複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。 ( No.60 )
日時: 2013/02/13 00:58
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



       「パート2。」





   ————その日、霧島は恋に落ちた。


  とある砂漠の一辺で、車を見つけ、助けを求めた。「すまないが、乗せてくれないか?」、と。

  ……突然であった。霧島に『恋』という雷が落ちたのは……!!



  ひょっこりと出てきたのは、明らかに自分よりも年上の女性。
  綺麗な肌。綺麗な髪。綺麗な瞳。それだけでも一目ぼれ。

  そして止めを刺すように、霧島の心を奪った一言がこれだ————。



   「えへへ、いいよぉ。乗って乗ってぇ!!」



  ————このね、喋った時に見せる、圧倒的声の幼さ。姿とのギャップが凄い。やばい。惚れた。





   「……ということだ。分かったか、黒川?」

   「とりあえず言わせてくれ。単純だな、お前。」



  霧島の熱い会話が終わった頃合いを見て、黒川は冷静にツッコむ。

  現在、ティアナの操縦する車に乗せてもらって、近くの町に移動している。
  フンフーンと、陽気に鼻歌を歌う彼女の姿は、無邪気で確かに姿とのギャップはある。
  私達は後ろの席に乗せてもらい、ティアナに運転を任せている。
  私達はまだ免許を取れるほどの年齢ではないからな。一応言っておくが、まだ14歳だ。

  でだ……ようするに、霧島は彼女に惚れた。そして嫁にしたい、こういうことだな?


   「……そもそもな、霧島。それは無理な話なのだ。この子はここの住人なのだ。
   『もしもの世界』から、現実の世界に連れて行くことは不可能だ。一生滞在することもな。」

   「そこはお前がなんとか————」

   「出来るか!!」


  霧島が言いきる前に拒否する。私の力でなんとか出来るのならとっくにやっている。
  だが実際、不可能な事は不可能だ。これはもうどうしようもあるまい。

  ところでだ、さっきの事……やはり気になる。


  ————この子は、本当に『人間』なのか……?


  私達は『アンドロイドの世界』に来たはずだった。
  確かに細かい設定はしていなかったが、それでもこんな世界に『人間』がいるのは可笑しい。
  いても『アンドロイド』。もしくは異星人のはず。
  むしろ『○○星人』とかの方がこの場合はしっくりくる。


  “それでも彼女は『人間』だと言った……。てことは————”


  もしかして失敗か? そう思った時だった……。



   「着いたよ〜!! ここが『ティアナの作った町』だよぉ!!」


  そう言って車を止め、目の前に広がる光景を見る。

  さっきまでの砂と青空だけの風景とは打って変わり、緑と水に恵まれた場所であった。
  小さな民家がいくつもあり、ここより少し遠くに見える大きな王宮、

  そして、そこらそこらに人の形をした『何か』……。
  間違いない、人型のロボット、『アンドロイド』だ————。


  “やはりアンドロイドだ……。では間違いで来たわけじゃない……?”


  ではなぜ? なぜティアナとやらはここにいる?

  ————いや、待て!! それよりも、



   「『ティアナの作った町』————?」


  黒川がもう一度復唱するように言う。ティアナは笑顔で頷き、そして、


   「そうだよぉ!! ティアナが作ったの!!」

   「……『住んでいる』、じゃなくて?」

   「作ったの!! 嘘じゃないよぉ。この民家も王宮も、
   ここにいる子たちも、緑も水も全部だよぉ!!」



  ————おいおい、なんの冗談だ?


  これが全て彼女の『創作物』だと言うのか!? 
  いやいや、町が創作物って規模が違いすぎるぞ!!

  だが嘘をついているとは到底思えない。冗談とも感じ取られないところが不思議だ。
  多分ここまでの創作技術を持ってるものなど私の世界にはいないだろう。
  本当ならばこの子、相当の天才肌だ……。


  もしも彼女が本当にこの町を作ったのであるならば————


   「一つ、質問したい。君は本当に人間なのだな? 君以外の人間がこの世界にはいるのか?」

   「いないよぉ。ティアナはここで唯一の『人間』。でも今日初めてお兄さん達に出会えたの!!

   お兄ちゃんたちが初めて出会えた『人間』!! えへへ、ティアナの誕生日プレゼントだね。」



  笑顔で嬉しそうに言う彼女だが、実際はとんでもないことを言っている。

  ここには彼女以外人間はいなくて、そしてここは、『彼女が中心の物語』だ————。


  “どうやらここは、『アンドロイド』だけの世界ではないらしい……。
   どちらかといえば、『アンドロイド』がおまけとして存在する、

   ティアナが主人公の世界だったみたいだ……。”


  私は『門』を開くとき、キーワードとして『アンドロイド』を頭に描いた。

  なのでてっきり、アンドロイドだけが住む、ロボット技術や、
  機械技術が発達した世界に行くだろうと考えていた。

  これじゃあ、私達が来た世界は『アンドロイドの世界』ではなく、『ティアナの世界』だな。
  それなら彼女がこの世界の唯一の人間であることも頷ける……。が、


  “やれやれ、一体私達はどこのマイナーな世界に迷い込んだのだ……?”


  この『もしもの世界』は、かならずどこかに存在する世界と決まっている。
  ゆえにこの世界はかならずどこかに存在している。物語は星の数ほどあるのであっても不思議じゃない。

  無論、以前のドラえもんの世界みたいに知名度はないが————。



   「誕生日!? ティアナちゃん、今日が誕生日かい?」

   「えへへ、そうだよぉ。今日でね、10歳になったんだぁー。」

   「ほぉー、それはおめでたいなぁ。10歳かー。ついに二桁になった————」



  ————————。





  なん………………だと……!? 10歳!? ————10歳!?

  ちょ……ちょっと待て!! この大人の女性が10歳!? いやいや、可笑しいにも程がある。


  “少なくとも私達よりも年上だとばかり思っていたが……。”


  ……というか、私達は10歳の女の子に車の運転を任せていたのか!? いいのかそれは!?



   「そうかぁ……10歳…………10歳ねぇ。ふは、ふははっはっはは!!」


  ああ、ついに霧島が壊れたようだ。目の前で壊れたように笑う霧島を見て、同情したくなるよ。
  なんせ『嫁候補』にしていた女性が、まだ10歳だからな。いやまぁ、色々と問題は出てくるだろうな。


  「……霧島、ここらで引き時だ。彼女を嫁にするのは諦めろ。」

  「……ふっ、何を言っている、黒川。お前は一つ、勘違いをしている。」


  おいおい、まさか、お前は恐れないというのか……? 世間の目を……。




  「まさか俺様が『ロリコン』と言われるのに恐れて手を引くと思っていたのか? バカめ!!
   霧島様はそんな世間の冷たい目なんぞ気にしない!! 俺はいつでも男の中の男!!

   目の前のスタイル抜群の美女が10歳であろうと、俺はこいつを嫁にするッ!!!」


  グッと拳を握りしめ、黒川にドヤ顔をしながら叫ぶ。それを隣でキョトンと見つめるティアナ。

  やれやれ、まぁ本人がいいのなら止める義理はない。
  友人が『ロリコン』だと広まるのはいささかツラいがな……。


   「キリちゃん、ロリコンってなぁに〜?」

   「ロリコンはね、俺様の事さ。ってか、キリちゃん!?」

   「……お前、さらっと自分がロリコンだと認めたな。」

   「クロぽんもロリコンなの〜?」

   「勘弁してくれ。私は違う。…………クロぽん?」



  その呼び名に霧島がブッと吹き出す。そして大笑いをする。


   「えー? だって黒川ちゃんに霧島ちゃんでしょー? クロぽんとキリちゃんだもんっ!!」

   「ぎゃはは、黒川、おまっ……クロぽんとか……ボンバ○マンかよ!! あひゃひゃ!!」

   「……霧島、分かりづらいネタを振るのは止めろ。後、一発腹パンチで許してやる……。」


  大笑いする霧島に、黒川は軽く腹部にパンチを入れる。
  ゲボッと言うリアルな悲鳴を上げ、霧島は笑いと痛みがごちゃまぜの中、地面にうずくまる。



   「……さて、失礼したなティアナ。このバカはほっておいて、色々質問をしたいのだがいいか?」

   「うん、いいよぉ!! なんでも聞いてぇ、クロぽん!!」


  その呼び方に、またブッと吹き出す霧島。
  そんな地面にうずくまる霧島に追い打ちをかける様に蹴りを一発。

  やれやれ、困ったあだ名を付けられたものだ。まぁ今はなんでもいい。
  せっかくこんな素晴らしい『創作物』を作った発明者が目の前にいるのだ。
  話を聞いておくことに越したことはない。時間も限られているしな。


   「ここにいるアンドロイドの事について少し調べたい。なんとかならないか?」

   「それじゃあティアナのお気に入りを……、あっ、でも今は……。」


  そこまで言って、ティアナの口がピタッと止まる。表情も心なしか暗いものへと変化する。


   「……何かあったのか? 一応相談に乗れることならのるが……?」

   「…………ありがとう。でも……」

   「ティアナちゃん!! 俺様達が悩みの一つぐらいパパッと解決してやらぁ!! 言ってみな?」


  先ほどまでうずくまっていたお馬鹿さんが、勢いよく立ち上がって言う。元気だな、お前は。
  ティアナはそれを見て、少しの沈黙の後、王宮のある方へと視線を向ける。

  この辺の民家とは比べ物にならないぐらいの大きな建物。そして口を開く……。




   「……あそこにね、お友達がいるの。ティアナの大事な……お友達が……————」