複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『ゾンビ屋敷、潜入。』 ( No.84 )
- 日時: 2013/02/20 19:37
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート2。」
葉隠は二階へ上がった後、一本道の廊下をゆっくりと、かつ迅速に足を踏み入れていた。
どこかに潜んでいるハロンドを……ではなく、隠れているかもしれないゾンビ達に対しての警戒行動だ。
————ハロンドのいる位置は、とうに葉隠は分かっていた。
この廊下を通り過ぎた最深部、少し広めの部屋に『奴』はいる……。
いまだ目視出来ていないとはいえ、肌にピリピリと感じる気配。
初めて奴に会ったとき、このピリピリと来る嫌な雰囲気に不愉快になったのを覚えている。
それほど得体のしれない奴で、そして……『化物』だ。
葉隠がようやくその最深部へと足を踏み入れた。
明かり一つついていない薄暗い部屋だったが、なんとか辺りを見渡すことが出来た。
奇妙な銅像など、鉄の鎧などのアンティーク品が辺りに置かれていた。
どれもこれも錆びついていて、かつ所々に蜘蛛の巣やらホコリやらが被ってしまっている。
せっかくの高価なものも手入れをしなければガラクタ当然か、と葉隠は思った。
……そして、ようやく目視出来た。『奴』を……!!
葉隠の約10m前方に、一つの大きな机があった。
その背後には綺麗かつ透明なガラスが壁一面に広がっており、そこから月の光が差し込む。
高級そうな作りをした椅子に座っていた『奴』が見上げるようにしてそこから見える月を拝見していた。
片手にカップを持っている。匂いからして紅茶だろうか。
ふと、こちらの気配に気が付いた『奴』がクルリと椅子を回転させ、こちらに向き合った。
葉隠は10m離れた場所から二丁の銃を構える。ドクンドクンという自分の心臓の音が聞こえる。
『奴』は紅茶の入ったカップを置くと、そのまま座ったまま、ニヤリと笑みを浮かべて見せた……。
「————待っていたよ。葉隠空悟。キキッ……。」
コウモリの様な鳴き声を発して、ハロンドはスッと立ち上がり、殺気をむき出しにする葉隠に言った。
身長は2m以上ある。姿形は人間そのものだが、色合いや顔つきなどは人間とは程遠い。
全体的に皮膚は黒く染まっており、筋肉質で固そうというのが第一印象。
手の爪は緑色で、発達しているのか凄く長く鋭い。鋭利な刃物の様だった。
顔つきのことを言えば、人間と比べて変わっている点は、目と口元だろう。
目は人間のように黒目ではなく、むしろ目の全体が白目、といった感じだ。
本当にあれで見えているのかと思う程、不気味で奇妙だ。
口元は広く伸びきっており、常時笑っているかのようにさえ思える。
そしてそこから漏れ出る4つの大きな牙は、噛まれればひとたまりもないと思う程尖っていた。
頭の部分には人間にはない二つの角が生えている。そこまで長くはなく、控えめである。
全身に黒いマントを羽織り、まさしく吸血鬼の館の親玉のヴァンパイア、といった威圧感を感じる。
「……相変わらず化物だな、ハロンド伯爵。」
嫌みったらしく葉隠は言うが、それも褒め言葉と言わんばかりにハロンドは鳴いた。
「キキッ、この良さが分からないとは。死神という人達はどうも見る目が無い人ばかりですねぇ。」
「貴様にそもそも目はあるのか?」
白目であるハロンドに対して冗談めいて言う。それを聞いたハロンドは、キキッと鳴き、
「今日は随分と機嫌が良いようですねぇ葉隠様。仲良しなお友達でも出来ましたか?
————これから私の餌となるというのに、悲しいですねぇ。」
ズガンズカンッ!!、という発砲音が二回鳴り響いた。
葉隠の持つ二丁の拳銃から煙が出る。発砲したのは葉隠だ。
黒の銃弾をまともに腹部と右肩に受けたハロンドだったが、その不気味な笑みを崩すことはない。
「……貴様の会話に付き合う余裕はない。言いたいことは一つだけだ。
————この世界を元に戻せ。でないと殺す……。」
葉隠がキッと睨んで強く言う。だがハロンドは、
「キキッ……私を殺す以外、その方法がない、と言ったら?」
と、笑みを零して言った。それが本当なのか、挑発なのかは分からない。
が、少なくともこれだけは分かった。こいつは……死んでも戻す気はないということだッ!!
「……ここで俺が殺すッ!!」
葉隠がさらに連射するように黒の銃弾をまき散らすッ……!!
マシンガンにも似た音が部屋中に響き渡り、その音が屋敷中にまでも響き渡る!!
「吠えろッ!! 『ブラックバレット』ッ!!」
ちなみに、この『ブラックバレット』とは葉隠の持つ二丁の拳銃の事だ。
対ゾンビ用武器、葉隠に与えられた銃型武器だ。
「————死神流銃撃、第3の型、『拒絶 (きょぜつ)』ッ!!」
さらに加速するように銃音が部屋を駆け巡る。
連射される二丁の銃、そして弾丸の雨をまともに受け続けるハロンド。
が、幾百、幾千の弾丸を受けたハロンドだったが、倒れることもしなかった。
身体の所々に空けられた空洞からは、風が吹き抜ける様に通り過ぎていく。
弾丸は確かに直撃している。が、ハロンドはゆらりと身体を揺らして葉隠を見た。
「良い攻撃ですねぇ。さすが対ゾンビ兵器、そして死神……と言いたいところですが、
私は下にいるゾンビ達と違って、そこまで柔にできてはおりませんよ。
貴方のその武器も、私にはそこら辺の拳銃と何ら変わらない。それに————」
と、次の言葉を紡ごうとしたその瞬間だった————。
「————秘技、『一本桜 (いっぽんざくら)』。」
突如葉隠の後ろから声がしたかと思えば、葉隠の隣を一本の大きな光の矢が通り過ぎる!!
その矢は回転するとともに一直線にハロンドに向かっていき、ハロンドが反応する間もなく、
ハロンドの首から上の部分を跡形もなく飲み込み、吹き飛ばしたッ……!!
「いやー悪いね。不意打ちでごめんねぇ。楽に終わらしたかったのよ。」
驚いた葉隠が振り返ると、左手に緑の弓を持ち、右手でボリボリと頭を掻いた源次がいた。
ハロンドはそのまま何が起こったのか分からないと言わんばかりに、残った身体が前のめりに倒れた。
「源次か!! 下はどうしたッ!?」
「ご心配しなさんな。安全だ。少なくともここよりかはな。」
源次がそう言うと、葉隠は内心ホッとした。
あっさりと終わった戦闘に葉隠は呆気ないと思っていた矢先、「だが————」と源次は言葉を紡ぐ。
「青年、今のではっきりしたわ。逃げるぞ。ここにいたら死ぬよ。」
「……? それは一体どういう————」
瞬間、二人はピクリと肩を震わせた。
確かに、何か異様な威圧感を感じる。その正体は……死んだはずの『ハロンド』からだ。
「青年落ち着いてききな。俺様の嫌な予感が当たった。
————奴は不死身だ。どう足掻いたって倒せねぇみたいなのよ。」
そう言いきった直後、ハロンドの身体は破裂するように分解した。
否、分解したというより、無数のコウモリたちに分裂したと言った方が正しい。
分裂したコウモリは笑う様に鳴きながらどんどん集まっていき、
全てのコウモリが合体を終えると、そこには何一つ傷のないハロンドが笑みを浮かべて立っていた……。
「————キキッ、驚きました。まさかお仲間がいたとは。油断しましたね。」
ハロンドはニヤリと微笑んでこちらを凝視する。
まさか……頭を吹っ飛ばされて、かつ幾千の弾丸に撃ちぬかれても死なないのか!?
「それにしても妙ですねぇ。そこの少年、まるで『図った』様に私の頭を丸ごと撃ちぬきましたが?」
ハロンドの言葉に驚いたのは葉隠だった。『図った』? どういうことだろうかと首を傾げた。
源次はフッと微笑すると、「ご名答だよ。」と言葉を紡いだ。
「実は噂に聞いていてね。最初は冗談だと思っていたんだがねぇ。
『どんなに攻撃しても死なないコウモリの化物が世界に存在する』……ってね。
ただその時の唯一の噂に、『頭を丸ごと吹き飛ばせば殺せる』というものがあってな。
それをちょいと試したいがために、奇襲させてもらったのよ。」
源次がそこまで言い終えた直後に、葉隠は待て待てと間に割り込んだ。
「源次、なぜ貴様がハロンドの噂を知っている!? 俺は話してないぞ!?」
それはごもっともな事であった。確かに葉隠すらも知らない情報を源次は持っていた。
まるで昔から掴んでいた情報であるかのような、そんな感じだった。
源次は「ああ。」と一言言うと、さらに話を続けた。
「青年、この野郎はこの世界だけに留まっているわけじゃないのよ。
多分こやつはね、ここの世界を実験台に使ったんだ。そして目的は至極単純。
あらゆる世界でこやつはこの世界と同じ様にし、世界を破壊する。
そして『俺様達の世界でもそれをやろうとしている』。————そうだろ?」
源次は一度言葉を止める。そしてニヤリと笑みを浮かべて言葉を発した。
「————DDD教団所属。不死身のハロンド伯爵さんよ。」
ピクっと一瞬ハロンドの眉が動いた。そして表情がほんの少し真剣なものになった……。
「……なぜそれを知っている? どこから手に入れたんでしょうかねぇ?」
「おたくらの考えは大体知ってる。俺様は情報が広くてね。
そして俺様達の世界に出入りしたゆがみの正体、それはおたくでしょ?
定期的に来てるようだねぇ。通りで姿を見せないわけだわな。
ここに逃げ込んでんじゃあ見つかるわけない。」
源次は苦笑していった。葉隠は途中から何を言っているのか分からないと言った感じだったが、
ハロンドから発せられる威圧感が増したことを確認したため、無駄口を叩くことも止めた。
「キキッ……どうやら、貴方だけは始末しておかないといけませんねぇ。
————今後の計画のためにッ!! 死んでいただきましょうかッ!!」
そう言い放つと、ハロンドは甲高い音をあげた。両手を広げ、背中にある羽を大きく広げる。
マントで覆われていて最初は気づかなかったが、背中には立派な羽が生えていた。漆黒の羽だ。
そしてハロンドの右手から右肩にかけて、ふと崩れ落ちる様に分裂していく。
それは無数のコウモリとなってハロンドの上空を飛び回り、赤い目でこちらを見つめている。
「……青年。まずは廊下まで逃げるよ。でないと俺ちんら、あっけなく殺されるからね。」
確かに今上空を飛び回るコウモリの数は尋常ではない数だ。
もしも一気に襲い掛かられたなら、あっけなく噛みつかれ、血を吸われてそのままあの世に一直線だ。
それに戦闘の基本である『上空を取る』というのが、すでにハロンドによって握られている。
向こうの数、そして上空を取られている時点で、源次達は圧倒的不利。しかも相手は不死身。
分が悪すぎて勝機すら見えていないのに、こんな広い部屋で戦うなんて自殺行為だ。
囲まれる前に一本道の廊下まで逃げて、コウモリの来る位置を一点に絞る。
そうすれば少なくとも囲まれるよりかはマシだ。それに、
「迷ってる場合じゃないよッ!! 行くよ青年ッ!!」
二人は即座に走り出した。部屋の出口に向かって一直線に走る……。
「……キキッ、血を吸いなさい。私のかわいいコウモリたちよ……!!」
ハロンドが合図を送ると、一斉にコウモリたちは突進する。
その姿はまるで一つの黒い竜巻の様で、一体何匹いるんだと頭が痛くなった。
源次達は無事一本道の廊下に出た。が、すぐに後ろからコウモリが追い付いてくる。
キキキという狂気に満ちた鳴き声を発し、血を吸わせろと突撃してくる。
源次は振り返り、弦を引く。弦と右手の間に綺麗な光の矢が現れるッ……!!
「————秘技、『一本桜 (いっぽんざくら)』ッ!!」
力一杯引いた右手の矢を放つと、それは回転して大きな光の矢になる。
向かって来るコウモリたちの大群である、黒い竜巻にも似たモノと接触すると同時に、
大きな音をたてて、四散するように爆発した……!!
コウモリたちの何体かはこれで始末できたはずだが、それでも数の一割にも満たないだろう。
すぐにコウモリたちが集結し、こちらに向かって突進してくる。
「ちッ、やっぱ威力が足んないねぇ。一掃出来ねぇか!!」
源次が舌打ちして後ろに下がりながらも矢を連射して応戦する。
それに援護するように葉隠も二丁の銃を連射する。
が、コウモリたちの猛攻は止まらず、コウモリ達は徐々に距離を詰める。
「源次、これじゃあ逃げ切れないッ!!」
「分かってますよッ!! 後2分でいいんだ。2分でひとまず逃げられる!!」
「2分……?」
なぜ2分なのかと首を傾げた葉隠に、源次は苦笑して、申し訳なさそうな表情をした。
「わりぃ青年、おたくも巻き込んじまう事になる。この世界に未練あるかい?」
「……どういうことだ源次?」
言っている意味が分からないと葉隠は続けて言う。ただ、その訳を源次は説明している余裕はなかった。
後ろからコウモリ達が迫りつつある状況で、優雅に雑談している間もない。
「説明の時間がねぇ。そして説明するためにはこれを聞いとかなきゃいけねぇ。
……とりあえず聞かせてくれい。未練は、あるかい?」
「……ハロンドを殺せればそれでいい。どうせここはもう助からない事は分かった。」
「物分かりが良くて助かるぜぃ!! じゃあパパッと説明するわ!!」
矢と銃弾が連射される廊下で、その音が響いて声が聞こえづらいが、葉隠は耳を傾けた。
「おたくには、俺ちんの住む世界に来てもらう事になるのよ。」
「なッ……?」
思わず驚きを隠せない葉隠に、源次は付け足す様に言った。
「心配しなさんな。どうせその世界でもハロンドとは会えるわよ。決着はそこでつけな。」
「それならいいが……貴様は何者なんだ?」
「別世界の人間。そう思ってもらえれば助けるねぇ。そんで2分後、強制的にそこにワープするのよ。」
ようやく意図を理解した。つまり2分というのは、源次の住む世界に戻るためのタイムリミット。
その2分が過ぎれば、源次も、そして葉隠もこの世界とは違う場所にワープするという事だ……。
なんとも不思議な話。なんとも不思議な男なのだと葉隠は思った。
だが実際にこうして、人が全滅したはずのこの世界にまだ生き残りがいた。
それは決して生き残りではなく、別世界から来たなら、なんとなく話は理解できる。
「……その場所は、良い場所なのか?」
ふとこんなことを聞いていた。廃れた世界で生きてきた奴とのセリフとは思えない程穏やかだった。
「……少なくとも、こんなつまらなくなった世界よりかはね。」
源次の言葉に葉隠は微笑した。もっともだ、と思った。これ以上の地獄はあるまい。
そしてそれをハロンドが壊そうとしているなら、それを止めなければならない。
自分が……ケリをつけなければッ!!
「……そいつは楽しみだ。」
フッと笑みがこぼれた。久々にこんな笑みを浮かべた気がする。
それにつられて源次も笑うが、すぐに接近しつつあるコウモリの大群に向き直る。
「————あと一分、踏ん張るぜ青年ッ!!」
「ああ、くたばるなよ源次ッ!!」
二人の言葉が交差し、咆哮をあげ、二人の攻撃が重なるように乱舞する……!!
残り一分、彼らにとっては、それが果てしなく長い時間だった————。