複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。 ( No.61 )
日時: 2013/02/13 00:52
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


         「パート3。」




  この世界は、突如の終わりを迎えたらしい。それはあっけない幕切れ。


  当時、ここの星とは違う近くの星が、ここの星と衝突して、
  世界は水と緑を失い、全面が砂漠へと生まれ変わり、
  そして星同士の衝突が、元々この世界にいっぱいいた人々の命の源である酸素を奪ったらしい。

  酸素を失った人々は、無論生きることが出来なくなった。次々と倒れていく姿は地獄絵図だったという。


  でも、人間であるティアナは生き残った。それには理由があった。

  彼女は元々、知能レベルが高かった。当時はまだ生まれたばかりの赤ん坊にも関わらず、だ。
  そしてその知能は世界の『脅威』にもなりうると、当時の人間は解釈した。ゆえに、『監禁』していた。

  小さなカプセルの中に動きを封じこみ、世界の外との接触を断ち切り、何年もそのカプセル内で暮らした。
  カプセル内にいれば、ほぼ仮死状態に近いため、お腹が減るという概念もなく、死ぬこともない。

  そして、人は滅びた。そんな大事件があったとは知らない彼女は、その後もカプセルで過ごしたという。


  だがある日、彼女は初めて外に出た————。


  なぜ出たのかと言うと、長い年月を経て、風化していたカプセルの機能についに限界が来たらしい。
  それを制御する人間もいないため、それは必然の出来事であるとも言えた。


  カプセルが開いたと同時に、ティアナは初めて外の景色を目にした……。

  幸い、その時には多少の酸素が復活しており、ティアナが酸素不足になることはなかった。

  うつろな目で辺りを見渡し、ゆっくりと立ち上がる。
  が、歩くということすら体験したことない彼女は、すぐに前のめりに倒れこむ。
  生まれてからずっとカプセルに閉じ込められていた彼女には仕方ない事だ。
  この時、すでに彼女は7歳になっていた。身体つきも普通の子よりも大人び始めていた。

  そして彼女は慣れぬ身体をフラフラと動かし、まずは目の前にあるパソコンと機械を起動させた。
  なぜ起動させようと思ったかは分からないが。はっきりと意識があったわけでもない。

  ただただ、目の前の機械に興味を持ち、触っただけの好奇心に過ぎない。

  ティアナは初めて触る『機械』を圧倒的な知能で瞬時に理解し、
  誰にも教わることなく自在に機械を操って見せた。
  複雑なパスワードと解き、当時ここに自分をカプセルに閉じ込めていた人間達の秘密事項に触れる……。


  そして、彼女は世界の真実を知ることになる……。

  この星の人間が全て滅びたこと、ティアナが監禁されていた理由、そして、



   「お目覚めですか、ティアナ様。」


  ふと自分の後ろから聞こえる声。振り返ると、そこには誰かが立っていた。

  身長は180cmと高く、紫色の長めのストレートヘアーで、全身には紫の鎧をきている。



   「我が名は、コードネーム、『No、0』。気軽に『ゼロ』とお呼び下さい。」

   「……ゼ……ロ……?」



  『ゼロ』という、ティアナを守る人造アンドロイドの存在について知ることになる。
  そしてこれが、ティアナとゼロの運命的な出会いの始まりになったのだ……。



  私の初めてのオトモダチ。名前は『ゼロ』。

  当時の人々がティアナのために作ったアンドロイドで、そしてティアナの自慢のオトモダチ。
  当時の人々は、ティアナのその圧倒的な知能が悪用されないかと恐れていた。

  ゆえに、それを止めるように作られたアンドロイド、それが『ゼロ』。

  ちなみに、ティアナは当時の人々に別に恨みを持っているわけではない。
  普通なら、何年もカプセルに閉じ込めていた人間を恨むところであるが、
  全ての真実を知ったティアナには、そんな感情は微塵も出てこなかった。

  むしろ、彼女は感謝していた。『ゼロ』という存在を残してくれた人たちに。
  その恩を返そうと、ティアナはゼロと出会って数日後、このような事を決心した。


  “ティアナがもう一度創るよ。この町を……この世界を。”


  それから後三年、町づくりに励むことになる。

  当時の人々のおかげで、ゼロがいつでも隣にいてくれて寂しくなかったし、
  研究に行き詰って落ち込んでいたときは慰めてくれた。楽しかった。

  二人だけで大変だったけど、それでも少しずつ町は完成に近づいてきて、幸せだった。




  ————が、しかし、事件はつい最近に起きた……!!


  黒川達がこの世界に来るほんの少し前の事、この世界に謎の少女が舞い降りた……。

  黒いローブに身を包み、ティアナ達の前に姿を現した。
  その少女はなんらかの力を使い、ゼロを拘束した。そして、


  彼女は王宮へと姿を消したようだ————。






   「……それからティアナは何とか助けようとしたんだけど————」


  王宮の入り口には何かしらの力で操られた、元々はティアナの作ったアンドロイドがいたらしく、
  作った彼女の命令を聞くことなく、容赦なく攻撃してきたらしい……。

  そして彼女は何か打開策を考えようと、砂漠に漂流していたところ、
  私達と出会い、今に至るというわけだ……。



   「おいおい、それならなんで助けてって言わなかったんだよっ!? なんで俺達に言わなかった!?」


  そこまでの話を聞いて、霧島はティアナの肩を掴んで声を荒くする。
  ティアナは目をそらし、口を堅く閉じて、グッと涙をこらえている。


  “……巻き込みたくなかったんだろう。私達を……初めて出会えた『人間』を。”


  彼女の様子を見て、黒川はふとそんなことを思う。

  きっと辛かったに違いない。誰かに助けてもらいたいと思ったに違いない。
  だけど、彼女の良心がそれを許さないのだろう。それなら一人で、という結論になったのであろう。

  しかし、それはあまりにも無謀というものだ。たった一人の少女には酷すぎるものだ。



   「ティアナちゃん、何も全部を一人で抱え込むことないんだぜ?
    人間ってのはな、一人ではどうしようもない状況っつうのはかならずあるもんさ。」


  霧島はさっきとは様子が変わり、静かに優しくティアナに囁きかける。

  霧島だって分かっている。彼女が私達を巻き込みたくないから言わなかったことぐらい。
  だけどそれ以上に、霧島は彼女に教えてやらねばならない、と力強い決意の目をしていた。


  ————そう、こんな時なら誰かを頼ってもいいんだぞ、ということを……。



   「ティアナちゃんは俺達が初めての人間だって言ったよな? 
    だから『頼る』って事を知らないんだよな。

    過去にそういう経験もなく、それを経験する場さえなかったからそれも仕方ないんだけどさ。
    だから、ここで知ってほしい。自分一人でどうしようもないと思うのならば、頼っていいんだよ。
    相手に気を使う必要はないぜ? 俺はティアナちゃんが『助けてほしい』と一言言えば、


   ————用件がなんだろうと、なんだってするんだからよ。な?」



  霧島はこれ以上にない優しい笑顔をティアナに見せた。温かく、心地よいもの。

  言葉を失ったのは、言うまでもない。そのようなことを、言われたこともないのだから。
  今まで自分の事をここまで言ってくれる人はいなかったし、思ってくれる人もいなかった。


  自分も……甘えていいのだろうか————?


  今日10歳になった彼女は、大人びた容姿をしている。
  しかしそうとはいってもまだ10歳。まだまだ子供だ。普通なら甘えん坊が普通なお年頃。

  けれど今まで、甘えられる人もおらず、ただ一人で頑張ってきた。
  他の子達みたいに母親や父親もいない。甘えられる時間さえない。それはこれからも。

  つねに大人のような心の持ち用を強いられてきた彼女は、子供の精神を微塵も持つことなく、
  精神が常に大人だったがゆえに、身体も自然と大人びたものになってしまっていたのだろう。

  それでも、言動や振る舞いにはまだ子供の特徴が大きく残っている。それがこのギャップを生み出す元凶。
  それは決して喜ばれることではなく、むしろ異常と捉えられることで、
  彼女があまりにも子供のあるべき姿からかけ離れていることを意味する。

  そんなティアナだからこそ、この時初めて気が付いた。この温かい感情、温かい気持ち。
  これは自分が……彼の好意に甘えたいと表に出ているのだという事を……。

  ティアナは最初は戸惑った。この感情、素直に表に出していいものか、と。
  どう見ても目の前の大切な人に迷惑をかける。それでもいいのだろうか、と。
  彼女としてはそれは避けたい。迷惑をかけたくないと強く願っている。



  それでも、彼女はただ涙を零して、嬉しくて泣いた————。


  自分ではどうしようもないと分かっている。でも一人で解決するべきであると思っていた。
  そんな考えをひっくり返すように、現れた男の子は自分に頼ってもいいと言ってくれている。

  頼りたい、助けてほしい、そんな感情が彼女の中をグルグル回り……、




   「……たっ…………助け……てッ……助けてッ…………!!」



  そして彼女は、霧島の胸の中でただそう泣き叫んだ……。

  ティアナの中で、何かがはじけた。今まで抑え込んでいた感情が、スッと抜き出ていくような感覚。
  まるで自分のため込んでいた闇が、自分の内面から外に出ていくような感覚に似ていた。
  この時、彼女の中で何か変わったのは間違いはない。


  ようやく、彼女は普通の女の子のように、素直に甘えることが出来たのだから————。



   「あたぼうよ。この霧島様に任せておけよ、ティアナちゃん。」


  霧島はふっと彼女の頭をなでる。子供とは思えない身長だけど、やはり子供なのだ。
  自分の胸で泣くティアナをそっと抱き寄せ、ポンポンと背中をなでてあげる。
  ティアナはポロポロと涙を流し、しばしの間霧島の温かい胸の中で甘えることにする。



   「……話はまとまったな、霧島。私達のやることは、分かっているな?」


  少し距離を置いて霧島とティアナの会話を聞いていた黒川が近づいて言う。
  ティアナの頭を優しくなでたまま、そんな優しい動きとは対照的に霧島の表情は真剣だった。


   「ああ、分かってるさ。」


  そう呟いて、霧島はふと王宮の方に視線を移す。

  光を放ち、黄金に輝くその場所にこの事件の『悪』がいる……。




   「————あそこにいる首謀者を…………叩き潰すッ!!」




       ————————-第7幕 完————————