複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『カオスすぎた感謝祭。』 ( No.76 )
日時: 2013/02/16 16:32
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

     ————第10幕 『もしも俺(様)がゾンビの世界に飛び込んだなら……。』————



         「パート1。」




  視界を照らす光が徐々に引いていく。少しづつ明確になっていく風景。

  柿原と紫苑にとって、異世界に行くのはこれが初めてではなかった。
  以前黒川の力を使って次元を渡った事はある。その時もこんな光の道を歩いているような感覚だった。


  けれど、相変わらず慣れない。しかもそれを源次がやってのけるのだからなおさらだ。
  ますます謎が多くなった源次。はたして何者なのかこいつは。

  と、そこで柿原は頭を振って、考えることを止めた。どうせ分からないのだから。


  思考を止め、ただひたすらに前方に輝く光へと歩いていく。そして————





  視界は突如、光り輝く場所から薄暗い闇へと変化する……。


  異世界に踏み入れた柿原達の視界にまず入ってきたのは、真っ暗闇の空と月。

  そして次に空を不気味に飛び回るコウモリ、そして無数の墓。
  見渡すと柿原達を囲むように墓が立てられていて、所々に血の跡やひび割れた痕跡が見える。
  さらに外側には柵が張り巡らされており、まるで自分達は捕まった囚人のようだ。
  唯一出口と思われるのが、前方に見える黒い不気味な扉。大きさは柿原達の二倍程度。
  そこから何匹ものコウモリがこちらを見ているため、不気味さは余計に増す。



   「……召クン、ここってもしかしてぇ……」

   「確認するまでもねぇ。ここは……墓地だ。」



  はっきり言い放った召の言葉を聞いて「ヒィー!」悲鳴を上げたのは紫苑……ではなく源次だった。

  むしろ紫苑はキョトンとしていて、全く動じていない様子であった。



   「……なんでお前が悲鳴あげてんだよ。」

   「いやだって、まさか墓地に来るなんて思ってみなかったわぁ……。
    よし、俺ちん帰る。帰ろう。帰りやがるぜコノヤロー。」


   「……出口閉まっちゃったよぉ?」



  紫苑がそう言うので、先ほど出てきた扉の方に目をやると確かにすでに扉はなくなっていた。


   「ああ、そだった。一度異次元を渡れば30分は帰ってこれない仕様なのよねぇ……。」


  源次はがっくりと肩を落とす。その落ちた肩をポンと柿原が手を置き、「諦めろ。」と無情の一言を発する。


  それにしても……不気味な場所だな、と柿原は思った。

  辺りは意外と静かで、コウモリの鳴き声以外に音らしい音は聞こえない。
  それが逆に不気味で余計に身構えてしまう……。



   「ねぇ召クン、さっそく占ってみたんだけどぉ。結果聞きたいー?」


  ふと自分の背後から、タロットカードを片手に妙に明るい声で紫苑が話してくる。
  仕事が早いな、というのが半分、何か嫌な予感がする、が半分。
  紫苑が妙にご機縁なのを見て、柿原は妙な不安感に駆られていた。

  一旦深呼吸をして、「ああ。」と柿原が答えると紫苑はニッコリと笑う。嫌な笑顔……。



   「えっとぉ、タロットを引いた結果は『ハプニング』のカード。
    しかも普通では起こりえないハプニングが起こる、だってさー。

    ねぇねぇ召クン、こんな墓地で起こる奇想天外のハプニングって一つしかないと思わない?」



  紫苑が何を言いたいのか、すぐに理解した。そしてそんな自分を呪いたい。

  つまりこうだ、紫苑が言いたいハプニングってのは————






   「墓地っていったらさぁー、ゾンビが出てくるのってお約束だよねー!!」




  ボコッ、という音が後ろから聞こえた……気がした。


  それが気のせいだったらどれだけよかっただろうか。確かにその音は、聞こえた。
  ついでに唸り声まで聞こえる。それは隣の源次にも聞こえていたようで、


   「冗談……ですよねぇ? お嬢ちゃん、一応聞くけど、俺ちんの後ろに何が見えてる……?」



  恐る恐る源次が唯一柿原と自分の後ろを見ている紫苑に聞いてみる。
  柿原と源次は全く振り返ろうとしない。信じたくは……ない。

  紫苑はニッコリと笑顔だった。その笑顔に、悪魔の類を見た……。




   「————えっとぉ、ゾンビが見えるー。」




  その一言が二人の背筋を凍らせるのと同時に、今度はボコボコッ、という音が完璧に聞こえた。
  その音は、何かが地中深くから這い出てきた音。そしてうめき声は……


  ……目の前の二人の人間の血を吸いたいと訴えているようであった————!!








   「うぎゃああああぁぁぁー!!!」



  二人とも同時に悲鳴を上げ、ダッシュで紫苑の後ろに隠れて身をひそめる。
  その時の速さはプロの陸上選手顔負けの速さだった。ぜぇぜぇと息が切れる。


  そこでやっと、柿原と源次は目の前のゾンビの全貌を見た。


  身体全体が腐敗しているかのようにボロボロで、肉片が時々ポタポタと地面に落ちる。
  うめき声をあげて、こちらにフラフラと近づいてくる。足つきは酔っぱらいのようだ。
  死んでいる、のは確実だ。だが生きている。矛盾が起こっているのは分かっている。

  しかし、内蔵丸出しの人間をはたして生きていると言えるだろうか?
  人間が死んだと判断されるときは脳の活動停止、もしくは心肺停止だとごく一般は言われる。
  しかし目の前のゾンビはとても『生きている』とは仮定しづらい。判定に困る人間だ、と柿原は頭を抱える。



   「あいつらは一体どうやって動いている……? そもそも、ゾンビはどうやって出来るんだろう?」

   「うおおぉいい!! 何科学者みたいに無駄な解析してんの少年!!
    どうでもいいじゃないそんなのッ!! とりあえずゾンビを————」

   「ボクは心臓は止まってるけど脳だけが動いてる、と予想するよー。召クンは?」

   「そうだなぁ、俺はー……」

   「いや、もういいって言ってんでしょうが!! 俺ちんを無視しないでよ!!」



  目の前のゾンビを見ても全く動揺しようとしない二人を見て、源次は呆れかえった。
  むしろこの状況を二人は楽しんでいるようにさえ思える。だがしかし、


   「……あんまり冗談言ってる場合でもないな————。」


  柿原が冷静になって周りを見渡す。目の前のゾンビ以外にも、所々から土をかき分ける音が聞こえる。
  ボコボコッ、という音がまるで音楽の様に連立し、次々に地中から這い出てくる。

  その数は、ざっと見て30人オーバー。もっといると思ってもいいだろう……。



   「どうすんの少年? さすがにこれは逃げないとまずい気が……」


  源次が隣をチラリと見ると、先ほどまで一緒に紫苑の後ろにいた柿原がいない。
  気付けば彼は紫苑よりも前に出て、やる気満々といった感じで肩をグルリと何度も回す。


  そして指をパチンと鳴らす。すると空間のゆがみが柿原の両隣から発生し、
  そこから体長は2メートルはある、棍棒を持った『鬼』が2匹姿を現した……!!

  右隣りには赤鬼。左隣りには青鬼。獣の如く咆哮して、主人である柿原の指示を待っていた。

  紫苑もタロットカードをしまい、代わりに腰に着けてあった鎌をヒョイと手に取る。
  クルリと回転させ、手に強く握る。先がとがった鎌の刃がキラリと光を放つ。



   「紫苑、質問だー。俺達は今から何をするんだろう? 教えてくれ紫苑。」

   「無論、戦うのだぁー!! いっくよぉ召クン!!」

   「だよなぁーめんどくせぇ。けど、ワクワクするねー。————つうことで鬼さん、行くぜぇ!!」



  柿原の掛け声に呼応して、2匹の鬼はまたも咆哮する。
  そして恐ろしい形相を、まずは目の前の一匹のゾンビに向ける。



   「挨拶代わりだッ!! ミンチにしてやれぇッ、『ラブゴリラ・鈴木2』!!」


  『ラブゴリラ・鈴木2』という名前?をした赤鬼は棍棒を振り上げ、力いっぱい目標のゾンビに振り落す!!

  確かに生ぬるい手ごたえを感じた。肉が、骨が砕ける音もした。
  棍棒で叩かれた部分は大きな風穴を開け、鬼がニヤリと笑ったような気さえした。

  ゆっくりと棍棒をあげると、そこには文字通り、跡形もなくミンチになったゾンビがいた。



   「よっしゃぁ、合格。よくやった、ラブゴリラ・鈴木2。」

   「ちょっとまてぇえええ!!! 少年それ名前かッ!? この鬼の名前を言ってんのかい!?」


  あまりにも柿原が当たり前だと言った顔で源次に頷くため、源次は口を半開きのまま停止。

  ネーミングの悪さ、とかいうレベルではない。なんでゴリラなの? なんで鈴木なの?
  それよりも、気になったのは『2』。もう一回言おう。『2』だ。



   「じゃあこちらの青鬼さんは……『ラブゴリラ・鈴木1』なのかい?」


  恐る恐る源次が聞いてみると、柿原は首を横に振って、


   「いや、この青鬼は『ローキック・貞子4』だ。」

   「何それ怖いッ!!」


  反射的に源次は飛び退いた。いや青鬼が怖いんじゃなくて、目の前の柿原が怖い。

  貞子さんのローキックとか無敵じゃねぇか。幽霊だから相手の攻撃当たんないし。
  這いつくばって出てきて人間襲うと見せかけて……立ち上がってローキック、とかそんな感じなのね。



  …………教えてちょうだい。俺様は一体何を言っているのよ。





   「あー召クン、結局ローキックにしたのぉ? ボクはタイキックのが良いと思ったんだけどなぁー。」

   「悩んだ結果、ローキックにしたわ。貞子は確定だった。顔もそれとなく似てるしなこいつ。怖いし。」

   「似てねぇからッ!! てかおたくらのネーミングセンスが怖いよッ!!」



  周りから徐々にゾンビが円陣を組むように近づいてくるというのに、何を馬鹿な話をしてるのだろう。
  源次はため息をついた。バカらしい彼らに場を和まされたというか、雰囲気ぶち壊しというか。

  気付けば源次も紫苑の後ろを離れ、柿原の隣(正確に言うと、ラブゴリラ・鈴木2の隣)に立っていた。
  あまりにもあきれ返って、逃げる必要もないと判断した結果だった。


  いやそれ以上に、彼らが相当デキると判断したからだ。ゆえに————



   「————けが人の心配、するだけ無駄だったのよねぇ。」



  源次が左手を前につきだすと、そこから一瞬パッと光を放つ。

  そして手に何か長い曲線を描いた棒が握られている。それは、弓だ。
  自然の木々に似た緑色で、美しいと言ってしまう程の絶妙な形をした弓が、源次の手に握られる。



   「そんじゃ、始めますかね。お掃除お掃除、と。」



  源次はフッと微笑すると、左手を前に突きだし、ゆっくりと右手で弦を引いた————。