複雑・ファジー小説

Re: もしも俺が・・・・。『休日の訪問者。』 ( No.93 )
日時: 2013/02/27 19:44
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



       「パート2。」




   「————それで、一体全体何の用だ?」



  ひとまずテーブルを囲むようにして座った後、黒川が単刀直入に尋ねる。
  ちなみに水島は、初めてきた黒川の部屋を拝見するように観察していた。
  ただ単に遊びに来た、訳ではなさそうだ。そんなことで花狩先生が来ると思えない。

  そう思っていると、花狩先生は一度頷き、フッと息を吐いて言った。


   「頼みがあるのよ。黒川君にしかできない、重要な頼みだ。」


  花狩先生の言葉が何やら真剣そうだったので、黒川は一瞬何事かと首を傾げた。





   「黒川君、『ジョジョの奇妙な冒険』という作品を知っているか?」



  花狩先生が口に出した言葉は、あまりにも話の全貌が見えない内容だった。


  ————『ジョジョの奇妙な冒険』。もちろん知っている。大人気の漫画の一つ。

  今も続く伝統的な作品で、黒川も読んだことがある。非常に面白い作品だ。

  最初は人間と吸血鬼との戦いを描いていたと思いきや、そこからさらに物語は面白みを増し、
  人間の守護霊的な存在である、『スタンド』と呼ばれるモノ同士との戦いは、熱く読みごたえがあった。

  ちなみにスタンドというのは人それぞれに違う種類で存在し、いわばもう一人の自分。
  自らの身体に宿る魂そのもので、スタンドと自分は一心同体。死も共有する。
  そしてそのスタンドにはそれぞれ特殊な超能力を持っており、その辺はこの世界とも似ている。

  一言で言うなら、能力系バトル漫画。バトルが主体の漫画だと言える……。



   「……それは知っているが、それがどうしたというのだ?」


  黒川は確かに『ジョジョの奇妙な冒険』という作品を知っている。が、それの何が関係あるというのか。


   「そこに俺を、連れて行って欲しいんだ。」


  花狩先生は確かにそう言った。連れて行って欲しい、と。
  それはもちろん可能だ。今からでも行くことは可能だ。だが、それは一体何のために?



   「行きたい理由は単純に行ってみたい、という好奇心と思っていいのか?」

   「そう言えればどれだけよかっただろうな。残念だが50点だ。」



  花狩先生の意味深な言葉に黒川は首を傾げずにはいられなかった。
  いつも陽気な花狩先生が珍しく真剣だ。これは他に何かあったというべきなのだろう。




   「昨日の夜だ。紫苑ちゃんから本当に奇妙な話を聞いてな。」

   「紫苑から?」


  黒川の良く知る人物から聞いた話と知った黒川は一瞬驚いたが、すぐに表情を戻した。



   「紫苑ちゃん、どうやら昨日タロット占いをしていたらしくてな。
    ほんで占いの結果がこれまた奇妙みたいでな。電話で伝えられた内容を直接言うぞ。

   『なんとかの冒険、とか言うタイトルの漫画に危機が迫ってるみたい。
   よく分からないけど、スタンド? っていうなんか置物みたいな名前が存在する作品みたい。』

   ……だってさ。どう思うよ? ここまではピッタリだと思わないか?」



  花狩先生の話を聞いて、なんとなく納得できる部分もあった。

  それにしても、紫苑は凄いな。そんなことまで占いで分かってしまうものなのかと感心した。
  もはやプロとかレベルじゃない。一種の予知能力じゃないかと思ってしまう。

  そしてさらに、と言わんばかりに花狩先生は話を続ける。



   「『ボクは明日違う用事があるから、黒川クンに調査の依頼しといてー。』
    ……だってよ。愛されてるねぇ。モテモテじゃないか。」

   「私は正義の味方が職業じゃないぞ。後、冗談はやめてくれ。」



  水島を横目でチラリと見て言う。幸い水島がこちらに気づいていない様で助かった。
  そんな様子をニヤニヤと花狩先生は見ていたが、黒川はゴホンと咳払い一つして、話を戻す。



   「そもそも何なのだ? 危機というのは。単純に作者のネタ切れの危険とかそういうことか?」

   「それはさすがにギャグでしょ。紫苑ちゃん曰く、本当に世界に繋がるかもしれない危険らしいよ。」

   「……はっきりしないな。やれやれ。」


  と、苦笑して見せた黒川だったが、なぜかサラッと流す気にはなれなかった。

  なぜかは知らないが、アンドロイドの世界で戦った『ミスト・ランジェ』を思い出した。
  結局奴の目的も分からず、どこに行ったのかも謎だ。
  それにあのゆがみ、まるでどこか別世界に繋がっているように感じた。黒川の扉と同じように。
  もしかしたら、奴に関係しているのかもしれない。可能性は低いが。

  それに、幾ら自分は正義の味方ではないと言えど、友人が仮にも自分に頼んだ依頼事だ。
  紫苑にも思い当たるものがあるのかもしれない。だとしたら、



   「行くしかない、か。真相を確かめるためにも。」

   「それに楽しそうだしねぇ。ま、ちょっとした散歩気分で行こうや。」



  花狩先生は陽気に笑って黒川の肩をバンバンと叩く。若干震えるような痛みが身体に広がった。

  とはいっても、はたしてそんな散歩気分で行けるのだろうか。
  もし仮に向こうの世界に危機とやらがなかったとしても、向こうはバリバリのバトル漫画だ。
  戦闘に巻き込まれればタダでは済まない。それにスタンドの強さは人間を遥かに超越している。

  たとえ戦ったとしても、勝てる可能性は0%に近い。それなりに気を引き締めなければ……。



   「よし、では先生。さっそく行こう。外に出るぞ。」

   「よっしゃ、水島ちゃん。話はまとまった。行くぞーい。」



  部屋を満喫していた水島は、「はーい。」という可愛らしい返事を返した。

  若干もしかして、と思った黒川は、花狩先生に小声で話しかけた。




   「(……おい、まさか水島も連れて行く気か?)」

   「(当たり前じゃない。あ、大丈夫。事情、漫画の話、全て教えておいたから。)」

   「(そうじゃなくて……。……てか、なんで余計な漫画の話まで吹き込んでるんだ……。)」



  黒川は違う違うといって苦笑して首を振る。黒川が言いたいのは、危険だという事だ。
  そんな危険に彼女を巻き込むわけにはいかない、そう口にしようとした時、



   「……分かってるよ。俺だって、危険だってちゃんと伝えたさ。もちろん、死の危険もあるってな。

    けど彼女は引き下がらなかったよ。話を聞いた以上、黙って見ているわけにはいかないってさ。
    自分にも何か出来ることがあるかもしれないから行く、てな。それに————」



  そこまで言って花狩先生はニヤリと笑みを浮かべた。まるで黒川を羨ましいと訴えているかの様な。




   「————黒川君が戦っているのに、自分だけノコノコ帰れない、てさ。罪な男だねぇ黒川君?」

   「んなッ……!?」



  それを聞いて紅潮した黒川に、花狩先生は腹を抱えて笑う。
  しまった、不覚だった、と黒川は思った。いつもの冷静な自分が、こうも簡単に弄ばれてる。
  未だ笑っている花狩先生を横目に、やれやれとため息をつき、そして水島を見る。

  彼女も、死ぬ覚悟が出来ているというのだろうか?
  私でさえ怖いというのに。彼女は怖くないのだろうか?

  向こうは少なくともドラえもんの世界と比べて危険だ。それは確実だ。

  彼女の決意が嬉しいと思う半分、怖いと思うのが半分だ。
  もしも目の前で水島が死んでしまうものなら、私は自我を保てない。そして二度と立ち直れない。
  それだけは、避けなければならない。なんとしても。


  自分の命に代えても、彼女の命だけは救わなければならない……。




   「……分かった。行こう、先生、水島。気を引き締めてな。」



  強い決意を胸に、黒川はまずはパジャマを着替えることから始めようとした……が、
  水島がキョトンとした表情で見つめているのを見て、黒川は慌てて叫んだ。



   「と……とにかく!! 外に出てくれ。着替えるから。」

   「うん、分かった。外で待ってるね。黒川君。」


  クスッと笑って外に出ようとする水島に、いやいや、と花狩先生は笑って言い、



   「いいんじゃないか。将来の『あれ』なんだから裸くらい見せても————」

   「出てくれ、先生!!」



  黒川の蹴りが花狩先生のケツに直撃した。「いてッ!!」という軽い悲鳴をあげた。

  そして花狩先生を半ば強引に外に追いやって玄関を閉めた後、黒川は大きなため息をついた————。