複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。 ( No.65 )
日時: 2013/02/12 23:10
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



          「パート2。」




   黒川とミストが戦闘を始めたと同時に、霧島とゼロも戦闘を始めた————。



  目の前に立ちふさがるアンドロイドはティアナのお友達であり、大切な存在。

  けれど今の奴はとてもそのような雰囲気には見えず、
  ティアナであろうと襲い掛かってくるといった感じだ……。

  ジャキンという音をたて、両手からキラリと光る鋭利な長剣を出す。
  そしてゆっくりと、不気味に敵とみなした霧島に近づいていく。表情は相変わらず無表情だ。



   「ゼロ、だったな。声が聞こえるか————?」



  霧島のその言葉をかき消すように、ゼロは咆哮する……。
  ピリピリと空気が震え、そして大きな咆哮と共にゼロは全速力で向かってくる。


  両手の剣を頭上に振り上げ、霧島に向かって振り落す……!!

  霧島はそれをサイドステップで右に躱す。振り下ろした剣は地面を割り、えぐる。
  その隙の一瞬に、霧島は右手に力を込め、右ストレートを放つ……!!

  ゼロはそれを後ろに身を引いて空を切らせ、身体を回転させて長身の剣を横に振り回す。
  霧島は咄嗟に右足を後ろに蹴ってバックステップをして剣の範囲内から離れようとするが、
  予想以上に剣のリーチが長く、腹部の部分にかすった程度の切り傷がついた。

  一歩遅ければ、致命傷は免れなかっただろう……。


  “……ッ!! 相性が悪いな……。圧倒的にリーチが足らねぇ……!!”


  霧島の拳とゼロの長身の双剣。そのリーチは圧倒的というほど霧島が不利な状況下にあった。

  霧島の勝ち筋としては、まずは相手の懐に飛び込む。
  あの二つの長剣の攻撃を掻い潜り、そして肉弾戦に持ち込む。簡単な話だが難しい。
  いくら剣といっても、戦いやすい間合いというものが存在する。
  霧島が懐にさえ入ってしまえば、自慢の剣もその攻撃力が半減する。


  ————そしてありったけの攻撃をぶち込むッ!! 一瞬で勝負を決める!!




   「わりぃが……手加減はできねぇ!! 壊しちまったらすまねぇなぁ!!」



  霧島はゼロに一直線に向かっていく。ゼロはそれを迎え撃つように片手の剣を振り下ろす!!
  霧島はそれをギリギリの間合いのところで急ストップして空を切らせ、空を切ったと同時に飛び込む。

  ゼロはもう片手の長身の剣を今度は右から左に薙ぎ払う……!!
  それも霧島は態勢を低くして、頭上スレスレを剣が通り過ぎていく。そして、懐に飛び込んだ。



  “貰った……!! このまま勝負を————”


  そう思ったのも束の間、なんとゼロは強引に身体をひねり、回転させる。
  さっきと同じ、横に薙ぎ払う双剣を左右に広げた回転切りだ……!!


  “あの態勢から……なんて奴だ!! これはッ……。”



  まずいな、ただ純粋にそう思った。

  今の霧島は完璧にゼロの間合いに踏み込んでおり、今さら引く事も叶わない。
  完璧にこれは致命傷のダメージを受けることは間違いない状況だった……。


  霧島は目を見開く。覚悟を決めた……。



  ————目の前の敵を……『本気で潰す』覚悟を……!!









    “ヒートアップ……レベル————”



  瞬間、霧島の中で何かが弾けた……。そして同時に、
  ガキン、という金属が無理やり折られた様な音が鳴り響く……。

  上空に二つの何かが舞い上がる。それはキラリと光る綺麗な刃。
  破片は辺りに散らばり、刃は地上に突き刺さる。そして、

  ゼロの剣を見てみると、どちらも刃を折られており、使い物にならないものになっていた……!!



   「……わりぃな。自慢の剣、強引に折らせてもらったぜ。」


  ゼロは自らの折られた剣を見ても、無表情。何も感じていない様子だった。
  対する霧島は両拳からポタポタと血を流し、少し痛々しい表情であった。そして、



   「————このまま終わらせてもらうぜ……。」


  攻撃手段を失ったゼロには何もすることは出来ず、ただ霧島を見つめた。
  その表情に何も感じず、何も感じ取れない。

  霧島はまず、腹部に一発強力なパンチを浴びせる……!!
  メキメキと鳴り響き、霧島の拳がゼロの腹部に深々とめり込んでいく。



   「……ッ!!」

   「もう一度聞くぞ。声が聞こえるかぁ、ああぁ!?」



  霧島は片膝をついたゼロに今度は思いっきり上から拳骨をかます。
  ゼロの頭は勢いよく地面に叩きつけられ、思わず苦痛の声を漏らす。


  どうやら、痛覚はちゃんとあるらしい。だがな————





   「耳ちゃんと働いてんのかよッ、てめぇは!!」


  霧島は思いっきりゼロの顔面を踏みつける。メリメリと地面に埋もれる音が聞こえる。






  “この男は……さっきから何を言っているのだろう?”


  肯定。ゼロはさっきから聞こえている。この男の声が……。

  耳がちゃんと機能しているかどうか尋ねてきた。肯定。問題なく機能している。
  だが、否定。残念ながら、我はこの男の応答をすることが出来ない。
  システムに何かの不都合があり、この応答をすることも、戦闘を止めることも叶わない。


  ……否定、我はなぜ戦闘を『止める』必要があるのだ?


  今の我にはここでこの男を倒すことが命令。……のはずだ。
  疑問。なぜ我は躊躇している? なぜ我はそんな感情を働かせている?


  何が我をここまでにし、何が我を————




   「もう一度だけ聞いてやるッ、ゼロ!!」


  男は声を荒げて言う。我に何を問おうというのだ……?











   「てめぇは、ティアナの声が聞こえないのかッ!!!!」




  そこで、一瞬思考が停止した……。

  ティアナ様の……声————?



  ゼロは顔を上げる。先ほどまでよりも聴覚に働きを強くする。



  ……誰かが、我を呼んでいる。

  何度も何度も。我の名を呼ぶ声がする。懐かしい声。温かい声。
  我は顔を挙げて、今度は視力に働きかける。……見えた。



  ————涙を流し、一心に我の名を呼ぶティアナ様の姿が……。




  ……肯定。そうだ、我の使える主はティアナ様ではないか。

  この命令は……一体誰の命令だ?
  肯定。これは我が、否定、ティアナ様が望む命令ではない……。


  我はティアナ様に仕える者ではないか……!!





   「ティ…………あ……ナサ……マ……!!」



  渾身の声を振り絞って、ゼロは主人の声を叫ぶ。
  ボロボロになり、フルフルと身体を震わせ、身体を起こそうとする。

  その声を聞いて、霧島はフッと笑い、ティアナの顔も笑顔に変わる。



   「や……やった……んだよね? キリちゃん?」

   「……ああ。手間取らせやがって、全く。」


  ティアナの言葉に応えつつ、霧島はため息をついて「やれやれ。」という。
  どっかの誰かさんの真似事だという事は秘密である。






   「あんれー? 自力で元に戻っちゃったのぉ? つまんなーい。」



  そんな落ち着いた雰囲気をぶち壊すように、黒川と戦っていたはずのミストが高い位置から見下ろす。
  その黒川は、どうやら高い位置に移動したミストに困った表情を浮かべている。



   「すまねぇな黒川。今からそっちに加入するわ。」

   「いいのぉ? 男の子二人で美少女を虐めるなんて、大神さんみたいー。」

   「……ふざけたことを言っていないで降りてくるがいい。」


  黒川が靴に手をかける。どうやらエアブーツにスイッチを入れたようだ。
  そんな黒川に目もくれず、ミストは近くにあった鋭く尖った大きな槍のような鉄棒を握る。



   「それにしても、いいのぉ?」


  ワザとらしく聞いてくるミスト。霧島は首をかしげるが、
  黒川は咄嗟に気が付く……。嫌な予感しかしない事に……!!





   「霧島ぁぁ!! ティアナを————」

   「ティアナ、がら空きなんだけど♪」



  黒川の叫びよりも先に、ミストは思いっきりその鉄棒をブン投げた……。
  軌道は一直線に標的、ティアナの元へ……!!





   「……!! しま————」


  霧島は走り出す。全力で、ただひたすらに。
  だが非情にも、鉄棒の方が早い!! 間に合わない!!

  ティアナはただ茫然と向かってくる鉄棒を見ている。一歩も動かない。否、恐怖で動けない。


  ティアナはふと目を閉じた……。ティアナの目から涙が零れ落ちた気がした————。










   「ティアナぁぁぁッッーーーーー!!!!!!」



  霧島は手を伸ばす。遥か届かぬ距離から、自分が何も出来ない事に無力さを感じながら……。
  自分のせいだ、霧島は後悔した。もっとティアナちゃんの傍にいれば————




  ————すまねぇ、ティアナちゃん……。



  そして、直撃した。鈍い音と共に、血が飛び散った。
  しばしの静寂。時間が止まったようだった……。

  ティアナに狙いを定めた鉄棒は、身体をいとも簡単に貫いて見せた。



  貫いたのは…………ティアナではなかったが……。




   「…………あ……。」




  ティアナが目を開けると、そこには影が出来ていた。

  ティアナの前に誰かが立ちふさがるように立っていた。そして、


  鉄棒は、ティアナの目の前で止まっていた。ゼロの身体をクッションにして……。



   「ゼ…………ロ……?」


  ティアナは自分の眼前の前に立ち、血を流すその者の名を呼ぶ。
  先ほどまで霧島の近くにいたはずのゼロが、そこに確かにいた。

  霧島よりも早く、ゼロは動き、全速力でティアナの盾になったのだった……。



   「うッ…………ティアナ様……ご無事で何よりでございます……。」


  ゼロはカクカクとゆっくり動き、顔だけをティアナの方に向ける。
  ティアナは首を振る、小さく「いや……。」という言葉が漏れる。
  ゼロはニコッと笑う。さっきまで無表情であったのが嘘であったように……。






   「————ティアナ様…………どうか……生き……て……下さい……。」










  ティアナ様、我は少し、昔の事を思い出しました。


  小さな頃のティアナ様や、研究している時のティアナ様、
  喜んでいるティアナ様、遊んでいる時のティアナ様、そして……







      貴方と初めて会った頃の事を————





  “我は、貴方に仕えられたことを……幸せに思います…………。”



  言葉にできたかどうかは分からない。伝えられたかどうかは分からない。けれど、





  けれど……我は……ゼロは悔いがないのでございます————。








   「いやああぁぁぁぁぁッッーーーーーーー!!!!!」



  頭を抱え、泣き叫ぶように少女は泣いた。たった一人の友達を失い、別れ。

  その声は響き渡り、広場に縦横無尽に飛び交う。悲しみと一緒に。
  そして彼女は、主人を守り、やり遂げた様に笑顔のゼロを抱きしめ泣き続けた……。




   「……うーん、良い悲鳴。これだけでオカズになりそうぉ。あひゃひゃ。」


  ミストは高らかに笑う。誰かの死なんてものを気にせず、一人だけ陽気に……。

  霧島はゆっくりと黒川に近づいていく。その表情は、言わずもがな憤怒している。





   「……おい、黒川。俺はアイツを殴るだけじゃあ収まらねぇ。ボコボコにしない事には————」

   「霧島」



  瞬間、霧島は身体を震わせる。ただ名前を呼ばれただけなのに、まるで殺気を向けられたようだった。
  霧島は言葉を止め、黒川は霧島の前を手で塞ぎ、そして、



   「……貴様は彼女を守れ。」



  それだけを言って、黒川は一歩一歩、ミストの方へと歩き出す……。

  その姿は……さっきまでの黒川じゃない。
  声に力がこもっており、雰囲気も冷静なモノとは正反対。



  “何年ぶりだ……? アイツの言動が変わるぐらいブチギレたのは……。”



  霧島は知っている。黒川が『貴様』と使うときは、決まってキレた時だ。
  そしてもう一つ、ブチギレた時の黒川程、邪魔をしない事に越したことはない。

  今の奴は……本気だ。あの状態に入ってしまえば————






  平気で『殺す事』さえ躊躇しない……————!!





   「ねぇー黒川くーん。お仲間に頼らなくていいのぉ? あたしは構わないけど?」


  ミストが高い位置から見下ろすように語りかけてくるが、黒川は一向に口を開かない。
  ただスタスタとミストに近づき、そしてある程度近づくと歩みを止めた。



   「あんれー? 無視? あたしの事無視するなんて————」

   「ミスト・ランジェ。貴様に一つだけ問う。」



  ミストの声を遮り、黒川は懐から一つ、バトンのようなものを取り出す。
  リレーの時に使うような大きさで、手にちょうど収まるほどの大きさだった……。


  それをグッと握りしめ、黒川は強く、その場が凍りつくような声で言い放つ……!!











   「————俺はこれから貴様を『殺す』事になるが……遺言はないな?」





  そして閃光の如くまばゆい光がバトンから放たれ、それが綺麗な剣へと姿を変えた————!!