複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『リバース』 ( No.71 )
- 日時: 2013/02/14 16:03
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート3。」
黒川達がアンドロイドの世界から帰還し、ティアナと感動の再開をしている時と同時刻、
瓦源次と名乗る男と、柿原と紫苑は横に並んで大きな商店街を歩いていた————。
「————で? 具体的に俺達は何をすればいいんだよ?」
柿原はふと質問を投げつける。隣にいた源次は甘いクリームがいっぱい入ったクレープを口に頬張っている。
先ほど、「あー、俺ちん甘いモノが食べたくなってきた。」と言って、買ってきた。
ちなみに紫苑も一緒に購入し、同じく隣で噛り付いている。どうやら満足している様だ。
ちなみに俺は買っていない。甘いモノは好きではない。
「少年、焦らない焦らない。いいかね、男というものは、
『常に余裕を持って行動する』のがカッコいいモノよ。」
「……お前は呑気にしすぎだと思うぞー。」
カッコつけた表情の源次に苦笑してそう言ってやると、源次はガクッと肩を落とす。
まぁとはいっても、いつもめんどくさいと言って行動しようとしない自分が言うのもなんだが。
それはそれで余裕を持って行動している、と言えるだろう。……無理やりだが。
「お、あそことか良いね。よっしゃ、俺様についてこい諸君!!」
クレープを食べ終えた源次が先行して、駆け足でどこかに向かう。
紫苑も「イエッサー!!」と掛け声とともに、走り出していた。柿原は面倒なので、歩いていたが。
そして源次が連れてきたのは、人目のつかない裏道。
滅多に人が通る事のないであろう場所で、源次は立ち止まった。
「……? おい、こんなところで何すんだよ?」
柿原が周りを見渡してそう聞くと、源次は柿原の方に振り返る。
「少年、さっき聞いたよね? 具体的に何をするのかってさ。」
源次が確かめる様に言ってきたので、柿原はああ、と返事を返した。
紫苑はというと、先ほどからタロットを触って何も言わない。どうやら占い中らしい。
“……待てよ、紫苑が占い中……?”
そこで柿原はなるほど、と納得した。つまりここは、
「異次元のゆがみって奴がある場所、なんだな?」
柿原がそう言うと、微笑した源次が「ピンポーン。大正解だわ。」と返す。
柿原には感じることは出来ないが、どうやらここで誰かが異次元の世界から来た、
もしくは出ていったということみたいだ。だが、
「それは分かったが、だからといってどうする?」
柿原がタロットを広げる紫苑を横目に、源次に聞いてみる。
「簡単さー。その異次元のゆがみをこじ開け、異次元の世界に行くのよ。
そして確かめるのさ。異次元のゆがみの正体を、さ。」
源次の言葉に、思わず「なッ……!?」と驚きの言葉を漏らす。
それは紫苑も一緒で、二人とも源次を見る。
「んでもって、今から向こうに繋がる『門』を開ける。だが————
向こうの世界は100%危険だと言っていい。死に至る可能性もある。
だから協力してもらってこんなこと言うのもなんだけど……無理に来なくてもいい。」
いつもふざけた調子の源次から、ほんの少し真剣な言葉が漏れる。
向こうでの死は、本当の自分の死。
ゲームではもう一回リセットが効いたりするが、そんな都合が良いものは無し。
だから、ここで命を懸ける必要も————
「おい、わざわざそんなこと言わなくてもいいぞ。」
柿原は横目でチラリと紫苑を見る。紫苑は何も言わずに頷いている。むしろワクワクしている。
それは俺も同じだ。そして、そんな予感がしていたのも確かだ。だから————
「俺達の覚悟はとうに出来てる。だから連れてけ。」
「……おたくらの人生、終わっちまう可能性もあんのよ?」
「それはお前も、だろ。」
柿原の言葉に、フッと源次が笑う。「そうだねぇ。」と言葉を漏らし、柿原に後ろを見せる。
紫苑もタロットをしまい、柿原の隣に立つ。
“俺達は、退屈だったんだ。だからこんな展開を待っていた。
命を懸けるような勝負? 冒険? 面白いじゃねぇか……!!”
「行こうよー源次クン。ボクもうワクワクが抑えらんないー。」
「全くだぜー。さっさと行くぞ。」
紫苑と柿原の言葉が、なぜか頼もしく感じた。
先ほどあったばかりのはずなのに、妙に温かさを感じる。
そして子供とはいえ、覚悟と好奇心に満ちた心。源次は思わず笑ってしまう。
“やれやれ……これが人の温かさ、ね。”
後ろにいる二人に感謝しつつ、源次はゆっくりと手を前に出した……。
「そんじゃ、行くか!! 俺様の姿を……ちゃんとみてろよぉ!!」
ふと、風が吹いた。源次の回りに風が躍るように舞う。
“この雰囲気……どこかで。”
柿原と紫苑はお互いに目を合わせた。お互いに何か近しい何かを感じた。
まるで見たことがある、という感覚。それも身近に————
“Information search————。Open、Possibility Gate ————”
(情報検索————。もしもの扉、今ここに開きたまえ————!!)
目を見開き、呪文を唱える。それが合言葉となり、光を集めて輝く。
一瞬目を伏せてしまう程の眩しさが襲う。その後、光は形を作り、光の扉へと姿を変える。
「これは……!!」
間違いない、と二人は断言する。そんな二人に振り返り、源次は「どうよ?」と聞いてくる。
源次の行った行為は……まさしく黒川と同じ行為。
正確に言うなら、『もしもの世界に行く能力』!!
「そんじゃあいっくぜーい。ついてこいよ、俺様にー。」
「ちょ……ちょっと待て!!」
門を潜ろうとする源次の腕を掴み、引きとめる。源次は「えっ? 何よ?」と首を傾げる。
柿原は動揺する頭を冷静にし、そして、
「お前……何者だ? 今のはどう見ても、俺の友達と同じ能力だ。」
「そうだよねー。黒川クンと同じ現象、同じ能力だよねぇ。」
「友達? 黒川……。……!! ちょっと待て」
源次は一瞬首を傾げたが、すぐに目を見開いた。
「少年、その友達は……俺ちんと同じ能力を持ってるって言ったよね?」
急に真剣な表情になった源次に、柿原は少し動揺して「あ……ああ。」と答える。
その返答を聞いて、「そうか……。」と言葉を漏らし、ふたたび柿原達に背を向ける。
「……? どうした源次。何かあったのか?」
「……いんや、何もねぇさ。さてさて、行こうぜぃ。」
「あー、質問の答えはぁ!? なんで使えるのさぁ?」
「内緒。俺様の女になるんだったら教えてやってもいいぜ、お嬢ちゃん?」
「それは却下、かな?」
あっさり拒否されて、肩を落とす源次の背中を押す様に、柿原達は扉の向こうへと入っていく。
今は、聞かないでおこう。奴自身も話したくない感じだったしな。
こうして、謎の多い源次と共に、俺達も異世界へと足を踏み入れた————。
————————第9幕 完————————