複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『アンドロイド編 終局』 ( No.69 )
日時: 2013/02/16 16:05
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

     ————第9幕 『もしも俺(様)が異次元を渡るなら……。』————



         「パート1。」




   ————ここ最近、この世界では奇妙な事件が起こっている。


  裏社会では有名で、この表舞台にもある程度名が通っている『DDD教団』について、だ。


  世界最悪の犯罪集団であり、人外の存在とも言われている組織。
  最近、人々の中では噂が広まり、『DDD教団が久々に動き出した!!』という話題で持ちきりだ。


  そう噂される理由に、一つは『特殊部隊』と呼ばれる組織の活発化にあった。


  『特殊部隊』とは、いわば警察なのだが、違う点が一つある。

  それは、政府から武力での強制鎮圧が許されている、という点だ————。

  『特殊部隊』には、超能力を持つ者が100人ほどおり、実力は折り紙つき。
  そんな特殊部隊が動き出した理由で考えられるモノがあるとすれば、
  人外の存在である『DDD教団』との戦争、というのが第一に挙げられる。

  以前にもこのような前科があった。以前と言っても、かなり昔の事だが。
  ここ最近、DDD教団についての事件や動きがなかった。
  動き出したのは、ほんの数日前と言ってもいいだろう。


  そして、奴らが動き出したとなれば、特殊部隊も動かざるを得ない。
  それが本来の『特殊部隊』の在り方でもあるからだ……。




   「うーん、なんか凄い話になってるね。『袋井君』。」



  とある部屋でソファに座りこみ、新聞の一つの記事を指さして花狩先生は言う。
  新聞にはこのように書かれてある。『特殊部隊、始動!!』と。


   「……。」

   「おや、相変わらず無口だね。まぁいいけどさ。
    だけど、『特殊部隊』である君も関係ない話ではないだろう?」



  ————その横で口を開こうとせず、壁にもたれかかる一人の少年。


  身長は150㎝程で、体重は不明。歳は確か14歳。
  頭には紙袋を被っており、顔はよく見えない。

  服装は何かをイメージしているのか、上下とも緑色の服装。そして背中にはマントを羽織っている。


  彼の名は、『袋井 飛以呂 (ふくろい ひいろ)』。


  『特殊部隊』に所属しており、実力はかなりのモノ。彼にも無論、何かしらの超能力を秘めている。
  彼はこの辺の治安の維持も任されており、相棒のバイクと町の平和のために走り回っている。
  本来なら、法に引っかかる年齢なのだが、特殊部隊は色々と優遇されていて許可は得ているようだ。


  花狩先生は特殊部隊には所属してはいないものの、事情はかなり深くまで知っていた。

  元地山中学にも、特殊部隊に所属している超能力者が多数いる。
  花狩先生はその多くの超能力者の保護者役、監視役と言ったところであろうか。



   「ところで袋井君」


  ふと、花狩先生は机に置いている紅茶を入れたカップを手に取りながら、口を開く。



   「最近『リバース』という団体が本格的に動いているらしいけど————

    実際はどうなんだい? 君もそこに所属しているのだろう?」



  花狩先生は今回、袋井を呼び出した理由の一つである話題を切り出した。


  『リバース』。それは最近結成された、謎の組織。


  白い兜をかぶり、白いマントを羽織った騎士の様な姿。
  マントの後ろには丸の中に星形が赤く書かれた紋章。

  それらをトレードマークとした謎の組織とは言われているが、無論DDD教団とは違う。
  あれは『悪の組織』だが、こちらは『正義の組織』。特殊部隊と同じだ。
  が、だからといって味方というわけでもなく、リバースはこの二つの団体と敵対している。


  DDD教団は、『世界を滅ぼす組織』。

  特殊部隊は、『世界を救う組織』。

  そしてリバースは、『特殊部隊を止める組織』。


  リバースには特殊部隊を止めなければならない、ある理由があった。
  それを聞いたのはつい最近で……そして創立されたのもごく最近だ。


   「リバースは元特殊部隊の中から、『ある理念』を持った人達を集めた組織。

    特殊部隊の組織論を否定し、別の方法で世界を救おうとする組織……だったか?」



  花狩先生が紅茶を口に含んでそう言うと、袋井はコクンと一度頷いた。

  特殊部隊の望む結果論とやらがどんなものかは分からないが、
  少なくとも、話を聞いている限りでは袋井は良いようには思っていないらしい。


   「……だがまぁ、なかなか辛い話だろうなぁ。確かリバースは少人数組織なんだろ?
    聞いた話だと、10人にも満たないとか……。これじゃあ人手不足もいいとこだ。」


  袋井に視線を向けると、彼は相変わらず無言のまま一点を見つめたままだ。

  今、世界は三つ巴の戦争を迎えようとしている。
  DDD教団、特殊部隊、そしてリバース。

  これらの組織がなんのために戦争するのか、そもそも何が目的なのかは花狩先生は知らない。
  袋井に以前聞いてみたのだが、黙秘権を酷使されてしまった。


  だが少なくともそれがただの戦争ではない事ぐらい、事情を知らない一般人にだってわかる。
  世界を揺るがし、世界を変える戦争。その先に何が待っているのかは分からないが……。




   「…………そろそろ、会議の時間なので。」


  と呟くと、袋井はもたれ掛かっていた壁から身を引き、部屋から早々と立ち去ろうとする。
  「待ちたまえ」と、ふと花狩先生に呼び止められ、ピタリとその動きを止める。

  カチャリと紅茶を入っていたカップを置く音が響いた。そして、




   「仕事、頑張れよ。また俺の独り言を聞いてくれると嬉しいね。」



  と言った。背中を向けていた袋井には見えなかったが、多分花狩先生は優しく微笑んでいた事だろう。

  しかし振り返ることはせず、そのまま扉を開け、無言のまま彼は出ていった……。




  文字通り花狩先生の独り言を聞き終えた袋井は学校を出て、自身の相棒であるバイクにまたがった。

  毎度毎度、彼が話を聞いてほしいと連絡を入れてくるので仕方なく話を聞いているが、
  それもまぁ、『仕事』の合間の息抜きの時間と思えば心地よいモノだった。

  花狩先生は大体の事情を知っているため気を使う必要もないし、袋井にとっては別に悪い話ではない。
  それに袋井と花狩先生はある『趣味』を共通する仲だ。人間的にも嫌いではない。
  その趣味が今の袋井の格好に直結しているというのは言うまでもない。あえて何とは言わないが。


  仕事を頑張れ————か。


  そうだ、自分には今やるべきことがある。それは大きな、大きな仕事だ。

  世界を守るための……大事な仕事が。




   「————こちら袋井、今からそちらに向かう……。」




  胸につけた無線機に独り言のように告げると、

  唸るような音を鳴らし、袋井を乗せたバイクが町の中心部へと疾走していく————。