙い撃つ。
  発砲音に気づいたガロンは、『レオン』と呼ばれる『二人目』の攻撃を躱しつつ、
  飛んでくる銃撃も軽やかに躱すという柔軟な動きを見せる。



   「おいおい、どっかのサーカスのピエロかよ……ふざけた動きをッ!!」

   「こらこらー、若者よ。お喋りしてると舌を噛んじゃうぜぇッ!!」

   「!? ドゥワッッ!!!」



  一瞬の隙に放たれたガロンのパンチは、レオンの腹部を捕えた……!!

  閃光の如く速く、重いパンチ。躱す暇もなかった。
  レオンはそのまま後ろに吹き飛ぶが、一瞬で体勢を立て直し、着地する。



   「……つっ!! てぇーな……。」


  鎧越しとは言え、腹部にヅキヅキとくる鋭い痛み。よく見ると、放たれた鎧の部分が少し欠けていた。


   「かっはー、貫くつもりだったがダメだったわぁ。失敗失敗、ってな。」


  ガロンは手をプラプラさせ、ジンジンと手に来る痛みを和らげる。



   「レオン!! 今治すわ!!」


  『三人目』はハンドガンを一度仕舞い込み、懐から何かを取り出す。
  それは笛。見た感じはフルートだろうか。


  ————そして奏でる。音の旋律がその場に響き渡る。聞き惚れてしまうほどの綺麗な音色だ。




   「……おーい、俺ぁ音楽鑑賞会にきたわけじゃねぇぞー…………てあら?」




  ————ガロンに一瞬で接近してきた『誰か』。



  “こいつは、確かさっき俺が吹き飛ばしたはずの……『二人目』だな。”

  その腹部には、ガロンの予想どおり、傷がついている。さっきつけた傷だ。



   「……うおっと!! あぶねぇなぁ!!」


  ガロンは下から突き上げられるアッパーカットを間一髪で躱し、一旦距離を置く。



  “んー、レオン……だったかぁ? 結構な痛手は与えたはずだったが。もしや————”



   「逃がすかよぉッ!!」


  レオンは距離を置こうとするガロンに休む暇を与えない。
  『三人目』もフルートを懐に戻し、もう一度ハンドガンを手に取る。


  “あー、やっぱり。あの『二人』か……”



   「てことは、だ。当然、狙いはお前だよなぁ!!」

   「……!! しまッ————」



  ガロンはレオンの攻撃をヒョイとかわし、全く違う方向へと走り出す。

  その方向は……『三人目』のいる方向。



   「お前ら、『レオンハルト・ウィルリッヒ・ハイドフェルド』と『サラ・セリーヌ・クルーガー』だなぁ?

   ドイツで英雄とか呼ばれちゃってる有名人だろ? 俺ぁ詳しく知ってるぜ。『強い奴』の名はなぁ!!」



  ガロンは『三人目』に急接近する。『三人目』はハンドガンで応戦するも、ガロンはそれを掻い潜る。



  “そしてこの『三人目』……こいつがあの、『癒しの笛使い』として有名な『サラ』って奴にちげぇねぇ。

   どんな傷でも治すと言われる凄腕の持ち主。
   多分、『レオン』の打撃の傷もこいつがフルートで治しやがったんだ。


  ————だったら簡単な話でさぁ。こいつを始末すれば……『回復』はできねぇよなぁ!!”



  ガロンはサラに近づき、強烈な足蹴りでハンドガンを弾き飛ばす。これで丸腰だ……。



   「……くッ!!」

   「さぁて、いただきまーすってなぁ!!」



  ガロンが拳を振り上げ、サラに手を挙げようとした瞬間————






   「————ッはっとぉ!!」



  ガロンは殺気を感じ、咄嗟に飛び退くようにサラから離れる。
  瞬時にサラの隣に移動してきたのは……レオンだ。



  “……ひゃあー、あぶねぇあぶねぇ。あのままあそこにいたら『斬られて』無事ではすまなかったわ。”


  レオンの両手に握られた二本の日本刀。ギラリと威圧感を放つ刃は、斬られれば本当に無事では済まない。
  兜越しでも伝わってくるほど、それを持つレオンの威圧感は並大抵のものじゃない。


  “この殺気……さすがは軍人さんだねぇ。顔は見えずとも、全身からにじみ出てるわぁ。

   それに、あのサラって子に手を出そうとした瞬間、
   スピードが格段に上がった。どっかの少年漫画の主人公かっての……。”



   「……サラ、無事か?」

   「う……うん。あたしは平気。ありがとね、レオン。」



  サラはレオンが二本の日本刀を抜いたことに動揺しつつ答える。

  彼、レオンはめったに刀を抜かない。基本的には体術だけで場を収めようとする。
  そんなレオンが刀を抜いたという事は、それほどの相手という事なのだろう……。



   「さぁてとぉ、続きを始めようぜ。まだ遊び足りないぜぇ?」


   「————残念だが、そこまでだ。ガロン。」



  ガロンの背後から、ふと声がしたので振り向く。そこにいたのは、『一人目』。



   「……すっかり忘れてたぜ。最初の弾丸以来から、ずっとお前さんは戦闘に参加してなかったよなぁ?」


  ガロンは少し距離を置いて立っている『一人目』に向かって言う。
  ガロン自身、レオンとサラとの戦闘に夢中で、もう一人いることを忘れていたのも事実。



   「だが解せねぇね。そこまで? 何がそこまでなのよ? ええ?」

   「……お前の足元に、すでに強力な術式を仕込んでおいた。

    動くな。一歩でも動けば、僕の合図とともに、その術式は発動し、お前は灰になるぞ。」



  冷静に言う『一人目』。他の二人に比べ、氷のような冷静さを感じる。
  ……どうやらこいつがこの二人にとっての『司令塔』らしい。



  “それにしても、上手くやられたねぇ。この二人に注意を引かせ、
   自分はせっせと術式の準備か……。計算された計画だね。


  なんつうか、図太い根性してるわ。そしてこいつ……多分かなり頭いいだろうねぇ。”



  普通、たとえ俺が戦闘に夢中といえど、コソコソと何かしててもばれる。
  が、それでもばれなかったのは、きっと俺が何かに気を取られてる隙に瞬時に行ったからであろう。

  ……たとえば、サラがフルートを弾いている時、とかな。



   「————それはさておき、どうしたもんかねぇ、この状況は。」



  ガロンは「はっはっは。」と、陽気に笑う。


  彼はこの状況を持ってしても、余裕の表情を崩すことはなかった————。