複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『死神とゾンビの正体。』 ( No.83 )
- 日時: 2013/02/19 22:56
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
————第11幕 『もしも俺(様)がゾンビの世界に飛び込んだなら……続編。』————
「パート1。」
『ハロンド』の居場所が分かるのに、そう時間はかからなかった。
紫苑がタロットを並べ、ほんの数秒した後、場所はあっさりと割り出された。
————ここからさほど遠くない、1km離れた場所の屋敷にいるようだった。
そこは葉隠も足を踏み入れたことのない場所で、深い森のさらに深い場所にその建物はあった。
外装から放つ何やら奇妙で背筋が凍るようなオーラは、訪問者に近づくなと告げているようだった。
古びた建物で創立何百年というのでは数字が足りない程だった。建物自体は非常に大きく広い。
城という表現はさすがに大きすぎるが、それでもそう言ってもいいほど広い。
葉隠達は瞬時に玄関の両扉に背を合わせ、警戒を強め、一呼吸置いて勢いよく突入した。
てっきり中はゾンビだらけ、みたいなRPGではよくある展開を期待していたが、それは見事に外れた。
中はガランとしていて人気がない。ゾンビはおろか、果たしてその『ハロンド』がいるのかさえ微妙だ。
ゆっくりと4人は足を踏み入れ、各々が拳銃を持つ腕の力を強くする。
辺りを見渡しながら息をひそめ、とりあえず広い玄関の中央にたどり着く。
目の前、そして左右にそれぞれ長い廊下が合って、そこには幾つもの部屋があった。
二階建てであったため、二階に続く階段が葉隠達のすぐそばにあり、二階の探索をすることも容易であった。
ハロンドを探すとなると、危険を承知で一つ一つの扉を開けていかなくてはならない。
それは至極時間のかかる作業だ。いっそすぐに出てきた方がやりやすいのだが————。
「……気を付けろ。奇襲という可能性もある————。」
葉隠がそう言いながら、二階へ繋がる階段に足を踏み込んだその時だった————。
上空からシャランという音がしたかと思うと、『何か』がうめき声をあげて落下してくる。
葉隠達が上を見上げると、天井にぶら下がった明かりもついてないシャンデリアが、
葉隠目掛けて落下してきたのだ。その上には一匹のゾンビがいる。奴がこれを落下させたのだろう。
「青年ッ!!」と真っ先に声をあげた源次が即座に銃を構え、トリガーを二回引いたッ!!
一発目はシャンデリアの側面に打ち込み、葉隠の真上に落ちてきていた落下の起動を変える。
思惑通り、側面を撃ち込まれたシャンデリアは飛ばされるように人のいない別の場所に音をたてて落下した。
二発目はそのシャンデリアに乗っていたゾンビに放った。その銃弾は見事ゾンビに当たり、
大きな咆哮を一つ残し、消滅していった。間一髪、葉隠への奇襲を止めることに成功した。
「源次ッ!! 囲まれてるぞ!!」
葉隠が礼を言う暇もなく、柿原は辺りを見渡して叫ぶ。
真ん中と左右の廊下、そして各々の部屋からなだれ込むようにゾンビが姿を現す。
玄関の中央にいる源次達は簡単に囲まれる形となった。その状況に舌打ちした源次は、
「青年、二階へ上がんなッ!! 多分おたくの倒すべき敵は二階にいるはずだわッ!!」
先に階段を上がりつつあった葉隠に先に行くように促す。
今の源次達には時間がなかった。たかが30分という短い時間しか用意されていない。
後その半分も残されていない状態で、全員が全員雑魚の相手をしている余裕はない。
かといって、見逃せばその分自分達の逃げ場がなくなり不利になる。
誰かが先に行き、誰かがここでゾンビ達の足止めをしなければならない。そう考えた。
だったら、その『ハロンド』と決着をつけるべきである葉隠に先に行かせるのは当然の事。
源次は黒い銃を持ち直すと、ゾンビの一匹に向けて発砲した。
「すぐに応援にいくわ。先に行って遊んでてくれや。」
軽い調子で言う源次に一度視線だけを移し、申し訳ない様な気分になったが、振り払った。
そんなことをしている場合じゃない。今は前に進むことだけを考えるんだと自分に言い聞かせる。
一刻も早くケリをつけて、この世界の人々を元に戻す方法を聞きださなければ……。
「……すぐに終わらせてくる。」
そう言い残し、葉隠は即座に二階へと駆け上がって行った……。
駆け上がったのを確認した源次はフッと微笑すると、もう一度ゾンビ達に向き直る。
が、すぐに視線を柿原と紫苑に移し、「よし。」と意気込むと、
「少年、嬢ちゃん。ダッシュで階段の中段まで上がるよ。
————ほんで少年、駆け上がったと同時におたくの鬼を階段の入り口に召喚してくれない?
後はゾンビ達が上がってこれない様に退けてほしいんだけど……出来る?」
源次はそう言って急いで階段を上がって尋ねると、同じく階段を上がる柿原が、
「誰に言ってんだ。当たり前だろ。」
と、若干イラつき気味で片手に持つ銃で源次のケツを叩く。
「いてッ!!」という悲鳴が聞こえたが気のせいだ。
そして紫苑も上がり、三人が階段の中段あたりに来たと同時に、柿原は指をパチンと鳴らす。
階段の入り口に2匹の大きな鬼が召喚される。赤鬼と青鬼だ。
柿原達から見れば見下ろす位置に召喚された鬼達は、咆哮と共にゾンビ達の行く手を阻む。
「鬼さん、近づけさせない様によろしく。」
とだけ告げると、了解と言わんばかりに咆哮した鬼が、
片手の持つ棍棒でゾンビ達をバッタバッタと吹き飛ばし始めた。本当の地獄絵図のようにも見えた。
「……これでいいのかよ?」
「うむ、エクセレントなのよ、少年。」
「わぁー楽だねぇこれ。こっからでもポンポン狙い撃てちゃうよぉー。」
源次が目を閉じてうんうんと頷く。どこの現場監督だとツッコみそうになった。
紫苑はというと、吹き飛ばされるゾンビ達をゲーム感覚で狙い撃っていた。
「で、なんでこんな事をしたわけ?」
こんな事というのは、無論階段を上って、階段の入り口に鬼を配置するという今の現状の事を指す。
柿原は源次に尋ねると、源次は「おやおやー?」と悪戯な笑みを浮かべて柿原に言う。
「少年、まさかこの意図が分からないとおっしゃいますかい?」
「別にこうする必要もないだろ。どこで戦おうと変わらねぇじゃん。」
そう言う柿原に「甘い、甘いねぇ。クリームのように甘いねぇ。」と源次は首を左右に振る。
「いいかい少年、この際だからちゃんと学んでおいた方がいいよ。
戦いにおいて、勝つために必要なのは『強さ』や『武器』じゃないの。
————必要なのは、『判断能力』と『戦術』なのよ。」
無言のまま耳を傾ける柿原に、源次は言葉を続ける。
「戦闘の基本論に、こんなのがある。
『地形の掌握と有効な活用によって、戦闘の勝率は格段に上がる。』ってね。
今、俺ちん達はね、階段という地形と一つしかない階段を上るための出入り口を有効活用してるのさ。
階段の入り口に鬼、つまり『バリケード』の役割をしている鬼達を配置することで、敵の接近を防ぐ。
そして階段中段まで上がる事によって、鬼達の存在、数を数えられる。
なおかつ、そこから安全に狙撃が出来る。気持ち的にも楽だろうねぇ。
……たった3人しかいないのに、さっきまでなら考えられない程、俺ちん達は有利だと思わないかい?」
チラリと源次は微笑して横目で紫苑を見る。
柿原もつられて視線を移すと、紫苑が楽しそうにゾンビ達を上から狙い撃っていた。
源次の言いたいことは、瞬時に理解した。
先ほどまで三人でやっとこさ退けていた大勢のゾンビ達を、今は紫苑一人でも十分すぎるほど。
それは下で守る鬼達が優秀というのもあるが、少なくとも下にいたよりかは確かにマシだ。
こうして柿原と源次がゆっくりと雑談にふけっているのも、十分な証拠といえるだろう。
「戦闘では常に上空を取り、有利な状況を作り出した者が勝つ。少年、長生きするための秘訣よ。」
源次がポンと肩に手を置いて、ニヤリと笑ってドヤ顔を浮かべてきた。
そんな源次にイラッと来たので、柿原は銃を持つ手で容赦なく源次の腹部を殴ったのは内緒だ。
「……とにかく、そういうことでだ少年。ここは任せる。俺ちんは二階へ加勢しに行ってくらぁ。
たぶん大丈夫だと思うけど、お嬢ちゃんの事をよろしく頼むよ。」
「……俺一人でもここは十分だ。紫苑と行ったらどうだ? 数が多い方が、戦術的にはいいんだろ?」
柿原は先ほど嫌というほど聞いた戦術の事をここで皮肉を込めて言ってみる。
微笑した源次は「そうそう、普通はそうなんだけどね。」と意外な回答を返した。
「だがねぇ、俺専用戦術理論の一説にはこのような一文があるのよ。
————『レディーを危ない場所へは連れて行かない。』てね。」
源次は柿原に背を向け親指を立てて言う。柿原は呆れ顔でため息を吐いた。
確かにこの先には何が待ち受けているか分からない。
もしかしたらすでに葉隠が『ハロンド』と交戦しているかもしれないが、それは定かではない。
奇襲される可能性だってある。もしかしたら襲われる可能性もある。
あらゆる可能性を考えたうえで危険かもしれないから、まだ安全であるここに置いていくということだ。
ここなら紫苑は8割方安全だ。柿原もいるし問題はないと判断した。
「戦術云々よりも、まずはレディーの身が安全第一なのよ。お分かり少年?」
「……女たらしめ。」
皮肉を精一杯込めて言ってやると、「俺様は変態紳士なのよ。」と返された。
そんな調子の源次に一瞬微笑したが、ふと柿原は気になる事があった……。
「お前、なんでじゃあ葉隠をわざわざ先に行かせたんだよ?
この状態にしてから二人で同時に行けばよかったんじゃねぇのか?」
柿原がもっともらしい理由を言ってみると、源次は首を振った。
確かにそれは正しいともいえるが、必ずしもそうではない。
もしも『ハロンド』という奴が真面目で正々堂々と戦う奴ならそれでもいいかもしれない。
だが、後ろから奇襲して襲い掛かるという展開だって大いにありうるのだ。
その場合二人で並んでいたのなら、二人ともあっさり殺される。
しかし、その後ろに源次がいたとなれば話は別だ。
いち早く気付いた源次が奇襲を止めることが出来る。
逆に、相手が1対1の勝負、つまりタイマン勝負を持ち込んできた場合でも、
相手に『一人』だと思い込ませておけば、途中で加勢した源次が奇襲することだって出来る。
つまり相手をだまして、自分達の状況を有利にするという、これも立派な戦術なのだ。
「……敵を騙すなら味方から、という言葉は聞いたことないかい?」
そこまで言い終えた源次が人差し指を立てて言う。
こいつ、嫌な奴だなと思ったが、柿原は口にするのを止めた。
いや、正確に言うならそれよりも先に、源次が真剣な表情へと変わったのを見て、
柿原は茶化す様な発言を控え、言うのをやめたと言った方が正しいだろう……。
「それにね、確かめたいことがあるのよ。もしも俺様の情報が正しければ、
————相手は最悪の化物だ。奇襲であっさり『やれれば』いいんだけどね。」
『やれれば』という言葉にゾクリと背筋が凍るような悪寒を柿原は感じた。
それはつまり、『殺す』ということだ……。
目の前の源次が到底発したとは思えない程、その言葉を恐ろしく怖く感じた————。