複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『VSゾンビ。』 ( No.82 )
- 日時: 2013/02/19 00:53
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート3。」
————『死神』。確かに目の前の仮面の人物はそう言った。
源次の持つ死神のイメージを照らし合わせて言えば、この男の言う事は到底信じられなかった。
おっかない顔をしていて、ロープを羽織り、鎌を持っている。それがごく一般のイメージと言っていい。
後は強いて言うなら、人の命を食べる、というのも聞いたことがある。亡霊という言葉もピッタリだ。
「『死神』……ねぇ。なぁ青年、その死神ってのはなんなのさ?」
源次は引き続き質問を重ねる。だが葉隠と名乗る仮面の人物は首を左右に振って、
「……答えるつもりはない。」
とだけ告げた。それを聞いた源次は少しニヤリと笑みを浮かべたと思いきや、
「そりゃ残念。せっかく協力してやろうと思ってたのにねぇ。」
と、何やら意味深な言葉を発した。その言葉に食いついたのは、他でもない葉隠だった。
「……どういうことだ?」
「なぁに、うちの友人には凄腕の占い師がいてね。的中率は100%。
占ってもらえばその『ハロンド』……だっけ? の居場所が分かると思ったんだがね?」
チラリと横目でその凄腕占い師を見る。
源次の視線に気づいた紫苑が、「ほえ?」という情けない声を出した。
それを聞いた柿原はスッと源次の隣に行き、小声で話す。
「(……おい、もしかして紫苑をこんな得体のしれない奴との交渉道具に使うつもりかよ?)」
「(道具という言い方はよくないねぇ。友人だよ、友人。それに情報は必要でしょ?)」
「(お前……)」
「(心配しなさんな。危険にはさせんよ。危険な動きを見せたら撃ちぬけばいいのよ。)」
親指をたててニカッと笑う源次に、思わず柿原はため息を漏らす。
そして源次は葉隠と向き直り、「どうするよ? ここは一つ……」と言いかけたところで、
「……いいだろう。乗ってやる。ただし嘘だった場合は————」
「あー全部言いなさんな。言われんでも分かってるよ。
あれだろ、裸踊りだろ? 俺ちん得意だからそんなの幾らでもやってやんぜ。」
「……おーい、お前。この状況でボケるとか相当の勇者だな。」
容赦なくボケを入れてくる源次に呆れながらツッコミを入れる柿原。
仮にも葉隠が源次に銃を向けてるにも関わらず、全く危機感のない源次。
この状況でボケるとか……撃ち殺されても可笑しくないぞ?と、柿原は思った。
だがそんなボケが場を和らげたのか、葉隠は一度呆れたようにため息をつくと、
「ふっ、可笑しな男だ……。」と呟き、苦笑して銃を下した。
ひとまず、緊迫した空気は一瞬で静かに収まった。源次達も警戒を解き、各々の武器をしまう。
「さて、んじゃあ早速で悪いが、俺ちん達、この世界について全くの無知なのよ。
必要最低限の事だけ教えてくれるか? 話したくない事は黙秘権を容赦なく使ってくれよ?」
源次達は墓地の中央で座り込んで、この世界の情報について聞き始めた。
今の所分かっていると言えば、『ゾンビ』、『ハロンド』、そして『死神』。
それぞれが自分たちの世界には存在しないし聞いたこともない。
まずはその辺の情報について、葉隠から尋ねた……。
————3分程話した結果、この世界についてのおおよその事が分かった。
まず初めに、この世界は元々は人間達の住む美しい世界だったという事。
人間達は普通に暮らしていたし、平和に毎日を過ごしていたらしい。
が、当時人間達の間で有名であり、マッドサイエンティストとして名を轟かせる一人の人間がいた。
それが『ハロンド伯爵』と呼ばれる、天才科学者であった。
彼は人間の全てを知りつくし、全てを理解した。
ただ、分からないことが一つだけあった。それは『死』というごく単純なモノ。
人間はなぜ死ぬのだろう? 人間はなぜ生き返らないのだろう?
そんな単純だが複雑な問題は、彼を研究対象として大いに燃え上がらせた。
長年の研究で得た知識、経験を駆使して答えを探した。
そして、結論を得た。答えは単純明快であった。
人間はなぜ死ぬのだろう? 答え、永遠の命を与えれば死なないじゃないか。
人間はなぜ生き返らないのだろう? 答え、それは生身の人間だからだ。
という、人間の考えを超えた思考を導き出した。
死ななければ一生生きられる。死という存在がなくなれば、人の味わう恐怖が一つ消える。
それは大発見、否、前代未聞の大成功だと、ハロンドは信じて疑わなかった。
そして、彼は実験を成功させた。実験の最初の被験者は……ハロンド自身だった。
彼は自分の体内に『ヴァンパイアウイルス』という新細胞型特殊ウイルスを埋め込んだ。
それは一瞬でハロンドの中を駆け回り、生身の人間を壊した。つまり『死』。
だが、それは一瞬で蘇生した。バラバラになった肉片が一つの身体に戻っていく。
破壊と再生の繰り返し。つまり『死』と『蘇生』の繰り返し。
何万回かそれが続いた後、ハロンドの身体はようやく落ち着いた。
起き上がった彼の身体、否、全身は昔の自分とはかけ離れていた。
人間では……もはやない。否、もうすでに『人間ではない』。
彼は全人類が将来辿りつくべき存在である、吸血鬼、またの名を『ヴァンパイア』と化した。
死なない、不死身の身体。彼の実験は成功したのだった。
そして彼は即座に、その『ヴァンパイアウイルス』の量産型を開発した。
自分に埋め込んだウイルスとは少し品質が落ちるものの、それは確かに不老不死を与える。
彼はそれを町中にばら撒いた。空気中に混ざって四散する、ごくちいさな粉を振りかけた。
ウイルスに犯された人達は、次々と人間を襲い、そして噛みつく。
ウイルスを注入された人間はゾンビと同類になってしまい、結果はご覧のとおり。
それが、この世界がゾンビの世界になる始まりであった……。
「————つまり、お前さんはこの世界を『破壊』したハロンドって奴が許せないのね?」
源次が一通り話を聞いて尋ねると、葉隠は無言のままコクリと頷いた。
だが、一通り話を聞いても源次達には分からない事があった。
「なぁ、じゃあお前はゾンビなのか?」
柿原が鋭い目をして葉隠に尋ねる。もしゾンビなら、自分たちに襲ってくるかもしれないと思ったからだ。
その問いに首を横に振ると、葉隠はまたもやゆっくりと語り始めた……。
世界の約3割がゾンビ化され始めたころ、人間も対策を練らざるを得なくなった。
ゾンビをなんとか『殺す』、『消滅させる』兵器の開発、そして人材の育成。
————それが、『死神プロジェクト』と名付けられた強化人間計画だ。
つまり『死神』とは、いわばゾンビを倒す兵士たちの事を表す。
『死神』と呼ばれた兵士たちは、無論元々は何も『改造』されていない普通の人間。
だがゾンビに対抗するために、全体的な筋力向上、運動能力向上のために、
死神プロジェクトに参加した人達は、全員改造人間と化した。
見た目などは何も変わらないものの、たった一つだけ課せられた条件があった。
それは、改造された際に生じた様々なリスクを抑える『抑制材料』が必要だった。
『抑制材料』を着けていなければ、身体は暴走し、壊れる。
ちなみにその『抑制材料』というのが、葉隠も着けているモノアイの仮面である。
だが、このプロジェクトはすぐに破滅した。
理由はたった一つ、研究者たちがあっさりゾンビ達にやられたからだ。
このプロジェクトで生み出された人材はわずか10人足らずであった。
10人の『死神』とその100万倍あるゾンビ達。何かの悪い冗談だった。
だが、残された死神は戦い続けた。研究者の残した武器を片手に、世界を駆け抜けた……。
そして数十年経った今、本当にこの世界は絶望的な状況であった。
ゾンビの数は半分を切ったものの、まだ500万以上のゾンビがいる中、
死神と呼ばれた人類の最後の希望である兵士たちは次々と命を落とし、
現在残ったのはたった一人、兵士の中でも最強と唄われた『葉隠空悟』ただ一人だった。
彼は研究の第一回生で、当時から研究者の最高傑作と言われていた。
人間時代から元々頭が回る秀才でもあり、冷静でもあったのが強みだろう。
そして唯一残った葉隠だけがこの世界を駆け回り、ゾンビ達と戦い続けているのだ……。
「————俺は戦い続ける。ハロンドを殺し、この世界をもう一度再生される日を信じて。」
強く、拳を握りしめて出た言葉には決意が現れていた。そして源次はなるほどと思った。
だから自分たちがいくら応戦してもゾンビは消滅しなかったわけだ。
普通の武器では対処できないらしい。彼の持つ武器でなければ。
「……話はこれぐらいだ。悪いが、ハロンドの居場所を教えてくれ。急いでるんだ。」
葉隠がスッと立ち上がると、源次に視線を移して言った。
葉隠は、一人で戦う気だろう。紫苑の占いの結果を聞き、一人でケリをつけてくるつもりだろう。
それはごく自然の事だ。自分達がわざわざ関与する問題ではない事は承知だ。しかし、
「その心意気、俺ちん気に入った。」
源次はふと腰を上げて立ち上がると、葉隠に背を向けて言った。
「お前さんの戦い、横からでしゃばるようで悪いが協力させてくれないか?
邪魔はしないつもりよ。ただ、横から見てるっつうのは症に合わなくてね。なぁ?」
源次は横目でチラリと見ると、柿原も紫苑も「よく分かってるな」といった表情で見ていた。
こいつらのことだ。どうせ首を突っ込みにいくだろうと予想はしていたし、それは源次も同じだ。
「……危険だ。巻き込むつもりはない。」
「危険と言われれば言われるほど燃えるな。なぁ紫苑?」
「ボクはもう準備体操済ませたよぉ!! いつでもいけまする!!」
紫苑はビシッとポーズをとる。その隣で柿原も真似しているのを見て、思わず源次は微笑する。
「な?」と言って顔を向けてくる源次に、わずかながら苦笑した葉隠は、「やれやれ」と言葉を漏らす。
そして葉隠が右手の手のひらを真上に向けたかと思うと、そこからいきなり『何か』が出現した。
それは黒い拳銃。葉隠の持つ拳銃と同じものだ。それを一人一人に一丁ずつ放り投げる。
「それで撃てばゾンビを倒せる。これでなんとかなるだろう。
……だが約束してくれ。危険なら逃げてくれ。俺を放ってくれて構わないから。」
葉隠は真剣な表情で言った。この時源次はなぜか分からないがフッと笑ってしまった。
それを見た葉隠はなぜだと言わんばかりの表情を浮かべるが、源次はすぐに答えた。
「すまねぇすまねぇ。いやいや、お前さんが予想外に仲間思いだって知って嬉しくてな。
無愛想で冷徹な奴だと思っていたが、お前さんとは良い友達になれそうだ。」
源次は貰った拳銃をクルクル回して言うと、不思議と葉隠も「そうだな。」と呟いていた。
今まで友達という存在がいなかった……わけでもない。失ってしまったのだ。
それはもう大分前で、いつからか自分は心を失った人形の様だったなぁと思う。
戦闘を繰り返すたびに感情が無くなり、自分ではなくなっていく感じがした。
だが目の前の男は、そんな以前の自分を蘇らせてくれるような気がする。そう思った。
あの時の……元気で毎日が楽しくて笑っていた自分に……。
「行こうぜぃ青年。親玉を倒しによ。」
「……そういや名前を聞いてなかったな。名は?」
意気込む源次にふと聞いてみる。今から共に行動をする彼らの名前が知りたくなったのだ。
「源次だ。こっちが召。こっちが紫苑だ。」
一人一人指を指して言う。葉隠は一人一人の姿を吟味し、その存在を確かめる。
柿原はめんどくさそうに「よろ。」といい、紫苑は「よろしくぅー!!」と元気一杯に言った。
確かに、記憶した。久々に名前を覚えるなんて動作をした。脳がびっくりしているだろう。
葉隠にとっては、それほどの存在だと認めた瞬間でもあった……。
「……足を引っ張るなよ、源次。」
「おうよ、任せろい。普段は変態気質のダメダメイケメン紳士だが————」
そこまで言って源次は葉隠を見る。目と目が合い、彼はニカッと笑った。
「————仲間のためなら、やる時はやる男だぜ?」
そんな一言が頼りになると思いながら、葉隠もその笑顔につられて微笑した————。
————————第10幕 完————————