複雑・ファジー小説
- Re: もしも俺が・・・・。『VSハロンド。』 ( No.85 )
- 日時: 2013/02/21 18:51
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート3。」
その一分がどれ程長く感じただろうか。
休む間もなく降り注ぐ源次の矢と葉隠の銃弾だが、コウモリの大群はそれ以上の突進を見せた。
徐々に距離を詰められた結果、残り5mまで近づいていた。このままでは、一分も持たない。
さすがの二人もやばいと判断したのか、その表情にすでに余裕はなかった————。
「やっぱダメだわ、青年!! こりゃあ一発、どデカいのをブチかます必要があんねぇ!!」
「一掃狙いか? ヤケクソだな。源次ッ!!」
「それしか助かる方法がないって言ってんのさ!! 息合わせんぜ青年ッ!!」
源次が左手を前方に突きだすのと同時に、葉隠も二丁の銃に力を込めるッ……!!
瞬間、コウモリ達の大群は一つの塊から、二つの塊に分かれた。
一つの黒い大群が二つに分かれ、枝分かれするように左右に広がる。
ちょうど半分づつ左右に分かれ、両方面から挟み込むようにして源次達を襲う。
トドメを刺しに来たと言ってもいいだろう。だがこれはむしろ、源次達にとっては好機と言えた。
「右頼むぜ青年!! 左は俺様が打ち抜くッ!!」
「ああ、一匹たりとも残すなよッ!!」
源次の合図とともに、葉隠は右から来るコウモリの大群に構え、源次は左の大群に標準を合わせる。
これを退けば、なんとか一分稼げる!! これが最後の勝利の分かれ目だ……。
「青年!! わりぃが、この武器『貰う』ぜいッ!!」
源次が葉隠に確認を取る間も待たず、葉隠から『借りた』黒の拳銃、ブラックバレットを手に取る。
そしてギュッと力を込めて握り、目を見開いて叫ぶ————!!
「————武装ジェネレート!!」
一瞬、眩く光ったかと思うと、手に持っていたブラックバレットが、
光を纏って小さな光の球となって、直後源次の持つ弓に引きこまれる。
源次の弓には、一つの秘密がある。
他の武器そのものを弓の中に取り込むことによって、その武器に似た攻撃が出来る様になる。
例えばブラックバレットならば、『ゾンビ相手に有効な攻撃が可能』という不可能力が付く。
それだけじゃなく、葉隠のブラックバレットは元々強力な武器だ。
取り込むことによって、源次の弓はさらに力を増し、爆発力も増す。
これならば、さっきと比べてはるかに強い威力を叩きだすことが出来るだろう。
「青年の力、存分に使わせてもらうぜいッ!!」
源次がそう叫ぶと、今度こそと言わんばかりに今までで一番強く右手を引く。
葉隠も咆哮し、二丁の銃を重ねる様にしてコウモリに標準を合わせる。
コウモリの大群はすでに1mを切っている……。二人は覚悟を決めて、最後の一発を放つッ!!
「死神流、第1の型————」
「括目せよ、特殊秘技————」
二人の言葉が重なる。そして二人の目が見開き、叫ぶ————!!
「————『虚無 (きょむ)』ッ!!」
「————『黒龍扇 (こくりゅうせん)』ッ!!」
二人の叫びが廊下を響き渡り、同時にその力を解き放つ……!!
葉隠の放った二丁の銃からは、まるで一つのレーザー砲の様に漆黒の塊が放出された。
それはうねる様な音をあげ、コウモリ達を飲み込むと、一瞬にして大群を消滅させた……!!
源次の放った黒色の矢は、大きな一匹の龍へと姿を変え、咆哮して突撃する。
コウモリ達に接触すると、その黒の龍はまるでコウモリ達を食べる様に大群を飲み込んだ……!!
左右から来たコウモリ達は一瞬に塵と化し、コウモリ達の猛攻が一瞬だが止まった。
そしてそれは同時に、源次達の逃走の成功を意味するのだった……。
「……!? これは……。」
「時間だ。どうやらギリギリ生き残ったねぇ、青年。」
二人の身体が少しづつ薄くなっていくのを感じる。足元から少しづつ消えていくのが分かった。
隣の源次を見ると、彼も少しづつ姿が消えつつあるのが目に見えて分かる。
本当にこれからワープするのだな、と葉隠は改めて思った。疑っていた訳じゃないが。
お互いに目を合わせ、そして一緒に戦った戦友の安全にホッとした。そして、
「お疲れさん、青年————。」
「……貴様もな————。」
そんな他愛のない会話を最後に、彼らはゆっくりとその場から姿を消した……。
コウモリ達は甲高い鳴き声をあげて突進するが、時すでに遅し。
囲むようにしてコウモリ達は源次達に襲い掛かるが、すでにそこに実体はない。
可笑しいなと首を傾げる様に、コウモリ達を辺りを見渡す様にヒラヒラと飛び回る。
その時、コツコツという足音が廊下に響き渡る。
二人の姿が消えたのをこの目で見て、その足音の正体であるハロンドは悔しそうに歯軋りした。
「逃がし……ましたか。」
先ほどまでなかったはずのハロンドの右腕から右肩は、すでに何事もなかったかのように戻っていた。
源次達を襲い損ねたコウモリ達は、悔しそうにギャアギャアと鳴き声をあげた。
ハロンドはマントを翻すと、先ほどまで源次達のいた場所に背を向けて、部屋に戻る。
「まぁいいでしょう。どうせ、また会う事になるのですから。
————その時こそ、貴方達の血は頂きますよ。キキッ……キキキキッ!!!」
歓喜にも近い鳴き声を発し、ハロンドは不気味に笑みを浮かべた————。
「————…………死ぬかと……思ったわ。」
元の世界に帰ってきた源次が発した第一声が、まさしくそれだった。
目の前でぜぇはぁ言って倒れている源次を前にして、柿原と紫苑は何があったのかと首を傾げる。
「……お前の事も気になるが、まずは説明しろ。なんで葉隠がここにいんだよ?」
「わーい、葉隠クンこっちに来たんだねぇ。いらっしゃーい!!」
呆然と立ち尽くす葉隠に紫苑が後ろから抱き着くようにして突進するのを横目に、柿原は尋ねた。
ちなみに葉隠はというと、ただ立ち並ぶビルやら、大勢の人やらに唖然としていた。
まぁ当然と言えば当然である。葉隠にとって、人を見るのは久しぶりだろう。
それに向こうにあったのは廃墟と墓地とおっかない屋敷。ビルなんて初めて見るんではないだろうか。
「まぁ色々あってね。結果こっちに来てもらったのよ。」
「ハロンドって奴はどうした?」
「討伐失敗。いやむしろ、逃げんのに精一杯。ありゃあしばらくは無理だね。」
無理無理—と投げやりに手を振って答える源次を見て、本当に化物だったんだなと柿原は思った。
結局紫苑とはゾンビを倒す、ゲーセンにある様なガンシューティングをやるノリで遊んでいただけのため、
柿原達は全く持ってけがはないし、危険も全くなかったが、一目だけ見たかったなと後悔した。
「それはそうと————どうよ青年? この世界は?」
源次は身体を起こし、呆然と街を見渡す葉隠に聞いてみた。
葉隠は一度「そうだな……。」と呟くと、源次の方に向き直り、
「……悪くないな。楽しそうな世界だ。」
と、うっすら笑って言った。穏やかで、最初に会った時とは別人のようだった。
「それならよかったわ。」と源次も微笑し、力を抜いて、またも寝転がった。
「お嬢ちゃーん、膝枕してくれぇ!! 俺様昼寝したいのよ。暖かい太ももを提供してくんない?」
「いいよぉー!! 後でクレープおごってねぇ!!」
「おいバカ、止めとけ紫苑。セクハラされるぞ。」
そんな三人の会話を聞いて、葉隠は思わずフッと笑ってしまった。
源次が「おいおい少年、それってどういう事よ!?」と聞き捨てならないといった感じで言う。
柿原が「そのまんまの意味だよ。」と冷めた言動で源次に吐き捨てる。
紫苑が「じゃあ間を取って、召クンが太ももを提供したら?」と笑って提案を持ちかける。
葉隠は今まで、こんな平和すぎて呆れるほどの会話を聞いたことがない。
だからこそ、さらに強まった。今度こそ、奴の好きにはさせない。
こいつらのいるこの世界だけは……あの世界と同じにしてはいけない。
絶対に守らなければ、そう強く誓いをたてた……。
“だが今は……力を抜いてもいいだろう。”
この一瞬の時だけは、自分は死神ではない。
今の自分は、ただの葉隠空悟。ただのその辺の青年に過ぎないのだから————。
————————第11幕 完————————