複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。 ( No.55 )
- 日時: 2013/02/13 00:46
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「後編」
紫苑と柿原とは5階で別れ、私達三人は屋上に向かう。
屋上のドアを開き、太陽の光をその身にたっぷりと浴びる。
意外と広々としており、よくここでお昼ご飯を食べたりする。最近は寒いのであまり来ていないが。
————そして、私達はようやく出会えた。あのサンタに……!!
「ふぉっふぉっふぉ、やっとご到着かい。待っていたぞい。」
私達の目の前に、さっき窓で見たサンタクロースがいた。やはりいたか。
私は一歩踏み出す。サンタに逃げられぬよう、慎重に距離を詰めていこうと考えた。が、
霧島勇気はそんな慎重さなど持ち合わせていなかった……!!
「先手必勝ぉぉ!!!! 覚悟、サンタさぁぁーーん!!!!」
黒川の横を瞬時に通り過ぎ、そして獣のように飛びかかり、右手をグッと後ろに引く……。
“こ……このバカ!! サンタと一戦やらかす気か!?”
バカだ。阿呆だ。大馬鹿だ。どこの誰がサンタに喧嘩を売る奴がいるだろうか。
全世界の子供たちを敵に回すぞ!? いや、今心配するべきはそこじゃない!!
「ばっ……!! 霧島!! 捕まえるんだぞ!? 喧嘩吹っ掛けてどうする!!」
「関係ねぇよぉ、黒川ぁ!! 俺はサンタに勝つんだからよぉ!!」
いや、意味が分からないぞ!? やばい、これは私が全力で止めないと……。
サンタの赤い服がさらに赤くなってしまう……。そんなサンタ見たくないぞ……。
黒川が全力で霧島を止めようとしたその時であった……。
「ふぉっふぉっふぉ。そうそう、それでよいのじゃ。全力でかかってきなさい。
————ただし、怪我をしても恨みっこなしじゃ……。」
霧島は後ろに引いた右手を思いっきりサンタに向けて振りぬくッ!!
が、それは頬の横を通り過ぎ、紙一重で躱された。そして、
サンタの右手の手のひらから放たれた掌底が、霧島の胸に深くめり込む……!!
「……がッ……はッ!!」
「霧島勇気君、君は素晴らしい力の持ち主だ。ゆえに、まだ磨けば光るぞい。」
霧島は宙を舞うように黒川達のいる方向に吹き飛ぶ……。
地面にたたきつけられる前に、黒川は瞬時に落下点に立ち、霧島を受け止める。
その胸部分だけ、綺麗に服が吹き飛んだように破れていた。そして口から血がタラッと流れ出る。
「……無事か、霧島?」
「あ……あたぼうよぉ。軽く一発貰っただけだ。気にすんな。」
霧島は黒川の身体から離れ、「サンキュー。」と一言お礼を言った。
サンタの右足の置かれた地面がピキッとひび割れている。思いっきり踏み込んだ結果だろうか。
だとしたら、今の掌底だけで分かった。奴は相当強い……!!
「どうやら要らぬ心配だったようだ。
てっきり私はまたお前の暴走をとめる羽目になるかと思いきや、
今回の相手は、私も参加しないといけないみたいだな……。」
「おっ、珍しい。お前が本格的に俺と協力して喧嘩するのって久々じゃね?」
確かにな。今までは一緒に喧嘩してたと言うよりかは、霧島の暴走を止める役回りだった。
だが、さっきの霧島のパンチの躱し方、そして掌底……。
あの滅法喧嘩の強い霧島が一発貰ったのだ。暴走してもらうぐらいがちょうど良いというもの。
実力は霧島以上。だったら私は加勢するしかあるまい……!!
「水島、少し待っててくれ。すぐに終わらせる。」
「う……うん!! 二人とも気をつけて!!」
水島は少し距離を置いたところから見守る。彼女には目の毒かもしれないが、仕方があるまい————。
「久々のマジの喧嘩だ。黒川、遅れんなよッ!!」
「それはこっちのセリフだ。やれやれ、どうしてこうも……
————この小説は何でもバトル展開になるのやら……。」
ため息をつく黒川と、手をバキバキと鳴らし、嬉しそうな表情の霧島。
そんな二人を見て、思わず笑みをこぼす赤い悪魔のサンタさん。
「ふぉっふぉっふぉ。黒川君に霧島君のコンビかい。ぜひとも、君たちの実力を————」
サンタがそのセリフを言いきる前に、すでに黒川達は動いていた……!!
霧島は上空に飛び上がり、回転を加えた右足の回し蹴りでサンタの顔面に向けて放つ!!
黒川はそのまま地面を駆け回り、グッと力を入れた左手を思いっきり腹部へと放つ!!
ほぼ同時の攻撃、息は完全にぴったりの二人。
「上空と地上からの同時攻撃。戦術の理論の基礎は出来ておるのぉ二人とも。」
サンタはフッと姿勢を低くし、黒川の左ストレートを片手で受け止めつつ、
霧島の右足の回し蹴りはサンタの頭上擦れ擦れで綺麗に空を切った……!!
その流れのまま、霧島は柔軟に身体を動かし、
今度は左足でサンタの頭上に振り下ろすように蹴りを入れる……!!
間一髪で反応したサンタは、残った片手でガードする。そこで黒川はニヤリとする。
「————がら空きだ。」
両手が塞がったサンタに対し、黒川は今度は右手にグッと力を入れ、
サンタの顔面に向けて、渾身の右ストレートを放つ!!
この至近距離、なおかつ両手は使えまい……。だが、
「そうでもないぞい。ほいッ!!」
サンタは瞬時に体操選手がやるような、『ムーンサルト (通称、月面宙返り)』をしながら、
右足の蹴りで黒川の右ストレートを弾き飛ばす。
そしてサンタの身体が黒川達と上下逆になったところで、
両手を地面につけ、逆立ちの状態で両足で瞬時に黒川と霧島に蹴りを放つ……!!
「くッ……!!」
放たれた蹴りは想像以上に速くて重く、二人ともガードはしたものの、身体は吹き飛ばされた。
空中に吹き飛ばされた霧島は、さっきとは違って難なく受け身を取り、無事に地上に着地する。
「ふぉっふぉっふぉ。残念じゃったのぉ。良い攻撃じゃったが。」
逆立ちをしながら、陽気に笑うサンタさん。確かに、今の攻撃が防がれたことは予想外だ。
————だが残念だ。この勝負、私達の勝ちだ!!
「ああ、残念だった。まさかこんな形で幕切れとな。サンタさん。」
「……ふむ? どういうことかのぉ?」
黒川の意味深な言葉にいまいちピンと来ていないのか、サンタは首をかしげて尋ねる。
黒川はフッと笑い、サンタさんを指さして言う……。
「サンタさん、大事にそうに持っていた袋はどうしたんだ?」
その言葉を聞いて、サンタさんはハッと我に返る……。
そう、今サンタは逆立ち状態。無論、手に袋など持っていない。
強いて言うなら、霧島の蹴りをガードする時に『落とした』。
「その袋は一体、だれが回収したんだろうな?」
「うおぉぉぉーー!! おーい黒川ぁ!! すげぇぞこの中身!!
四次元ポケットみてぇだ!! プレゼントが山のように入ってやがる!!」
サンタはふと霧島の方に振り返る。見ると、さっきまでサンタが持っていた袋が霧島に渡っていた。
どうやら、霧島はサンタの蹴りで吹き飛ばされる前に、
落ちたプレゼントの入った袋を回収していたようだ……!!
「私達の目的はプレゼントをもらう事。そしてサンタの素性を暴く事だったが————
どうやら簡単ではないらしい。それは来年に持ち越すとしよう。今年はこれで十分だ。」
「……うーむ、してやられたのぉ。これでは戦う理由にもならんかい。」
サンタはゆっくりと足を地面におろし、ようやく普通の状態に戻る。
霧島は大きな袋を持って黒川と合流し、そして黒川も水島と合流した。
「やれやれ、霧島、お前にしては珍しく冷静じゃないか。」
「お前がしつこく言うからな。『プレゼントだけ狙え。(キリッ)』てな。」
「ふふっ、さすが黒川君だね。というか、霧島君大丈夫?」
目の前のサンタを気にすることなく、もう終わったことかのように会話を始める三人。
サンタはそんな三人の会話を聞いて、フッと笑みをこぼす。
“これがわしの学校の生徒達か……。ふぉっふぉっふぉ。面白い子達がいっぱいいて何よりじゃ。”
サンタはそのまま音もなく姿を消す。三人に感付かれることもなく————。
「それにしても、あの掌底は痛かったぁ。まぁもう治ったけど。」
「大丈夫!? 保健室に行かなくていいの?」
「ふっ、やれやれ。・・・おっ、どうやら紫苑たちが来たようだ。」
一息ついた三人の元に、5階の捜索が終わった紫苑と柿原が合流する。
「やっほー。サンタいたぁ?」
「5階にはいなかったぞ。めんどくさい。」
紫苑は相変わらずのハイテンションで、柿原は相変わらずの気だるい様子。
「サンタならいるぞ。あそこに————」
と、黒川が指さした方向には、すでにサンタは見る影もない。
霧島も水島も「あれ?」という間の抜けた声をだし、首をかしげる。
「どうやら、私達が会話している間にどこか行ってしまったらしい。」
「ええぇぇー!? 生け捕りはどうすんのさぁ? サンタの正体はぁ? ボク見てないよぉ。」
「それにしても勇気、情けないな。なんだその傷は? コケて怪我でもしたか?」
「バカ。これはサンタとの決闘のあかしだ。すんげぇ強かったぞ、サンタのヤロー。」
各々が自由な雑談をする中、一人水島は空を見上げる。
結局誰かは分からなかったけど、それでもその誰かは子供の夢を壊さないように頑張っている。
そう思うと、なんだか少し心が温かくなった……。そして、
「あっ、雪……!!」
水島が空を指さすと、空から降り注ぐ綺麗な白い雪。これもサンタからの贈り物なのだろう。
皆もそれに気づき、空を見上げる。そして感動の声を漏らす。
テンションの上がる霧島。
めんどくさそうな表情で雪を見る柿原。
勝手に昼飯を広げ、食べ始める紫苑。
そして座り込み、「やれやれ・・・。」と言葉を漏らす黒川。そして、
「————今日も良い日でありますように・・・。」
両手を重ね、祈りを捧げる水島。それが彼ら彼女らのクリスマス————。
———————— Fin ————————