複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『ゾンビ達のカーニバル。』 ( No.77 )
日時: 2013/02/17 12:37
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode




        「パート2。」




  ————源次が弓を引くと同時に、源次の右手と弦の間に糸を引くように『何か』が現れる。

  ほんの少し光を放ったかと思うと、光は消え、一本の『矢』へと姿を変える。
  まるで光の矢。ちなみに、元々源次が持っていた訳ではない。どこから現れたかは謎だ。

  ギリギリッと弦を力一杯に引き、標準を前方に見えるゾンビ達に合わせる……。




   「————秘技、『乱れ咲き (みだれざき)』。」



  そう呟いて、力一杯引いた弦をフッと放す。放たれた瞬間、矢は光を放って真っ直ぐに飛ぶ。
  そして、源次とゾンビ達の距離の中間を通り過ぎた辺りで、矢はさらなる変化を生んだ。

  弾丸の如く飛んで行った矢が、まるで分裂するかのように四方八方に広がり、
  パアンッという炸裂音と共に、一本の矢は無数の矢へと変化を遂げた……!!


  分散した矢は次々と前方のゾンビ達を打ち抜いていく。うめき声が苦しそうな悲鳴へと変わっていく。

  そしてそれが合図となり、一斉に他のゾンビ達は咆哮と共に三人に襲い掛かってきた……。



   「来るよぉお二人さん!! ちゃんと身構えなよ!!」

   「分かってるよ!! そっちは任せんぞ!!」

   「ひっさびさに暴れるよぉ!!」



  柿原と紫苑も即座に戦闘態勢に入り、三人はお互いに背中を向ける。

  お互いの死角となるところをカバーする。戦闘では基本中の基本だ。
  ただでさえゾンビ達に囲まれている状況。後ろからの攻撃は何としても防ぎたい。



   「ローキック、左から右に薙ぎ払えッ!!」



  『ローキック・貞子4』と名のついた青鬼は主人の命令通り、力一杯棍棒を薙ぎ払う。
  近づきつつあったゾンビ達の何人かを蹴散らし、吹き飛ばす。

  その隙を見て、後ろに控えてあったゾンビ達が柿原に向け一斉に飛び出す。
  が、柿原は全く動じていない。むしろ自信に満ち溢れていた。



   「次だラブゴリラ、右から左に薙ぎ払えッ!!」


  今度は『ラブゴリラ・鈴木2』と名のついた赤鬼が、咆哮して棍棒を命令通りに薙ぎ払う。
  隙だと思って突入したゾンビ達は呆気なく棍棒の餌食になり、吹き飛ばされる。

  交差した赤鬼と青鬼の持つ棍棒が、ゾンビ達にはまるで主人を守る頑固で強靭な門に見えた……!!




   「————こいよ。触れれるもんなら触れてみな?」



  柿原の笑みが、ゾンビ達の表情を曇らせた————。







   「えいッ、やぁッ、とぉー!!」



  そんな柿原が笑みを浮かべる後ろでは、紫苑が舞う様にゾンビ達と戦っていた。

  踊りを踊っているかのような軽快なステップでゾンビ達の猛攻を躱しながら、
  自身の持つ鎌で一人一人確実に倒していく……!!



   「グワアアアッッ!!!」


  咆哮したゾンビの一匹が紫苑に突進していく。鋭い牙を見せ、紫苑に抱き着くように捕まえようとする。

  が、ゾンビの視界から一瞬紫苑の姿が消えたかと思うと、ゾンビの視界が真正面から真上へと方向を変える。
  紫苑は瞬時に身体を折りたたみ、しゃがんだと同時にゾンビの足を払ったのだった。

  足を払われたゾンビは妙な浮遊感に襲われ、背中から地面に落ちたと同時に、
  紫苑の持つ鎌が頭の頭蓋をかち割った。腐敗した頭と骨は意外と脆いモノであった。



   「次々ぃー!! じゃんじゃん来てねぇー!!」



  紫苑はピョンピョンと飛び跳ねながら、手にある鎌をクルクルと器用に回して言った————。










   「ほほう、意外とお二人さんやるのね。感心感心。」


  源次はというと、さっきから全くゾンビのいる方向を見てはいなかった。

  ただ左手を前に、そして右手を適当に引いては離し、引いては離しの繰り返し。
  放たれた矢は先ほどと同じように分裂し、無数の矢になってゾンビ達に降り注ぐ。
  顔は完璧に柿原達の方を見ていて、ゾンビの接近など見ていない。


  ……が、源次の前方約2m付近までは、ゾンビ達の姿は全くなかった。

  つまり、適当にやっているのにもかかわらず、彼は全く持ってゾンビの接近を許していない。
  ゾンビ達はこのたかが『2m』という距離がとてつもなく遠い距離の様に感じていた。



   「……しかしまぁ、全く数が減ってないのは気のせいかね?」



  源次は二人と比べて、すでに百体以上のゾンビ達に矢を放って葬っている……はず。
  だが先ほどから無限に湧き出てくるようにゾンビ達は地中から出てくる。
  最初は30体ほどだったはずなのに、いつの間にかその5倍は増えてるような……。



   「てか数多すぎないか? さすがにめんどくさいんだけどー。」

   「そぉー? ボクは無双ゲームをやってるようで楽しいけど♪」

   「……お嬢ちゃん、一番動いてる割には一番元気だねぇ。」



  柿原は鬼が代わりに戦闘してくれてるし、源次は適当に矢を放っているだけ。
  一番心配だったのは紫苑の体力だったのだが、その心配はいらぬ世話だったようだ。
  当の本人は今も舞い踊るようにゾンビを葬っているのだから。



   「それでもねぇ、さすがにこれではいずれは————」



  と、源次が言いかけた途端であった————。







   「————吠えろ、『ブラックバレット』。」


  はるか上空から、冷たく低い声がした。源次はハッとして上空を見上げる。

  月を背にして空中を舞う『誰か』。身長は180cm程で黒のロングコートを着ている。
  モノアイの仮面を被っている。仮面越しから見える目は漆黒の様に黒い。髪は黒髪のボサボサヘアー。
  チャキンと音がしたかと思えば、前方に突きだして交差する両手には、二丁の黒の拳銃が握られている。


  標準は、源次たちのいる墓地に定められている……!!




   「————死神流銃撃、第3の型、『拒絶 (きょぜつ)』」



  瞬間、上空から降り注ぐ様に無数の黒い弾丸が辺りに着弾する。

  流れ星の様に振る黒い弾丸が次々と辺りのゾンビ達が打ち抜かれ、悲鳴と共に消滅する。
  源次達にとっては見たこともない光景だった。さっきまで自分達は何体ものゾンビを倒したが、
  目の前のゾンビの様に霧のように消えていく様は見たことがなかったからだ。

  上空からガガガッという銃の連射音が鳴り響くたびに、ゾンビ達は消えていき、
  気付けば辺りは静かになり、ゾンビ達を跡形もなく消し去っていた……。



   「……おいおい、マジなのこれ?」

   「あんだけ大量に湧き出たゾンビ達が……」

   「全滅ぅー!! うーん、謎だねぇ、怪奇だねぇー。」



  源次達も言葉を失う程驚愕していた。紫苑だけ若干テンションが違っていたのは気のせいである。

  源次達は戦闘態勢を解くように弓を、鬼を、鎌をしまう……のを止めて、
  今度はストンと降り立ったモノアイ仮面の人物に目を向ける。ロングコートがパタパタと揺れる。


  止めた理由は一つ。目の前の人物が二丁の銃をこちらに向けているからだ……。



   「……とりあえず礼は言っておくわ。けんど、これはどういうつもりなのかねぇ?」



  源次は弓を前に突きだしたまま、仮面の人物に問う。相変わらず、銃を下す気はない。
  一難去ってまた一難。まさにそんな状況を表す現状だった。



   「……『ハロンド』という人物を探している。知らないか?」


  仮面の人物はあくまでも一定の距離を保ち、手に拳銃を持って尋ねる。
  源次の質問を華麗に聞き流し、名前も言わずにいきなり質問を投げかけてきたこいつは何者なのか。

  源次達は聞き覚えのない名前に首を傾げながらも警戒を解かずに答えた。



   「知らないね。これでいいのかい? じゃあこっちも質問。

    お前さんは何者? ほんでもってハロンドって誰なのよ?」


  源次はとりあえず、といった感じで質問してみた。仮面の内側から見える黒い目が鋭いものに変わる。
  何か聞いてはいけない事を聞いたのだろうか。そう思い、源次はさらに警戒を強くする。


  が、仮面の人物はフッと息を吐くと、呟くように低い声で言った————。





   「……名前は『葉隠 空悟 (はがくれ くうご)』。————死神だ。」