複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。 ( No.64 )
日時: 2013/02/13 00:47
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

   ————第8幕 『もしも俺がアンドロイドの世界に行ったのなら……続編。』———— 




          「パート1。」




   黒川達がこの世界に来て15分が経とうとした頃————。


  王宮では静かな時間が流れていた。門番のアンドロイドも機能を停止している。
  侵入者の確認が出来た時だけ起動するように設定されているのだ。その数は約15機。


  そんな静寂をぶち壊すかのごとく、少しずつ大きくなる車の轟音。

  そしてその車は王宮の入口へと一直線に向かっていき、



   「お目覚めの時間だぁぁッ!!!!」



  轟音をまき散らす三人を乗せた車は王宮の扉を突き破り、ダイナミックな入場を成功させた……!!



   「いや〜爽快爽快。ティアナちゃん、良い腕してんじゃないか。」

   「えへへ〜。キリちゃん褒めて褒めて!!」

   「よぉし!! よぉしよぉし、良い子だぞ〜ティアナちゃん。」

   「……いや、褒められることではないがな。」



  霧島がティアナの頭を撫でている姿を見て、黒川は苦笑してツッコミを入れる。
  車の前方は少し凹み、扉は豪快に壊れてその辺に散らばっている。これはまた派手にやったな。


  そして王宮の内部はと言うと、これまた眩しいの一言に尽きる。

  全てが金で出来ているようだ。天井を見ると豪華なシャンデリアが吊り下がっている。
  今いる場所は結構広く、ここで大勢でパーティが開けるほどだ。
  所々に扉が見えるが、中央から前方に一直線に伸びる廊下がある。その向こう側が何やら怪しい。

  一通り辺りを見渡したところで、黒川は未だに頭を撫でている霧島に視線を移す。



   「霧島、どうやらこの廊下の先に何かありそうな————」



  と、黒川が言葉を言いきる前に、辺りに警報が鳴り響く……。
  そして外からも中からもガチャガチャという機械音が響き始まる。

  どうやら、お目覚めのようだ……!!


   「……おっ、やっと戦闘か? よっしゃ、やんぜッ!!」

   「バカを言うな。ちょっと待て。」


  手をポキポキと慣らし、意気込む霧島の首根っこを掴む。


   「ええ!? なんでよ!? どしたのよ?」


  霧島は不機嫌そうな顔をして黒川は見る。黒川は首を左右に振って、やれやれと言葉を漏らす。



   「雑魚を相手にしている時間がない。後15分でケリをつけなければ私達の負けだ。
    だから雑魚はここで退ける。ということで来い、霧島、ティアナ。」


  黒川は霧島から手を放し、先ほどから気になっている一本道の廊下へと二人を誘導する。
  霧島とティアナも黒川について行き、そして黒川は懐から『何か』を取り出す。



   「どうやら、この廊下に繋がる道はここ一本のようだ。

    ————つまりここさえ塞げば、後ろからのアンドロイドの追走を防ぐことが出来るという事だ。」


  黒川はその『何か』を自分の足元に置く。そしてカチッとスイッチを入れる。
  するとその『何か』は緑の光を発し、そして、辺りに透明の結界を張り巡らせた。
  ちなみに、今結界の外からは黒川の姿は見えておらず、目の前に見えない壁があるような感じのはずだ。

  これでアンドロイドが出てきても、ここを通ることは出来ない。
  強度もそう簡単に壊れるようには出来ていない。車が正面衝突しても難なく防ぐようにはしてある。


   「わぁ〜。クロぽんすごぉい。何したのぉ?」

   「……おい黒川、なんだこれ? またお前の不気味な発明品?」

   「不気味は余計だ。……そうだ。」


  霧島は苦笑して聞くと、黒川は澄ました顔で頷く。


  この発明品の名は、『フェロンフィールド』。日本語風に言うならば、『人外の結界』。

  人以外の物体を完全に遮断するという、黒川自信の一品。
  つまり相手が人間であるならば全く使えないのだが、アンドロイドならば別だ。
  さっきも言った通り、強度は相当固くしてある。簡単には潰せまい。



   「さて、では奥に行くとしよう。急ぐぞ。」

   「……なぁ、もしも俺達の標的が遮断したあの中にいたとしたらどうすんだ?」

   「…………その時はその時だ。心配するな。ボスは最深部と昔から決まっている。」


  黒川はとりあえず余計な事は考えず、駆け足で奥へと向かう。
  それを追いかける様にティアナと、「そうだな。」と無理やり納得した霧島が後を追う。




  2分ほど一本道の廊下を走ると、また広い場所に出た。

  長い廊下で目がおかしくなったせいか、異常に部屋が広く感じる。まぁ確かに広いのだが。
  そしてそれ以上の道はなく、どうやらここが最深部という事みたいだ。


   「ふむ……思っていた以上に静かだな。」


  黒川は辺りを見渡すが、アンドロイドは一体もいない。
  黒川達の声と足音が響くだけで、それ以上の音はなかった。


  “まさか……ここじゃない? しまった。時間ロスだったか。”



   ————そう思った黒川達であったが、





   「あんれぇ? ティアナ・ホワイト以外にもお客さん?」



  その少女の声に、ピタッと動きが止まる……。

  その声の方向に視線を移すと、黒くどす黒いオーラの中から吐き出されるように出てきた『誰か』。
  黒いローブを羽織り、何やらおぞましい雰囲気を漂わせている。とても少女の声とは思えない。

  黒川と霧島は咄嗟にティアナの前に立ち、ティアナを守るようにする。



   「……何者だ? 否、人間か?」

   「あひゃひゃ、はじめましての一言も無し? 礼儀がなってなーい。」

   「……もしかしたら会ったことがあるかもしれないだろう?」


  質問を流されてもあくまで澄ました顔で、そして少し冗談交じりで会話を試みる黒川。
  そんな黒川の対応に少女はクスッと笑い、「おもしろーい!!」と一言。そして、



   「仕方ないなぁ。じゃあ自己紹介しちゃお。あたしは『ミスト・ランジェ』。

    可愛くて美少女で男の子が皆虜になっちゃうような女の子だよぉ〜♪」



  そう言いながら、黒いローブを自ら取り払った……。


  現れたのは身長150cmほどの小柄な少女だった。
  髪はピンクの短めの落ち着いた髪型をしており、白いドレスを着ている。
  瞳の色は紫、顔つきも自称するだけあってかなり可愛らしい。

  ……それにしても、やけに正直だな。自らの名を簡単に名乗るなんて。



   「さて、自己紹介の掴みはこれでバッチリかなぁ? では、お二人さんのお名前は?」

   「俺は霧島勇————」

   「バカか。正直に名乗る必要も無かろう。こいつが首謀者である可能性があるのだから。」


  黒川は霧島の声を塞ぐように言う。99%の確率で彼女が首謀者であるのだから。
  そう、彼女がティアナの友人である『ゼロ』を誘拐した可能性が高い。
  ティアナの証言によれば、誘拐した謎の人物は黒いローブを着ていたらしい。


  ほぼ犯人は彼女と言ってもいいだろう————。





   「ええぇー、残念。ま、いっか。確認程度に聞きたかっただけだしねぇ。

    ね? そうだよね? 黒川君と、霧島勇気君、だよね————?」



  ミストの口から発せられた衝撃の真実が、私達を驚かせた。耳を疑う程に。
  今確かに私達の名前を言い当てた。なぜだ……? なぜ私達の事を……?


   「それはそうとぉー、ティアナちゃん、もしかしてこの子を取り返しにきたのー?」


  そう言って指をパチンと鳴らすと、またもや闇から吐き出されるように何かが現れた。

  闇が次第に晴れ、姿が現れると対照的に、ティアナの顔は次第に曇っていく……。
  目の前に現れたのは、間違いない。彼女の大切な友達である、



   「ゼロッ!!」


  そう、『ゼロ』と呼ばれる大切な存在。ティアナは思わず名を叫んだ。
  そのゼロは名前を呼ばれたにもかかわらず、何も応答せず、ただただ私達を見る。
  その表情は、無感情の人形の様で、思わずティアナは手を胸に当て、後ずさりした。


   「クロぽん、これってもしかしてぇ……。」


   「ああ、十中八九操られていると見て良い。これで決まったな。

   ————首謀者は彼女だ。まさか女の子に手を出さなければならなくなるとはな。」



  黒川は人差し指でミストを指さし、表情も真剣なものへと変わる。
  霧島は後ろを振り返り、ティアナの近くに行く。胸を抑え、放心状態である彼女の肩を掴む。

  それにハッとしたティアナは心配そうな目で霧島を見つめる。それに応える様にニコッと笑い、



   「心配すんな。すぐ取り返して、ティアナちゃんの元に返してやるからよ。」


  頭を撫でて、心配を取り除いてやる。そして、





   「————行ってきます。」


  静かにそう言い残し、霧島はティアナから離れ、ミストの元へ走っていく・・・!!

  途中、大きく跳躍し、ミストの上空に飛び上がり、回転で勢いをつけていく。そして、




   「————俺の惚れた女を……泣かせてんじゃねぇぞコラァ!!!」



  少女相手にも容赦なく、霧島は渾身の回し蹴りを放とうとする……。

  たとえ相手が少女と言えど、それ以上に霧島はティアナが傷つけられたことに憤怒していた。
  ゆえに、手を抜く気は毛頭ない。全力で叩き潰す事には変わりない。が————



   「クス……男の子って獣ねー。かっこいいけどぉ、ちょっとこわーい。」


  ミストは一ミリも動くつもりはない。そんなことはお構いなしに回し蹴りをかます霧島。
  しかし、霧島は回し蹴りを振り切る事もなく、その場から吹き飛ばされてしまう。

  正確に言えば、さっきまでノロノロと動いていただけだったゼロが急に動き出し、
  霧島をタックルで吹き飛ばし、ミストを守ったのであった……!!


   「ちッ!! やっぱそうなんのかよッ!!」


  霧島は吹き飛ばされた後、瞬時に態勢を整えて受け身を取り、予想通りと言った感じで話す。
  ゼロはおぞましい雰囲気をかもし出し、敵と判断した霧島に一歩一歩ゆっくりと近づいていく。
  操られてると分かった時点で、この『ゼロ』は敵だと感付いていた。


  だから俺の相手はこいつで————




   「————私の相手はお前と言うわけだ……!!」



  ゼロが霧島に気を取られている間に、黒川は瞬時に接近する。

  とりあえずミストを倒せば、ゼロは元に戻るはず。確証はないが。

  黒川は右手を強く握り、拳を後ろにグッと引き、



   「悪いが……寝てもらう!!」


  思いっきり右ストレートを振りぬくッ!! が、



   「クス……あたしがただのか弱い美少女かと思った? ざーんねん。

   ————今の時代はねぇ、肉食系女子の方がモテるんだよー?」



  ミストはグッと身体を後ろに逸らし、黒川の拳は彼女の身体の上すれすれを通り過ぎる。
  まるでリンボーダンスをしているかの様な反り具合。そしてそのまま地面に手を付き、



   「えいッ!!」


  逆立ち状態のまま、鋭い蹴りを瞬時に放つッ!!
  黒川はそれを咄嗟に左に躱すが、攻撃の猛攻は止まらない……!!


   「それそれそれそれぇーーーー!!!」


  身体を柔軟に動かし、両足両手を上手く使って蹴りを連続に放つ……。

  黒川は逆立ちのミストに戸惑いつつ、一つ一つを慎重に防御する。が、



  “……ッ!! なんという重い攻撃……。これが少女の蹴りなのか……!?”


  まるで一回一回ハンマーで殴られるかのように次々と黒川に重い蹴りを放つミスト。
  その姿はまるで戦闘を楽しんでいるようだ。そして逆立ちしていることもあり、
  白いワンピースはめくれ、彼女のはくピンクのパンツが堂々と見え、男の精神を揺さぶる。

  全く、年頃の少女としてそれはどうなのか……。相手は年頃の男の子だと言うのに……。


  そんなくだらない事を考えている暇はなく、ただ防戦一方に陥る黒川。
  少女の蹴りは上からだけの攻撃ではなく、足を狙った攻撃も放つため、一瞬も気が抜けない。
  とくに相手が逆立ちだという点も考えようだ。視線的にも相手しづらいのなんのその————。


  “————!! ふむ、もったいないが、こういう時は————!!”


  黒川はミストの蹴りの攻撃の隙を見計らって、身体を反らし、半回転させる。
  手は地面につき、先ほどと顔と足の位置が逆になる。つまり、



   「これでいつも通りだ。逆立ち以外はな————。」



  そう、逆立ちの相手が戦いづらいなら、自らも逆立ちし、目線と戦い方を同じにすればいい。
  常人ならまず無理な戦い方だが、黒川はもはや常人ではない。超人だ。



   「ふざけてると骨折っちゃうよぉー!!」


  ミストの蹴りが飛んでくるが、黒川はそれを同じく蹴りで上手く流し、そして、


   「ふざけているかどうかは、これからわかるさ。」


  黒川も負けじと身体を柔軟に動かして蹴りを放つッ!!

  先ほどまでの防戦一方とは変わって、両者譲らない蹴りの応戦が繰り広げられる。
  お互いの蹴りが交わるたびに鉄と鉄とが衝突するような激しい音が鳴り響く……!!




   「あひゃ、うーん、いいッ!! 凄くいいよ黒川くーんッ!!! 素敵!!」

   「そう褒めてくれるな。残念ながら私はもう好きな人がいるものでなッ!!」




  そんな冗談交じりな事を言いつつ、二人は戦闘を楽しむように蹴りを放ち続ける————!!